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番外編
村川家のオムライス2
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*
翌日。
亮輔との約束通り、夕食をテレビ前のガラステーブルの上に並べてソファに腰掛けながら番組を観始める。
「俺ね、あーちゃんのお母さんはあまり記憶にないんだけど……お父さんなら、ちょこっと覚えてるよ」
「えっ?」
放送が終了し、リモコンでテレビ電源をオフにしながら亮輔はポツリとそんな事を言うので
(あれ? りょーくん、いつうちのお父さんと会ったっけ?)
と不思議がったのだが
「背が高くて体の大きい人だったよね……皐月さんのお葬式の時、お父さんはお姉さんを必死に止めてて。俺もそのくらいしか覚えてないんだけど」
その話でようやく朝香もいつなのか気付く事が出来た。
「そっか……そうだよね。りょーくんは皐月さんのお葬式の時に私達と会ってるんだもんね」
「うん、お父さんのイメージはそういう意味で強く記憶に残ってたんだけど、お母さんは全く記憶になかったから『お母さんはあーちゃんそっくりなんだな』って今日知れて嬉しいよ」
「ありがとう……」
放送では母が1人でMCの前に現れ、店自慢のオムライスを紹介し試食するところまでが流れた。5分程度の登場ではあったが、亮輔はニコニコ顔で感想を言ってくれたので、朝香も嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「お母さんもあーちゃんと同じくらいの身長かな? 小柄な感じだね」
「うん、そうなの。155㎝だから私よりちょっと高いくらいでほぼ一緒なんだ」
「オムライスもすっごく綺麗な仕上がりで、あーちゃんのオムライスそっくりだった!」
「その感想は照れちゃうな~えへへ」
地元でも広く知られてるオムライスの出来と一緒だという意味合いの内容を、大好きな亮輔に言われてしまうと流石に照れて身をくねらせてしまう。
「いやいや、あーちゃんが小さな頃からあのオムライスを食べて育って、俺にも美味しいオムライスを作ってくれてる事に感謝してるし、親子の繋がりっていうのを感じるよ」
「親子の繋がりかぁ」
「羨ましいし、微笑ましいなぁ。あーちゃんがとっても良い子だっていうのがテレビ画面からも伝わるよ」
亮輔は家庭環境で色々あったので、言葉の中に出てきた「羨ましい」に胸がキュッと締め付けられ素直に喜べなくなる。
彼はその表情を察して「純粋に褒めてるんだよ」と言いながら朝香の頭を優しく撫でた。
「お母さんの作るふんわりとしたオムライスが作れて、お父さんの作る珈琲焙煎のセンスも持ってるあーちゃんは最強だね!」
「えっ?」
亮輔は朝香を元気付ける意味で明るくそう言ってくれたのだろうが……つい、言葉を詰まらせてしまった。
(ヤバい……りょーくん、大きな勘違いをしている。っていうか、さっきの放送を観た人みんな勘違いしちゃうよねぇ……あの紹介の仕方だと)
テレビに映っていたオムライスは紛れもなく『森のカフェ・むらかわ』のオムライスなのだが……実はオムライス担当はテレビ出演した母裕美ではなく、父義郎なのである。
画面には一切映っていないが両親共にあのテレビ局内に居て「スタジオ外のキッチンで義郎がこっそりとオムライスを作っていたのだ」と知るのは……『むらかわ』の常連客と朝香と夕紀しか存在しないのであろう。
(地元テレビや雑誌の取材でもお母さんしか顔出ししてないんだもん……そりゃ勘違いするのも仕方ないよね?)
