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番外編
苦手を好きで補っていく4
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しばらくして、夕紀が戻ってきた。
「おかえりなさい夕紀さん、カップや器具の片付け終わってます」
洗浄と拭き上げをし終えたところだったので、明るい声で夕紀に伝えたつもりだったのだが……
「朝香ちゃん、亮輔くんの元気がなくて悩んでるでしょ?」
と、夕紀に言われ肩をつつかれる。
「えっ? ええっと……それは」
図星だったので朝香は驚きを隠せないでいると
「だぁってさっき『フラワーショップ田上』で亮輔くんが朝香ちゃんとおんなじような表情をしていたんだもの。アレ、ハサミの扱いに緊張してたのが理由じゃないでしょ。田上くんも奥さんも心配そうに亮輔くんを見つめていたんだから」
「ええっ???! そんなに似てましたか?!」
夕紀さんはクスクス笑いながら「ほんと悩み方がソックリ! 双子みたいよ」と言いウンウンと頷いている。
「同棲スタートしたばかりでラブラブ絶好調だっていうのに、2人共悲壮感あふれる顔つきしてどうするのよっ! ハロウィンオーナメントを作ってきてくれたのは嬉しいけど、もっとハッピーでいてくれなくちゃ私達30代なんてどうしたら良いのよ」
「っ……」
夕紀さんの指摘に恥ずかしくなったものの「確かに」と納得せざるを得ない朝香。
「すみません……お気を遣わせてしまいまして」
そこまで心配されてしまっては仕方ない。朝香はその悩みの種を夕紀に話し始めた。
「ふーん……うちの雨上がりブレンドを腐した『絵梨』って子が妊娠して退学届を出したのねぇ」
「雨上がりブレンドの時は岩瀬さんから聞いただけだったんで絵梨さんに会ったのはこの前のが初めてだったんです」
夕紀も岩瀬から伝え聞いただけだったので朝香が初めて絵梨本人と対峙したと知り、「おっ」と両目を大きく開かせ
「へぇ~……どんな感じだったの? 美人さんだった?」
朝香に絵梨のビジュアル面を訊いてきた。
「美人……でしたよ」
朝香は数日前に見た絵梨の様子を思い起こしながら
「何というか……後ろ姿が皐月さんに特に似てて……妊婦さんになっても皐月さんに似てて綺麗だなぁって、思いました」
と、感想を正直に伝える。
「そっかぁ~」
朝香の顔を見ながら夕紀は意味深に頷き
「でも……なんかさぁ、そんな当て付けたみたいな行動とっちゃって。今の状況だっていくらでも言い換えられるのにわざわざ『シングルマザーで頑張る』って庇護欲誘うよないな宣言しちゃうなんてさ、亮輔くんに未練ありまくりなんじゃない? だってそのまま亮輔くんと付き合い続いていたら念願の『笠原グループ御曹司の彼女』になれていたわけでしょ?」
眉間に皺を寄せながら私見を述べる。
大学カフェテリアの騒動から半年近く経過していたが「笠原グループ御曹司の彼女」という謎の肩書きのみで自慢の「雨上がりブレンド」を貶めた件は流石の夕紀も許してはいないらしい。
「まぁそうですけど、彼はもう御曹司じゃないですし。あの時だって玄川絵梨さんとお付き合いしてる男性がそのような法螺を吹いてたってだけなんで」
「笠原グループじゃなくても、上原をちゃんと調べれば少なくとも資産家一族って事も分かった筈なのよ。
ただ付き合いが上手くいかなかったってだけで亮輔くんを手放してキャンパス内に事実でない『野獣』の噂を広めたツケが回ってきただけ。自業自得だと私は思うけどね。もしかしたら退学届を出すタイミングまで計画済みだったんじゃない? だって朝香ちゃんと亮輔くんが毎回同じ時間に図書館で待ち合わせてキャンパスを出るところは学生に知られているわけでしょ?」
夕紀は穿った見方もしているようだが
「いや~……そこは偶然出会したと思いたいんですけどね」
絵梨がストーカーじみた行動までは取っていないのではないかと思いたい。朝香も亮輔も「絵梨が退学届を出しているところを偶然見かけた」という認識でいるのだ。
