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番外編
苦手を好きで補っていく3
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数日経ち、10月に入った。
ハロウィン時期に合わせ、亮輔は「『雨上がり珈琲店』のディスプレイにペーパーオーナメントを飾ったらどうか」と夕紀に提案し作成してくれていた。
夕紀から許可を得たので、閉店時間に入った現在朝香は店内の飾り付け作業をしている。
「かぼちゃ!! おばけ!! こうもりも!! すごーい!!」
亮輔は今、『フラワーショップ田上』に新しく入ったアルバイトに配達仕事を教えている最中である。日常的にハサミも使えるようになりたいとの事で、健人付き添いの元切り花やアレンジメント作成のレクチャーもついでに受けたいらしい。
高身長の亮輔が居ない中ではあるが脚立を使いながらの飾り付けは楽しく、遊びに来た田上美優はキャッキャと喜んでいた。
「亮輔くんにこんな才能があったなんて知らなかったぁ~! 本当に凄いわねぇ」
飾り付け終わった店内をグルリと見回しながら夕紀が感心している。
「コンビニでも作っては良く飾っていたみたいなので、彼曰く『才能でもなんでもない』って言ってました」
「まぁ~ご謙遜を……」
「私も謙遜だと思います」
朝香はハサミでの切り抜きだけを手伝ったが、ササっとデザインを考えてイラストにしてしまうだなんて立派な才能だと思っている。「なんでもない」なんて言う亮輔が本当に信じられない。
「美優ちゃんがこれだけ喜んでいるんだもん、お子様連れのお客様が増える事間違いないわね!」
「そうですねぇ~、楽しみです♪」
ここ10年ほど巷で盛り上がりをみせているハロウィンだが、この商店街では特にイベントらしい事をしていない。地元に愛されている商店街故に客層は中高年が主でハロウィン文化に慣れず需要がないのだ。駅裏の開発が進めば客層が変わってくるのだろうが、遠野宅周辺の立ち退きはまだ完了していないらしくいつになるかも分からない。このように店内を可愛らしくハロウィン色にする店舗もなく『雨上がり珈琲店』が初の試みとなるのだ。
(良い変化を生んでくれるといいなぁ♪)
「せっかくだから、一杯飲んでいかない? みんなクタクタだしお店の中で休憩しましょ♪ 勿論美優ちゃんはミルクね♡」
夕紀はシャッターを閉めながら朝香と美優をソファへと座らせ、コーヒーとミルクの準備を始める。
「ありがとうございます夕紀さん」
「みゆちゃんね、ぎゅーにゅーすきだよー! ぎゅーにゅーのむー!!」
特に美優は店で扱っているミルクが大好きなので、この誘いに大喜びだ。
「ぎゅーにゅーおいしー!!」
「マンデリン美味しい♪」
夕紀がペーパードリップしてくれたコーヒーは深煎りのマンデリン。独特の酸味が緩和され濃厚な旨味と甘味が舌の上で転がっていく。
(余韻も長くて香りがいいなぁ~でも、マンデリンもアーシーコーヒーの代表とも言えるよね? グアテマラアンティグアもアーシーフレーバーが含まれるし)
ニコニコしながらミルクを味わっている美優の隣で、朝香はコーヒーをまじまじと見つめ岩瀬の土産品と夕紀が焙煎したマンデリンとを比較し始めた。
(「大地っぽい」っていう感覚は間違ってないし、それは私も感じた……けど嫌味に感じる程でもなかったというか)
アーシーフレーバーが苦手というなら、店の商品も苦手という事になる。けれど亮輔は『雨上がり珈琲店』の定番商品を全て飲んで今まで楽しんできたのに、岩瀬の土産品だけは苦手と感じたのだ。アーシーフレーバー以外の特徴や味も関係しているのかもしれない。
朝香の表情変化に気付いたらしい夕紀は、ミルクを飲み終えた美優を『フラワーショップ田上』まで送ると朝香に伝えた。
「ごめんね朝香ちゃん。コーヒー飲み終わったら美優ちゃんのカップも一緒に洗ってくれる?」
「あっ……ごめんなさい夕紀さん、私ボーッとしてて」
その呼び掛けで朝香は自分がぼんやりしていたと気付き、慌てて残りのコーヒーを流し込む。
「ああ~、のんびりしてもらっていいのよ。美優ちゃん送ったらすぐに戻ってくるから」
夕紀は朝香に優しい表情を返し、美優を送りに行く。
(のんびりしてもらっていい……とはいうけど、のんびりしすぎも良くないよね)
1人残された朝香は、カツを入れる為両頬をパチンと叩いて気を引き締め……それから
(こんな時……お母さんはなんて言ってたかなぁ)
コーヒーオタク脳である朝香の基礎を形作った母、村川裕美の教えを思い出していた。
『森のカフェ・むらかわ』は今でこそ「オムライスが美味しい喫茶店」として知られているが、元々は裕美こだわりのコーヒーが飲める店として地元民に愛されていた。オムライスがバズり過ぎた所為で常時置くコーヒーの銘柄は少なくなってしまったが、「グアテマラアンティグア」と「オリジナルブレンドコーヒー」は根強い人気がある。
(昔はお客様の好みによってブレンドを変えたりしてたっけ。懐かしいなぁ)
魔法使いのような手技で客好みの一杯を提供する裕美の姿を、朝香は幼い頃から見続けていた。「今ではそこまでコーヒーを気を回していられない」と漏らしていたのが悔やまれる。
