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「ジャック!」
初めて学園へやって来た弟に学園内を紹介している、と見せかけ『ジャック』を見せつけるために練り歩くことしばらく。誰もが遠巻きにシザー家の双子を見つめる中、ジャック達目がけて駆け寄ってきた人物が一人――。
「コージェ……」
コージェ=フランクトン。
フランシスカ曰く『犬っころ』であり、ジャックの友人でもある。
久々にこんなに近くで顔を見たが、こんなにキラキラとした瞳をしていただろうか?
今までは顔を合わせる度にフランシスカからの嫌がらせに怯えていたから、気付かなかっただけだろうか?
それならば納得だ。なにせこの半年間、『フランシスカ』は一切、コージェにちょっかいを出していないのだから。正確に言えば言葉さえも交わしていない。クラスも学年も同じ。けれどそんなものである。ジャック自身、どこからバレるか分からないと交際相手はもちろんのこと、会話する相手さえ選んでいたのだ。友人であるコージェと話してバレてはたまったものじゃない。
……今まで全く警戒されなかったどころか、ここでまっすぐに『ジャック』目がけて直進し、『ジャック』の肩に両手を置いているところを見るに、それはジャックが心配しすぎなだけだと分かるのだが。
まさか両手でガッシリと掴んでいる相手こそ、コージェが最も苦手としているだろう人物、フランシスカであると露ほども知らずに。教えてやったらきっと飛び上がるほどに驚くだろう。もしくはゆっくりと瞬きをしながら考えた挙句に固まってしまうかもしれない。だがここで教えてやるつもりはない。というよりもおそらく教えたところで信じるはずがないだろう。
なにせコージェの前の『ジャック』は思いっきり顔を顰めているというのに、彼は全くそのことに気付かないのだから。
「いつ帰ってたんだ! いや、どこに行っていたんだの方が先か。いきなりいなくなって……心配したんだぞ!」
気付きもしない癖によく言う。それをこの男は真剣な表情で言ってのけるのだ。いっそこういう時は距離を置くのが男の友情であるとでも思わせておいて欲しかった。
「「はっ」」
ジャックが鼻を鳴らすのと同時に、フランシスカもまた同じく嘲笑った。ふと交わった視線は目の前の男への呆れを含んでいた。
「ジャック?」
「何?」
「いや、何でもない……」
「ならいいか? 私は今、フランシスカに学園内を案内してもらっているんだ」
「フランシスカ、に?」
今までの2人を知っている人物ならば、ジャックはあくまでフランシスカが残していったものの始末やフォローをする役目だと思っているだろう。他人が思っているほど2人の仲は悪くはないのだが、外から見えるジャックへの評価はそんなところだろう。名家の次男坊で、双子の姉の付属品。一人ではパッとしない。婚約者さえもいない。特別仲を深めたところで何かがある訳でもない。それがジャック=シザーという人間だ。だからこそフランシスカがわざわざ自ら案内をしていることが不思議でたまらないのだろう。カタカタとゼンマイ仕掛けの人間のように視線を横に移動させればフランシスカに扮するジャックと視線が合う。今まで全く気付かなかったのだろうか。それではまさしく犬ではないか。ご主人目がけて突っ走るおバカな犬。フランシスカの評価もそんなに間違っていないのかもしれないな。
フランシスカの、天敵の登場にコージェの額には大量の汗が浮き上がる。心なしか口元もガクガクと震えているような?
子どもの頃に植え付けられた恐怖はそう簡単になくなることはないのかもしれない。
こんな姿を目にすると途端に可哀想に思えてならない。見わけもつかない癖に、なんてヘソなんて曲げているどころでない。せめてジャックが『フランシスカ』の間だけでも、優しく、とまではいかずとも何も害をもたらさないようにしてあげよう。そうジャックが決心したその時だった。
「は?」
短い声が隣の『ジャック』から漏れた。
それはまさしくフランシスカの声ではあるが、目の前の『フランシスカ』の口から発せられたものではない。そんなことくらい冷静になればわかること。けれどコージェの身体はわずかな声ですら震えあがってしまう。
「いえ、フランシスカ様です! 俺如きが呼び捨てにしてしまい申し訳ございませんでした!」
そして頭を下げながら、後退していくという高等技術を披露しながら退散してしまった。
これ以上、一方的に話しを続けられてもボロが出る可能性もあった。何よりフランシスカの機嫌が急降下していくことだろう。だから結果的には良かったのだが、今の後退で靴底をすり減らしたコージェのトラウマは以前よりも深く、彼の胸に刻みこまれたことだろう。普段のフランシスカならば、標的が逃げ出したところで追い駆けて行って散弾銃のような罵倒で追加攻撃をするところだが、計画に支障をきたすからか、彼女の足はその場から動きだすことはなかった。
「フランシスカ。一年生が使う教室はここで最後?」
「ええ、そのはずよ」
「そっか。ありがとう」
そう笑いかけるフランシスカの瞳はジャックを通り越し、何かを捕らえている。おそらくジャックの視界の届かないところにいる誰かを。そしてその相手こそがフランシスカのお目当ての『あの女』なのだろう。振り向けば確認できるのだろう。けれどジャックはわざわざ身体を反転させて、確認しておこうとは思わなかった。
だってフランシスカがついていてくれるから。
だからジャックは公爵令嬢に相応しい、余裕のある笑みで目の前の『ジャック』に微笑みを返すだけなのだ。
初めて学園へやって来た弟に学園内を紹介している、と見せかけ『ジャック』を見せつけるために練り歩くことしばらく。誰もが遠巻きにシザー家の双子を見つめる中、ジャック達目がけて駆け寄ってきた人物が一人――。
「コージェ……」
コージェ=フランクトン。
フランシスカ曰く『犬っころ』であり、ジャックの友人でもある。
久々にこんなに近くで顔を見たが、こんなにキラキラとした瞳をしていただろうか?
