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俺と彼女の進む路(みち)
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「三者面談?」
「そう。校内模試の1回目の結果が返ってきた時に担任が変だと感じたみたい。授業中もボーっとする事が増えたし、家庭内で将来についての話をしてくださいって何度も家に訪問してきたりしてさ」
(1回目の模試結果が返ってきてからって……少なくとも2ヶ月前から担任と話し合ってたのか)
「夏実の奴……そんな事一言も」
下を向いて呟く俺に晴美さんは
「湊人くんに負担かけたくなかったんでしょ。仕事忙しいし、通勤だって往復2時間苦痛を強いられてるのに」
と、呟きにまで言葉を被せてくる。
「通勤の苦痛なんて世の中大勢いますよ。片道2時間近くかける会社員もザラですし」
「なっちゃんは湊人くんの身体を心配してるんでしょ。なるべく湊人くんと一緒に居たいのよあの子は」
「そんなの心配しないでいいのに……」
俺の体質なんて、本当にどうでもいい。マスクは予防の為にしてるようなもんだし、内勤業務で体力使う仕事内容じゃないし。
「7年前に湊人くんが倒れたのがトラウマなんじゃない? その後も色々あったんだし」
「…………」
(そんなのもう、7年も前の話じゃないか。
俺的にそんなの……夏実が黙っていた理由の内に入らない)
「担任が家に訪問するようになってなっちゃんとも話し合いを何度もしたんだけど、最初のうちは私達にも喋ってくれなかったのよ『取り敢えずテストの点数を下げなきゃいいんでしょ』って言うだけで」
晴美さんの目線が一瞬廊下の方を向き、また俺の顔へと戻す。
「ほら……親としてはさ、色々想像しちゃうじゃない。学校生活がうまくいってないのかとか」
「それって! 夏実がイジメに遭ってるって意味……」
「———を、親なら想像しちゃうよねって話。実際はそうじゃなくて、普通に高校生活を楽しんでるみたいだけど」
「なんだ……そっか……」
2年まで問題なかったのに急に3年に上がって……という事だったから俺も晴美さんの話でまさかと思ったけど、どうやら取り越し苦労だったみたいで安堵する。
「なっちゃんが本当の理由を言ったのはね、今月に入ってからなの。だから、私も担任もなっちゃんの気持ちを知ったのはつい最近な訳……これがどういう意味を表すか、湊人くん分かる?」
「えっ?」
急に『俺に分かるか』と聞かれても、何と返答すればいいのか分からない。
「担任はなっちゃんが、お付き合いしている男性か誰かと『よからぬ関係』になって『ただならぬ状況』になってるんじゃないかって、別方向の予想を立ててたみたい」
「よからぬ関係に、ただならぬ状況って……!」
わざと晴美さんが曖昧な言語表現をしてきたので、俺の顔は熱くなった。
(それって担任が、夏実の妊娠を疑ったって意味じゃないか!)
「違う!! 絶対違いますから! だって俺らその時まだ!!」
ガタッ
思わず立ち上がって身を乗り出す俺に晴美さんは所謂ジト目で
「担任には『あり得ない』って私からも言いました……って、うっかり『その時まだ』とか言わないでくれる? 『今はもう』って言ってるみたいで生々しくて、母親として気持ち悪いんだけど」
ピシャリと言い返されてしまった。
「すみ……ませんでした」
静かに座り直すしかなかったけど、うっかり「もう夏実と経験しました」の意味合いとなる言葉をポロっと出してしまった自分が恥ずかしい。この週末誕生日デートと銘打って夏実と2泊3日のホテルデートを許可して貰ったんだ。事実上俺と夏実が本来の意味での男女の関係を結べたと察してくれていても、晴美さんはあくまで未成年の娘を持つ母なのだからやはり俺の口から「もう致しました」とは聞きたくないのだ。
「湊人くんには18年前から色々してもらってるし、自分の子ども達以上にかなり厳しい事言ってきたし、夏実の家庭教師の事だってバイト代出す訳でもなく食事食べさせるくらいの事しかしなかったから申し訳なかったし逆に凄く有り難いって私も思ってる。だから私も今から言う事には感情的になりたくないんだけど……」
「はい」
晴美さんの「感情的になりたくないんだけど」で、今まで穏やかに会話が進んだ試しはない。
(ああ……こういう時に酔った和明さんが居てくれれば感情的に怒り出した晴美さんをひたすら宥めてくれるのに……)
和明さんが眠ってしまっているのなら仕方ないし、さっき晴美さんが俺へ投げかけた「俺に分かるか?」の質問からして、晴美さんの湧き上がる感情を俺がしっかり受け止めないといけないのだろうというのが予想された。
