この花言葉を君に

silverchaff

文字の大きさ
10 / 29
本編

170㎝のチャラ男1

しおりを挟む



 今日も夕紀の脳内では、黄緑色の雨が降っていた。



 妹の皐月が亡くなり、葬儀を終えた日の夜からずっと……今でも。

 一晩で幾つか見る夢の最後に、必ずと言っていいほどを見ているのだ。





「6時45分……」

 そして今朝も夕紀はアラームが鳴る前に目を覚まし、パジャマ姿のまま洗面台へと向かう。



「あ……」

 鏡の前に立った直後、穂高純仁とのメッセージやり取り前にメンテナンスした筈のピアスの飾りが金属軸から外れている。

「やっぱり、ダメだったかぁ」

 散らばったピンク色の小さなハートに視線を落とし、大きな溜め息をつく。

「ここのところ毎日外れてはくっつけてを繰り返してたからなぁ……昨日まではなんとか持ってくれてたけど、もう限界だったのかも」

 逆に言えば今までよく持ってくれた方だ。
 『雨上がり珈琲店』を開業して以来、毎日ずっとこのピアスを身に付けて仕事をしていた。雨の日も晴れの日も……雪や暑さが続く日だって夕紀の耳たぶを細やかに彩っていた大事な宝物の一つであった。

「昨日までの5年ずっと……私を守ってくれてた。働きすぎてた」

 自分にそう言い聞かせても、肩は落ちてしまう。

「…………一応、報告しないとね」

 もう一度溜め息をついた夕紀は仕方ないという気持ちを持ったまま身支度を済ませると、壊れたピアスを玄関から一番近い洋室へ運んだ。




皐月さつき、おはよう」

 私服に着替えてメイクは出掛け前にルージュを一塗りすれば完了。
 その状態で夕紀は陶器製の豆皿に先程の壊れたピアスを乗せ、ミニ仏壇の前にコトッと置いた。

「騙し騙し使っていたんだけど、結局壊れちゃった……物を大事に出来ないお姉ちゃんでごめんね」

 手を合わせながら夕紀はそのように声を掛け、長方形の小さな枠にめられた21に謝り苦笑いしてみせる。

 物はいつか壊れる……きっと皐月いもうとだってそれを理解しているだろうし夕紀に罰を与える事などしないだろう。

「最後の……皐月からのプレゼントだったのに」

 けれども、やっぱり「壊してしまった」という後悔は残るし無意識のうちに罪を感じてしまう。
 亡き者は遺る者に新たな言葉を告げない……その手段がないので夕紀には物理的に伝わらない。しかしそれは皐月がこの件について全く怒りを持たず目の前の写真のようにニコニコと微笑みを浮かべ続けている証明にはならない。

「また、あなたを大事に出来なかったわ。悪いお姉ちゃんで、本当にごめんなさい」

 夕紀はしばらくその場で、バラバラに離れてしまったガラス製のピンク色の小さなハートと金属製のピアス軸を見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

【完結】シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。  彼女の身に何があったのか・・・。  *ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。  後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。

愚かな恋

はるきりょう
恋愛
そして、呪文のように繰り返すのだ。「里美。好きなんだ」と。 私の顔を見て、私のではない名前を呼ぶ。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

処理中です...