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「そのことなんだが、フランシスカ。少し厄介なことが起きた」
「何かしら?」
そんな彼女の思考を遮ったのは兄だ。よくこのタイミングで、と感心してしまうのはジャックが小心者だからだろうか。兄の服の裾をギュッと握りながら、大丈夫かな? なんて心配しながら彼の顔を見上げる。
「つい先ほどウィリアム王子がやってきて、ジャックと接触後、ジャックがフランシスカの身代わりをしているという事実に打ちひしがれて去っていった」
「あの王子が手紙を送ってくる時点で何かおかしいと思っていたけれど、あの男、アポイントメントも取らずに来たの!? フランシスカの時はあれほど嫌そうな顔浮かべといて一体どの面さげて……。というよりもお兄さま、あなた、なぜちゃんとジャックを見てなかったの!?」
「それは……すまない」
この数日、妙に接触が多いと思っていたが、あれは監視の役割もあったのか。ということは同じドレスを着ているのも、兄が髪飾りをプレゼントしてきたことにも何かしらの意味があったのだろう。
何も知らずに怒って逃げ出した自分に嫌気が差す。ジャックは兄と同じように唇をぎゅっと噛みしめて俯いた。けれど同じアクションを起こしていたところで悪いのは全て自分なのだ。フランシスカの口から漏れた大きめのため息に思わず身体が震えてしまう。
けれどそんなジャックをすぐさまフランシスカが捕捉する。
「まぁ過ぎたことは仕方ないわ。それに悪いのはあの王子よ。だから泣かないの、ジャック!」
「泣いてない」
「そう? ならその明らかに贔屓されてる顔を下に向けるの止めなさい」
「……わかった」
贔屓ってそんなもの誰からされるんだ、なんて突っ込みは腹の底へと沈める。口に出せば目の前のフランシスカが突進を決めてきそうだと思えたのだ。
比喩でも何でもなく、ビシッとジャックに向けられた指先にはそれだけの力が込められていた。
「ならいいわ! それにしても王子が駒としてろくに機能しなくなるのは厄介ね」
腕を組んで考え込むフランシスカは当然のように一国の王子であり、婚約者であるウィリアムを駒扱いする。そのことに違和感を通り越した呆れを感じてしまう。けれどそんなことを気にしているのはこの状況でジャックただ一人。すでに他の三人の計画内で、王子は完全に駒としての役割を押しつけられているらしかった。
「父さん、どうしましょう?」
「理由を話してもいいが、彼には出来るだけ冷静な頭で臨んで欲しい。顔に出てしまったら意味がない」
「国王陛下に誰か貸してもらえるよう、要請しますか?」
それどころか国王陛下まで絡んでくるとは。
想像以上の大事にジャックはひえっと頼りない声が口から漏れそうになった。
「ポーカーフェイスというと宰相補佐の彼なんてどうでしょう?」
「頼めば手を貸してくれるだろうが、彼は『フランシスカ』との交流がない。今から作るにしても時間がかかるぞ」
「それなら……」
「あの、王子を説得する役目、私に任せてはいただけないでしょうか?」
「ジャック?」
ジャックの言葉に一同、目を丸くした。
想像以上の大事になっていたことで、ジャックの足は小鹿のようにぶるぶると震えてしまう。それも全容どころか少ししか内容を把握していないのに、だ。
それでもジャックは誇り高きシザー家の次男坊なのだ。家族が何かを成し遂げようと動いているのに、自分だけが蚊帳の外で待機しているなんて我慢出来る訳がない。
それもジャック自身の命が狙われているというのならなおのこと。きっと役にたてる面は限られているだろう。命の危険にさらされるところはきっと託してもらえないことくらい、ジャックだって理解している。けれど、いやだからこそ王子の説得くらいは任せてもらいたいのだ。
「確認したいんですが、姉さん、いやフランシスカ。君はこの一件が終わったらフランシスカに戻るんだよね?」
「ええ。そう約束してしまったから」
「なら期間限定だと話して、協力してもらう」
ウィリアム王子がショックを受けたのは、ジャックがフランシスカを演じていたから。距離を詰めようと思った相手が男だったから。
だが本物のフランシスカはここにいる。それもウィリアム王子がずっと接してきたフランシスカとは違う彼女が。
違うのは覇気が増したところと、ウィリアム王子に対する恋愛感情がなくなったところ。変わったと言っても決して好転している訳ではない。だがそれを正直に話す必要などない。一件が片づくまでの間、今まで通りジャックがフランシスカの代わりであることを了承してもらえればいいだけだ。
「でもそんなにアッサリ行くかしら?」
「それは……やってみないと分からないけど……」
「やってみる価値はあるんじゃないか?」
「父さん……」
「無理をするんじゃないぞ、ジャック」
「はい!」
タイムリミットは長期休みが終わるまで。
それまでに何とか説得してみせると意気込んだジャックは早速、王子へ手紙を綴ることにした。
