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第一章 見習い聖女編
第十話 は?
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二年ぶりの家族との再会に感激しすぎたレーナは、メイドたちが引くほど家族に甘えまくった。
シスター・クレアも、今日だけはノットエレガントなエレーナを許容してくれている。
ちなみにだが、エレーナの名前が変わったことについて父は「エレーナ? 令嬢っぽくていいじゃないか」と特に気にしていない様子だった。
そのとき勢いよくドアが開いた。
「……おいおい、どうなってんだ。すっかり元の平民に戻っちまってるじゃねぇか」
入ってくるなり、聖騎士(見習い)の少年が呆れ顔で言った。
いきなり現れて、これってどうなのだろうか。
二年前、聖女であるエレーナに暴言を吐き、エレーナの義兄スレイン侯爵令息の逆鱗に触れ、コテンパンにやられた少年、グリッセンである。
以降すっかり改心した彼は、エレーナに対する態度も軟化した。
はずだったのだが。
「ようやくそれなりの令嬢になった思ったのに、ガッカリだな」
あなたもね、と喉まででかかった。
聞いての通り、すっかり元の生意気な少年に戻っていた。
剣の腕も上がり、二年前より身長も伸びガタイも良くなった彼は、今では騎士団長と互角に渡り合えるほどになっているそうだ。
しかし、彼の言うこともわからないでもない。
今のエレーナは、ソファーに座る母の胸に顔を埋め、母からずっと撫でられている状態だ。
聖女として、淑女としての威厳も、あったものではない。
あと聖女としての能力を発現できていないことも、ナメられる原因だろう。
ちなみに母だが、彼女は妊娠初期で、つわりも始まっていない。
そのため、馬車での移動に危険はないと判断したようだ。
念の為にと教会の治癒師を同行させてくれた教皇には感謝しかない。
「控えなさい、グリッセン。エレーナ様のご家族の御前なのですよ? ――父上殿、母上殿、彼はエレーナ様の護衛を努めさせているグリッセンです。ご覧の通り、まだまだ半人前ですが……」
グリッセンの不遜な態度に、シスター・クレアが顔を顰めた。
教皇がこの場にいなくてよかった。
もし教皇がこの場にいたらシスター・クレア以上に怒っていたに違いない。
その教皇だが、今は別室で休んでいる。
馬車での移動がたたったのだろう。
少し休めば回復するので心配はいらないそうだ。
「こ、これはこれは、娘がお世話になっています!」
父が立ち上がってぎこちない礼をした。
父は貴族恐怖症である。
子供とはいえ、貴族のグリッセンは恐怖の対象なのだ。
貴族の子供に無礼を働いた平民が殺された、なんてのはよく聞く話だ。
本来、平民が貴族に直接口を開く事自体が無礼に当たる。
腹立たしいが、これがこの世界の現実だ。
父は内心恐ろしくてたまらないはずだ。
なのに、恐怖を押して礼をしてくれた。
娘であるエレーナのために。
少しでもエレーナの心象をよくするために。
その父に向けグリッセンは信じられない言葉を言い放った。
「なんだ? 気安く話しかけるな、平民」
――は?
「す、すみません、すみません!」
父がペコペコと頭を下げる。
三十一になる大人が十二才の少年にだ。
母も恐怖の表情を浮かべ、妹のレンは高級菓子を手に持ったまま泣きそうになっている。
――なんなの、これは? いったい、なにが起こってるの?