数日経ち、10月に入った。
ハロウィン時期に合わせ、亮輔は「『雨上がり珈琲店』のディスプレイにペーパーオーナメントを飾ったらどうか」と夕紀に提案し作成してくれていた。
夕紀から許可を得たので、閉店時間に入った現在朝香は店内の飾り付け作業をしている。
「かぼちゃ!! おばけ!! こうもりも!! すごーい!!」
亮輔は今、『フラワーショップ田上』に新しく入ったアルバイトに配達仕事を教えている最中である。日常的にハサミも使えるようになりたいとの事で、健人付き添いの元切り花やアレンジメント作成のレクチャーもついでに受けたいらしい。
高身長の亮輔が居ない中ではあるが脚立を使いながらの飾り付けは楽しく、遊びに来た田上美優はキャッキャと喜んでいた。
「亮輔くんにこんな才能があったなんて知らなかったぁ~! 本当に凄いわねぇ」
飾り付け終わった店内をグルリと見回しながら夕紀が感心している。
「コンビニでも作っては良く飾っていたみたいなので、彼曰く『才能でもなんでもない』って言ってました」
「まぁ~ご謙遜を……」
「私も謙遜だと思います」
朝香はハサミでの切り抜きだけを手伝ったが、ササっとデザインを考えてイラストにしてしまうだなんて立派な才能だと思っている。「なんでもない」なんて言う亮輔が本当に信じられない。
「美優ちゃんがこれだけ喜んでいるんだもん、お子様連れのお客様が増える事間違いないわね!」
「そうですねぇ~、楽しみです♪」
ここ10年ほど巷で盛り上がりをみせているハロウィンだが、この商店街では特にイベントらしい事をしていない。地元に愛されている商店街故に客層は中高年が主でハロウィン文化に慣れず需要がないのだ。駅裏の開発が進めば客層が変わってくるのだろうが、遠野宅周辺の立ち退きはまだ完了していないらしくいつになるかも分からない。このように店内を可愛らしくハロウィン色にする店舗もなく『雨上がり珈琲店』が初の試みとなるのだ。
(良い変化を生んでくれるといいなぁ♪)
「せっかくだから、一杯飲んでいかない? みんなクタクタだしお店の中で休憩しましょ♪ 勿論美優ちゃんはミルクね♡」
夕紀はシャッターを閉めながら朝香と美優をソファへと座らせ、コーヒーとミルクの準備を始める。
「ありがとうございます夕紀さん」
「みゆちゃんね、ぎゅーにゅーすきだよー! ぎゅーにゅーのむー!!」
特に美優は店で扱っているミルクが大好きなので、この誘いに大喜びだ。
「ぎゅーにゅーおいしー!!」
「マンデリン美味しい♪」
夕紀がペーパードリップしてくれたコーヒーは深煎りのマンデリン。独特の酸味が緩和され濃厚な旨味と甘味が舌の上で転がっていく。
(余韻も長くて香りがいいなぁ~でも、マンデリンもアーシーコーヒーの代表とも言えるよね? グアテマラアンティグアもアーシーフレーバーが含まれるし)
ニコニコしながらミルクを味わっている美優の隣で、朝香はコーヒーをまじまじと見つめ岩瀬の土産品と夕紀が焙煎したマンデリンとを比較し始めた。
(「大地っぽい」っていう感覚は間違ってないし、それは私も感じた……けど嫌味に感じる程でもなかったというか)
アーシーフレーバーが苦手というなら、店の商品も苦手という事になる。けれど亮輔は『雨上がり珈琲店』の定番商品を全て飲んで今まで楽しんできたのに、岩瀬の土産品だけは苦手と感じたのだ。アーシーフレーバー以外の特徴や味も関係しているのかもしれない。
朝香の表情変化に気付いたらしい夕紀は、ミルクを飲み終えた美優を『フラワーショップ田上』まで送ると朝香に伝えた。
「ごめんね朝香ちゃん。コーヒー飲み終わったら美優ちゃんのカップも一緒に洗ってくれる?」
「あっ……ごめんなさい夕紀さん、私ボーッとしてて」
その呼び掛けで朝香は自分がぼんやりしていたと気付き、慌てて残りのコーヒーを流し込む。
「ああ~、のんびりしてもらっていいのよ。美優ちゃん送ったらすぐに戻ってくるから」
夕紀は朝香に優しい表情を返し、美優を送りに行く。
(のんびりしてもらっていい……とはいうけど、のんびりしすぎも良くないよね)
1人残された朝香は、カツを入れる為両頬をパチンと叩いて気を引き締め……それから
(こんな時……お母さんはなんて言ってたかなぁ)
コーヒーオタク脳である朝香の基礎を形作った母、村川裕美の教えを思い出していた。
『森のカフェ・むらかわ』は今でこそ「オムライスが美味しい喫茶店」として知られているが、元々は裕美こだわりのコーヒーが飲める店として地元民に愛されていた。オムライスがバズり過ぎた所為で常時置くコーヒーの銘柄は少なくなってしまったが、「グアテマラアンティグア」と「オリジナルブレンドコーヒー」は根強い人気がある。
(昔はお客様の好みによってブレンドを変えたりしてたっけ。懐かしいなぁ)
魔法使いのような手技で客好みの一杯を提供する裕美の姿を、朝香は幼い頃から見続けていた。「今ではそこまでコーヒーを気を回していられない」と漏らしていたのが悔やまれる。
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