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3.
「フランシスカ様!」
「……ごきげんよう、アイリーン様」
日々の癒しとなっていたご令嬢達とのお茶会もといおやつタイム。いくらウィリアム王子がやって来るとはいっても、彼だって立派な王族。少しはその場の空気というものを読みながらやってくる。
具体的にいえば、ご令嬢達のウワサ話の二つ目の山を越え、カップに三度目のお茶が注がれたくらい。どこかでタイミングでも見計らっているのではないかと思ってしまうほどの好タイミング。一段落ついていることもあり、ご令嬢達もお茶会を邪魔されたとイヤな気分になることもなく、王子はその場にすんなりとなじんでいくのだ。
出来ることなら出没すらしてほしくないが、それでも『邪魔』をされる訳ではない。
けれどアイリーンという少女は周りを一切気にせずにやってくるのだ。それも今回だけではない。もう片手で数えられる数をゆうに越えてしまっている。
フランシスカもといジャックのお茶友だちは主に公爵家の令嬢ばかりだ。爵位と比例して高い貴族としてのプライドで今まで『庶民いじめ』を行ってこなかっただけのこと。それでも一度や二度ならともかく、そこまで遮られればいらだちを覚えるのも当然だろう。ついに堪忍袋の緒が切れた。
「フランシスカ様は今、私達とお茶を楽しんでいるのですが……。アイリーン様にはそれよりも大事な用事でもあるのかしら?」
「私はフランシスカ様にお話があるのです」
「まぁ」
ここまで怒りを露わにしているのに、アイリーンにはまるで効いていない。
それどころか公爵令嬢に正面切って邪魔だと告げたようなものだ。ワガママだらけの姉の近くで長年過ごしてきたジャックも、これはまずいぞと背中に冷や汗が垂れていく。
けれど当のアイリーンは涼しい顔だ。それどころか彼女は火に油を注いでいく。
「フランシスカ様はいつになったらお役目を果たされるのですか? こんなところで下っ端の令嬢達とのんきにお茶なんかして。私、正直待ちくたびれましたわ」
でも下っ端の令嬢なんてそんな、公爵令嬢をひっつかまえて言う台詞じゃないだろう!
叫び出したい気持ちを押さえながら、ジャックは頭を抱える。
どこかで聞いたことがある台詞だと思えば、それは幼少期、フランシスカが男爵令嬢にお茶と共にかけた言葉である。あの時の姉はさっさとその場を後にして馬車へと乗り込んでしまった。残されたジャックはその子の世話を焼いて――といつもの行動をとるだけでよかった。
けれどこのアイリーンとか言う娘はこの場に居座って、ジャックの言葉を待ち続けているのだ。目の前のご令嬢のことなんて清々しいほどのガン無視だ。つまりフランシスカよりもたちが悪い。
日に日に遠慮がなくなっていくとは思っていたが、まさか初対面もとい初襲撃から一ヶ月と少しでここまで態度が大きくなってくるとは思わなかった。
「ねぇちょっと私の話、聞いてます? 無視しないでください」
無視するも何も言っていることの意味が分からないのだ。答えようもない。
だから今日もジャックは、彼女がさっさと飽きてくれるか、身の程を弁えてはくれないだろうかといつか来る日を期待するしかない。
ジャックはヒキツった笑みで定型文となった言葉を返す。
「今日のところはお引き取りくださいませんか?」
こんな時、ジャックは姉の威圧感が羨ましくなる。
一緒に育ったはずなのに、姉だけが不思議といつからか身につけていたプレッシャーだ。それさえあればこのやっかいな子もすぐにどこかに行ってくれることだろう。
けれどそんな選ばれし力のないジャックは、苛立たしげに唇をかみしめるアイリーンに微笑み続けるしかないのだ。
そしてシビレを切らして帰った後で、ヒステリーをおこす一歩手前で我慢していたご令嬢達のグチを聞く。
正直、ジャックだってグチをこぼしたい。けれど一度、弱い言葉を吐き出してしまえば出してはいけない言葉だって漏れてしまうことだろう。
本来ならばここはフランシスカの立ち位置なのだと。
自分はフランシスカの陰でひっそりとした学園生活を送る予定だったのだと。
だからジャックは口を閉ざす。
ウンウンと頷きながら、時には背中をさすり、時には過去のお茶会で彼女たちが勧めてくれたそれぞれの好物を勧める。後ろで控えていた彼女たちの付き人はさすがはトップランクの使用人たち。いつの間にか、茶葉を通常の紅茶の葉から鎮静効果のあるハーブティーへと切り替えてくれている。
「あの人はなんなんですの!」