先程亮輔も過去を思い出しながら話してくれたが、朝香は母親似であり父親とは顔も背丈も似ていない……というか、父の村川義郎はあのような繊細なオムライスや陶器類を作成するとは思えないくらいの巨漢かつ方言訛りが酷い人物で所謂初見殺しの見た目をしている。
メディア受けしないので、母が代理で顔出しをしてオムライスの作り方を父の代わりに説明しているだけに過ぎない。
(そして、夕紀さんが『むらかわ』で直接学びたいと思って2年修行までしてしまうくらい、グアテマラアンティグアの焙煎にこだわりを持つ珈琲オタクが私のお母さん……)
頑固おやじが焙煎してるかのような印象を持ってしまう『むらかわ』のコーヒーの焙煎方法は、裕美が独学で研究して編み出した結晶なのだ。こだわりが強過ぎて「細かなマイナールールはたった1人しか伝授したくない」と決め、夕紀にだけしか方法を教えていないくらいである。
(私もお母さんの影響を受けて珈琲オタクになっちゃったけど、焙煎方法やピッキングのやり方をお母さんと喋ろうとするとつい熱くなって最終的に喧嘩しちゃうんだよね。コーヒーの奥深さゆえの言い争いになっちゃうっていうか)
「どうしたの?あーちゃん」
朝香がつい漏らしてしまった「えっ?」に亮輔は不思議がり、首を傾げている。
「あっ……ううんっ! なんでもないなんでもないっ!!」
朝香は慌てて首を左右に振り、それからコーヒーのドリップを始めた。
(どうしよう……オムライスを作っているのはお母さんじゃなくてお父さんだって、りょーくんに伝えるタイミングを失っちゃったぁ)
誤解を解くとしたらテレビを視聴し終えた今、まさにこのタイミングなのだが……
「あーちゃんのお母さん、優しそうで素敵な女性って雰囲気あったなぁ。
あーちゃんが良い子で可愛らしく育ったのがすごくよく分かる」
ウンウンと頷きながら1人で噛み締めている亮輔に真実を伝えて余計な衝撃を与えなくない……と、つい尻込みしてしまうのだ。
(ちゃんと誤解を解くとしたら、りょーくんを私のお父さんお母さんに合わせるタイミングになるかもしれない……でもそれっていつの事になっちゃうんだろう!?
っていうかそのシチュエーションって、私とりょーくんとがもっともっと親密な仲になる前提での事じゃないかな? 私、りょーくんとそんな仲まで進展出来るのかなぁ)
つい先日身も心も一つになったばかりの初々しい関係だというのに、この先あるかどうか分からない未来を想像し、胸を余計にドキドキさせてしまったのだった。
翌日。
亮輔との約束通り、夕食をテレビ前のガラステーブルの上に並べてソファに腰掛けながら番組を観始める。
「俺ね、あーちゃんのお母さんはあまり記憶にないんだけど……お父さんなら、ちょこっと覚えてるよ」
「えっ?」
放送が終了し、リモコンでテレビ電源をオフにしながら亮輔はポツリとそんな事を言うので
(あれ? りょーくん、いつうちのお父さんと会ったっけ?)
と不思議がったのだが
「背が高くて体の大きい人だったよね……皐月さんのお葬式の時、お父さんはお姉さんを必死に止めてて。俺もそのくらいしか覚えてないんだけど」
その話でようやく朝香もいつなのか気付く事が出来た。
「そっか……そうだよね。りょーくんは皐月さんのお葬式の時に私達と会ってるんだもんね」
「うん、お父さんのイメージはそういう意味で強く記憶に残ってたんだけど、お母さんは全く記憶になかったから『お母さんはあーちゃんそっくりなんだな』って今日知れて嬉しいよ」
「ありがとう……」
放送では母が1人でMCの前に現れ、店自慢のオムライスを紹介し試食するところまでが流れた。5分程度の登場ではあったが、亮輔はニコニコ顔で感想を言ってくれたので、朝香も嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「お母さんもあーちゃんと同じくらいの身長かな? 小柄な感じだね」
「うん、そうなの。155㎝だから私よりちょっと高いくらいでほぼ一緒なんだ」
「オムライスもすっごく綺麗な仕上がりで、あーちゃんのオムライスそっくりだった!」
「その感想は照れちゃうな~えへへ」
地元でも広く知られてるオムライスの出来と一緒だという意味合いの内容を、大好きな亮輔に言われてしまうと流石に照れて身をくねらせてしまう。
