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本編
165㎝の夕紀6
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店の締め作業を終えた夕紀は、愛用している靴のヒールが擦り減っていないかを確認したくなり、ロッカーの鏡の前で脱いだ。
「そういえば、ヒールの高さ大丈夫かな…」
鏡に映る夕紀の頭が5㎝の高さ分だけ、その姿を消した。
「……良かった。まだ履けそう」
靴を脱いでヒール部分に小指を押し当て……それからホッと息を吐いた。
(中2の終わりで165㎝あったんだから、もっと伸びるんじゃないかなって期待していたんだけど……まさかそこから身長が止まるだなんてね)
純仁の指摘通り、夕紀はいつしか5㎝のヒールの靴ばかりを履くようになっていた。
理由は「中学生で成長が止まることなくもっと伸びたかった」「せめて皐月と同じ身長170㎝になりたかった」という気持ちが強かったからだ。
「亮輔くんから『高校生の頃は皐月に憧れて170㎝になりたくてヒールの高いブーツを履いたり牛乳を一日何パックも飲んだりしていた』っていうエピソードを聞いた時、凄く共感したのよね。私も似たようなもんだから」
夕紀は独り言を言いながら、大人に成長した皐月の姿を思い起こす。
———『お姉ちゃんより、おっきくなっちゃったね』———
あれは、皐月の大学入学式の日の朝だった。
「姉が入学式に保護者役として参加するのは皐月が気の毒だろう」と気を回して玄関先でスーツ姿の皐月を見送った際、冷たい板張りで2人ともストッキングを履いただけの状態で皐月は無邪気な笑顔を向け、夕紀の頭に手を当てながらそう言ってきたのだ。
その時は無理矢理笑みを作り「大人になったのね、皐月は」と言い返して姉らしい態度を見せたのだけれど、心中は穏やかではなく、嫉妬に似た黒い感情が渦巻いていた。
(私の身長は中学3年の始業式で止まってしまった……)
成長過程は個々それぞれなのだから「身長が止まったのは継母と皐月と一緒に暮らし始めたのが原因」とは言い切れないだろう。けれど、継母からの条件を全て呑み「4人家族」を手に入れる代償のように……そこからピタリと1ミリも背が伸びなくなってしまったのだ。
(でも皐月は違った。初めて出会った時はあんなに小さく精神的にも幼かったのに、「4人家族」になった途端に性格が明るくなり髪の色もウェーブヘアも気にしなくなり、背もどんどん伸びて女性らしくなっていった……)
父と継母が事故に遭い「2人家族」になっても、皐月の明るい笑顔は変わらなかった。
夕紀が大学進学を諦めて一日中仕事をするようになっても皐月は朗らかな笑顔を私に向けていたし、夕紀が社長のコネで一般企業の事務員となってからは皐月の容姿はどんどん美しく様変わりし、可愛らしい花々を玄関に生けるようになった。
夕紀は皐月の為に身を粉にして働き、お弁当や夕食を作ってあげ、皐月の勉強を見てあげたりしたし大学進学の為の予備校にも通わせてあげていた。……皐月は、そんな夕紀の体力を養分とするように何もかも吸収して誰もが羨む女性へと成長しつつあった。
(私がヒールを5㎝高くしてまでも170㎝になりたいと望むのはある意味自然な事だったのだろうな……そうでもしないと私の肉体はドンドン萎んでこれ以上低くなってしまうんじゃないかって感じたから)
「あっ」
勝手口から外に出ると、外側のドアノブに小さな紙袋が引っ掛けられているのに気付く。
「……穂高くんだ」
紙袋には真四角の付箋型メッセージとイヤリングが入った透明のラッピングバッグが入っていて、メッセージの文字や諸々の状況から「穂高純仁がドアノブにかけた」とすぐに理解出来た。
「何よ……今日のメッセージやり取り、自宅に帰ってやってた訳じゃなかったのね」
「今日の集会にはわざわざ仕事を抜け出して顔を出し、ガッカリした状態で帰っていった」という内容を初恵から聞いていたので、てっきり彼がすぐに会社へ戻り、定時まで仕事をこなして今頃は入社当初からずっと住んでいるという会社近くの単身マンションでのんびりと過ごしているものだとばかり思っていた。
「じゃあ、あの『大好き』のメッセージはどこで打って私に寄越してきたっていうのよ……恥ずかしい」
悪態をつきながら車に乗り込み、紙袋をそっと助手席に置くと
「今日はなんか豪華なお弁当買おうっと!! 贅沢しちゃおっ! 贅沢っ!!」
