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「ありが……とう、ございま、す」
「え?」
「助けて、くれたの…………でしょう?」
「それは、まぁ……」
「あなたのおかげで、助かりました」
ゆっくりと息をすれば、声と喉は少しずつではあるものの調子を取り戻していく。
けれど長文を話すのはまだ難しい。だからアリハムは補えない部分は表情に頼ることにした。
笑みを作るのは得意ではないが、それでも少しでも伝わればと頬を緩める。
アリハムの和らいだ表情に、丸めた身体で隠されたゲルハルトのイチモツは一気に肥大化していく。
けれど今し方謝罪の言葉を渡したばかり。
しかも相手はゲルハルトの薄汚れた感情など気づかずに、昨晩の行為に感謝をしているときた。
いくら友人や同僚達とそれなりに女遊びを楽しんでいるゲルハルトとて、そんな相手にヤらせてくれなど言えるはずもなかった。
「それは良かった」
必死に治まれ! と頭の中で繰り返しながら、営業スマイルを顔面にへばりつける。
せっかくクリーン魔法をかけて外側だけは現状復帰させたんだから暴発だけはしてくれるなよ、と祈りながら無理矢理意識を仕事モードへと突入させる。
「でも完全に薬が抜けたとも限らないので、今日明日くらいは無理せず仕事は休んでください」
「はい。そうさせて、いただきます」
「今回の件のお話を聞かせていただきたいので、後日見回り所の方にご足労いただくこととなると思います。その際は私が担当になりますので、受付の者に『ゲルハルト=イスカンダ』を呼ぶように伝えてください」
「わかり、ました」
「念のため、あなたのお名前と職業をお伺いしても?」
「アリハム=ベドルです。『竜の家』というギルドで冒険者をしてます」
「あの有名な!」
『竜の家』の名前で一気に目を輝かせたゲルハルトに、アリハムは思わず苦い笑いをこぼしてしまう。
アリハムの所属するギルド『竜の家』は王都でも指折りのギルドの一つだ。
大きさもさることながら、上級の冒険者達が多く所属する実力主義のギルドで冒険者の入れ替わりが激しいことでも有名なのだ。
そのため所属している冒険者は皆、実力に自信がある者だと勘違いされてしまうことがよくある。だがそれは違う。
確かに実力派揃いなのは事実だ。
アリハムがいつも受注しているような常設クエスト以外は割と難しいクエストが張られていることが多い。
一応他のギルドと同じくランク相応なものもあるのだが、所属人数が多いとクエストの取り合いなんて日常茶飯事なのだ。だが確実に受けられる常設クエストは達成金額が低い。
ここで『竜の家』に所属する冒険者達が取る行動は主に三つ。
1.取り合いに参加して見事クエストを勝ち取る
2.難しいクエストを受ける
3.ギルドを移籍する
『竜の家』に所属しようとする冒険者のほとんどは向上心が高い。
そのため大抵の冒険者がまず初めにトライするのは1か2のどちらかである。そしてそのどちらにも破れた冒険者が3を選ぶ。
これが辞めていく冒険者が多い理由であり、実力者達が残る理由でもある。
だが弱いからといって追い出される訳でもない。
昔から使っていた宿から比較的近いからという理由で選んだアリハムはギルドに入る際、端から端までギルドの規約書を読んだがそんなことは記載されていなかった。
実際、他の冒険者達が毛嫌し『低賃金クエスト』なんて呼ぶ常駐クエストを受け続けているアリハムだって追い出される気配はまるでない。
残るか残らないかの差なのだ。
だが外の人からはそんなことが分かるはずもない。
常駐クエストで向かう先々で過度な期待されて慣れたつもりではいたが、やはりいつまで経っても慣れることはないらしい。
意外とギルドの冒険者達に『初心者のおっさん』『ゴブリン清掃おじさん』と呼ばれるのが性に合っているのかもしれないな。
すごいです! なんて一人ではしゃぐ若者を前にアリハムは愛想笑いを浮かべてやり過ごした。
「あ、そうだ。これ、回復ポーションです」
一通り話して落ち着いたらしいゲルハルトは、昨晩ディルドを取り出したのと同じ腰下げから小瓶を取り出した。