「そう。校内模試の1回目の結果が返ってきた時に担任が変だと感じたみたい。授業中もボーっとする事が増えたし、家庭内で将来についての話をしてくださいって何度も家に訪問してきたりしてさ」
(1回目の模試結果が返ってきてからって……少なくとも2ヶ月前から担任と話し合ってたのか)
「夏実の奴……そんな事一言も」
下を向いて呟く俺に晴美さんは
「湊人くんに負担かけたくなかったんでしょ。仕事忙しいし、通勤だって往復2時間苦痛を強いられてるのに」
と、呟きにまで言葉を被せてくる。
「通勤の苦痛なんて世の中大勢いますよ。片道2時間近くかける会社員もザラですし」
「なっちゃんは湊人くんの身体を心配してるんでしょ。なるべく湊人くんと一緒に居たいのよあの子は」
「そんなの心配しないでいいのに……」
俺の体質なんて、本当にどうでもいい。マスクは予防の為にしてるようなもんだし、内勤業務で体力使う仕事内容じゃないし。
「7年前に湊人くんが倒れたのがトラウマなんじゃない? その後も色々あったんだし」
「…………」
(そんなのもう、7年も前の話じゃないか。
俺的にそんなの……夏実が黙っていた理由の内に入らない)
「担任が家に訪問するようになってなっちゃんとも話し合いを何度もしたんだけど、最初のうちは私達にも喋ってくれなかったのよ『取り敢えずテストの点数を下げなきゃいいんでしょ』って言うだけで」
晴美さんの目線が一瞬廊下の方を向き、また俺の顔へと戻す。
「ほら……親としてはさ、色々想像しちゃうじゃない。学校生活がうまくいってないのかとか」
「それって! 夏実がイジメに遭ってるって意味……」
「———を、親なら想像しちゃうよねって話。実際はそうじゃなくて、普通に高校生活を楽しんでるみたいだけど」
「なんだ……そっか……」
2年まで問題なかったのに急に3年に上がって……という事だったから俺も晴美さんの話でまさかと思ったけど、どうやら取り越し苦労だったみたいで安堵する。
「なっちゃんが本当の理由を言ったのはね、今月に入ってからなの。だから、私も担任もなっちゃんの気持ちを知ったのはつい最近な訳……これがどういう意味を表すか、湊人くん分かる?」
「えっ?」
急に『俺に分かるか』と聞かれても、何と返答すればいいのか分からない。
「担任はなっちゃんが、お付き合いしている男性か誰かと『よからぬ関係』になって『ただならぬ状況』になってるんじゃないかって、別方向の予想を立ててたみたい」
「よからぬ関係に、ただならぬ状況って……!」
わざと晴美さんが曖昧な言語表現をしてきたので、俺の顔は熱くなった。
(それって担任が、夏実の妊娠を疑ったって意味じゃないか!)
「違う!! 絶対違いますから! だって俺らその時まだ!!」
ガタッ
思わず立ち上がって身を乗り出す俺に晴美さんは所謂ジト目で
「担任には『あり得ない』って私からも言いました……って、うっかり『その時まだ』とか言わないでくれる? 『今はもう』って言ってるみたいで生々しくて、母親として気持ち悪いんだけど」
ピシャリと言い返されてしまった。
「すみ……ませんでした」
静かに座り直すしかなかったけど、うっかり「もう夏実と経験しました」の意味合いとなる言葉をポロっと出してしまった自分が恥ずかしい。この週末誕生日デートと銘打って夏実と2泊3日のホテルデートを許可して貰ったんだ。事実上俺と夏実が本来の意味での男女の関係を結べたと察してくれていても、晴美さんはあくまで未成年の娘を持つ母なのだからやはり俺の口から「もう致しました」とは聞きたくないのだ。
「湊人くんには18年前から色々してもらってるし、自分の子ども達以上にかなり厳しい事言ってきたし、夏実の家庭教師の事だってバイト代出す訳でもなく食事食べさせるくらいの事しかしなかったから申し訳なかったし逆に凄く有り難いって私も思ってる。だから私も今から言う事には感情的になりたくないんだけど……」
「はい」
晴美さんの「感情的になりたくないんだけど」で、今まで穏やかに会話が進んだ試しはない。
(ああ……こういう時に酔った和明さんが居てくれれば感情的に怒り出した晴美さんをひたすら宥めてくれるのに……)
和明さんが眠ってしまっているのなら仕方ないし、さっき晴美さんが俺へ投げかけた「俺に分かるか?」の質問からして、晴美さんの湧き上がる感情を俺がしっかり受け止めないといけないのだろうというのが予想された。
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