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【番外編】兄視点
おひさまと氷
風斗と良樹の両名が眠りに着いている頃、卓は必死で出口を探していた。
常に弟を気遣っている卓が良樹の隣に居なかった理由――それは彼もまた睡眠薬で眠らされ、そして監禁されていたからである。
手足を拘束していたロープは時間がかかったものの、無事解くことができた。
元よりさほどキツく絞められていた訳ではなく、手を動かし続けていれば緩みは出来、手さえ自由になってしまえば後は簡単だった。
拘束されていたベッドから降りた卓が真っ先に探したのはもちろん弟の良樹である。話合いがどうなったにせよ、意図的に薬を盛られたとなればさっさと帰るのが一番だ。何が目的か分からない今、両親も連れて研究所に帰るのが得策だろう。確か両親揃って身分証明書代わりのパスポートを持っていたはずだ。この現状を説明すると不安にしてしまうかもしれない。だからといって、理由も告げずに連れ出すことも出来ない。だから適当な理由を良樹と考えなければならない。
だがそれも弟の安全を確保してからの行動である。
だが部屋をグルリと見回しても弟の姿はない。念のためにトイレ、風呂場と調べたがやはり同じことだった。だが全く収穫がなかった訳ではない。それで分かったこともあるのだ。
一つは良樹は卓と違う場所にいる、おそらくは彼もまた同じ状況下に置かれているのだろうということ。
そしてもう一つは卓に薬を盛り、監禁・拘束をした相手もこの室内にはいないということだ。
ざっとではあるが確認してみたところ、隠しカメラは見つからなかった。盗聴器はさすがに特殊な器具のないこの状況では探し出すことは不可能だが、そちらはなるべく声と物音をたてなければ済むことだ。実際、卓は起きてからというもの、一言も言葉を発することはなく、物音も最低限しかたてていない。
それこそ彼が弟の捜索に手間取っている理由の一つでもあるのだが、相手がどんな人物であるか分からない以上は仕方のないことだった。
だがこの室内に何も手がかりが見つからないからにはここを脱出する他ない。
見張りが立っているだろうことを考慮して、ドアは避け、代わりにベランダの窓をゆっくりと開けた。
――けれどそれが間違いだった。
「逃げないでください。三上先生」
「神田……」
卓を監禁した人物、神田 海都は彼が窓から逃げ出すだろうことを想定してベランダでずっと待ち続けていたのだ。
卓が取るだろう行動を把握していた海都には監視用のカメラも、盗聴器も仕掛ける必要はなかった。
なぜなら卓の行動を読み間違えたことなどたったの一度しかないのだ。
もう何年も、それこそ彼が自分のクラスの化学担当になる前からずっと、ずっと卓だけを見つめて。
そして一度だけ読み間違えた。
言わずもがな、それは卓が良樹を連れて海外へと飛去ってしまったことである。だがこの数年で海都は学んだ。
卓の行動を予測する時、必ず良樹のことを念頭におかなければならない――と。
数年前だって、卓一人では香りの研究に取りかかることはなかっただろう。そして海外に飛び立つなんて発想も、短期間で浮かぶことはなかったはずだ。
だが海都は卓の弟である良樹を恨むことはない。彼が恨むのは全てを狂わせたオメガ、宇佐美 陸である。
だがその彼すらももう自分たちの前に訪れることはない。何せ彼はあの場をかき乱すだけかき乱した後、風斗が見てくれないと分かると自分だけさっさと番を見つけたからである。
それも20も年上の男だ。自分に見向きもしない運命の番よりも金持ちアルファを選んだという訳だ。賢い選択というか、したたかというか……そんな性格だからこそ、海都は陸を恨みこそすれそれ以上の行動をとることはなかった。そんなことをしても時間と手間の無駄だからだ。
そして大好きなベータを手に入れることにしたのだ。
