15 / 29
本編
170㎝のチャラ男6
しおりを挟む
俯く夕紀の表情から、健人は「知らなかったとはいえ罪悪感を感じている」と読み取ったようだ。
「遠野は知らなかったから仕方がないし、茶髪天然パーマが地毛ってのを正直に話さなかったジュンくんも良くなかったんだと思う。内緒にするような話でもないのに敢えて黙っていたのって、相当な理由がある筈だし……えっと、ジュンくんが黒くしてたのっていつだったかなぁ『はらだ理髪店』が関わっていたような記憶があるんだけど」
健人はそのようにフォローし、幼馴染が黒髪ベリーショートだったのが何年前だったのか記憶を手繰り寄せる。
「えっ? 耕太郎さんが関わってるの? ヘアカラーって理髪店もするんだっけ?」
理容室に馴染みのない夕紀にとって、ヘアカラーはセルフか美容室で行うものという固定観念がある。
(白髪染めくらいならやってるのかもしれないけど……)
よって、若年者が『はらだ理髪店』で髪染めをするというイメージが結び付かない。
「いや……ジュンくん肌が弱いから市販のヘアカラー使ったら頭皮が大荒れしたんだよ。だから染めたんじゃなくて……」
自力で思い出すのは無理だと思ったらしい健人はスマホを取り出して画像フォルダを開き12年以上前に撮影した写真がないか探し始めた。
しばらくすると「あった!」という声を上げ、画面を夕紀の方へ向ける。
「やっぱりそうだ! 耕太郎さん、ジュンくんの為にカツラ作ったんだよ。13年前だからジュンくんが就活してる頃じゃないかなぁ」
そこには少しだけ若返りしている耕太郎と、見覚えのある黒髪ベリーショート頭となった純仁の姿があった。
(本当だ……瞳が明るい茶色)
改めて画像を確認すると、黒髪と対比して瞳の色が非常に明るく見えた。
(でも……こんなに明るい目をしていたかしら)
黒髪が耕太郎の取り寄せた特注ウィッグだったという事実が判明したが、そうなると「目はここまで明るかっただろうか」と更なる謎が生まれる。画像でもこれだけ明るく見えるのであればかなり目立つ筈だ。
「カラコン……?」
ふと呟いた夕紀に、健人は手をパンと叩いて
「そうだそうだ思い出した!! 就職面接で髪と目の事を散々言われたからカツラ用意したんだけど、目の色が余計に目立つからって清さんが急いでユタカさんを呼びに行ってカラコン買いに行ったんだった。
『ジュン坊が圧迫面接に打ち勝って就職出来るように』って、普段仲が悪い耕太郎さんとユタカさんがジュンくんの為に協力した瞬間でさ。商店街のど真ん中で盛り上がったんだよ」
と、興奮しながら当時の出来事を語ってくれた。
「圧迫面接……そうね、当時はそういうのまだ当たり前に行っていたのよね」
夕紀が事務員として入社した際は面接を介さなかったので実体験ではないが、当時の風潮は今でも覚えている。
(あの会社が圧迫面接をしていたのかどうかまでは知らないけど、穂高くんが面接で苦労していたのは間違いないようね)
高圧的な面接官が存在しなくとも、就職活動は非常に苦労するものだ。純仁がその中で辛酸を舐めるような思いを数多くしてきたのは想像に難くない。
「流石にジュンくんだって『入社したからこっちのもの』って軽い気持ちで黒髪をやめた訳じゃないと思うんだ。確かにいつのまにかやめてて耕太郎さんが『せっかく貯めたバイト代で買ったのにもったいない』とは言ってたけど」
「……確かに」
健人の話からして、ウィッグとコンタクト代は純仁が自力で稼いで得た金で購入したのだろう。また、髪と目の色で採用されにくい状況であったのなら尚更「入社1ヶ月ほどで黒髪やめるのはもったいない」と耕太郎は感じたのかもしれない。
「理由がないと行動を取らない……そういう部分があるんだよジュンくんは。遠野が思っている程『チャラ男キャラ』じゃない。すっごく良い面をいっぱい持ってて頼りになるところもあるし。俺にとっては『キヨパン』の貴くんもジュンくんも大事な幼馴染のお兄ちゃんなんだよ」
「……」
つい黙りこんでしまった夕紀に、健人は優しい言葉を掛け続ける。
「俺はジュンくんをガキの頃から見てきてるけど、会社での振る舞いは良く知らない。遠野は俺と真逆の立場だろ? 俺が知らないジュンくんのチャラい面を遠野は見てきた。だからそれだけ俺に簡単に悪口言えちゃうんだよ」
優しい言葉ではあるけれど、叱られているような気分になった夕紀は
「それは……ごめんなさい」
と、素直にペコリと頭を下げた。
「まぁ、そんな頭を下げてまで謝らなくても良いと思うんだけど。記憶や印象の相違はよくある事だから」
健人はニッコリと微笑みカウンター席を降り、『タカパン』の方向を向いて話を続ける。
「俺はね、今も昔もジュンくんが遠野が思っているようなチャラ男じゃないって思ってる。ユタカさんの意見だけで判断してほしくないんだよ。とっても一途な部分もあるから仕事だって真面目に頑張ってるんだろうなって思う。じゃないと入社して以来ずっと同じ会社で営業やってないだろ? まっすぐなのがジュンくんの一番良いところだってずーっと前から感じているからさ」
チャラ男だと思っていた純仁について語る健人の目はキラキラと輝いている。
「確かに……そういう面、あったかも」
女好きでチャラチャラとしていたし夕紀も事務員として彼を支えていたが、新人時代から営業成績トップで居続けたのは彼に商才があるからだしそれだけ真摯に打ち込んでいたからだ。そこは夕紀も評価しなければならない点であったと、また反省する。
「それからジュンくんはね、人間がこの世で1番大好きな人物だと俺は思ってる……まぁ、人間が好きなのは俺も遠野も一緒だと思うよ? じゃないと接客業なんてやってらんないから」
再び夕紀に振り返りそのように語る健人は、店内に飾られた花のように明るく華やいでいる。
「……」
「商店街メンバーにとってもジュンくんのご帰還は7年振りだし、遠野もタイミング的にそのくらいかな?