「亮輔くんにはさ、『そんなに気に病まなくていいよ』って言ってあげたら良いんじゃないかなぁ。亮輔くんが絵梨って子の性癖歪めて性に奔放になっただなんて単なる仮定の話であって確定事項じゃないんだもん」
夕紀はあくまで冷静な表情で朝香に助言する。
(夕紀さんはりょーくんが一時期女性とホテル行ってた事を知らないからそう言い切ってしまえるのかもしれないけど……)
朝香は夕紀の意見に全肯定までは出来なかった。亮輔の舌技は変態的で、未経験だった朝香を快感に狂わせたほどだったのだから。
(エッチ出来るようになった今でもりょーくんのペロペロは凄い……っていうか、今の方が情熱的かも)
昨夜のイチャイチャを思い出して耳を赤くする朝香に向かって
「朝香ちゃんはさ、絵梨の事が苦手なんでしょ。大っ嫌いなんでしょ」
夕紀は朝香の胸元を指差しながらそのように言い切る。
「へ……?」
思わず狼狽える朝香に対し
「さっき私にしてくれた話の端々に、朝香ちゃんの黒い心がチラ見えしてたからね。間違いない!」
夕紀はそう断言する。
「大っ嫌い……」
自分でも意識した事のなかった「大っ嫌い」の言葉に朝香はビックリしてしまったのだが……
「亮輔くんの入学時期に合わせて悪い噂を流した絵梨もそれなりに嫉妬心強め且つ未練タラタラではあるんだろうし、笠原グループの御曹司なんて嘘に簡単に騙されたのは絵梨1人が悪いんであって亮輔くんは関係ないじゃない? 性に奔放になって自暴自棄なエッチを絵梨がしまくったっていうのだって同じ論理で亮輔くんの所為にはならないのよ。
朝香ちゃんと亮輔くんとのラブラブイチャイチャを見続けて嫉妬を拗らせて自爆したんだと私は思うし、本当は朝香ちゃんだって分かってるんじゃない? 本当はムカムカしてたまらないんじゃないかしら。
絵梨のビジュアルが皐月にどの程度似てるのか知らないけど、朝香ちゃんが話してくれた『妊婦さんになっても皐月さんに似てて綺麗だなぁ』の部分がいつもの朝香ちゃんっぽくなかったからね」
「っ!!」
優しい口調だが心をズバンと撃ち抜く夕紀さんの言葉に、朝香は唇をキュッとつぐんでしまう。
しばらくして、夕紀が戻ってきた。
「おかえりなさい夕紀さん、カップや器具の片付け終わってます」
洗浄と拭き上げをし終えたところだったので、明るい声で夕紀に伝えたつもりだったのだが……
「朝香ちゃん、亮輔くんの元気がなくて悩んでるでしょ?」
と、夕紀に言われ肩をつつかれる。
「えっ? ええっと……それは」
図星だったので朝香は驚きを隠せないでいると
「だぁってさっき『フラワーショップ田上』で亮輔くんが朝香ちゃんとおんなじような表情をしていたんだもの。アレ、ハサミの扱いに緊張してたのが理由じゃないでしょ。田上くんも奥さんも心配そうに亮輔くんを見つめていたんだから」
「ええっ???! そんなに似てましたか?!」
夕紀さんはクスクス笑いながら「ほんと悩み方がソックリ! 双子みたいよ」と言いウンウンと頷いている。
「同棲スタートしたばかりでラブラブ絶好調だっていうのに、2人共悲壮感あふれる顔つきしてどうするのよっ! ハロウィンオーナメントを作ってきてくれたのは嬉しいけど、もっとハッピーでいてくれなくちゃ私達30代なんてどうしたら良いのよ」
「っ……」
夕紀さんの指摘に恥ずかしくなったものの「確かに」と納得せざるを得ない朝香。
「すみません……お気を遣わせてしまいまして」
そこまで心配されてしまっては仕方ない。朝香はその悩みの種を夕紀に話し始めた。
「ふーん……うちの雨上がりブレンドを腐した『絵梨』って子が妊娠して退学届を出したのねぇ」
「雨上がりブレンドの時は岩瀬さんから聞いただけだったんで絵梨さんに会ったのはこの前のが初めてだったんです」
夕紀も岩瀬から伝え聞いただけだったので朝香が初めて絵梨本人と対峙したと知り、「おっ」と両目を大きく開かせ
「へぇ~……どんな感じだったの? 美人さんだった?」
朝香に絵梨のビジュアル面を訊いてきた。
「美人……でしたよ」