今までは顔を合わせる度にフランシスカからの嫌がらせに怯えていたから、気付かなかっただけだろうか?
それならば納得だ。なにせこの半年間、『フランシスカ』は一切、コージェにちょっかいを出していないのだから。正確に言えば言葉さえも交わしていない。クラスも学年も同じ。けれどそんなものである。ジャック自身、どこからバレるか分からないと交際相手はもちろんのこと、会話する相手さえ選んでいたのだ。友人であるコージェと話してバレてはたまったものじゃない。
……今まで全く警戒されなかったどころか、ここでまっすぐに『ジャック』目がけて直進し、『ジャック』の肩に両手を置いているところを見るに、それはジャックが心配しすぎなだけだと分かるのだが。
まさか両手でガッシリと掴んでいる相手こそ、コージェが最も苦手としているだろう人物、フランシスカであると露ほども知らずに。教えてやったらきっと飛び上がるほどに驚くだろう。もしくはゆっくりと瞬きをしながら考えた挙句に固まってしまうかもしれない。だがここで教えてやるつもりはない。というよりもおそらく教えたところで信じるはずがないだろう。
なにせコージェの前の『ジャック』は思いっきり顔を顰めているというのに、彼は全くそのことに気付かないのだから。
「いつ帰ってたんだ! いや、どこに行っていたんだの方が先か。いきなりいなくなって……心配したんだぞ!」
気付きもしない癖によく言う。それをこの男は真剣な表情で言ってのけるのだ。いっそこういう時は距離を置くのが男の友情であるとでも思わせておいて欲しかった。
「「はっ」」
ジャックが鼻を鳴らすのと同時に、フランシスカもまた同じく嘲笑った。ふと交わった視線は目の前の男への呆れを含んでいた。
「ジャック?」
「何?」
「いや、何でもない……」
「ならいいか? 私は今、フランシスカに学園内を案内してもらっているんだ」
「フランシスカ、に?」
今までの2人を知っている人物ならば、ジャックはあくまでフランシスカが残していったものの始末やフォローをする役目だと思っているだろう。他人が思っているほど2人の仲は悪くはないのだが、外から見えるジャックへの評価はそんなところだろう。名家の次男坊で、双子の姉の付属品。一人ではパッとしない。婚約者さえもいない。特別仲を深めたところで何かがある訳でもない。それがジャック=シザーという人間だ。だからこそフランシスカがわざわざ自ら案内をしていることが不思議でたまらないのだろう。カタカタとゼンマイ仕掛けの人間のように視線を横に移動させればフランシスカに扮するジャックと視線が合う。今まで全く気付かなかったのだろうか。それではまさしく犬ではないか。ご主人目がけて突っ走るおバカな犬。フランシスカの評価もそんなに間違っていないのかもしれないな。
フランシスカの、天敵の登場にコージェの額には大量の汗が浮き上がる。心なしか口元もガクガクと震えているような?
子どもの頃に植え付けられた恐怖はそう簡単になくなることはないのかもしれない。
こんな姿を目にすると途端に可哀想に思えてならない。見わけもつかない癖に、なんてヘソなんて曲げているどころでない。せめてジャックが『フランシスカ』の間だけでも、優しく、とまではいかずとも何も害をもたらさないようにしてあげよう。そうジャックが決心したその時だった。
「は?」
短い声が隣の『ジャック』から漏れた。
それはまさしくフランシスカの声ではあるが、目の前の『フランシスカ』の口から発せられたものではない。そんなことくらい冷静になればわかること。けれどコージェの身体はわずかな声ですら震えあがってしまう。
「いえ、フランシスカ様です! 俺如きが呼び捨てにしてしまい申し訳ございませんでした!」
そして頭を下げながら、後退していくという高等技術を披露しながら退散してしまった。
これ以上、一方的に話しを続けられてもボロが出る可能性もあった。何よりフランシスカの機嫌が急降下していくことだろう。だから結果的には良かったのだが、今の後退で靴底をすり減らしたコージェのトラウマは以前よりも深く、彼の胸に刻みこまれたことだろう。普段のフランシスカならば、標的が逃げ出したところで追い駆けて行って散弾銃のような罵倒で追加攻撃をするところだが、計画に支障をきたすからか、彼女の足はその場から動きだすことはなかった。
「フランシスカ。一年生が使う教室はここで最後?」
「ええ、そのはずよ」
「そっか。ありがとう」
そう笑いかけるフランシスカの瞳はジャックを通り越し、何かを捕らえている。おそらくジャックの視界の届かないところにいる誰かを。そしてその相手こそがフランシスカのお目当ての『あの女』なのだろう。振り向けば確認できるのだろう。けれどジャックはわざわざ身体を反転させて、確認しておこうとは思わなかった。
だってフランシスカがついていてくれるから。
だからジャックは公爵令嬢に相応しい、余裕のある笑みで目の前の『ジャック』に微笑みを返すだけなのだ。
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