回復ポーションといえば冒険者には必須のアイテムだ。
特に初心者は多めに所持していた方がいいもので、生産者のランクや出来に応じてE~S級のランクがつけられる。
ギルドや店に並んでいるものは生産ギルドに所属している鑑定士によって鑑定される。
高ランクの物の外見的な特徴としては異物の混入が少ないことが上げられる。またよく澄んだ緑をしているほど品質がいいとも言われている。
だが洞窟なんかで商人が売っているものは正式な鑑定を受けていなかったり、残った薬草を網などを使って濾過していたり、透明度を上げるために水などでかさ増しされていることも少なくはない。
それを理解していながらも必要となれば買わざるを得ないのが冒険者であり、初心者であればそれすらも理解していないこともある。
彼らに多少高くても正規の品を、と勧めつつも外で買う時に気をつけておいた方が良いポイントを仕込んだのは他でもないアリハムだ。
鑑定スキルこそ持っていないが、二十年もやっていれば良いものと悪いものの簡単な区別くらいはつくものなのだ。
そんなアリハムの目から見てもゲルハルトが差し出したそれは間違いなく一等品、Aランク以上の物であった。兵士達には何かあった時用にと支給されているのだろうか。
「大丈夫、ですから」
「でも……」
こんな値が張るものを「ありがとうございます」なんて考えもなしに受け取れるほどアリハムは馬鹿ではないつもりだ。
ゲルハルトには裏があるようには見えないものの、昨晩の店だって変な物を混入させてくるとは思っていなかったのだ。
ポーション自体は本物であろうとも、もらった対価として何かしろといわれても困ってしまう。
いや、何かをするのがアリハム自身ならまだいい。アリハムが巻き込まれた媚薬混入事件が意外と大きな事件で、犯人を捕らえるために子ども達にも協力させろなんて言われたらたまったもんじゃない。
「ポーションくらい持ってますので」
アリハムは自分の腰下げから回復ポーションを二本抜き取るとぐいっと煽った。
「え?」
「助けて、くれたの…………でしょう?」
「それは、まぁ……」
「あなたのおかげで、助かりました」
ゆっくりと息をすれば、声と喉は少しずつではあるものの調子を取り戻していく。
けれど長文を話すのはまだ難しい。だからアリハムは補えない部分は表情に頼ることにした。
笑みを作るのは得意ではないが、それでも少しでも伝わればと頬を緩める。
アリハムの和らいだ表情に、丸めた身体で隠されたゲルハルトのイチモツは一気に肥大化していく。
けれど今し方謝罪の言葉を渡したばかり。
しかも相手はゲルハルトの薄汚れた感情など気づかずに、昨晩の行為に感謝をしているときた。
いくら友人や同僚達とそれなりに女遊びを楽しんでいるゲルハルトとて、そんな相手にヤらせてくれなど言えるはずもなかった。
「それは良かった」
必死に治まれ! と頭の中で繰り返しながら、営業スマイルを顔面にへばりつける。
せっかくクリーン魔法をかけて外側だけは現状復帰させたんだから暴発だけはしてくれるなよ、と祈りながら無理矢理意識を仕事モードへと突入させる。
「でも完全に薬が抜けたとも限らないので、今日明日くらいは無理せず仕事は休んでください」
「はい。そうさせて、いただきます」
「今回の件のお話を聞かせていただきたいので、後日見回り所の方にご足労いただくこととなると思います。その際は私が担当になりますので、受付の者に『ゲルハルト=イスカンダ』を呼ぶように伝えてください」
「わかり、ました」
「念のため、あなたのお名前と職業をお伺いしても?」
「アリハム=ベドルです。『竜の家』というギルドで冒険者をしてます」
「あの有名な!」
『竜の家』の名前で一気に目を輝かせたゲルハルトに、アリハムは思わず苦い笑いをこぼしてしまう。
アリハムの所属するギルド『竜の家』は王都でも指折りのギルドの一つだ。
大きさもさることながら、上級の冒険者達が多く所属する実力主義のギルドで冒険者の入れ替わりが激しいことでも有名なのだ。