……だからさぁ、ジュンくんに対して偏見持たずに仲良くしていこうよ。悪い人では決してないんだから」
明るく話す健人の人柄に「穂高純仁は悪い人物ではないのだろう」という考えへと転換されていった。
「分かったわよ……あまり、偏見を持たないようにするわ」
7年ぶりになるジュン坊の帰還で商店街メンバーは歓迎ムード一色となっており、今日の集会でも純仁と会う事が確定している。
(あんな事されたけど……悪いヤツじゃないのは確かだし)
自分一人だけジュン坊を睨み付けていたら場の空気を崩してしまうに違いない。色々と思うところはあるが、何でもかんでも悪様に言うのは少々やり過ぎだと夕紀は思った。
夕紀の表情を見て安心したのだろう、健人は「じゃあまた集会で」と言いヒラヒラ手を振ってまた勝手口から出て行ってしまった。
「……確かに、いつまでもチャラ男扱いするのも良くないかもね。父親の急変にいち早く駆け付けて有給取ってしまえる人なんだもん、穂高くんは」
健人が居なくなった店内で夕紀はポツリとそう呟いた……のだが
「遠野は知らなかったから仕方がないし、茶髪天然パーマが地毛ってのを正直に話さなかったジュンくんも良くなかったんだと思う。内緒にするような話でもないのに敢えて黙っていたのって、相当な理由がある筈だし……えっと、ジュンくんが黒くしてたのっていつだったかなぁ『はらだ理髪店』が関わっていたような記憶があるんだけど」
健人はそのようにフォローし、幼馴染が黒髪ベリーショートだったのが何年前だったのか記憶を手繰り寄せる。
「えっ? 耕太郎さんが関わってるの? ヘアカラーって理髪店もするんだっけ?」
理容室に馴染みのない夕紀にとって、ヘアカラーはセルフか美容室で行うものという固定観念がある。
(白髪染めくらいならやってるのかもしれないけど……)
よって、若年者が『はらだ理髪店』で髪染めをするというイメージが結び付かない。
「いや……ジュンくん肌が弱いから市販のヘアカラー使ったら頭皮が大荒れしたんだよ。だから染めたんじゃなくて……」
自力で思い出すのは無理だと思ったらしい健人はスマホを取り出して画像フォルダを開き12年以上前に撮影した写真がないか探し始めた。
しばらくすると「あった!」という声を上げ、画面を夕紀の方へ向ける。
「やっぱりそうだ! 耕太郎さん、ジュンくんの為にカツラ作ったんだよ。13年前だからジュンくんが就活してる頃じゃないかなぁ」
そこには少しだけ若返りしている耕太郎と、見覚えのある黒髪ベリーショート頭となった純仁の姿があった。
(本当だ……瞳が明るい茶色)
改めて画像を確認すると、黒髪と対比して瞳の色が非常に明るく見えた。
(でも……こんなに明るい目をしていたかしら)
黒髪が耕太郎の取り寄せた特注ウィッグだったという事実が判明したが、そうなると「目はここまで明るかっただろうか」と更なる謎が生まれる。画像でもこれだけ明るく見えるのであればかなり目立つ筈だ。
「カラコン……?」
ふと呟いた夕紀に、健人は手をパンと叩いて
「そうだそうだ思い出した!! 就職面接で髪と目の事を散々言われたからカツラ用意したんだけど、目の色が余計に目立つからって清さんが急いでユタカさんを呼びに行ってカラコン買いに行ったんだった。
『ジュン坊が圧迫面接に打ち勝って就職出来るように』って、普段仲が悪い耕太郎さんとユタカさんがジュンくんの為に協力した瞬間でさ。商店街のど真ん中で盛り上がったんだよ」
と、興奮しながら当時の出来事を語ってくれた。
「圧迫面接……そうね、当時はそういうのまだ当たり前に行っていたのよね」
夕紀が事務員として入社した際は面接を介さなかったので実体験ではないが、当時の風潮は今でも覚えている。
(あの会社が圧迫面接をしていたのかどうかまでは知らないけど、穂高くんが面接で苦労していたのは間違いないようね)
高圧的な面接官が存在しなくとも、就職活動は非常に苦労するものだ。純仁がその中で辛酸を舐めるような思いを数多くしてきたのは想像に難くない。
「流石にジュンくんだって『入社したからこっちのもの』って軽い気持ちで黒髪をやめた訳じゃないと思うんだ。確かにいつのまにかやめてて耕太郎さんが『せっかく貯めたバイト代で買ったのにもったいない』とは言ってたけど」