「海都、です。前はそう呼んでくれたじゃないですか」
「それは……」
海都は卓が好きだった。
兄の友人として出会った彼を一目見た瞬間に恋に落ちた。たまにしか来てくれない卓に思いを募らせ、何度兄に連れてきてくれるように頼んだことか。そして会う度に深みにはまっていく。
男同士、それもアルファとベータだ。
結ばれることが難しいことくらい理解していた。けれど好きなのだ。どうしようもないくらい。
そして気づけば抜け出せなくなっていた。
そのことを海都が自覚したのはお見合いとは名ばかりの、母胎選びに連れて行かれた時のことだった。
会場内はどこを見渡してもオメガばかり。意図的なのだろう、身体から漏れ出す甘い香りに吐き気を覚えた。
権力だけに絡みつくようなそんな香りに。
だが神田家としても彼らの身体しか見ていないのだ。
どれだけ健康で、有用な子どもを産むことが出来るのか。注目するのはそこだけである。だからこそ嫌気が差して、ひっそりと会場を抜け出した。
主役が抜け出しても誰も気づきはしなかった。いや、気づいていた者はいただろう。けれど探しには来なかったのだ。
たった一人、三上 卓を除いては。
差し伸べられたその手はまるで救いの糸のように思えた。
だから卓がどこぞのシンクタンクに就職が決まりかけた時、その席に親戚をねじ込んだのは自分の知らないどこかに行ってしまいそうな彼をつなぎ止めたかったからだ。駄々をこねる子どもと一緒。けれど兄の友人という関係にしか過ぎない卓に駄々なんてこねられる訳もなかった。だから他の方法を試したに過ぎない。
そして一番確実な方法を選んだ。
有能だが後ろ盾のないベータである卓と、卓には劣るが有能なアルファで神田製薬の親族、どちらを選ぶかなんて明白だった。
そして卓が学園の教師になるようにし向けた。
弟である良樹までも同じ学園に来ることまでは読めなかったが。
こうして自分の目の届く場所に卓を置いた海都だったが、特段何かをするつもりはなかった。
学園で再会した卓はどこか変わってしまったようにも思えたが、それでもやはり三上 卓という男で、海都が惚れたその人だった。
だから初めは本当に、ただ近くにいるだけで良かったのだ。
けれど海都は見てしまった。
運命と対峙しながらそれに抗う風斗の姿を。
だが気づいた時には遅かった。
けれどそれはまだやり直せるのだ。
今度こそはもう手を離すつもりなどない。
「私と良樹を監禁してどうするつもりだ、海都」
『私』と突き放したようなその一人称に少しだけ胸が痛くなる。だが彼が怒るのも当然だろう。何せ、海都は風斗と共謀して三上兄弟に薬を盛り、そして監禁したのだから。
愛する人から睨まれてもなお、彼をここから出してやることは出来ない。
ここまでしてまでやりたかったことを果たせていないのが一つ、そして風斗との約束を果たせていないのが一つ。後者はもちろん、卓を良樹の元に行かせないことである。風斗も海都も愛しいベータを逃がすつもりなどないのだ。
だから海都は小さく息を吸って、そして目的を達成するために言葉を紡ぐ。
「好きです、三上先生」
それはずっと卓に伝えたかった言葉だ。
口に出してしまえばそれを言ってしまうのはなんと簡単なことだったのかと拍子抜けしてしまう。アルファだからとか、ベータだからとか、男だからとか、そんなことは関係なかったのだ。
三上 卓という人物が好き。
初めからそれだけで良かったのだ。いつだって頭の中のそろばんを叩いてばかりだった海都が打算抜きにして、とまではいかずともこうしてリスクを十分に孕んだ結論にたどりついたのはつい最近のことだ。
長年の思いを打ち明けた海都は清々しい気持ちで満たされている。夜空に浮かぶ月はまるで自分達を照らしてくれているようだとさえ感じている。
だが卓は違った。
背筋に冷や汗を伝わせて、この状況をどうやって打破しようかと思考を巡らせていた。
考えても見て欲しい。
