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本編
165㎝の夕紀4
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*
その後は朝香を帰宅させ、一人で閉店作業の続きに取り掛かる。
「穂高くんに謝っておこうかな」
焙煎室の掃除をしながらスマホを取り出し、メッセージを送ってみた。
[こんばんは]
するとスマホがブルッと震えて
[遠野さんこんばんは。今日は早く終わったの?]
と、やっぱり秒速で返事が返ってくる。
[まだ残ってる。朝香ちゃんが帰ったから穂高くんにちゃんと連絡しようかなと思って]
[正直遠野さんの方から連絡が来ると思わなかったよ。まだ仕事残ってるのにありがとう]
夕紀からメッセージを送ってきた事に純仁は喜んでいる様子だ。「ありがとう」なんて書かれるとくすぐったい気持ちに陥る。
[夕方に穂高くんが今日も集会に参加してたって聞いたから、たまたまよ。
昨日もだけど、今日もわざわざ仕事抜け出してこっちまで来たのかなって気になったし]
[俺知らなくてさぁ集会に顔を出すのが週に一度でいいの。お袋曰く、親父は毎日顔を出してたっぽいから]
(そんなところだろうと思った)
連絡事項の伝え忘れをしたのは夕紀の方なのに、口でそう言って自分にだけ非があったのではないと無理矢理思い込む事にする。
(毎日集会に向かう清さんを見ていたからこそ、美智代さんもそう勘違いしていたんだろうし……仕方なかったのよ。私が既読無視しただけが悪じゃない筈だわ……うん)
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、またスマホ画面に目を向けて文字を打ち込む。
[清さん、お話好きだもんね]
[まぁね。親父は客や仲間と話するのが生き甲斐みたいな感じかなぁ]
今日の文面はウザさを感じない。
[確かに穂高くんのお父様って感じよね]
夕紀は微笑み顔を作りながら返事を打つ事が出来ている。
[それって俺の事「サボリ魔」って思ってるんじゃない?]
(『サボリ魔』だって……ふふっ♪)
「サボリ魔」という茶目っ気溢れる純仁のワードチョイスにも、夕紀は嫌悪感なく笑えてしまっているし
[「営業向き」って意味かな]
優しい気持ちを込めた返事を打ちつつも、「これってフォローになってないんじゃないか?」とまた自分で笑ってしまう。
[だから無理して穂高くんが商店街に来なくても平気よ。来週来れなかったら、報告会の内容をお店にいる美智代さんへ私が伝えに行ったっていいんだし]
[来週って26日だろ? 勿論行くよ]
[急に仕事の予定が入ったらどうする気?]
[うちの会社、今が閑散期って遠野さん知ってるだろ? なんとかなるよ今のところデカい納品の話もないし。何より遠野さんに会いたいからさ]
(そうきたかぁ……)」
当然、夕紀の視界には「何より遠野さんに会いたいからさ」の文字がしっかりと入っていて
(冷静に……あくまで、冷静に返信しなくちゃ)
立ちながらの文字打ちに疲れてきた夕紀はスタッフルームに移動して椅子に腰掛ける。
[穂高くんにとって集会は、私に会う為だけのものなわけ?]
椅子に座れば冷静な気持ちで文字を打ち込めたので、一呼吸置かずに送信すると
[集会の参加は親から頼まれてる事だけどさぁ、俺個人にとってはそうだよ。
今日は集会所へ行ったら遠野さんが居ないのが寂しくて。せっかく渡そうと思っていたイヤリングが渡せなくて本当に本当に残念だと思ったんだ]
彼にしてはなかなかの長文メッセージが送られてきた。
「はぁ……」
溜め息が出る。
(ピアスがただ壊れたってだけの話なのに。別に耳に何かしていないと落ち着かないって訳じゃないのに)
確かに夕紀はこの店のオープンを期に、21歳の皐月からもらったピンク色のガラス製ハートがくっついたピアスを毎日身に付ける事に決めた……わざわざその為に医療機関でピアッシングしてもらった上で。
[私はね、そもそも集会に積極的じゃないのよ。今日もなんか連絡内容があったらしいけど絶対参加しなきゃいけないって程度じゃないから行かなかった。
木曜日の定例集会だって、朝香ちゃんを待たせちゃいけないように、内容を聞いたらダラダラとみんなと喋るわけでもなく店にすぐに戻るのよ]
[そっか]
[それでも穂高くんは私に会う事前提で来週の木曜日も集会に出るというの?]
[うん]
[話をする暇がないのに? すぐに帰っちゃうのに?]
[それでも。チャンスあるかもしれないから]
(チャンスって、一体何のチャンスなのよ! イヤリングを渡す事? それとも……)
イラッときた夕紀はつい……
「っ!」
(えっ? 今、何を考えようとしていたの?)
慌てて口を手で覆い、「言おうとしていた独り言」を遮って……
(ダメよ……そんな事考えたら)
直後、冷静を欠いていた自分を恥じる。
(私は7年前に恋を廃棄したのよ。穂高くんを「フッた」以上に、自分の印象を貶めたんだもの)
[俺ね、遠野さんが耳に飾りをつけているなんて、すっごく素敵だと思ったんだ]
「……」
[健人から話を聞いたよ。あのピアスは亡くなった妹さんからの最期の贈り物だったんだって]
「……」
「最後」ではなく「最期」と彼が表現した事に夕紀は少しだけ腹を立て
(田上くん余計な事を言わないでよ!)
と怒りたくなったのだけれど……それよりも、純仁がわざわざ今回イヤリングを私の為に買ってくれたという、彼の意図を知りたくなってしまった。
[遠野さんは、以前からハートの部分が外れやすくなっているのを気にしていて、自分で修理しながら5年も耳に嵌めていたんでしょ?]
