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本編
170㎝のチャラ男2
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*
「あら、亮輔くんも揃って。珍しいわね」
午前9時。
夕紀はいつもと同じように軽自動車を駐め、勝手口から店の中に入ると、店内清掃を行っている朝香と亮輔の存在に驚く。
「おはようございますお姉さん、今日は授業が2限からだし昨日の清さんの事とかで気になっちゃって来ちゃいました!」
「だからって掃除なんてしなくていいのに」
本来なら従業員ではない亮輔にこのような事はさせたくない。たとえ手伝いであってもタダ働きになるし、亮輔が善意で作ってくれるオーナメントを持って来てくれた際も必ず御礼のお代を支払っている。
「確かに昨日は清さんが倒れたって件で商店街はバタバタしたし『タカパン』さんは大変だろうけど、うちまでそれの影響が及んでるって訳でもないんだから心配しなくていいのよ」
申し訳ない気持ちになりながら、夕紀は亮輔の手から掃除用具を奪い、カウンターに亮輔を座らせ残りの清掃をササッと終わらせる。
「でも……」
余計な気遣いなど要らないといった態度を示す夕紀に対し、亮輔は不満気だ。
「あの……りょーくんは夕紀さんの事が心配なんですよ。『タカパン』の次男さんの話を少しだけ聞いてしまったので」
朝香は夕紀よりも先にカウンターキッチンの中に入り、マッシュポテトの準備に取り掛かっている。
ちなみに朝香の言う「りょーくん」とは亮輔のニックネームであり2人の仲の良さが窺える。
「タカパンの次男さんって……ああ昨日集会所に来た茶髪パーマの男性のことでしょ? 彼は……」
仕方なしに夕紀は亮輔と朝香の為にコーヒーを淹れ、亮輔の心配材料を取り除いてやろうと口を開いた……そのタイミングで
「昔はとんでもないクソガキで、高校生くらいから超がつくほどの女好きでかなりの恋愛体質男って、ユタカさんから聞いたんですよ! そんな男が7年ぶりに商店街に顔を出したからみんなビックリしたって!!!!」
亮輔がカウンターテーブルをドンッと拳で叩いて感情を昂らせる。
「えっ……?」
「っ……!!」
彼の言動に夕紀も朝香もビクッと肩を震わせ、彼に視線を向けた。
「いや……俺が知ったのは本当にたまたまだったんです。ユタカさんは清さんと仲が良いから倒れたって話にユタカさんが一番に慌てたらしくて」
亮輔の言う「ユタカ」とは、この商店街の真反対……大きな車道沿いにある美容室『V.D.R』の美容師で、清と飲み仲間である事も夕紀は把握していた。
「……で、俺。大好きなあーちゃんだけでなくお姉さんが嫌な思いしないようにって、ユタカさんに次男さんがどんな人か聞いてみたんです。そしたら女好きだとか恋愛体質男とか聞いちゃったから心配になっちゃって。商店街の人達みんな良い人って分かってるけど、そんな人達が昨日まで次男さんの話題を一度も俺にしてこなかったのも不思議っていうか不気味っていうか」
上原亮輔は現在21歳で大学2年生であるが、『雨上がり珈琲店』が開業する前からこの地域に住んでいた。
朝香と知り合う前は金髪な上にピアスをジャラジャラと付け近寄りがたい外見をしていた彼だが、1年前から黒髪マッシュショートにイメージチェンジして爽やかな雰囲気を纏うようになった為に商店街メンバーからは朝香以上に可愛がられている。そんな彼が今まで商店街の店主どころか常連客からも「パン屋に弟が居た」なんて話を一切聞いてこなかったというのに、昨日フッと沸いて現れたものだからかなり異質に感じたのだろう。眉間にシワを寄せ、まるで危険人物であるかのような警戒心を見せていた。