薬を盛り、監禁した相手はかつての教え子で友人の弟でもある少年――そんな相手が唐突に告白してきたのだ。
何かあると考えない方が異常である。
しかも弟は未だ行方しれずのままだ。自分が彼の気に入らない行動を取ってしまえば良樹の身に何か起きるかもしれない。そのことが恐ろしくてたまらなかった。こんなことなら良樹を家に、いや海外においておけば良かったのだ。そう後悔してももう遅い。自分は弟さえも守れないのか。絶望で目の前は真っ暗に染まっていく。
「それで、その……先生の返事が聞きたいんですけど……」
だからそんな、海都の純粋な言葉さえも意味の分からない言葉でしかなかった。
卓にとって海都はもう、かつての教え子でも友人の弟でもない。何を考えているのかも分からない異世界の住人のようなものだ。
だがよくよく思い返してみれば卓にとってアルファとはそういう存在だった。どう頑張ったところで勝つことは出来ず、理解することさえも出来ない存在だ。
そんな相手に目を付けられたのは不幸以外の何ものでもない。だが卓自身、己の人生はそういうものなのだと、とうに腹はくくっているのだ。
だが弟は、才能あふれる良樹だけは守らなければならない。その使命にも似た感情が卓の口を動かした。
「私も」
たったこれだけで目の前の人物の表情は明るく輝く。その顔を見た卓に訪れる感情は安堵だ。ただただ選択を間違えなかったらしいということに安心していた。そして次の瞬間、卓は絶望の淵へとたたき落とされることとなる。
「やっぱりあの時、卓兄ちゃんをシンクタンクになんてあげないで良かった……。そのお陰で、少し回り道はしちゃったけどこうして思いが通じ合ったんだから」
それは海都にとっての何気ない言葉だった。
彼に悪気などないのだ。あの時と、彼の就職先を奪った時と同じく。だから海都は愛しのベータにナイフを突き立てていることも自覚はしていない。
「愛しているよ、卓兄ちゃん」
そして海都は卓の頬へと手を伸ばす。
海都が触れた頬はおひさまのように温かく、卓に触れた手は氷のように冷たいものだった。
常に弟を気遣っている卓が良樹の隣に居なかった理由――それは彼もまた睡眠薬で眠らされ、そして監禁されていたからである。
手足を拘束していたロープは時間がかかったものの、無事解くことができた。
元よりさほどキツく絞められていた訳ではなく、手を動かし続けていれば緩みは出来、手さえ自由になってしまえば後は簡単だった。
拘束されていたベッドから降りた卓が真っ先に探したのはもちろん弟の良樹である。話合いがどうなったにせよ、意図的に薬を盛られたとなればさっさと帰るのが一番だ。何が目的か分からない今、両親も連れて研究所に帰るのが得策だろう。確か両親揃って身分証明書代わりのパスポートを持っていたはずだ。この現状を説明すると不安にしてしまうかもしれない。だからといって、理由も告げずに連れ出すことも出来ない。だから適当な理由を良樹と考えなければならない。
だがそれも弟の安全を確保してからの行動である。
だが部屋をグルリと見回しても弟の姿はない。念のためにトイレ、風呂場と調べたがやはり同じことだった。だが全く収穫がなかった訳ではない。それで分かったこともあるのだ。
一つは良樹は卓と違う場所にいる、おそらくは彼もまた同じ状況下に置かれているのだろうということ。
そしてもう一つは卓に薬を盛り、監禁・拘束をした相手もこの室内にはいないということだ。
ざっとではあるが確認してみたところ、隠しカメラは見つからなかった。盗聴器はさすがに特殊な器具のないこの状況では探し出すことは不可能だが、そちらはなるべく声と物音をたてなければ済むことだ。実際、卓は起きてからというもの、一言も言葉を発することはなく、物音も最低限しかたてていない。
それこそ彼が弟の捜索に手間取っている理由の一つでもあるのだが、相手がどんな人物であるか分からない以上は仕方のないことだった。
