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番外編
蒼き少年4
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「ハロウィンシーズンが過ぎたらクリスマスオーナメントって、亮輔くんったらマメねぇ」
「『またハサミを自分で扱えるようになったから気合い入っちゃった』って言ってました。あと、もうコンビニは閉めちゃってクリスマスの飾りはしないから……とも言ってましたね」
「でもなんか申し訳ないわね~ウチばっかり可愛らしくしてもらってる感じがして」
営業時間が終わったばかりの10月31日。
『雨上がり珈琲店』ではオーナメントの取り替え作業を行なっている。
脚立を持ってきて夕紀が吊るし飾りを外し、朝香がキャッチしながらそのような会話を続けていると
「あのぉ……こんばんは」
シャッターをまだ降ろしていなかったせいか、店内出入り口から男の子の声が聞こえた。
2人同時に振り向くと若い男の子が恐る恐る声を掛けていて
「えっと……?」
「蒼くん、だよね?」
土曜の朝に見かけるようになった高校生アルバイトの阪井蒼だと気付き朝香が先に名を確認した。
「あ、はい……そう、です」
蒼はおずおずとした様子で会釈し、天井へと目線を向けて
「上原先生に言われて……飾り付けのお手伝いをしに来ました。女性2人では大変でしょうから」
と、こちらへやって来た理由を述べる。
「えっ……? あっ……? あ、ああ……ん??」
夕紀はピンと来ていないようだったので
「りょーくんは蒼くんの家庭教師もしてるんですよ、今」
と、小声で朝香がフォローを入れ
「わざわざ来てくれてありがとう。私だけちっちゃいから助かります」
蒼の方へと駆け寄り中に入るよう促す。
「いえ……おれも、先生が作ったものを間近で見てみたいっていうのもあって」
はにかみながら話す蒼の表情は男性と呼ぶにはまだあどけなく
(微笑しいなぁ……)
ほんわかとした気分になる。
「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな。脚立のぼるの平気?」
状況理解した夕紀は脚立を降りながら蒼にニコッと微笑みかける。
「はい! 高いところ割と得意ですっ!!」
店主に受け入れてくれたのが嬉しかったのか、蒼の声は溌剌としたものになり、ペコッと可愛らしくお辞儀したので
「それならお願いするわね。私、他の作業しとくから」
夕紀は朝香と蒼に飾り付け作業を任せる判断を下した。
「良かったね蒼くん、うちのマスターって他人に仕事任せるの苦手なところあるから」
夕紀がカウンターへと向かうのを確認した上で、朝香がトコトコと脚立に近付いてきた蒼へコソッと内緒話をすると
「それ、先生にも言われました。『責任感が一際強いマスターだから手伝い断られるかも』って」
蒼も小声で返答する。
「そっかぁ」
だからさっきおすおずとしてたのか……と、朝香も納得した。
「あっ、そうだ。奥さんから村川朝香さんに伝言あるんです……『ポンチョのプレゼントありがとうございます』とのことです」
作業再開しようとした時、蒼がハッとした顔つきになって言付かっていたらしい内容を朝香だけに聞こえる大きさで伝えてきた。
(そうだ……奥さんとはなかなか会えてなかったから)
この前蒼の紹介をしに来店してくれたが産後なので無理が出来ない。あの日以来確かに会えてなかったので蒼に伝言を頼んだ気持ちも分かる。
(出産のお祝い、私の方も渡すの少し遅れちゃって申し訳ないって思ってたところだったのに奥さんったらお礼の言葉言えてないって気にしてくれてたんだなぁ)
ちなみに出産祝いは亮輔と朝香それぞれが個人的に渡している。朝香は乳児から2歳くらいまで使えるお出かけ用ポンチョで亮輔は布製絵本をプレゼントに選んでいた。
「私も会えた時に直接言うつもりだけど『どういたしまして』って、伝えてくださいね」
「はいっ!」
小声で会話し合い、互いにニコッと微笑み合う。
(『フラワーショップ田上』に新しく入ったバイトくん、いい子そうで本当に良かったなぁ)
「良い子」というのは土曜朝のミニブーケ配達で感じてはいたが、今日こうして会話を交わして良かったと朝香は感じる。
夏の始まりでは健人がバイト募集チラシの内容を夕紀に相談したり、見知った亮輔をお試し採用したりして慎重になっていたのを知っていたので阪井蒼の人柄の良さに胸を撫で下ろしていた。
「蒼くんありがとう」
「では、また土曜日によろしくお願いします!」
おかげで作業はすぐに終わり、蒼は自転車に跨り颯爽と帰っていく。
その様子を見送った朝香は、夕紀の方へと向き直り
「夕紀さん、シャッター閉めますね」
と呼び掛け、締め作業に本腰を入れた。
「ねぇ、朝香ちゃん」
シャッターを閉め、勝手口からまた店内へと戻ってきたところで夕紀に呼び止められる。
「……どうしたんですか?」