運転の揺れで紙袋が落ちないように気をつけながらいつもより上質な食品を扱っているスーパーへと向かった。
「お寿司やお刺身も良いなぁ。夜だけどまだあるかなぁ…………」
「そういえば、ヒールの高さ大丈夫かな…」
鏡に映る夕紀の頭が5㎝の高さ分だけ、その姿を消した。
「……良かった。まだ履けそう」
靴を脱いでヒール部分に小指を押し当て……それからホッと息を吐いた。
(中2の終わりで165㎝あったんだから、もっと伸びるんじゃないかなって期待していたんだけど……まさかそこから身長が止まるだなんてね)
純仁の指摘通り、夕紀はいつしか5㎝のヒールの靴ばかりを履くようになっていた。
理由は「中学生で成長が止まることなくもっと伸びたかった」「せめて皐月と同じ身長170㎝になりたかった」という気持ちが強かったからだ。
「亮輔くんから『高校生の頃は皐月に憧れて170㎝になりたくてヒールの高いブーツを履いたり牛乳を一日何パックも飲んだりしていた』っていうエピソードを聞いた時、凄く共感したのよね。私も似たようなもんだから」
夕紀は独り言を言いながら、大人に成長した皐月の姿を思い起こす。
———『お姉ちゃんより、おっきくなっちゃったね』———
あれは、皐月の大学入学式の日の朝だった。
「姉が入学式に保護者役として参加するのは皐月が気の毒だろう」と気を回して玄関先でスーツ姿の皐月を見送った際、冷たい板張りで2人ともストッキングを履いただけの状態で皐月は無邪気な笑顔を向け、夕紀の頭に手を当てながらそう言ってきたのだ。
その時は無理矢理笑みを作り「大人になったのね、皐月は」と言い返して姉らしい態度を見せたのだけれど、心中は穏やかではなく、嫉妬に似た黒い感情が渦巻いていた。
(私の身長は中学3年の始業式で止まってしまった……)
成長過程は個々それぞれなのだから「身長が止まったのは継母と皐月と一緒に暮らし始めたのが原因」とは言い切れないだろう。けれど、継母からの条件を全て呑み「4人家族」を手に入れる代償のように……そこからピタリと1ミリも背が伸びなくなってしまったのだ。
(でも皐月は違った。初めて出会った時はあんなに小さく精神的にも幼かったのに、「4人家族」になった途端に性格が明るくなり髪の色もウェーブヘアも気にしなくなり、背もどんどん伸びて女性らしくなっていった……)
父と継母が事故に遭い「2人家族」になっても、皐月の明るい笑顔は変わらなかった。
夕紀が大学進学を諦めて一日中仕事をするようになっても皐月は朗らかな笑顔を私に向けていたし、夕紀が社長のコネで一般企業の事務員となってからは皐月の容姿はどんどん美しく様変わりし、可愛らしい花々を玄関に生けるようになった。
夕紀は皐月の為に身を粉にして働き、お弁当や夕食を作ってあげ、皐月の勉強を見てあげたりしたし大学進学の為の予備校にも通わせてあげていた。……皐月は、そんな夕紀の体力を養分とするように何もかも吸収して誰もが羨む女性へと成長しつつあった。
(私がヒールを5㎝高くしてまでも170㎝になりたいと望むのはある意味自然な事だったのだろうな……そうでもしないと私の肉体はドンドン萎んでこれ以上低くなってしまうんじゃないかって感じたから)
「あっ」
勝手口から外に出ると、外側のドアノブに小さな紙袋が引っ掛けられているのに気付く。
「……穂高くんだ」
紙袋には真四角の付箋型メッセージとイヤリングが入った透明のラッピングバッグが入っていて、メッセージの文字や諸々の状況から「穂高純仁がドアノブにかけた」とすぐに理解出来た。
「何よ……今日のメッセージやり取り、自宅に帰ってやってた訳じゃなかったのね」
「今日の集会にはわざわざ仕事を抜け出して顔を出し、ガッカリした状態で帰っていった」という内容を初恵から聞いていたので、てっきり彼がすぐに会社へ戻り、定時まで仕事をこなして今頃は入社当初からずっと住んでいるという会社近くの単身マンションでのんびりと過ごしているものだとばかり思っていた。
「じゃあ、あの『大好き』のメッセージはどこで打って私に寄越してきたっていうのよ……恥ずかしい」
悪態をつきながら車に乗り込み、紙袋をそっと助手席に置くと
「今日はなんか豪華なお弁当買おうっと!! 贅沢しちゃおっ! 贅沢っ!!」
運転の揺れで紙袋が落ちないように気をつけながらいつもより上質な食品を扱っているスーパーへと向かった。
「お寿司やお刺身も良いなぁ。夜だけどまだあるかなぁ…………」
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