だがこの室内に何も手がかりが見つからないからにはここを脱出する他ない。
見張りが立っているだろうことを考慮して、ドアは避け、代わりにベランダの窓をゆっくりと開けた。
――けれどそれが間違いだった。
「逃げないでください。三上先生」
「神田……」
卓を監禁した人物、神田 海都は彼が窓から逃げ出すだろうことを想定してベランダでずっと待ち続けていたのだ。
卓が取るだろう行動を把握していた海都には監視用のカメラも、盗聴器も仕掛ける必要はなかった。
なぜなら卓の行動を読み間違えたことなどたったの一度しかないのだ。
もう何年も、それこそ彼が自分のクラスの化学担当になる前からずっと、ずっと卓だけを見つめて。
そして一度だけ読み間違えた。
言わずもがな、それは卓が良樹を連れて海外へと飛去ってしまったことである。だがこの数年で海都は学んだ。
卓の行動を予測する時、必ず良樹のことを念頭におかなければならない――と。
数年前だって、卓一人では香りの研究に取りかかることはなかっただろう。そして海外に飛び立つなんて発想も、短期間で浮かぶことはなかったはずだ。
だが海都は卓の弟である良樹を恨むことはない。彼が恨むのは全てを狂わせたオメガ、宇佐美 陸である。
だがその彼すらももう自分たちの前に訪れることはない。何せ彼はあの場をかき乱すだけかき乱した後、風斗が見てくれないと分かると自分だけさっさと番を見つけたからである。
それも20も年上の男だ。自分に見向きもしない運命の番よりも金持ちアルファを選んだという訳だ。賢い選択というか、したたかというか……そんな性格だからこそ、海都は陸を恨みこそすれそれ以上の行動をとることはなかった。そんなことをしても時間と手間の無駄だからだ。
そして大好きなベータを手に入れることにしたのだ。
「海都、です。前はそう呼んでくれたじゃないですか」
「それは……」
海都は卓が好きだった。
兄の友人として出会った彼を一目見た瞬間に恋に落ちた。たまにしか来てくれない卓に思いを募らせ、何度兄に連れてきてくれるように頼んだことか。そして会う度に深みにはまっていく。
男同士、それもアルファとベータだ。
結ばれることが難しいことくらい理解していた。けれど好きなのだ。どうしようもないくらい。
そして気づけば抜け出せなくなっていた。
そのことを海都が自覚したのはお見合いとは名ばかりの、母胎選びに連れて行かれた時のことだった。
会場内はどこを見渡してもオメガばかり。意図的なのだろう、身体から漏れ出す甘い香りに吐き気を覚えた。
権力だけに絡みつくようなそんな香りに。
だが神田家としても彼らの身体しか見ていないのだ。
どれだけ健康で、有用な子どもを産むことが出来るのか。注目するのはそこだけである。だからこそ嫌気が差して、ひっそりと会場を抜け出した。
主役が抜け出しても誰も気づきはしなかった。いや、気づいていた者はいただろう。けれど探しには来なかったのだ。
たった一人、三上 卓を除いては。
差し伸べられたその手はまるで救いの糸のように思えた。
だから卓がどこぞのシンクタンクに就職が決まりかけた時、その席に親戚をねじ込んだのは自分の知らないどこかに行ってしまいそうな彼をつなぎ止めたかったからだ。駄々をこねる子どもと一緒。けれど兄の友人という関係にしか過ぎない卓に駄々なんてこねられる訳もなかった。だから他の方法を試したに過ぎない。
そして一番確実な方法を選んだ。
有能だが後ろ盾のないベータである卓と、卓には劣るが有能なアルファで神田製薬の親族、どちらを選ぶかなんて明白だった。
そして卓が学園の教師になるようにし向けた。
弟である良樹までも同じ学園に来ることまでは読めなかったが。
こうして自分の目の届く場所に卓を置いた海都だったが、特段何かをするつもりはなかった。
学園で再会した卓はどこか変わってしまったようにも思えたが、それでもやはり三上 卓という男で、海都が惚れたその人だった。