「私、ここに来る前に言ったんですよ。『タカパン』の貴文さんはとっても真面目で優しい方なんだから弟さんが危険な人な訳がないって。なのにりょーくんったら私が寝てる間に、ユタカさんに弟さんの過去を根掘り葉掘り聞いたみたいで……朝起きたらりょーくん機嫌悪くて『俺がお姉さんを守るんだ』とか言い出しちゃってここまでついてきちゃったんですよぉ」
朝香は肩を落とし、彼氏の行動にウンザリした声をあげていたが
「お姉さんだけじゃなくてあーちゃんも守りたいの! 危険人物がお姉さんに近付くのも嫌だしあーちゃんにチャラい態度取られるのも嫌だ!! だから俺っ、授業が2限からの日はこうしてあーちゃんを送ってお姉さんの顔を見てから大学行くって決めたんです! 勿論閉店時間|にもここへ来ます! 営業終わりに2人が無事かを確認しないと落ち着かないのでっ!!」
先ほど乱暴に叩いてしまったカウンターテーブルをスリスリと手のひらで撫でつつ、語気を強めて謎の宣言を亮輔はしている。
「そんな……亮輔くんのプライベート時間を削るような真似しなくていいのに」
夕紀にとって朝香は大切な存在だ。師匠である村川裕美の一人娘であるし、この店にとってなくてはならない戦力でもある。だから亮輔が主張する「チャラい男を近付けさせたくない」には同意なのだが、自分にまで彼の守備範囲を拡げる必要はないと思っているし、今更タカパンの弟とどうにかなる筈がないと思っているのだ。
(どうせ……あの時だって)
7年前にどうにかなった事は、確かにある。
(……7年も前だし)
———「記念のようなもの、だから……重く捉えないで」———
———「悪い女なら、このくらいは許してくれるよね」———
7年前のあの日……初めて入ったラブホテルで、穂高純仁は夕紀の耳に囁いた。
(好きでああなったわけじゃないし、今だって……)
夕紀は確かにあの時棄てたのだ。
だから今更気持ちが再燃する筈がないし、どんな危険人物が近づいてこようとも毅然とした態度であしらえる自信があった。
壊れたものは元に戻らないのだ……皐月から貰ったピアスが壊れ使い物にならなくなったのと同じように。
「あら、亮輔くんも揃って。珍しいわね」
午前9時。
夕紀はいつもと同じように軽自動車を駐め、勝手口から店の中に入ると、店内清掃を行っている朝香と亮輔の存在に驚く。
「おはようございますお姉さん、今日は授業が2限からだし昨日の清さんの事とかで気になっちゃって来ちゃいました!」
「だからって掃除なんてしなくていいのに」
本来なら従業員ではない亮輔にこのような事はさせたくない。たとえ手伝いであってもタダ働きになるし、亮輔が善意で作ってくれるオーナメントを持って来てくれた際も必ず御礼のお代を支払っている。
「確かに昨日は清さんが倒れたって件で商店街はバタバタしたし『タカパン』さんは大変だろうけど、うちまでそれの影響が及んでるって訳でもないんだから心配しなくていいのよ」
申し訳ない気持ちになりながら、夕紀は亮輔の手から掃除用具を奪い、カウンターに亮輔を座らせ残りの清掃をササッと終わらせる。
「でも……」
余計な気遣いなど要らないといった態度を示す夕紀に対し、亮輔は不満気だ。
「あの……りょーくんは夕紀さんの事が心配なんですよ。『タカパン』の次男さんの話を少しだけ聞いてしまったので」
朝香は夕紀よりも先にカウンターキッチンの中に入り、マッシュポテトの準備に取り掛かっている。
ちなみに朝香の言う「りょーくん」とは亮輔のニックネームであり2人の仲の良さが窺える。
「タカパンの次男さんって……ああ昨日集会所に来た茶髪パーマの男性のことでしょ? 彼は……」
仕方なしに夕紀は亮輔と朝香の為にコーヒーを淹れ、亮輔の心配材料を取り除いてやろうと口を開いた……そのタイミングで
「昔はとんでもないクソガキで、高校生くらいから超がつくほどの女好きでかなりの恋愛体質男って、ユタカさんから聞いたんですよ! そんな男が7年ぶりに商店街に顔を出したからみんなビックリしたって!!!!」