朝香は数日前に見た絵梨の様子を思い起こしながら
「何というか……後ろ姿が皐月さんに特に似てて……妊婦さんになっても皐月さんに似てて綺麗だなぁって、思いました」
と、感想を正直に伝える。
「そっかぁ~」
朝香の顔を見ながら夕紀は意味深に頷き
「でも……なんかさぁ、そんな当て付けたみたいな行動とっちゃって。今の状況だっていくらでも言い換えられるのにわざわざ『シングルマザーで頑張る』って庇護欲誘うよないな宣言しちゃうなんてさ、亮輔くんに未練ありまくりなんじゃない? だってそのまま亮輔くんと付き合い続いていたら念願の『笠原グループ御曹司の彼女』になれていたわけでしょ?」
眉間に皺を寄せながら私見を述べる。
大学カフェテリアの騒動から半年近く経過していたが「笠原グループ御曹司の彼女」という謎の肩書きのみで自慢の「雨上がりブレンド」を貶めた件は流石の夕紀も許してはいないらしい。
「まぁそうですけど、彼はもう御曹司じゃないですし。あの時だって玄川絵梨さんとお付き合いしてる男性がそのような法螺を吹いてたってだけなんで」
「笠原グループじゃなくても、上原をちゃんと調べれば少なくとも資産家一族って事も分かった筈なのよ。
ただ付き合いが上手くいかなかったってだけで亮輔くんを手放してキャンパス内に事実でない『野獣』の噂を広めたツケが回ってきただけ。自業自得だと私は思うけどね。もしかしたら退学届を出すタイミングまで計画済みだったんじゃない? だって朝香ちゃんと亮輔くんが毎回同じ時間に図書館で待ち合わせてキャンパスを出るところは学生に知られているわけでしょ?」
夕紀は穿った見方もしているようだが
「いや~……そこは偶然出会したと思いたいんですけどね」
絵梨がストーカーじみた行動までは取っていないのではないかと思いたい。朝香も亮輔も「絵梨が退学届を出しているところを偶然見かけた」という認識でいるのだ。
「亮輔くんにはさ、『そんなに気に病まなくていいよ』って言ってあげたら良いんじゃないかなぁ。亮輔くんが絵梨って子の性癖歪めて性に奔放になっただなんて単なる仮定の話であって確定事項じゃないんだもん」
夕紀はあくまで冷静な表情で朝香に助言する。
(夕紀さんはりょーくんが一時期女性とホテル行ってた事を知らないからそう言い切ってしまえるのかもしれないけど……)
朝香は夕紀の意見に全肯定までは出来なかった。亮輔の舌技は変態的で、未経験だった朝香を快感に狂わせたほどだったのだから。
(エッチ出来るようになった今でもりょーくんのペロペロは凄い……っていうか、今の方が情熱的かも)
昨夜のイチャイチャを思い出して耳を赤くする朝香に向かって
「朝香ちゃんはさ、絵梨の事が苦手なんでしょ。大っ嫌いなんでしょ」
夕紀は朝香の胸元を指差しながらそのように言い切る。
「へ……?」
思わず狼狽える朝香に対し
「さっき私にしてくれた話の端々に、朝香ちゃんの黒い心がチラ見えしてたからね。間違いない!」
夕紀はそう断言する。
「大っ嫌い……」
自分でも意識した事のなかった「大っ嫌い」の言葉に朝香はビックリしてしまったのだが……
「亮輔くんの入学時期に合わせて悪い噂を流した絵梨もそれなりに嫉妬心強め且つ未練タラタラではあるんだろうし、笠原グループの御曹司なんて嘘に簡単に騙されたのは絵梨1人が悪いんであって亮輔くんは関係ないじゃない? 性に奔放になって自暴自棄なエッチを絵梨がしまくったっていうのだって同じ論理で亮輔くんの所為にはならないのよ。
朝香ちゃんと亮輔くんとのラブラブイチャイチャを見続けて嫉妬を拗らせて自爆したんだと私は思うし、本当は朝香ちゃんだって分かってるんじゃない? 本当はムカムカしてたまらないんじゃないかしら。
絵梨のビジュアルが皐月にどの程度似てるのか知らないけど、朝香ちゃんが話してくれた『妊婦さんになっても皐月さんに似てて綺麗だなぁ』の部分がいつもの朝香ちゃんっぽくなかったからね」
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