「……」
その後は朝香を帰宅させ、一人で閉店作業の続きに取り掛かる。
「穂高くんに謝っておこうかな」
焙煎室の掃除をしながらスマホを取り出し、メッセージを送ってみた。
[こんばんは]
するとスマホがブルッと震えて
[遠野さんこんばんは。今日は早く終わったの?]
と、やっぱり秒速で返事が返ってくる。
[まだ残ってる。朝香ちゃんが帰ったから穂高くんにちゃんと連絡しようかなと思って]
[正直遠野さんの方から連絡が来ると思わなかったよ。まだ仕事残ってるのにありがとう]
夕紀からメッセージを送ってきた事に純仁は喜んでいる様子だ。「ありがとう」なんて書かれるとくすぐったい気持ちに陥る。
[夕方に穂高くんが今日も集会に参加してたって聞いたから、たまたまよ。
昨日もだけど、今日もわざわざ仕事抜け出してこっちまで来たのかなって気になったし]
[俺知らなくてさぁ集会に顔を出すのが週に一度でいいの。お袋曰く、親父は毎日顔を出してたっぽいから]
(そんなところだろうと思った)
連絡事項の伝え忘れをしたのは夕紀の方なのに、口でそう言って自分にだけ非があったのではないと無理矢理思い込む事にする。
(毎日集会に向かう清さんを見ていたからこそ、美智代さんもそう勘違いしていたんだろうし……仕方なかったのよ。私が既読無視しただけが悪じゃない筈だわ……うん)
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、またスマホ画面に目を向けて文字を打ち込む。
[清さん、お話好きだもんね]
[まぁね。親父は客や仲間と話するのが生き甲斐みたいな感じかなぁ]
今日の文面はウザさを感じない。
[確かに穂高くんのお父様って感じよね]
夕紀は微笑み顔を作りながら返事を打つ事が出来ている。
[それって俺の事「サボリ魔」って思ってるんじゃない?]
(『サボリ魔』だって……ふふっ♪)
「サボリ魔」という茶目っ気溢れる純仁のワードチョイスにも、夕紀は嫌悪感なく笑えてしまっているし
[「営業向き」って意味かな]
優しい気持ちを込めた返事を打ちつつも、「これってフォローになってないんじゃないか?」とまた自分で笑ってしまう。
[だから無理して穂高くんが商店街に来なくても平気よ。来週来れなかったら、報告会の内容をお店にいる美智代さんへ私が伝えに行ったっていいんだし]
[来週って26日だろ? 勿論行くよ]
[急に仕事の予定が入ったらどうする気?]
[うちの会社、今が閑散期って遠野さん知ってるだろ? なんとかなるよ今のところデカい納品の話もないし。何より遠野さんに会いたいからさ]
(そうきたかぁ……)」
当然、夕紀の視界には「何より遠野さんに会いたいからさ」の文字がしっかりと入っていて
(冷静に……あくまで、冷静に返信しなくちゃ)
立ちながらの文字打ちに疲れてきた夕紀はスタッフルームに移動して椅子に腰掛ける。
[穂高くんにとって集会は、私に会う為だけのものなわけ?]
椅子に座れば冷静な気持ちで文字を打ち込めたので、一呼吸置かずに送信すると
[集会の参加は親から頼まれてる事だけどさぁ、俺個人にとってはそうだよ。
今日は集会所へ行ったら遠野さんが居ないのが寂しくて。せっかく渡そうと思っていたイヤリングが渡せなくて本当に本当に残念だと思ったんだ]
彼にしてはなかなかの長文メッセージが送られてきた。
「はぁ……」
溜め息が出る。
(ピアスがただ壊れたってだけの話なのに。別に耳に何かしていないと落ち着かないって訳じゃないのに)
確かに夕紀はこの店のオープンを期に、21歳の皐月からもらったピンク色のガラス製ハートがくっついたピアスを毎日身に付ける事に決めた……わざわざその為に医療機関でピアッシングしてもらった上で。
[私はね、そもそも集会に積極的じゃないのよ。今日もなんか連絡内容があったらしいけど絶対参加しなきゃいけないって程度じゃないから行かなかった。
木曜日の定例集会だって、朝香ちゃんを待たせちゃいけないように、内容を聞いたらダラダラとみんなと喋るわけでもなく店にすぐに戻るのよ]
[そっか]
[それでも穂高くんは私に会う事前提で来週の木曜日も集会に出るというの?]
[うん]
[話をする暇がないのに? すぐに帰っちゃうのに?]
[それでも。チャンスあるかもしれないから]
(チャンスって、一体何のチャンスなのよ! イヤリングを渡す事? それとも……)
イラッときた夕紀はつい……
「っ!」
(えっ? 今、何を考えようとしていたの?)
慌てて口を手で覆い、「言おうとしていた独り言」を遮って……
(ダメよ……そんな事考えたら)
直後、冷静を欠いていた自分を恥じる。
(私は7年前に恋を廃棄したのよ。穂高くんを「フッた」以上に、自分の印象を貶めたんだもの)
[俺ね、遠野さんが耳に飾りをつけているなんて、すっごく素敵だと思ったんだ]
「……」
[健人から話を聞いたよ。あのピアスは亡くなった妹さんからの最期の贈り物だったんだって]
「……」
「最後」ではなく「最期」と彼が表現した事に夕紀は少しだけ腹を立て
(田上くん余計な事を言わないでよ!)
と怒りたくなったのだけれど……それよりも、純仁がわざわざ今回イヤリングを私の為に買ってくれたという、彼の意図を知りたくなってしまった。
[遠野さんは、以前からハートの部分が外れやすくなっているのを気にしていて、自分で修理しながら5年も耳に嵌めていたんでしょ?]
「……」
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