怒りでプルプルと頬を揺らす令嬢達の相手をしながら、ジャックは心の底からこの状況がどうにかなることを願った。
「……ごきげんよう、アイリーン様」
日々の癒しとなっていたご令嬢達とのお茶会もといおやつタイム。いくらウィリアム王子がやって来るとはいっても、彼だって立派な王族。少しはその場の空気というものを読みながらやってくる。
具体的にいえば、ご令嬢達のウワサ話の二つ目の山を越え、カップに三度目のお茶が注がれたくらい。どこかでタイミングでも見計らっているのではないかと思ってしまうほどの好タイミング。一段落ついていることもあり、ご令嬢達もお茶会を邪魔されたとイヤな気分になることもなく、王子はその場にすんなりとなじんでいくのだ。
出来ることなら出没すらしてほしくないが、それでも『邪魔』をされる訳ではない。
けれどアイリーンという少女は周りを一切気にせずにやってくるのだ。それも今回だけではない。もう片手で数えられる数をゆうに越えてしまっている。
フランシスカもといジャックのお茶友だちは主に公爵家の令嬢ばかりだ。爵位と比例して高い貴族としてのプライドで今まで『庶民いじめ』を行ってこなかっただけのこと。それでも一度や二度ならともかく、そこまで遮られればいらだちを覚えるのも当然だろう。ついに堪忍袋の緒が切れた。
「フランシスカ様は今、私達とお茶を楽しんでいるのですが……。アイリーン様にはそれよりも大事な用事でもあるのかしら?」
「私はフランシスカ様にお話があるのです」
「まぁ」
ここまで怒りを露わにしているのに、アイリーンにはまるで効いていない。
それどころか公爵令嬢に正面切って邪魔だと告げたようなものだ。ワガママだらけの姉の近くで長年過ごしてきたジャックも、これはまずいぞと背中に冷や汗が垂れていく。
けれど当のアイリーンは涼しい顔だ。それどころか彼女は火に油を注いでいく。
「フランシスカ様はいつになったらお役目を果たされるのですか? こんなところで下っ端の令嬢達とのんきにお茶なんかして。私、正直待ちくたびれましたわ」
でも下っ端の令嬢なんてそんな、公爵令嬢をひっつかまえて言う台詞じゃないだろう!
叫び出したい気持ちを押さえながら、ジャックは頭を抱える。
どこかで聞いたことがある台詞だと思えば、それは幼少期、フランシスカが男爵令嬢にお茶と共にかけた言葉である。あの時の姉はさっさとその場を後にして馬車へと乗り込んでしまった。残されたジャックはその子の世話を焼いて――といつもの行動をとるだけでよかった。
けれどこのアイリーンとか言う娘はこの場に居座って、ジャックの言葉を待ち続けているのだ。目の前のご令嬢のことなんて清々しいほどのガン無視だ。つまりフランシスカよりもたちが悪い。
日に日に遠慮がなくなっていくとは思っていたが、まさか初対面もとい初襲撃から一ヶ月と少しでここまで態度が大きくなってくるとは思わなかった。
「ねぇちょっと私の話、聞いてます? 無視しないでください」
無視するも何も言っていることの意味が分からないのだ。答えようもない。
だから今日もジャックは、彼女がさっさと飽きてくれるか、身の程を弁えてはくれないだろうかといつか来る日を期待するしかない。
ジャックはヒキツった笑みで定型文となった言葉を返す。
「今日のところはお引き取りくださいませんか?」
こんな時、ジャックは姉の威圧感が羨ましくなる。
一緒に育ったはずなのに、姉だけが不思議といつからか身につけていたプレッシャーだ。それさえあればこのやっかいな子もすぐにどこかに行ってくれることだろう。
けれどそんな選ばれし力のないジャックは、苛立たしげに唇をかみしめるアイリーンに微笑み続けるしかないのだ。
そしてシビレを切らして帰った後で、ヒステリーをおこす一歩手前で我慢していたご令嬢達のグチを聞く。
正直、ジャックだってグチをこぼしたい。けれど一度、弱い言葉を吐き出してしまえば出してはいけない言葉だって漏れてしまうことだろう。
本来ならばここはフランシスカの立ち位置なのだと。
自分はフランシスカの陰でひっそりとした学園生活を送る予定だったのだと。
だからジャックは口を閉ざす。
ウンウンと頷きながら、時には背中をさすり、時には過去のお茶会で彼女たちが勧めてくれたそれぞれの好物を勧める。後ろで控えていた彼女たちの付き人はさすがはトップランクの使用人たち。いつの間にか、茶葉を通常の紅茶の葉から鎮静効果のあるハーブティーへと切り替えてくれている。
「あの人はなんなんですの!」
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