「いやいや、あーちゃんが小さな頃からあのオムライスを食べて育って、俺にも美味しいオムライスを作ってくれてる事に感謝してるし、親子の繋がりっていうのを感じるよ」
「親子の繋がりかぁ」
「羨ましいし、微笑ましいなぁ。あーちゃんがとっても良い子だっていうのがテレビ画面からも伝わるよ」
亮輔は家庭環境で色々あったので、言葉の中に出てきた「羨ましい」に胸がキュッと締め付けられ素直に喜べなくなる。
彼はその表情を察して「純粋に褒めてるんだよ」と言いながら朝香の頭を優しく撫でた。
「お母さんの作るふんわりとしたオムライスが作れて、お父さんの作る珈琲焙煎のセンスも持ってるあーちゃんは最強だね!」
「えっ?」
亮輔は朝香を元気付ける意味で明るくそう言ってくれたのだろうが……つい、言葉を詰まらせてしまった。
(ヤバい……りょーくん、大きな勘違いをしている。っていうか、さっきの放送を観た人みんな勘違いしちゃうよねぇ……あの紹介の仕方だと)
テレビに映っていたオムライスは紛れもなく『森のカフェ・むらかわ』のオムライスなのだが……実はオムライス担当はテレビ出演した母裕美ではなく、父義郎なのである。
画面には一切映っていないが両親共にあのテレビ局内に居て「スタジオ外のキッチンで義郎がこっそりとオムライスを作っていたのだ」と知るのは……『むらかわ』の常連客と朝香と夕紀しか存在しないのであろう。
(地元テレビや雑誌の取材でもお母さんしか顔出ししてないんだもん……そりゃ勘違いするのも仕方ないよね?)
先程亮輔も過去を思い出しながら話してくれたが、朝香は母親似であり父親とは顔も背丈も似ていない……というか、父の村川義郎はあのような繊細なオムライスや陶器類を作成するとは思えないくらいの巨漢かつ方言訛りが酷い人物で所謂初見殺しの見た目をしている。
メディア受けしないので、母が代理で顔出しをしてオムライスの作り方を父の代わりに説明しているだけに過ぎない。
(そして、夕紀さんが『むらかわ』で直接学びたいと思って2年修行までしてしまうくらい、グアテマラアンティグアの焙煎にこだわりを持つ珈琲オタクが私のお母さん……)
頑固おやじが焙煎してるかのような印象を持ってしまう『むらかわ』のコーヒーの焙煎方法は、裕美が独学で研究して編み出した結晶なのだ。こだわりが強過ぎて「細かなマイナールールはたった1人しか伝授したくない」と決め、夕紀にだけしか方法を教えていないくらいである。
(私もお母さんの影響を受けて珈琲オタクになっちゃったけど、焙煎方法やピッキングのやり方をお母さんと喋ろうとするとつい熱くなって最終的に喧嘩しちゃうんだよね。コーヒーの奥深さゆえの言い争いになっちゃうっていうか)
「どうしたの?あーちゃん」
朝香がつい漏らしてしまった「えっ?」に亮輔は不思議がり、首を傾げている。
「あっ……ううんっ! なんでもないなんでもないっ!!」
朝香は慌てて首を左右に振り、それからコーヒーのドリップを始めた。
(どうしよう……オムライスを作っているのはお母さんじゃなくてお父さんだって、りょーくんに伝えるタイミングを失っちゃったぁ)
誤解を解くとしたらテレビを視聴し終えた今、まさにこのタイミングなのだが……
「あーちゃんのお母さん、優しそうで素敵な女性って雰囲気あったなぁ。
あーちゃんが良い子で可愛らしく育ったのがすごくよく分かる」
ウンウンと頷きながら1人で噛み締めている亮輔に真実を伝えて余計な衝撃を与えなくない……と、つい尻込みしてしまうのだ。
(ちゃんと誤解を解くとしたら、りょーくんを私のお父さんお母さんに合わせるタイミングになるかもしれない……でもそれっていつの事になっちゃうんだろう!?
っていうかそのシチュエーションって、私とりょーくんとがもっともっと親密な仲になる前提での事じゃないかな? 私、りょーくんとそんな仲まで進展出来るのかなぁ)
つい先日身も心も一つになったばかりの初々しい関係だというのに、この先あるかどうか分からない未来を想像し、胸を余計にドキドキさせてしまったのだった。
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