本好きウサギは巣穴で眠る

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

文字の大きさ
4 / 15

4.

しおりを挟む
どちらを選ぶべきかと悩んでいると、少年はダリュカの背中を後押しする情報を与えてくれる。

「一気に読むならこの本ですが、一つ一つに特化した本はA棚とNE棚にある本がオススメです。そういえば西方の大きなお祭り、一般的に知られているのとは別の日程でもう一つ地元民のみのものがあって」
「その話乗った」
「ありがとうございます。あなたに会えてよかった」
「大げさだろ。早速タイトルと棚をこれに書いてくれ」
「わかりました。ちょっとお借りしますね」

 少年はダリュカからメモを受け取るとサラサラとペンを走らせていく。
 書いてもらったものを頼りに本を集めて、少年の元に帰る。

「あのさ」
「見つからない本がありました?」
「いや、全部あったけど。それよりここじゃ目立つだろうし、奥に入らないか?」
「奥……」
 ダリュカが指差す先にあるのは仮眠場所として解放された司書室である。飲食可能で、ドアも閉められるので隠れ場所としてはちょうどいい。だが少年は先ほどとは打って変わって身体を硬くする。

 本を取りに行った際に感じたが、ここは少々入り組んでいて、階段も多い。蔵書数が多いだけあって棚は多く、高さもまちまちだ。
 どこにどんな本があるか把握している彼がここを隠れ場として選んだ理由がよくわかる。手が届くほどの近距離にいるとはいえ、不意をつけば簡単に逃げられると思ってのことだろう。

 だが個室に入ってドアを閉められればそうはいかない。窓があると言ってもここは3階。近くに飛びうつれそうな木もない。ウサギ獣人ならひょいっと飛べるが、人間の少年には難しいだろう。

 少年の今の状況を考えると素直に頷けないのは分かる。だが、図書館は飲食厳禁。入り口にも書いてあったし、本を持ってうろついていた時に職員から「これから食事をとるようなら奥の部屋を使ってください。それと出来れば王子とする時も……」と声をかけられた。どうやらここで王子が来るのを待つ算段だと思われたらしい。そのようにすると伝えて戻ってきたので、ダリュカが運んできた食事を図書館内で取るのはやめて欲しい。

「個室が嫌なら無理に図書館の中で食事を済ませろとは言わない。だがここはダメだ。ルール違反だし、本が汚れる」
「それも、そう……ですよね」
「とりあえず俺はこの本奥に置いたら食事取りに行ってくるから」
「え、もう?」
「ここもいつまでいられるか分からない以上、早めに約束を果たした方がいいだろ。なるべく持ち運べるようなのとか選んでいつも何かしら奥に置いておくようにするから、好きな時に食うなり持って行くなりしてくれ」
「……はい」
「心配しなくても襲わないし、だれかを呼んだりもしない」

 怯える少年を置いて、ダリュカは食堂へと向かった。
 たくさん並ぶ料理の中からチーズ、ナッツに果実など、しばらく放置していても大丈夫そうなものを中心に選んでトレイに乗せて行く。

 パンはバケットを袋に入れてバッグに入れる。またどこかに長時間潜む者がいることを想定してか、飲み物の隣にいくつか木のボトルが置いてある。ご自由にお使いくださいとの張り紙があるので、遠慮なく三本借りて水を注いだ。一本は自分で飲む用、そして二本は少年用だ。

 足りなくなったら自由に取りに来られるダリュカとは違い、場合によっては図書館から去らねばならない彼には多めに持たせてやらねばと思ったのである。ボトルが空になればそれにナッツやなんかを入れて持ち運ぶことも出来る。袋に入れてもいいが、手元にボトルがあればいざという時にどこかで飲み水も補充できる。持って行かせるに越したことはない。

 小銭入れとして持ってきた小さな袋を持って行かせるのもーー。

「ナッツ、もう少しもらっておくか」
「ダリュカ!」
「お前も食事をしにきたのか」
「ああ、それにしてもいつにも増してすごい量だな」

 キルシュカに言われて手元を見ればナッツ以外のものも増えてしまっていた。まだ一日半あるので余るということはないが、目を丸くされても仕方ないだろう。

「なるべく図書館から出たくないから多めにとってある」
「なるほどな~。俺は昼過ぎに一回食べにきてるが、スープとかも美味いぞ?  取っていかないのか?」

 スープか。余裕があるうちに温かいものを食べさせておくというのも……なんて、考えがよぎったがすぐに打ち消した。過度な世話を焼いてやることもないだろう。

「トレイに乗らないからいい」
「持って行ってやろうか?」
「いや、食べたくなったら後でもらいにくる」
「そっか。んじゃ俺はここで食べて行くからまた後で」
「ああ」

 キルシュカと別れて司書室に向かうと、部屋の端に雑に置かれた布団を発見した。ダリュカが覗いた時には綺麗に畳まれていたはずである。使われたにしてはそれ以外の場所が整ったままなのは不自然すぎる。

 中で待っていたのは彼なりの信頼の証なのだろう。だが隠れるならもっと上手くやらなければ見つかってしまう。今までどうやって逃げてきたのか。指摘したい気持ちをグッと堪え、トレイを置いて席に着く。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛しいアルファが擬態をやめたら。

フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」 「その言い方ヤメロ」  黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。 ◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。 ◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

Ωだったけどイケメンに愛されて幸せです

空兎
BL
男女以外にα、β、Ωの3つの性がある世界で俺はオメガだった。え、マジで?まあなってしまったものは仕方ないし全力でこの性を楽しむぞ!という感じのポジティブビッチのお話。異世界トリップもします。 ※オメガバースの設定をお借りしてます。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

一寸光陰
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

処理中です...