そのため所属している冒険者は皆、実力に自信がある者だと勘違いされてしまうことがよくある。だがそれは違う。
確かに実力派揃いなのは事実だ。
アリハムがいつも受注しているような常設クエスト以外は割と難しいクエストが張られていることが多い。
一応他のギルドと同じくランク相応なものもあるのだが、所属人数が多いとクエストの取り合いなんて日常茶飯事なのだ。だが確実に受けられる常設クエストは達成金額が低い。
ここで『竜の家』に所属する冒険者達が取る行動は主に三つ。
1.取り合いに参加して見事クエストを勝ち取る
2.難しいクエストを受ける
3.ギルドを移籍する
『竜の家』に所属しようとする冒険者のほとんどは向上心が高い。
そのため大抵の冒険者がまず初めにトライするのは1か2のどちらかである。そしてそのどちらにも破れた冒険者が3を選ぶ。
これが辞めていく冒険者が多い理由であり、実力者達が残る理由でもある。
だが弱いからといって追い出される訳でもない。
昔から使っていた宿から比較的近いからという理由で選んだアリハムはギルドに入る際、端から端までギルドの規約書を読んだがそんなことは記載されていなかった。
実際、他の冒険者達が毛嫌し『低賃金クエスト』なんて呼ぶ常駐クエストを受け続けているアリハムだって追い出される気配はまるでない。
残るか残らないかの差なのだ。
だが外の人からはそんなことが分かるはずもない。
常駐クエストで向かう先々で過度な期待されて慣れたつもりではいたが、やはりいつまで経っても慣れることはないらしい。
意外とギルドの冒険者達に『初心者のおっさん』『ゴブリン清掃おじさん』と呼ばれるのが性に合っているのかもしれないな。
すごいです! なんて一人ではしゃぐ若者を前にアリハムは愛想笑いを浮かべてやり過ごした。
「あ、そうだ。これ、回復ポーションです」
一通り話して落ち着いたらしいゲルハルトは、昨晩ディルドを取り出したのと同じ腰下げから小瓶を取り出した。
回復ポーションといえば冒険者には必須のアイテムだ。
特に初心者は多めに所持していた方がいいもので、生産者のランクや出来に応じてE~S級のランクがつけられる。
ギルドや店に並んでいるものは生産ギルドに所属している鑑定士によって鑑定される。
高ランクの物の外見的な特徴としては異物の混入が少ないことが上げられる。またよく澄んだ緑をしているほど品質がいいとも言われている。
だが洞窟なんかで商人が売っているものは正式な鑑定を受けていなかったり、残った薬草を網などを使って濾過していたり、透明度を上げるために水などでかさ増しされていることも少なくはない。
それを理解していながらも必要となれば買わざるを得ないのが冒険者であり、初心者であればそれすらも理解していないこともある。
彼らに多少高くても正規の品を、と勧めつつも外で買う時に気をつけておいた方が良いポイントを仕込んだのは他でもないアリハムだ。
鑑定スキルこそ持っていないが、二十年もやっていれば良いものと悪いものの簡単な区別くらいはつくものなのだ。
そんなアリハムの目から見てもゲルハルトが差し出したそれは間違いなく一等品、Aランク以上の物であった。兵士達には何かあった時用にと支給されているのだろうか。
「大丈夫、ですから」
「でも……」
こんな値が張るものを「ありがとうございます」なんて考えもなしに受け取れるほどアリハムは馬鹿ではないつもりだ。
ゲルハルトには裏があるようには見えないものの、昨晩の店だって変な物を混入させてくるとは思っていなかったのだ。
ポーション自体は本物であろうとも、もらった対価として何かしろといわれても困ってしまう。
いや、何かをするのがアリハム自身ならまだいい。アリハムが巻き込まれた媚薬混入事件が意外と大きな事件で、犯人を捕らえるために子ども達にも協力させろなんて言われたらたまったもんじゃない。
「ポーションくらい持ってますので」
アリハムは自分の腰下げから回復ポーションを二本抜き取るとぐいっと煽った。
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