姉の身代わりになりまして

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

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『直接会ってお話出来ないでしょうか?』
 たったそれだけの文。ウィリアム王子が会ってくれるかは正直、賭けだった。
 それでも会ってくれなければ押し掛けてやる! と気合いをいれていた。けれどウィリアム王子はすんなりと承諾の手紙と共に、使いと馬車まで寄越してくれた。

 王子からの使いに「用意してきます」と言い残して、ジャックが駆け足で向かったのはフランシスカの部屋だった。トントントンと急かすようにドアをノックすると、まるでジャックが来るのを分かっていたかのように「入っていいわよ」と短い声が返ってくる。遠慮なく部屋へと足を踏み入れるとそこにはやはり今朝方、ジャックがメイドに着せてもらったドレスと全く同じものに身を包むフランシスカの姿があった。ジャックを一瞥すると、手の中にあった分厚い本を閉じて奥へとスライドさせる。チラッと見えてしまった表紙には見覚えがない。ということはジャックが覗く本棚以外の場所に置かれているか、新たに買ってきたのだろう。だがその本をジャックが開くことはおそらく今後もない。何せ見えたタイトルは明らかに冒険小説でもなければ物語が描かれていそうもないもので、いわゆる『専門書』というものだったのだ。以前のフランシスカだったら確実に読まないだろう、と言い切れないところが何とも言えない。ワガママ放題ではあったものの、頭はよかったのだ。そう、頭は。思わず固まってしまったジャックの元までツカツカと歩いてきたフランシスカは、値踏みをするかのように上から下までじっくりと見つめる。

「その服装でいいんじゃない? 首もとが寂しいようならアクセサリー貸すけど」
「服装の確認じゃなくて……って何で今から出かけること知ってるの?」
「窓から王子専用の馬車が見えたから。それに使者だけ送るならあんな大きいものを使わないでしょ」
 親指を立ててクイっと窓の方角へと動かす。どうやら窓から確認したらしい。王子専用の馬車があることはジャックだって知っていたが、他の王族所有の馬車との違いまでは分からない。そう簡単に分かってしまっては先日のジャックのように狙われてしまうからだ。定期的に外装を少しずつ変えるらしいとも聞いた。その期間がどれくらいなのかまでは知らないが、よく判別ができたものだと感心してしまう。おそらくフランシスカの記憶があるからなのだろう。

 だがそれにしても数度見ただけで誰のものかまで分かるようになるものだろうか? 
 以前のフランシスカとウィリアム王子の交流は最低限のものだったのに……。

 不思議には思うものの、このタイミングで来る王族の馬車といえば王子のものくらいしかないからだろうと飲み込むことにした。

「なるほど……」
「それで服装確認じゃなかったらどうしたの? 行くのイヤになったなら、私が代わりに行ってきてもいいけど?」
「それは……大丈夫。私が頑張るから」
「そう……。まぁ、失敗したらしたでその時は私がどうにかするからムリだけはするんじゃないわよ?」
「ありがとう、フランシスカ」

 失敗したら、なんて最悪を想定するフランシスカの瞳はどこか優しげだった。父や兄との溺愛とは少し違う。けれど彼女のそれもやはり家族に向けるもので、彼女もやはりフランシスカなのだと再認識させられた。王子の使いがやってきたことを伝えるためにやってきたのだが、背中まで押してもらえたジャックは精一杯の笑顔を向けた。玄関まではさすがにムリだからと、ドアのところまで送ってくれたフランシスカは「頑張ってね」と最後に一喝してくれる。

 それだけで頑張れると思うのは、きっとこの半年間、片割れが行方をくらましていたことが思っていたよりもずっと寂しかったからだろう。

 父と兄にも行ってくると報告し、ジャックは玄関へと向かった。


「おまたせいたしました」
 ウィリアム王子から送られた使者に一礼して、馬車へと乗り込んだ。
 今回は手紙に『一人で来るように』とか書かれていたため、使用人は連れていない。これがフランシスカの言うところの『あの女』の罠だったとしたら、ジャックは殺されてしまうのだろう。同乗してくれている彼が服の下にナイフなんて隠していたら、ぶっさりと深く刺されて終了。想像して少しだけ背筋が震えてしまう。けれどフランシスカも父もジャックが誰も伴わずに行くことを止めなかった。たったそれだけの事実が、ジャックの恐怖を軽くしてくれるのだった。
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