あやかし担当、検非違使部!

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二章 甘味の恨み

冷蔵庫荒らし

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陽はほとんど沈んで薄暗くなった空の下。
スーパーでカレールーを買ってきた京香は、足早に帰路についていた。
自分を巻き込んだ妖怪に何かされるかもと思うと、慣れた道のりでも薄気味悪く感じる。

(大丈夫、方法はわからないけど検非違使部が守ってくれるはずだから…)

と、真緒の言葉を信用して不気味さを振り払おうとする一方で、頭の片隅では彼との会話は現実だったのだろうかと意識がふらふらしていた。

(…私に妖力を宿した妖怪を捕まえて彼と関わらなくなっても、たぶんしばらく気にしてしまう)

特に口止めはされていないが、京香が「雛さんは妖怪と接点がある」と言いふらしたところで京香自身が変な目で見られるのがオチだろう。言いふらしたいとも思わない。

(そういえば、私の妖力はずっとこのままなの? 妖怪が見えない身体に戻ったとしたら、雛さんの秘密を知ったままでいいの? もしや記憶を消されるんじゃ…)

今考えても答えの出ない疑問が次々と浮かぶうちに、住んでいるマンションに到着する。

京香と兄の響輝が住むのは501号室。
元は父親と三人暮らしだったので、二人で過ごすにはちょっと部屋数が多い。

自室に鞄を置いた彼女は、ルーだけ持ってキッチンに向かう。
明日を見越して多めに作ろうか、サラダもあったほうがいいか…などと、脳内は家事モードに替わった。


——ところが、それらの思考は部屋に入った瞬間吹き飛ばされる。


京香はキッチンの前で立ち尽くした。
なぜなら床が、あらゆる食べ物が放り出されてめちゃくちゃになっていたからだ。

野菜も、飲み物も、調味料も…卵はパックの中でひびが入って、白身が漏れ出ている。
横倒しになった牛乳パックからも白い液が零れていた。酷く散らかって、言葉も出ない有様だ。

(学校から帰った時は、こんなことになっていなかったのに…!)

愕然がくぜんとする京香だが、止まってばかりではいないでそおっと食べ物を踏まないように進み、冷蔵庫を開けた。
中は放り出されなかった食品が少し残っていたけれども、上段から落ちている蜂蜜やバターがあり、乱暴に荒らされた形跡が残っている。

それらを見た京香の頭にはまず、「泥棒」の二文字が浮かんだ。
しかし部屋は五階にあって扉はオートロック、それ以前のマンションのセキュリティも抜けなければならない。
また、冷蔵庫を荒らしていく理由も不明だ。

(兄さんが何か探した…?)

響輝は出張期間中で家に戻って来たとは考えにくい。
だが、泥棒より先にそっちの可能性を追うべきだと思い、京香はすぐに自室に戻って携帯を手に取った。
すると兄からのメールが一通届いている。

きっとこのことについて書いてあると京香は期待して即座に開いた。
けれども、兄の文面は想定もしない内容だった。

『件名 勘違いじゃない?
 俺、プリンは買ってきてないよ~。水月堂の新作食べたいけどね! 自分で買ったのに忘れた?(笑)』
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