現実世界にワシらの居場所は無い

伸蔵

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異世界突入編

新たなる旅立ち

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目がさめるとヒロとシンが立っていた。

2人とも10m位先でボーッと突っ立っている様に見える。

記憶が曖昧だが、辺りは薄暗く夜に近い時間の様だ。

何でこんな時間にこんな所で寝ていたのかを考えていると、ヒロがこちらに気付いた様で2人が近づいてきた。

「リョウ。大丈夫か?ワシが分かるか?」

何の事か分からないが、特に異常は感じない。

「ああ、大丈夫じゃ。分かるに決まっとるじゃろ。所でここは何処なん?何があったんかよう思い出せんのんじゃけど、確か俺らは隣町のゲーセンにいっとったんじゃなかったっけ?」

「おお、やっぱりそうなんか。」

ヒロが何故か驚いている様だ。

「やっぱりってどう言う事なん?」

ヒロは黙ってシンを見た。

「多分じゃで。」

「多分じゃけど、ワシら死んだんじゃ無いかと思う。」

???

「死んだ?どう言う事?」

「分からんし、多分の話じゃけど、俺らは今日、隣町の中学潰した後、近くのゲーセン行っとるはずじゃ。これは3人共覚えとる。その後、帰りょうたら襲われたんじゃないかな。多分じゃけど、車かなんかではねられたんじゃないかと思う。体が宙に吹っ飛ばされた記憶はあるんじゃが、気付いたらここにおった。ヒロも似た様な事言うとるし、大体こんな何もない所あの世以外あるまぁ。」

確かに薄暗くて見えなかったが目が慣れてきたせいか、大分遠くまで見渡せるのだが、建物1つ無く、誰1人おらず、明かり1つ点いてない。

「マジか?」

「まぁ、 そうなるよな。でも何でか知らん3人一緒なんじゃ。死んだらバラバラになりそうなもんじゃが、近くで一緒に死ぬとあの世も一緒に行けるんかな?じゃけぇ、心中する奴がおるんかも知れんで?そいつらは何処でその情報を得たんかな?」

「ヒロ君はホンマスゲェな。こんな状況でようそんな事考えられるな?」

ホントヒロにはいつも驚かされる。ただ、同時に尊敬もする。なんとなくヒロの言った通りなのでは無いかと思うくらいだ。

「そうか?でも、ホンマ悪かったなぁ。シンはいずれ誰かに殺されとったじゃろうが、お前まで巻き込んでしもうた。ホンマにスマン。」

どうやら本気で謝っているようだ。ヒロとはそういう奴だ。

「別にええよ。死にたかった訳じゃ無いけど、生きとっても面白いのはヒロ君とシンと一緒におった時だけじゃし、なんか2人がおるけぇ、思っとったより落ち着いとるわ。これからどうなるんかね?これが一生続くんかね?」

「そんな訳あるまあ。大体一生ってなんなん?俺ら多分死んどるんで。一生はもう終わっとる。」

確かに。シンは暴れている時以外はいつも冷静で、的確なつっこみを入れてくる。

「まあ、リョウの言う事も分かる。着とるもん以外全部物が無いけぇ、確かな事は言えんが最初に俺が起きてから少なくても20分は経っとるんじゃないか?ずっとこのままじゃあ、さすがに暇んなるで。」

そう言って突然仰向けに寝転び始めたヒロが何か見つけたようだったので、俺もヒロの視線の先に目を向けた。

「ありゃなんじゃ?」

「知るか。でも今まではなかったんじゃないか?」

確かに。今まではただ暗いだけだったが薄くぼうっとした光の塊が近づいて来ているようだ。
一行の視線に反応するかの様に光体も僅かに輝き始めた。
そのまま、光度が上がっていき、直視出来ないほどまばゆい光に包まれたと思ったら、また再び薄暗いだけ世界に戻ってしまった。

「さっきのは何だったんじゃ?」

ヒロの言葉に俺もシンも首を傾げてみせた。

「わっ!」

「なんじゃ!ビビらせんなや。悪趣味過ぎるで。」

「ごめん。ごめん。でもヒロ君の後ろなんかおらん?」

「マジでか?」

ヒロの後ろには確かに真っ黒いローブをまとった子供サイズの何かがある。
俺は基本怖がりなのでこういうシチュエーションにめっぽう弱い。
ただヒロは真逆だ。

「何なんこれ?今まで無かったよな?」

「ちょいちょい。お前触る気なん?怖いで。俺こういうの苦手なんじゃあ。」

「知っとるわ。じゃけぇワシがやるんじゃろうが。シンやりたい?」

「いや、ええわ。でも俺らもう死んどんじゃけぇ、そんなにビビらんでもええじゃろう。」

いやいや、そんな問題では無いだろうと思ったが口には出さなかった。口に出そうが出すまいが結果は見えていたからだ。ヒロは迷わずローブを取るだろう。シンの背後に回りながら様子を伺う事にした。