「グリッセン! あなた……」
激昂するシスター・クレアをエレーナは手で制した。
――許さない。
ゆっくりと立ち上がり、グリッセンを睨みつける。
「な、なんだよ?」
「謝りなさい」
エレーナがグリッセンに命令するのは、これが初めてだった。
エレーナが主従の主であるにもかかわらず彼に強く出なかったのは、彼に対して負い目があったからだ。
貴族である彼が、平民である自分に仕えるようなことになって申し訳ないと、ずっと思っていた。
間違っていた。
エレーナは下手に出るべきではなかった。
エレーナの間違った対応が、誤った認識が、彼をこのように増長させてしまった。
「父に謝れといっているのが聞こえないの?」
「なんで俺が平民なんかに!」
「そう、わかったわ。グリッセン、あなたはクビよ」
「は? ど、どうしてそうなるんだよ! 俺はわざわざお前の誕生日に……」
「お前? お前ですって? あなた誰に向かって口を聞いているかわかっているの?」
「お、俺はただプレゼントを……」
「必要ないわ。もう二度と顔を見せないでちょうだい。シスター・クレア、今すぐ彼を下がらせなさい」
「かしこまりましたエレーナ様。さぁグリッセン。行くわよ」
シスター・クレアがグリッセンの肩を掴む。
その手を振り払って、グリッセンはポケットから小さな箱を取り出した。
「言われなくても、こっちから出ていってやる!」
箱を床に叩きつけてグリッセンは走り去った。
「待ちなさい、グリッセン!」
シスター・クレアはエレーナと家族たちに礼をすると、グリッセンの後を追った。
残ったエレーナは二人が出ていったドアをずっと見つめていた。
その様子を見たメイドのルイが、静かに部屋を出てドアを締めた。
家族だけになった瞬間、感情が溢れた。
父親に頭を下げ、ボタボタと涙を床へ落とした。
「おっ父、ごめんなさい。オラが聖女としてしっかりしていないばかりに、おっ父やおっ母に怖い思いさせちまっただ……。オラがもっと……もっと……」
それを見た妹のレンがお菓子を持ったまま、つられて泣き出した。
父はエレーナの肩をポンポンと叩きながら言う。
「か、顔を上げなさい、レナ。確かに恐ろしかったが、こんなのは慣れたもんさ。それにあんな恐ろしい貴族様から守ってくれたんだ。謝ってもらうどころか、礼を言いたいくらいだよ。それにしてもレナが貴族様相手にあんな啖呵を切れるなんてな! いやはや立派になったものだ! ははは!」
泣きじゃくる妹を抱きしめながら母も言った。
「そうよ、レナ。おっ母もレナがこんなに立派になって鼻が高いわ。それにしても、この目で見るまでは信じられなかったけど、本当に聖女様になったのね」
「聖女様?」
妹がピタリと泣き止んだ。
「レナお姉ちゃん、聖女様なんだか?」
「そうよ。だから、ほら。こんなきれいなドレスを着て、こんな立派なお屋敷に住んでるのよ」
「そうなんだな! お姉ちゃんは聖女様なんだべな!」
今まで泣いていたのは嘘のように、レンは目をキラキラさせている。
「レンも聖女様になるだ! 聖女様になったらお菓子も食べ放題なんだべな!」
妹の無邪気な言葉を聞いて、涙も引っ込んでしまった。
エレーナと父と母は顔を見合わせる。
さて、どう説明したものか。
シスター・クレアも、今日だけはノットエレガントなエレーナを許容してくれている。
ちなみにだが、エレーナの名前が変わったことについて父は「エレーナ? 令嬢っぽくていいじゃないか」と特に気にしていない様子だった。
そのとき勢いよくドアが開いた。
「……おいおい、どうなってんだ。すっかり元の平民に戻っちまってるじゃねぇか」
入ってくるなり、聖騎士(見習い)の少年が呆れ顔で言った。
いきなり現れて、これってどうなのだろうか。
二年前、聖女であるエレーナに暴言を吐き、エレーナの義兄スレイン侯爵令息の逆鱗に触れ、コテンパンにやられた少年、グリッセンである。
以降すっかり改心した彼は、エレーナに対する態度も軟化した。
はずだったのだが。
「ようやくそれなりの令嬢になった思ったのに、ガッカリだな」
あなたもね、と喉まででかかった。
聞いての通り、すっかり元の生意気な少年に戻っていた。
剣の腕も上がり、二年前より身長も伸びガタイも良くなった彼は、今では騎士団長と互角に渡り合えるほどになっているそうだ。
しかし、彼の言うこともわからないでもない。
今のエレーナは、ソファーに座る母の胸に顔を埋め、母からずっと撫でられている状態だ。
聖女として、淑女としての威厳も、あったものではない。
あと聖女としての能力を発現できていないことも、ナメられる原因だろう。
ちなみに母だが、彼女は妊娠初期で、つわりも始まっていない。
そのため、馬車での移動に危険はないと判断したようだ。
念の為にと教会の治癒師を同行させてくれた教皇には感謝しかない。
「控えなさい、グリッセン。エレーナ様のご家族の御前なのですよ? ――父上殿、母上殿、彼はエレーナ様の護衛を努めさせているグリッセンです。ご覧の通り、まだまだ半人前ですが……」
グリッセンの不遜な態度に、シスター・クレアが顔を顰めた。
教皇がこの場にいなくてよかった。
もし教皇がこの場にいたらシスター・クレア以上に怒っていたに違いない。
その教皇だが、今は別室で休んでいる。
馬車での移動がたたったのだろう。
少し休めば回復するので心配はいらないそうだ。
「こ、これはこれは、娘がお世話になっています!」
父が立ち上がってぎこちない礼をした。
父は貴族恐怖症である。
子供とはいえ、貴族のグリッセンは恐怖の対象なのだ。
貴族の子供に無礼を働いた平民が殺された、なんてのはよく聞く話だ。
本来、平民が貴族に直接口を開く事自体が無礼に当たる。
腹立たしいが、これがこの世界の現実だ。
父は内心恐ろしくてたまらないはずだ。
なのに、恐怖を押して礼をしてくれた。
娘であるエレーナのために。
少しでもエレーナの心象をよくするために。
その父に向けグリッセンは信じられない言葉を言い放った。
「なんだ? 気安く話しかけるな、平民」
――は?
