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「うん、可愛い!」
上から下までキッチリと吟味をしていたフランシスカは、ジャックのドレス姿を目の前に満足気に頷いた。フランシスカがジャックにと用意したのは、シザー家の、家族の瞳の色と同じ、エメラルド色のドレスだった。瞳の色のドレスを選ぶところはウィリアム王子と同じ感性なのでは? と思ってしまう。けれど違うのは、フランシスカの用意したものはジャックの好みドンピシャだったことだろうか。ふわっとした腕元に、足首を隠すように広がっていく裾。胸元と肩に仕込まれたパッドに不自然さはない。見事に包み込まれているのだ。それにはさすがはフランシスカと言わざるを得ない。
「じゃあ私も着替えてくるから、待ってて」
右手を上げた彼女が腕に下げていたのは、ジャックが今まさに着ているものと同じ色形をしたドレスだ。やはり服装は揃えることに意味があるようだ。分かったとジャックが頷けば、フランシスカは使用人を連れ、隣の部屋へと入っていった。
けれどフランシスカの着替えが終わるのを待っていたジャックの目に飛び込んできたのは、深海のような色のドレスを見に包んだ姉の姿だった。
「フランシスカ……それ」
「どう切り刻もうかしらって悩んでたらあることに気付いたの。だから刻んで燃やす前にジャックにも見せようと思って。着た方が分かりやすいからこうして着てみた訳だけど……あなたにはこのドレス、どう見える?」
「どう、って言われても……」
あれだけセンスが悪いとこき下ろしたドレスにわざわざ腕を通すだけの理由があるのだろうか?
そこまでしてジャックに見せたい何かがある、と?
「率直な感想でいいわ」
その言葉に、今度はジャックがフランシスカのドレス姿を吟味する。
率直な感想と言われても、目の前のドレスはつい先ほどまでジャックが着ていたものである。フランシスカのドレスとは違い、この屋敷にはたった一着しかないもので、代わりは存在しない。それに抱く感想といえば、先ほどフランシスカが告げた『王子の瞳の色のドレス』ということくらいだろう。
まだ付け足すとすれば全体的にラインがすっきりとしているとか、そのくらい…………ってあれ?
王子に見せられた時はすっきりとした印象を持っていたそのドレスは、今は少しだけだぼっとしているように見えた。その点に注目してみると布の余裕があるのは主に肩や腰、太ももの部分。どこもジャックの身体にはフィットしていた場所である。
そのことに気付き、ジャックの顔からはさあーっと血の気が引いていく。
「気付いた?」
「うん。でも、いや……まさか」
まさか。そんなはずはない。
いくら幼き日のジャックをフランシスカと思い込んでいたとしても、いや、愛する相手がフランシスカだと思っているのなら、ドレスのサイズは『フランシスカ』に合わせて仕立てることだろう。さらに言えば、彼がサイズを把握しているとしたら、それは婚約者であるフランシスカのものなのだ。確かウィリアム王子は何度かフランシスカ宛に社交界用のドレスを贈っているはずだ。それが義務感なのか、心からの物なのかは別として、知ろうと思えば機会くらいいくらでもあったはず。
――けれどジャックの身体のサイズなど知る訳がないのだ。
正確な数値を知っているとしたら、それは出入りの針子くらいなものだろう。おおよその数値ならば、ジャックに抱き着いてくる兄もいい当てられるかもしれないが。だが兄は兄だ。『家族』という特別枠に入る。
いくら王子相手とはいえ、針子が個人情報を漏らすとは考えづらい。ましてやあの兄がわざわざ伝えるなんてあり得ない話だ。
ならば彼はどうやってその情報を入手したというのだろう?
「これは想像以上にヤバいかもしれないわ。さすがに『フランシスカ』でもここまでとは思わなかったんでしょうね。ウィリアムはこの一件には絡んでいない。けれどあのままフランシスカがフランシスカのままだったら…………」
顔を歪めたフランシスカはそれ以上のことは告げなかった。
彼女もまた『フランシスカ』だからこそ、『フランシスカは殺されていたかもしれない』なんて恐ろしいことを口にすることは出来なかったのだろう。
ジャックが抵抗すら止めたあの行為が執着だとすれば、それはいつから『ジャック』に向いていたというのだ。
『フランシスカ』ではないといつ気付いた?