「何かしら?」
そんな彼女の思考を遮ったのは兄だ。よくこのタイミングで、と感心してしまうのはジャックが小心者だからだろうか。兄の服の裾をギュッと握りながら、大丈夫かな? なんて心配しながら彼の顔を見上げる。
「つい先ほどウィリアム王子がやってきて、ジャックと接触後、ジャックがフランシスカの身代わりをしているという事実に打ちひしがれて去っていった」
「あの王子が手紙を送ってくる時点で何かおかしいと思っていたけれど、あの男、アポイントメントも取らずに来たの!? フランシスカの時はあれほど嫌そうな顔浮かべといて一体どの面さげて……。というよりもお兄さま、あなた、なぜちゃんとジャックを見てなかったの!?」
「それは……すまない」
この数日、妙に接触が多いと思っていたが、あれは監視の役割もあったのか。ということは同じドレスを着ているのも、兄が髪飾りをプレゼントしてきたことにも何かしらの意味があったのだろう。
何も知らずに怒って逃げ出した自分に嫌気が差す。ジャックは兄と同じように唇をぎゅっと噛みしめて俯いた。けれど同じアクションを起こしていたところで悪いのは全て自分なのだ。フランシスカの口から漏れた大きめのため息に思わず身体が震えてしまう。
けれどそんなジャックをすぐさまフランシスカが捕捉する。
「まぁ過ぎたことは仕方ないわ。それに悪いのはあの王子よ。だから泣かないの、ジャック!」
「泣いてない」
「そう? ならその明らかに贔屓されてる顔を下に向けるの止めなさい」
「……わかった」
贔屓ってそんなもの誰からされるんだ、なんて突っ込みは腹の底へと沈める。口に出せば目の前のフランシスカが突進を決めてきそうだと思えたのだ。
比喩でも何でもなく、ビシッとジャックに向けられた指先にはそれだけの力が込められていた。
「ならいいわ! それにしても王子が駒としてろくに機能しなくなるのは厄介ね」
腕を組んで考え込むフランシスカは当然のように一国の王子であり、婚約者であるウィリアムを駒扱いする。そのことに違和感を通り越した呆れを感じてしまう。けれどそんなことを気にしているのはこの状況でジャックただ一人。すでに他の三人の計画内で、王子は完全に駒としての役割を押しつけられているらしかった。
「父さん、どうしましょう?」
「理由を話してもいいが、彼には出来るだけ冷静な頭で臨んで欲しい。顔に出てしまったら意味がない」
「国王陛下に誰か貸してもらえるよう、要請しますか?」
それどころか国王陛下まで絡んでくるとは。
想像以上の大事にジャックはひえっと頼りない声が口から漏れそうになった。
「ポーカーフェイスというと宰相補佐の彼なんてどうでしょう?」
「頼めば手を貸してくれるだろうが、彼は『フランシスカ』との交流がない。今から作るにしても時間がかかるぞ」
「それなら……」
「あの、王子を説得する役目、私に任せてはいただけないでしょうか?」
「ジャック?」
ジャックの言葉に一同、目を丸くした。
想像以上の大事になっていたことで、ジャックの足は小鹿のようにぶるぶると震えてしまう。それも全容どころか少ししか内容を把握していないのに、だ。
それでもジャックは誇り高きシザー家の次男坊なのだ。家族が何かを成し遂げようと動いているのに、自分だけが蚊帳の外で待機しているなんて我慢出来る訳がない。
それもジャック自身の命が狙われているというのならなおのこと。きっと役にたてる面は限られているだろう。命の危険にさらされるところはきっと託してもらえないことくらい、ジャックだって理解している。けれど、いやだからこそ王子の説得くらいは任せてもらいたいのだ。
「確認したいんですが、姉さん、いやフランシスカ。君はこの一件が終わったらフランシスカに戻るんだよね?」
「ええ。そう約束してしまったから」
「なら期間限定だと話して、協力してもらう」
ウィリアム王子がショックを受けたのは、ジャックがフランシスカを演じていたから。距離を詰めようと思った相手が男だったから。
だが本物のフランシスカはここにいる。それもウィリアム王子がずっと接してきたフランシスカとは違う彼女が。
違うのは覇気が増したところと、ウィリアム王子に対する恋愛感情がなくなったところ。変わったと言っても決して好転している訳ではない。だがそれを正直に話す必要などない。一件が片づくまでの間、今まで通りジャックがフランシスカの代わりであることを了承してもらえればいいだけだ。
「でもそんなにアッサリ行くかしら?」
「それは……やってみないと分からないけど……」
「やってみる価値はあるんじゃないか?」
「父さん……」
「無理をするんじゃないぞ、ジャック」
「はい!」
タイムリミットは長期休みが終わるまで。
それまでに何とか説得してみせると意気込んだジャックは早速、王子へ手紙を綴ることにした。
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