「それじゃあいくで。」

ヒロがローブに手をかけた瞬間一気に発光して目が眩み声が聞こえてきた。

「お待たせしました。」

目が慣れてくると声の主が見えてきた。
真っ白い衣服を身にまとった、身長120cm位の少年?少女?の様な子供だ。

「お前誰なん?」

見た目は子供だが声は明らかに成人女性のやばそうなそいつに、いきなり話しかけるなんてなんて神経してんだと思いながらシンの陰からそっと見守る。

「私はあなた達の言うところの神や天使の様な存在です。」

「やっぱりか。やっぱ死んだみたいじゃな?」

そう言ってこちらに笑いかけるがそれどころでは無い。

「そんでどうなるんかね?やっぱりワシは地獄行きかな?ワシが地獄ならシンも地獄じゃろ?リョウはええ奴じゃけぇ、天国でええじゃろ?それを言うたらシンも動物には優しいで、厳しいのは人間だけじゃ。」

警戒して声を出さずに様子を見ているシンと俺とは違いいきなり神を名乗るそれっぽい不思議な奴にフランクに話すヒロはやっぱり凄い。

「あなた方はまだこちらに来るべき時では無かったのです。こちらにも居場所が
無い為、元の世界に戻るか、はたまた全く別の次元の異世界に行くか意思を確認しに来たのです。」

「じゃあ、生き返ろう思うたらできる言う事ですか?」

様子を伺っていたシンが突然口を開いた。

「その意思があれば。」

「シン。死んでもワシらの居場所は無いらしいで。ビビるなぁ。ワシは別の場所に行ってみようと思う。お前らどうするん?」

「ヒロ君正気か?全く別の次元の異世界って何なん?どうなるか分からんで?とりあえず生き返れるならそれでええが。あいつらに復讐しに行かんでええん。シンからも何とか言ってくれぇやあ。」

「俺はヒロと同じ考えじゃ。元の世界に俺の居場所は無い。そのうち捕まるのがオチじゃろう。生まれ変われるんなら願ったりかなったりじゃ。」

「本気か?お前らホンマにイカれとるのう。一旦落ち着いて考えようや。そっから決めても遅くなかろう。即決する場面じゃにゃあわ。」

「リョウ、お前は戻れ。お前のとこはおじさんもおばさんもよう知っとるし、お世話になった。みすみす道連れにせずに済むんじゃ、戻って普通の生活をせぇ。お前なら何にだってなれるわ。シンやワシは戻ったところで居場所がないんじゃ、家族もおらんようになった方が喜ぶ位じゃ。今までありがとな、お前は最高の友達じゃ。元気でやれぇよ。」

「勝手な事言うなや。もうちょい待て。よう考えようで。」

「シン。先に行っとるでぇ、ちなみに行く先は一緒なんかな?」

「その意思があればそのように。」

「じゃあ、一旦お別れじゃ。連れて行ってくれ。」

そう言うと神がヒロの前の空間を歪め始めた。多分きっとそうなのだろう。俺にはそういう風に見えた。

「じゃあな、リョウ。元気でな。」

そう言うと迷わず中に入ってしまった。
まるでどこでもドアの様にヒロの姿形は無くなった。

「シンもホンマに行くんか?」

「そうじゃなぁ。あいつとおると楽しいけぇなぁ。他に居場所なんて無いんよ。リョウ。今までありがとな。お前とも一緒におりたいけど、やっぱり俺は行くわ。」

何を言っても無駄な気がした。
俺は笑って見送る事しか出来なかった。

「お二人の決断は非常に早かったですね。今までも何度も意思の確認をして来ましたが、最速で生き返る決断下した方と同じ速さで異世界行きを決めた方は彼等が初めてです。何も自分を異質に感じる必要は有りませんよ。彼等が異質過ぎたのです。迷って当然。考え抜いて当然なのです。」

俺は考え抜くのを諦めた。正しい答えなど無いのだから。行ってもどうなるか分からないが戻ってもどうなるか分からない。それが人生だからだ。確かに俺はヒロやシンとは違う。普通だし、家族もきっと俺が帰るのを待っている。
でもドキドキが止まらない。
あいつらとの異世界の生活に期待と不安が混ざり合い、俺の気持ちの全てを埋め尽くしている。時間を置けばこの気持ちは落ち着くかも知れない。でも今は、いや、この先だってふとした瞬間に思うはずだ、あの時一緒に行っていたらと。
それに俺抜きではあいつら上手くやって行けっこないのだ。2人ともお互いやりたい様にやってフォローしあうなんて出来ないのだから。

「すいません。俺も連れて行って貰えますか?」
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