ジャックよりも察しの良かったフランシスカさえも欺いて、彼はジャックを見据えていたのだ。婚約者の双子の弟で、それ以外何者でもないジャックを。
「タイミングなんて待ってられないわ。多少荒くてもさっさとカタをつけましょう。最低限、あの女にフランシスカとジャックの2人ともが登校している姿を数日間見せる必要はあるから、始業式から1週間後、決行するわ! そうと決まれば着替えてお父様達に報告しなきゃ」
ああ、もう! っと髪を掻きむしりながら、再び隣室のドアへと向かうフランシスカ。けれど彼女はドアが完全に閉まる直前、ドアを押し止めてジャックに向かって人差し指を強く押しだした。
「それまでしっかりと貞操守り切るのよ!」
パタリと閉まったドアに『手遅れな気がする……』なんて口が裂けても言えるはずがなかった。
上から下までキッチリと吟味をしていたフランシスカは、ジャックのドレス姿を目の前に満足気に頷いた。フランシスカがジャックにと用意したのは、シザー家の、家族の瞳の色と同じ、エメラルド色のドレスだった。瞳の色のドレスを選ぶところはウィリアム王子と同じ感性なのでは? と思ってしまう。けれど違うのは、フランシスカの用意したものはジャックの好みドンピシャだったことだろうか。ふわっとした腕元に、足首を隠すように広がっていく裾。胸元と肩に仕込まれたパッドに不自然さはない。見事に包み込まれているのだ。それにはさすがはフランシスカと言わざるを得ない。
「じゃあ私も着替えてくるから、待ってて」
右手を上げた彼女が腕に下げていたのは、ジャックが今まさに着ているものと同じ色形をしたドレスだ。やはり服装は揃えることに意味があるようだ。分かったとジャックが頷けば、フランシスカは使用人を連れ、隣の部屋へと入っていった。
けれどフランシスカの着替えが終わるのを待っていたジャックの目に飛び込んできたのは、深海のような色のドレスを見に包んだ姉の姿だった。
「フランシスカ……それ」
「どう切り刻もうかしらって悩んでたらあることに気付いたの。だから刻んで燃やす前にジャックにも見せようと思って。着た方が分かりやすいからこうして着てみた訳だけど……あなたにはこのドレス、どう見える?」
「どう、って言われても……」
あれだけセンスが悪いとこき下ろしたドレスにわざわざ腕を通すだけの理由があるのだろうか?
そこまでしてジャックに見せたい何かがある、と?
「率直な感想でいいわ」
その言葉に、今度はジャックがフランシスカのドレス姿を吟味する。
率直な感想と言われても、目の前のドレスはつい先ほどまでジャックが着ていたものである。フランシスカのドレスとは違い、この屋敷にはたった一着しかないもので、代わりは存在しない。それに抱く感想といえば、先ほどフランシスカが告げた『王子の瞳の色のドレス』ということくらいだろう。
まだ付け足すとすれば全体的にラインがすっきりとしているとか、そのくらい…………ってあれ?
王子に見せられた時はすっきりとした印象を持っていたそのドレスは、今は少しだけだぼっとしているように見えた。その点に注目してみると布の余裕があるのは主に肩や腰、太ももの部分。どこもジャックの身体にはフィットしていた場所である。
そのことに気付き、ジャックの顔からはさあーっと血の気が引いていく。
「気付いた?」
「うん。でも、いや……まさか」
まさか。そんなはずはない。
いくら幼き日のジャックをフランシスカと思い込んでいたとしても、いや、愛する相手がフランシスカだと思っているのなら、ドレスのサイズは『フランシスカ』に合わせて仕立てることだろう。さらに言えば、彼がサイズを把握しているとしたら、それは婚約者であるフランシスカのものなのだ。確かウィリアム王子は何度かフランシスカ宛に社交界用のドレスを贈っているはずだ。それが義務感なのか、心からの物なのかは別として、知ろうと思えば機会くらいいくらでもあったはず。
――けれどジャックの身体のサイズなど知る訳がないのだ。
正確な数値を知っているとしたら、それは出入りの針子くらいなものだろう。おおよその数値ならば、ジャックに抱き着いてくる兄もいい当てられるかもしれないが。だが兄は兄だ。『家族』という特別枠に入る。
いくら王子相手とはいえ、針子が個人情報を漏らすとは考えづらい。ましてやあの兄がわざわざ伝えるなんてあり得ない話だ。
ならば彼はどうやってその情報を入手したというのだろう?
「これは想像以上にヤバいかもしれないわ。さすがに『フランシスカ』でもここまでとは思わなかったんでしょうね。ウィリアムはこの一件には絡んでいない。けれどあのままフランシスカがフランシスカのままだったら…………」
顔を歪めたフランシスカはそれ以上のことは告げなかった。
彼女もまた『フランシスカ』だからこそ、『フランシスカは殺されていたかもしれない』なんて恐ろしいことを口にすることは出来なかったのだろう。
ジャックが抵抗すら止めたあの行為が執着だとすれば、それはいつから『ジャック』に向いていたというのだ。
『フランシスカ』ではないといつ気付いた?
ジャックよりも察しの良かったフランシスカさえも欺いて、彼はジャックを見据えていたのだ。婚約者の双子の弟で、それ以外何者でもないジャックを。
「タイミングなんて待ってられないわ。多少荒くてもさっさとカタをつけましょう。最低限、あの女にフランシスカとジャックの2人ともが登校している姿を数日間見せる必要はあるから、始業式から1週間後、決行するわ! そうと決まれば着替えてお父様達に報告しなきゃ」
ああ、もう! っと髪を掻きむしりながら、再び隣室のドアへと向かうフランシスカ。けれど彼女はドアが完全に閉まる直前、ドアを押し止めてジャックに向かって人差し指を強く押しだした。
「それまでしっかりと貞操守り切るのよ!」
パタリと閉まったドアに『手遅れな気がする……』なんて口が裂けても言えるはずがなかった。
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