「す、すみません、すみません!」
父がペコペコと頭を下げる。
三十一になる大人が十二才の少年にだ。
母も恐怖の表情を浮かべ、妹のレンは高級菓子を手に持ったまま泣きそうになっている。
――なんなの、これは? いったい、なにが起こってるの?
「グリッセン! あなた……」
激昂するシスター・クレアをエレーナは手で制した。
――許さない。
ゆっくりと立ち上がり、グリッセンを睨みつける。
「な、なんだよ?」
「謝りなさい」
エレーナがグリッセンに命令するのは、これが初めてだった。
エレーナが主従の主であるにもかかわらず彼に強く出なかったのは、彼に対して負い目があったからだ。
貴族である彼が、平民である自分に仕えるようなことになって申し訳ないと、ずっと思っていた。
間違っていた。
エレーナは下手に出るべきではなかった。
エレーナの間違った対応が、誤った認識が、彼をこのように増長させてしまった。
「父に謝れといっているのが聞こえないの?」
「なんで俺が平民なんかに!」
「そう、わかったわ。グリッセン、あなたはクビよ」
「は? ど、どうしてそうなるんだよ! 俺はわざわざお前の誕生日に……」
「お前? お前ですって? あなた誰に向かって口を聞いているかわかっているの?」
「お、俺はただプレゼントを……」
「必要ないわ。もう二度と顔を見せないでちょうだい。シスター・クレア、今すぐ彼を下がらせなさい」
「かしこまりましたエレーナ様。さぁグリッセン。行くわよ」
シスター・クレアがグリッセンの肩を掴む。
その手を振り払って、グリッセンはポケットから小さな箱を取り出した。
「言われなくても、こっちから出ていってやる!」
箱を床に叩きつけてグリッセンは走り去った。
「待ちなさい、グリッセン!」
シスター・クレアはエレーナと家族たちに礼をすると、グリッセンの後を追った。
残ったエレーナは二人が出ていったドアをずっと見つめていた。
その様子を見たメイドのルイが、静かに部屋を出てドアを締めた。
家族だけになった瞬間、感情が溢れた。
父親に頭を下げ、ボタボタと涙を床へ落とした。
「おっ父、ごめんなさい。オラが聖女としてしっかりしていないばかりに、おっ父やおっ母に怖い思いさせちまっただ……。オラがもっと……もっと……」
それを見た妹のレンがお菓子を持ったまま、つられて泣き出した。
父はエレーナの肩をポンポンと叩きながら言う。
「か、顔を上げなさい、レナ。確かに恐ろしかったが、こんなのは慣れたもんさ。それにあんな恐ろしい貴族様から守ってくれたんだ。謝ってもらうどころか、礼を言いたいくらいだよ。それにしてもレナが貴族様相手にあんな啖呵を切れるなんてな! いやはや立派になったものだ! ははは!」
泣きじゃくる妹を抱きしめながら母も言った。
「そうよ、レナ。おっ母もレナがこんなに立派になって鼻が高いわ。それにしても、この目で見るまでは信じられなかったけど、本当に聖女様になったのね」
「聖女様?」
妹がピタリと泣き止んだ。
「レナお姉ちゃん、聖女様なんだか?」
「そうよ。だから、ほら。こんなきれいなドレスを着て、こんな立派なお屋敷に住んでるのよ」
「そうなんだな! お姉ちゃんは聖女様なんだべな!」
今まで泣いていたのは嘘のように、レンは目をキラキラさせている。
「レンも聖女様になるだ! 聖女様になったらお菓子も食べ放題なんだべな!」
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