姉の身代わりになりまして

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

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 フランシスカのやらかし? によって『あの女』こと『アイリーン』は見事に『ジャック』を標的に定めたらしい。
  
 それも『フランシスカ』に向けた殺意とは打って変わって恋愛的な意味で。
 フランシスカが謎の謝罪方法をジャックに披露した翌日から、アイリーンは『ジャック』にくっついて回るようになった。
  
「ジャック様、よろしければ私のノートをお貸しいたします」
「ジャック様、タオルを」
「ジャック様、次の授業は教室が移動となります。私でよければ案内させてください」
  
 お前は『ジャック』の使用人かと突っ込みたくなるほど。けれど使用人ならば双子の姉の『フランシスカ』ににらみを利かせてくることもない。キッと親の仇でも見るような目。『ジャック』にはバレていないとでも思っているのだろう。だがそこまで至近距離で何度も繰り返していればバレないはずがない。それも相手はその手のことには目ざといフランシスカなのだ。

 けれどアイリーンだってまさか『愛しのジャック様』が毎日屋敷に帰ってから腹を抱えて笑っているとは想像もしていないだろう。
  
 フランシスカ曰く、ここ数日で断罪に必要な証拠が大量に集まっているらしい。それもアイリーンから手渡しでもらってくるのだそうだ。
 そのあまりの不用心さに、断罪を決行する前日の夜にはフランシスカもいよいよ眉を顰めた。
  
「あの子ってバカなのかしら? 普通、初日に学園案内なんてしていたら設定と関係が違うことくらい気付きそうなものだけど。こんなにアッサリいくんだったら、中立の視点なんてわざわざ用意することなかったわね。まぁ用心にこしたことはないのだけれど」
「それで……明日、やるの?」
「ええ。けれど気負うことはないわ。舞台へ引っ張りだすのも、証拠の提示も、中立者であるフェルナンド様への話を振るのも、そして彼女の罪を傍観者たちに知らしめるのも全部私がやってあげる。あなたはただレッドを連れながらビクビクと震えて、観客に『フランシスカは被害者である』という印象をつけさせてくれればそれでいいわ」
「わかった」

『フランシスカ』は『被害者』でさえあればいい。

 怯えるだけの、セリフすらも用意されていない役目。まるでそこらへんの木と同じ。けれど『フランシスカ』が舞台上にいることこそに意味があるのだと言う。

 良い意味でも悪い意味でもアイリーンという少女はシザー家の双子に興味があるのだから。

「後、くれぐれも王子には気を付けて」
「大丈夫だよ。フランシスカだって知っているでしょう? ここ数日、ウィリアム王子は一度だって私に話しかけてきてはいないんだから」

 ウィリアム王子は『ジャック』が挨拶をしたあの日から、一度だって『フランシスカ』の元に足を運ぶことはなかった。

 それこそ『フランシスカ』の周りの令嬢達も「王子もお忙しいのでしょう」なんてフォローの言葉をかけるほどには。

 ジャックとて、王子に声をかけて欲しいわけではない。むしろ邪魔の入らないお茶会は最高だった。ついついお菓子を食べすぎてしまって、屋敷に帰った後にフランシスカに「太るわよ……」なんて釘を刺されて後悔する日々。解放感と共にウェストのお肉が気になりだすという要らぬリターンが来てしまったものの、『フランシスカ』を演じ始めてから一番快適な生活を送っていると言っても過言ではない。

「……それが逆に怪しいのよね」
「王子は私達が入れ替わっていることは知っているし、だから『ジャック』が学園にやって来たということはフランシスカが帰ってきたことを意味するのも理解してくれていると思う。婚約者であるフランシスカが帰ってきたから、きっと私から興味がなくなったか、諦めるかしてくれたんだよ」
「そう、かしらね?」
「そうだよ。それに……どうせ明日で入れ替わりは終わりなんだ。たった一日。それも大がかりな舞台を『シザー家の双子』が演じた後で何をするって言うの?」
「……それもそうね」
  
 楽観的に考えるジャックとは反対に、フランシスカはまだ何か引っかかっているようだった。

 けれど明日で全てが終わる。
『ジャック=シザー』と『フランシスカ=シザー』の双子は元の状態に戻る。

 入れ違った関係も全て。

「大丈夫だよ、フランシスカ」
 だから大丈夫だと繰り返す。

「そうね」
 フランシスカは小さく笑って、ジャックの頭を撫でた。

「さて、明日の衣装はどうしましょう?」
「衣装って……」
「だって明日でジャックが外にドレスを着ていく生活はひとまず終了でしょう?せっかくの舞台だし、可愛く決めたいじゃない?」

 これはどこから突っ込めば良いのだろうか?
 今後も屋敷でドレスを着ると思われていること?  それとも終了が『ずっと』ではなく、『ひとまず』になっているところ?  はたまたその言葉をしごく真面目な表情で考え込んでいることだろうか。
 けれどどこから突っ込んだところできっと改善されることはないのだろう。ジャックは早々に抵抗を諦めることにした。

「……フランシスカが選んでよ」
 投げやりにそう伝えれば、フランシスカの表情はパァっと花が開いたかのように明るくなった。

「最高のものを選ぶから期待してて!」
『フランシスカ』最終日は一体どんな服装になるのだろうか?
 フランシスカのことだからセンスのある服を用意してくれることだろう。心配すべきは派手過ぎるものを選ばないかということだけだ。
 選ばれたら最後、拒むことはできないのだから。


 翌日ーー昼休みになると『ジャック』は手筈通り、アイリーンを連れ添って教室を後にした。

「ジャック様。私に用事とは一体……」
 ふわふわと髪を揺らしながら、アイリーンは舞台へと上がる。
 その表情はどこか楽しげで、大方『ジャック』からデートに誘われたとでも勘違いしているのだろう。けれど残念ながら彼女が足を向けたこの場所はオシャレな喫茶店ではなく、学生達が最も集まる講堂で。今から『ジャック』の口から流れ出てくるのは愛の言葉ではなく、彼女の罪を暴く言葉。

 アイリーンからは見えていないだろうが、今のフランシスカはとても悪い笑みを浮かべている。同じ顔なのにジャックも少し背筋を震わせてしまうほどの悪人ヅラだ。

 講堂の真ん中あたりまで足を進めた『ジャック』は、すでに役者が揃ったこの場所でクルリと身体を反転させる。

「私の『姉』について、少し……といえばわかるかな?」
 ジャックから見えるのはフランシスカのピシッと伸びた背中だけ。彼女がどんな表情を浮かべているかは予想することしかできない。けれどきっと、先程目に入った顔よりもずっと怖い顔をしているのだろう。なにせ『ジャック』と対峙するアイリーンの顔は凍りついたように固まってしまっているのだから。

 たまたま居合わせた学生は観衆へと変わり、何があったのかと壁を作る。その中には協力者であるフェルナンド様はもちろんのこと、どこから聞きつけてきたのか、アイリーンが交流を深めようとしていたウィリアム王子やコージェの姿もある。

 全てはフランシスカの予定通り。
 ジャックも彼女の指示通り、レッドの隣で身体を縮こませながら見守る態勢を整える。

 舞台は整った。
 さぁ始めようか、シザー家の双子に仇をなす女の断罪を。
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