だから初めは本当に、ただ近くにいるだけで良かったのだ。
けれど海都は見てしまった。
運命と対峙しながらそれに抗う風斗の姿を。
だが気づいた時には遅かった。
けれどそれはまだやり直せるのだ。
今度こそはもう手を離すつもりなどない。
「私と良樹を監禁してどうするつもりだ、海都」
『私』と突き放したようなその一人称に少しだけ胸が痛くなる。だが彼が怒るのも当然だろう。何せ、海都は風斗と共謀して三上兄弟に薬を盛り、そして監禁したのだから。
愛する人から睨まれてもなお、彼をここから出してやることは出来ない。
ここまでしてまでやりたかったことを果たせていないのが一つ、そして風斗との約束を果たせていないのが一つ。後者はもちろん、卓を良樹の元に行かせないことである。風斗も海都も愛しいベータを逃がすつもりなどないのだ。
だから海都は小さく息を吸って、そして目的を達成するために言葉を紡ぐ。
「好きです、三上先生」
それはずっと卓に伝えたかった言葉だ。
口に出してしまえばそれを言ってしまうのはなんと簡単なことだったのかと拍子抜けしてしまう。アルファだからとか、ベータだからとか、男だからとか、そんなことは関係なかったのだ。
三上 卓という人物が好き。
初めからそれだけで良かったのだ。いつだって頭の中のそろばんを叩いてばかりだった海都が打算抜きにして、とまではいかずともこうしてリスクを十分に孕んだ結論にたどりついたのはつい最近のことだ。
長年の思いを打ち明けた海都は清々しい気持ちで満たされている。夜空に浮かぶ月はまるで自分達を照らしてくれているようだとさえ感じている。
だが卓は違った。
背筋に冷や汗を伝わせて、この状況をどうやって打破しようかと思考を巡らせていた。
考えても見て欲しい。
薬を盛り、監禁した相手はかつての教え子で友人の弟でもある少年――そんな相手が唐突に告白してきたのだ。
何かあると考えない方が異常である。
しかも弟は未だ行方しれずのままだ。自分が彼の気に入らない行動を取ってしまえば良樹の身に何か起きるかもしれない。そのことが恐ろしくてたまらなかった。こんなことなら良樹を家に、いや海外においておけば良かったのだ。そう後悔してももう遅い。自分は弟さえも守れないのか。絶望で目の前は真っ暗に染まっていく。
「それで、その……先生の返事が聞きたいんですけど……」
だからそんな、海都の純粋な言葉さえも意味の分からない言葉でしかなかった。
卓にとって海都はもう、かつての教え子でも友人の弟でもない。何を考えているのかも分からない異世界の住人のようなものだ。
だがよくよく思い返してみれば卓にとってアルファとはそういう存在だった。どう頑張ったところで勝つことは出来ず、理解することさえも出来ない存在だ。
そんな相手に目を付けられたのは不幸以外の何ものでもない。だが卓自身、己の人生はそういうものなのだと、とうに腹はくくっているのだ。
だが弟は、才能あふれる良樹だけは守らなければならない。その使命にも似た感情が卓の口を動かした。
「私も」
たったこれだけで目の前の人物の表情は明るく輝く。その顔を見た卓に訪れる感情は安堵だ。ただただ選択を間違えなかったらしいということに安心していた。そして次の瞬間、卓は絶望の淵へとたたき落とされることとなる。
「やっぱりあの時、卓兄ちゃんをシンクタンクになんてあげないで良かった……。そのお陰で、少し回り道はしちゃったけどこうして思いが通じ合ったんだから」
それは海都にとっての何気ない言葉だった。
彼に悪気などないのだ。あの時と、彼の就職先を奪った時と同じく。だから海都は愛しのベータにナイフを突き立てていることも自覚はしていない。
「愛しているよ、卓兄ちゃん」
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