亮輔がカウンターテーブルをドンッと拳で叩いて感情を昂らせる。
「えっ……?」
「っ……!!」
彼の言動に夕紀も朝香もビクッと肩を震わせ、彼に視線を向けた。
「いや……俺が知ったのは本当にたまたまだったんです。ユタカさんは清さんと仲が良いから倒れたって話にユタカさんが一番に慌てたらしくて」
亮輔の言う「ユタカ」とは、この商店街の真反対……大きな車道沿いにある美容室『V.D.R』の美容師で、清と飲み仲間である事も夕紀は把握していた。
「……で、俺。大好きなあーちゃんだけでなくお姉さんが嫌な思いしないようにって、ユタカさんに次男さんがどんな人か聞いてみたんです。そしたら女好きだとか恋愛体質男とか聞いちゃったから心配になっちゃって。商店街の人達みんな良い人って分かってるけど、そんな人達が昨日まで次男さんの話題を一度も俺にしてこなかったのも不思議っていうか不気味っていうか」
上原亮輔は現在21歳で大学2年生であるが、『雨上がり珈琲店』が開業する前からこの地域に住んでいた。
朝香と知り合う前は金髪な上にピアスをジャラジャラと付け近寄りがたい外見をしていた彼だが、1年前から黒髪マッシュショートにイメージチェンジして爽やかな雰囲気を纏うようになった為に商店街メンバーからは朝香以上に可愛がられている。そんな彼が今まで商店街の店主どころか常連客からも「パン屋に弟が居た」なんて話を一切聞いてこなかったというのに、昨日フッと沸いて現れたものだからかなり異質に感じたのだろう。眉間にシワを寄せ、まるで危険人物であるかのような警戒心を見せていた。
「私、ここに来る前に言ったんですよ。『タカパン』の貴文さんはとっても真面目で優しい方なんだから弟さんが危険な人な訳がないって。なのにりょーくんったら私が寝てる間に、ユタカさんに弟さんの過去を根掘り葉掘り聞いたみたいで……朝起きたらりょーくん機嫌悪くて『俺がお姉さんを守るんだ』とか言い出しちゃってここまでついてきちゃったんですよぉ」
朝香は肩を落とし、彼氏の行動にウンザリした声をあげていたが
「お姉さんだけじゃなくてあーちゃんも守りたいの! 危険人物がお姉さんに近付くのも嫌だしあーちゃんにチャラい態度取られるのも嫌だ!! だから俺っ、授業が2限からの日はこうしてあーちゃんを送ってお姉さんの顔を見てから大学行くって決めたんです! 勿論閉店時間|にもここへ来ます! 営業終わりに2人が無事かを確認しないと落ち着かないのでっ!!」
先ほど乱暴に叩いてしまったカウンターテーブルをスリスリと手のひらで撫でつつ、語気を強めて謎の宣言を亮輔はしている。
「そんな……亮輔くんのプライベート時間を削るような真似しなくていいのに」
夕紀にとって朝香は大切な存在だ。師匠である村川裕美の一人娘であるし、この店にとってなくてはならない戦力でもある。だから亮輔が主張する「チャラい男を近付けさせたくない」には同意なのだが、自分にまで彼の守備範囲を拡げる必要はないと思っているし、今更タカパンの弟とどうにかなる筈がないと思っているのだ。
(どうせ……あの時だって)
7年前にどうにかなった事は、確かにある。
(……7年も前だし)
———「記念のようなもの、だから……重く捉えないで」———
———「悪い女なら、このくらいは許してくれるよね」———
7年前のあの日……初めて入ったラブホテルで、穂高純仁は夕紀の耳に囁いた。
(好きでああなったわけじゃないし、今だって……)
夕紀は確かにあの時棄てたのだ。
だから今更気持ちが再燃する筈がないし、どんな危険人物が近づいてこようとも毅然とした態度であしらえる自信があった。
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