「……確かに」
健人の話からして、ウィッグとコンタクト代は純仁が自力で稼いで得た金で購入したのだろう。また、髪と目の色で採用されにくい状況であったのなら尚更「入社1ヶ月ほどで黒髪やめるのはもったいない」と耕太郎は感じたのかもしれない。
「理由がないと行動を取らない……そういう部分があるんだよジュンくんは。遠野が思っている程『チャラ男キャラ』じゃない。すっごく良い面をいっぱい持ってて頼りになるところもあるし。俺にとっては『キヨパン』の貴くんもジュンくんも大事な幼馴染のお兄ちゃんなんだよ」
「……」
つい黙りこんでしまった夕紀に、健人は優しい言葉を掛け続ける。
「俺はジュンくんをガキの頃から見てきてるけど、会社での振る舞いは良く知らない。遠野は俺と真逆の立場だろ? 俺が知らないジュンくんのチャラい面を遠野は見てきた。だからそれだけ俺に簡単に悪口言えちゃうんだよ」
優しい言葉ではあるけれど、叱られているような気分になった夕紀は
「それは……ごめんなさい」
と、素直にペコリと頭を下げた。
「まぁ、そんな頭を下げてまで謝らなくても良いと思うんだけど。記憶や印象の相違はよくある事だから」
健人はニッコリと微笑みカウンター席を降り、『タカパン』の方向を向いて話を続ける。
「俺はね、今も昔もジュンくんが遠野が思っているようなチャラ男じゃないって思ってる。ユタカさんの意見だけで判断してほしくないんだよ。とっても一途な部分もあるから仕事だって真面目に頑張ってるんだろうなって思う。じゃないと入社して以来ずっと同じ会社で営業やってないだろ? まっすぐなのがジュンくんの一番良いところだってずーっと前から感じているからさ」
チャラ男だと思っていた純仁について語る健人の目はキラキラと輝いている。
「確かに……そういう面、あったかも」
女好きでチャラチャラとしていたし夕紀も事務員として彼を支えていたが、新人時代から営業成績トップで居続けたのは彼に商才があるからだしそれだけ真摯に打ち込んでいたからだ。そこは夕紀も評価しなければならない点であったと、また反省する。
「それからジュンくんはね、人間がこの世で1番大好きな人物だと俺は思ってる……まぁ、人間が好きなのは俺も遠野も一緒だと思うよ? じゃないと接客業なんてやってらんないから」
再び夕紀に振り返りそのように語る健人は、店内に飾られた花のように明るく華やいでいる。
「……」
「商店街メンバーにとってもジュンくんのご帰還は7年振りだし、遠野もタイミング的にそのくらいかな?
……だからさぁ、ジュンくんに対して偏見持たずに仲良くしていこうよ。悪い人では決してないんだから」
明るく話す健人の人柄に「穂高純仁は悪い人物ではないのだろう」という考えへと転換されていった。
「分かったわよ……あまり、偏見を持たないようにするわ」
7年ぶりになるジュン坊の帰還で商店街メンバーは歓迎ムード一色となっており、今日の集会でも純仁と会う事が確定している。
(あんな事されたけど……悪いヤツじゃないのは確かだし)
自分一人だけジュン坊を睨み付けていたら場の空気を崩してしまうに違いない。色々と思うところはあるが、何でもかんでも悪様に言うのは少々やり過ぎだと夕紀は思った。
夕紀の表情を見て安心したのだろう、健人は「じゃあまた集会で」と言いヒラヒラ手を振ってまた勝手口から出て行ってしまった。
「……確かに、いつまでもチャラ男扱いするのも良くないかもね。父親の急変にいち早く駆け付けて有給取ってしまえる人なんだもん、穂高くんは」
健人が居なくなった店内で夕紀はポツリとそう呟いた……のだが
0
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
【完結】シロツメ草の花冠
彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。
彼女の身に何があったのか・・・。
*ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。
後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる