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本編
苺の花は白く、小さい1
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*
昨夜から今朝にかけて見た、夕紀の夢。
夕紀が1人立つその場には、変わらず黄緑色の雨がシトシトと降っていた…………。
「ハートのピアスが壊れて、新しいイヤリングをもらっちゃったのに……」
夕紀の見る夢は、皐月の死後ずっと変わらない。
(以前は何度も疑問に思った……皐月の葬儀を終えてから、毎日同じ夢を見続けているのもだけど)
不思議だと感じる点は他にも山ほどある。
何故、黄緑色の夢なのか。
何故、雨が降っているのか。
……何故、夕紀の生まれ育った広島でもなく、コーヒーの修行をしていた『森のカフェ・むらかわ』ではなく、家族4人が住んでいた家の庭に立っているのか。
(あの庭に黄緑色のものってあったかしら?)
夕紀が4人家族と暮らし、数年後には皐月と2人きりで寝泊まりしていた……あの古い一軒家。
夕紀の背丈止まってしまうほど猛烈に勉強し、大人になって以降は皐月を進学させるべくがむしゃらに働いて必死に生きていたからか、夕紀の脳内には「あの家の庭」がどのようなものであったかの記憶が欠落している。だから不思議に感じるのだ。
(夢って、要するに記憶の整理作業でしょう? どうしてイメージが全くつかない「黄緑色」と「庭」が結びついているんだろう……)
不思議だからといって別に嫌な気分はしない。皐月の死から見始めたのだから「もしかしたらこの夢は皐月が自分に見せてくれている内容でありイメージなのかもしれない」という願望を持っているからだ。
(少しは思った事がある……私が、皐月からもらったハート形のピンク色ピアスを身に付けて生活してるのもポイントだったんじゃないかって)
先程夕紀が考えていたように、夢は「自己の脳内に残っている記憶の整理作業をしている」説が有力である。となると「記憶にない黄緑色の庭のイメージは皐月からもらったピアスがトリガーの役割をしているのではないか」と仮説を立てたくなる。
(でもピアスは壊れたから、皐月の仏前に置いた。私の耳にはもう……嵌まることはない)
夕紀はトリガーを失った。そればかりでなく、皐月とは何の関わりも持たない男からイヤリングを貰ってしまったのだ。セオリーに従うのであれば「夕紀は今回より黄緑色の庭の夢を見ない」という事になる筈だ。それなのに……。
(勝手に私が思い込んでいる部分があるし、何かイレギュラー的な行動に出たらこの夢が消滅してしまうんじゃないかって、不安でもあったのに)
……それなのに、夕紀は変わらず同じ夢を見たのだ。
まるで今回の件はルーティンを侵さないものだと示すかのように。
「これで良かったのかもしれない……穂高くんからもらったイヤリングを着ける決心がついたもの」
夕紀はベッドから起きるなり身支度を始めた。
今日もいつもの通り、口紅以外のメイクまで済ませたところで……穂高くんからもらったイヤリングの包装を解く。
「なんで……苺の花なのよ」
純仁が買ってきたノンブランドアクセサリーのデザインはなんと苺。
しかも赤い果実の方ではなくて花の方であった。
白く円みの帯びた花弁が放射線状に5つ配置され花弁の隙間に黄緑色の萼もキチンとあしらわれている。
黄色い雄蕊や赤い果実の元となる花床や雌蕊までキッチリと再現されており、触って確かめさえしなければ本物と勘違いしてしまいそうな精巧な代物だった。
「32歳……いや、もうすぐ33か。ちゃんと私の実年齢まで想定しながら選んでよね……もうっ!」
夕紀は独り言を呟きながらピアスホール部分に金具を挟むと、皐月の部屋へと入室するなり手を合わせる。
「おはよう皐月……ねぇ、私の耳……変じゃない? かなぁ?」
いつものように仏壇の線香から煙を立ち上らせカップの水も入れ替え、いつものように手を合わせて祈りを捧げているつもりでいるのに、夕紀は動揺の声を漏らしてしまう。
優しい感想も……苦言も。
フォトフレームに納められた21歳の皐月は、何も述べない。ただただ美しい微笑を夕紀に向けるのみだ。
けれどそれが夕紀の心拍数を上げ、写真に向かって苦笑いを向けながら
「いや……これはその……大した相手から、じゃないから」
訳の分からない言い訳をひとりでに喋らせてしまう。「会社の元同僚からもらった」と正直に言えばいいのに
「普通の……人だよ。えーっと……ほら、『タカパン』の弟さんだよ。清さんが入院して商店街の手伝いに来てる人」
何故か誤魔化したい気持ちに駆られるのだ。
「好きな人、とか……全然、そういうのじゃ、ないから」
何故か夕紀は、写真に向かって変な言い訳や誤魔化し言葉を並べ続けている。
冷静に考えても、その行動は明らかに滑稽であった。
昨夜から今朝にかけて見た、夕紀の夢。
夕紀が1人立つその場には、変わらず黄緑色の雨がシトシトと降っていた…………。
「ハートのピアスが壊れて、新しいイヤリングをもらっちゃったのに……」
夕紀の見る夢は、皐月の死後ずっと変わらない。
(以前は何度も疑問に思った……皐月の葬儀を終えてから、毎日同じ夢を見続けているのもだけど)
不思議だと感じる点は他にも山ほどある。
何故、黄緑色の夢なのか。
何故、雨が降っているのか。
……何故、夕紀の生まれ育った広島でもなく、コーヒーの修行をしていた『森のカフェ・むらかわ』ではなく、家族4人が住んでいた家の庭に立っているのか。
(あの庭に黄緑色のものってあったかしら?)
夕紀が4人家族と暮らし、数年後には皐月と2人きりで寝泊まりしていた……あの古い一軒家。
夕紀の背丈止まってしまうほど猛烈に勉強し、大人になって以降は皐月を進学させるべくがむしゃらに働いて必死に生きていたからか、夕紀の脳内には「あの家の庭」がどのようなものであったかの記憶が欠落している。だから不思議に感じるのだ。
(夢って、要するに記憶の整理作業でしょう? どうしてイメージが全くつかない「黄緑色」と「庭」が結びついているんだろう……)
不思議だからといって別に嫌な気分はしない。皐月の死から見始めたのだから「もしかしたらこの夢は皐月が自分に見せてくれている内容でありイメージなのかもしれない」という願望を持っているからだ。
(少しは思った事がある……私が、皐月からもらったハート形のピンク色ピアスを身に付けて生活してるのもポイントだったんじゃないかって)
先程夕紀が考えていたように、夢は「自己の脳内に残っている記憶の整理作業をしている」説が有力である。となると「記憶にない黄緑色の庭のイメージは皐月からもらったピアスがトリガーの役割をしているのではないか」と仮説を立てたくなる。
(でもピアスは壊れたから、皐月の仏前に置いた。私の耳にはもう……嵌まることはない)
夕紀はトリガーを失った。そればかりでなく、皐月とは何の関わりも持たない男からイヤリングを貰ってしまったのだ。セオリーに従うのであれば「夕紀は今回より黄緑色の庭の夢を見ない」という事になる筈だ。それなのに……。
(勝手に私が思い込んでいる部分があるし、何かイレギュラー的な行動に出たらこの夢が消滅してしまうんじゃないかって、不安でもあったのに)
……それなのに、夕紀は変わらず同じ夢を見たのだ。
まるで今回の件はルーティンを侵さないものだと示すかのように。
「これで良かったのかもしれない……穂高くんからもらったイヤリングを着ける決心がついたもの」
夕紀はベッドから起きるなり身支度を始めた。
今日もいつもの通り、口紅以外のメイクまで済ませたところで……穂高くんからもらったイヤリングの包装を解く。
「なんで……苺の花なのよ」
純仁が買ってきたノンブランドアクセサリーのデザインはなんと苺。
しかも赤い果実の方ではなくて花の方であった。
白く円みの帯びた花弁が放射線状に5つ配置され花弁の隙間に黄緑色の萼もキチンとあしらわれている。
黄色い雄蕊や赤い果実の元となる花床や雌蕊までキッチリと再現されており、触って確かめさえしなければ本物と勘違いしてしまいそうな精巧な代物だった。
「32歳……いや、もうすぐ33か。ちゃんと私の実年齢まで想定しながら選んでよね……もうっ!」
夕紀は独り言を呟きながらピアスホール部分に金具を挟むと、皐月の部屋へと入室するなり手を合わせる。
「おはよう皐月……ねぇ、私の耳……変じゃない? かなぁ?」
いつものように仏壇の線香から煙を立ち上らせカップの水も入れ替え、いつものように手を合わせて祈りを捧げているつもりでいるのに、夕紀は動揺の声を漏らしてしまう。
優しい感想も……苦言も。
フォトフレームに納められた21歳の皐月は、何も述べない。ただただ美しい微笑を夕紀に向けるのみだ。
けれどそれが夕紀の心拍数を上げ、写真に向かって苦笑いを向けながら
「いや……これはその……大した相手から、じゃないから」
訳の分からない言い訳をひとりでに喋らせてしまう。「会社の元同僚からもらった」と正直に言えばいいのに
「普通の……人だよ。えーっと……ほら、『タカパン』の弟さんだよ。清さんが入院して商店街の手伝いに来てる人」
何故か誤魔化したい気持ちに駆られるのだ。
「好きな人、とか……全然、そういうのじゃ、ないから」
何故か夕紀は、写真に向かって変な言い訳や誤魔化し言葉を並べ続けている。
冷静に考えても、その行動は明らかに滑稽であった。
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