【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

文字の大きさ
104 / 171
番外編

苦手を好きで補っていく3

しおりを挟む


 数日経ち、10月に入った。
 ハロウィン時期に合わせ、亮輔は「『雨上がり珈琲店』のディスプレイにペーパーオーナメントを飾ったらどうか」と夕紀に提案し作成してくれていた。
 夕紀から許可を得たので、閉店時間に入った現在朝香は店内の飾り付け作業をしている。

「かぼちゃ!! おばけ!! こうもりも!! すごーい!!」

 亮輔は今、『フラワーショップ田上』に新しく入ったアルバイトに配達仕事を教えている最中である。日常的にハサミも使えるようになりたいとの事で、健人付き添いの元切り花やアレンジメント作成のレクチャーもついでに受けたいらしい。
 高身長の亮輔が居ない中ではあるが脚立を使いながらの飾り付けは楽しく、遊びに来た田上美優たがみみゆはキャッキャと喜んでいた。

「亮輔くんにこんな才能があったなんて知らなかったぁ~! 本当に凄いわねぇ」

 飾り付け終わった店内をグルリと見回しながら夕紀が感心している。

「コンビニでも作っては良く飾っていたみたいなので、彼曰く『才能でもなんでもない』って言ってました」
「まぁ~ご謙遜を……」
「私も謙遜だと思います」

 朝香はハサミでの切り抜きだけを手伝ったが、ササっとデザインを考えてイラストにしてしまうだなんて立派な才能だと思っている。「なんでもない」なんて言う亮輔が本当に信じられない。

「美優ちゃんがこれだけ喜んでいるんだもん、お子様連れのお客様が増える事間違いないわね!」
「そうですねぇ~、楽しみです♪」

 ここ10年ほど巷で盛り上がりをみせているハロウィンだが、この商店街では特にイベントらしい事をしていない。地元に愛されている商店街故に客層は中高年が主でハロウィン文化に慣れず需要がないのだ。駅裏の開発が進めば客層が変わってくるのだろうが、遠野宅周辺の立ち退きはまだ完了していないらしくいつになるかも分からない。このように店内を可愛らしくハロウィン色にする店舗もなく『雨上がり珈琲店』が初の試みとなるのだ。

(良い変化を生んでくれるといいなぁ♪)

「せっかくだから、一杯飲んでいかない? みんなクタクタだしお店の中で休憩しましょ♪ 勿論美優ちゃんはミルクね♡」
 
 夕紀はシャッターを閉めながら朝香と美優をソファへと座らせ、コーヒーとミルクの準備を始める。

「ありがとうございます夕紀さん」
「みゆちゃんね、ぎゅーにゅーすきだよー! ぎゅーにゅーのむー!!」

 特に美優は店で扱っているミルクが大好きなので、この誘いに大喜びだ。

「ぎゅーにゅーおいしー!!」
「マンデリン美味しい♪」

 夕紀がペーパードリップしてくれたコーヒーは深煎りのマンデリン。独特の酸味が緩和され濃厚な旨味と甘味が舌の上で転がっていく。

(余韻も長くて香りがいいなぁ~でも、マンデリンもアーシーコーヒーの代表とも言えるよね? グアテマラアンティグアもアーシーフレーバーが含まれるし)

 ニコニコしながらミルクを味わっている美優の隣で、朝香はコーヒーをまじまじと見つめ岩瀬の土産品と夕紀が焙煎したマンデリンとを比較し始めた。

(「大地っぽい」っていう感覚は間違ってないし、それは私も感じた……けど嫌味に感じる程でもなかったというか)

 アーシーフレーバーが苦手というなら、店の商品も苦手という事になる。けれど亮輔は『雨上がり珈琲店』の定番商品を全て飲んで今まで楽しんできたのに、岩瀬の土産品だけはと感じたのだ。アーシーフレーバー以外の特徴や味も関係しているのかもしれない。


 朝香の表情変化に気付いたらしい夕紀は、ミルクを飲み終えた美優を『フラワーショップ田上』まで送ると朝香に伝えた。

「ごめんね朝香ちゃん。コーヒー飲み終わったら美優ちゃんのカップも一緒に洗ってくれる?」
「あっ……ごめんなさい夕紀さん、私ボーッとしてて」

 その呼び掛けで朝香は自分がぼんやりしていたと気付き、慌てて残りのコーヒーを流し込む。
 
「ああ~、のんびりしてもらっていいのよ。美優ちゃん送ったらすぐに戻ってくるから」

 夕紀は朝香に優しい表情を返し、美優を送りに行く。

(のんびりしてもらっていい……とはいうけど、のんびりしすぎも良くないよね)

 1人残された朝香は、カツを入れる為両頬をパチンと叩いて気を引き締め……それから

(こんな時……お母さんはなんて言ってたかなぁ)

 コーヒーオタク脳である朝香の基礎を形作った母、村川裕美の教えを思い出していた。

 『森のカフェ・むらかわ』は今でこそ「オムライスが美味しい喫茶店」として知られているが、元々は裕美こだわりのコーヒーが飲める店として地元民に愛されていた。オムライスがバズり過ぎた所為で常時置くコーヒーの銘柄は少なくなってしまったが、「グアテマラアンティグア」と「オリジナルブレンドコーヒー」は根強い人気がある。

(昔はお客様の好みによってブレンドを変えたりしてたっけ。懐かしいなぁ)

 魔法使いのような手技で客好みの一杯を提供する裕美の姿を、朝香は幼い頃から見続けていた。「今ではそこまでコーヒーを気を回していられない」と漏らしていたのが悔やまれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...