その表情がニコニコとはしていなかったので、朝香は首を傾げ夕紀の立ち位置へと歩み寄った。
「奥さんが阪井蒼くんを採用した気持ちは凄く良く分かるんだ……奥さんって、皐月とか亮輔くんとか……所謂訳アリな学生を放っておかないから。本来ならもっと長い時間勤務出来そうな大人を採用すべきなのにわざわざ高校生ってところがらしいのよね」
夕紀はしんみりとした表情で花屋のある方角へと顔を向けている。
「あっ……」
「阪井蒼くんがどんな子かは田上夫婦から敢えて聞いてないんだけど……多分、そういう事情があるんでしょ?」
「……」
朝香も亮輔から又聞きしているだけなのだが、夕紀の問いに否定せず首振りだけで反応する。
「ハロウィンシーズンが過ぎたらクリスマスオーナメントって、亮輔くんったらマメねぇ」
「『またハサミを自分で扱えるようになったから気合い入っちゃった』って言ってました。あと、もうコンビニは閉めちゃってクリスマスの飾りはしないから……とも言ってましたね」
「でもなんか申し訳ないわね~ウチばっかり可愛らしくしてもらってる感じがして」
営業時間が終わったばかりの10月31日。
『雨上がり珈琲店』ではオーナメントの取り替え作業を行なっている。
脚立を持ってきて夕紀が吊るし飾りを外し、朝香がキャッチしながらそのような会話を続けていると
「あのぉ……こんばんは」
シャッターをまだ降ろしていなかったせいか、店内出入り口から男の子の声が聞こえた。
2人同時に振り向くと若い男の子が恐る恐る声を掛けていて
「えっと……?」
「蒼くん、だよね?」
土曜の朝に見かけるようになった高校生アルバイトの阪井蒼だと気付き朝香が先に名を確認した。
「あ、はい……そう、です」
蒼はおずおずとした様子で会釈し、天井へと目線を向けて
「上原先生に言われて……飾り付けのお手伝いをしに来ました。女性2人では大変でしょうから」
と、こちらへやって来た理由を述べる。
「えっ……? あっ……? あ、ああ……ん??」
夕紀はピンと来ていないようだったので
「りょーくんは蒼くんの家庭教師もしてるんですよ、今」
と、小声で朝香がフォローを入れ
「わざわざ来てくれてありがとう。私だけちっちゃいから助かります」
蒼の方へと駆け寄り中に入るよう促す。
「いえ……おれも、先生が作ったものを間近で見てみたいっていうのもあって」
はにかみながら話す蒼の表情は男性と呼ぶにはまだあどけなく
(微笑しいなぁ……)
ほんわかとした気分になる。
「じゃあ、せっかくだからお願いしようかな。脚立のぼるの平気?」
状況理解した夕紀は脚立を降りながら蒼にニコッと微笑みかける。
「はい! 高いところ割と得意ですっ!!」
店主に受け入れてくれたのが嬉しかったのか、蒼の声は溌剌としたものになり、ペコッと可愛らしくお辞儀したので
「それならお願いするわね。私、他の作業しとくから」
夕紀は朝香と蒼に飾り付け作業を任せる判断を下した。
「良かったね蒼くん、うちのマスターって他人に仕事任せるの苦手なところあるから」
夕紀がカウンターへと向かうのを確認した上で、朝香がトコトコと脚立に近付いてきた蒼へコソッと内緒話をすると
「それ、先生にも言われました。『責任感が一際強いマスターだから手伝い断られるかも』って」
蒼も小声で返答する。
「そっかぁ」
だからさっきおすおずとしてたのか……と、朝香も納得した。
「あっ、そうだ。奥さんから村川朝香さんに伝言あるんです……『ポンチョのプレゼントありがとうございます』とのことです」
作業再開しようとした時、蒼がハッとした顔つきになって言付かっていたらしい内容を朝香だけに聞こえる大きさで伝えてきた。
(そうだ……奥さんとはなかなか会えてなかったから)
この前蒼の紹介をしに来店してくれたが産後なので無理が出来ない。あの日以来確かに会えてなかったので蒼に伝言を頼んだ気持ちも分かる。
(出産のお祝い、私の方も渡すの少し遅れちゃって申し訳ないって思ってたところだったのに奥さんったらお礼の言葉言えてないって気にしてくれてたんだなぁ)
ちなみに出産祝いは亮輔と朝香それぞれが個人的に渡している。朝香は乳児から2歳くらいまで使えるお出かけ用ポンチョで亮輔は布製絵本をプレゼントに選んでいた。
「私も会えた時に直接言うつもりだけど『どういたしまして』って、伝えてくださいね」
「はいっ!」
小声で会話し合い、互いにニコッと微笑み合う。
(『フラワーショップ田上』に新しく入ったバイトくん、いい子そうで本当に良かったなぁ)
「良い子」というのは土曜朝のミニブーケ配達で感じてはいたが、今日こうして会話を交わして良かったと朝香は感じる。
夏の始まりでは健人がバイト募集チラシの内容を夕紀に相談したり、見知った亮輔をお試し採用したりして慎重になっていたのを知っていたので阪井蒼の人柄の良さに胸を撫で下ろしていた。
「蒼くんありがとう」
「では、また土曜日によろしくお願いします!」
おかげで作業はすぐに終わり、蒼は自転車に跨り颯爽と帰っていく。
その様子を見送った朝香は、夕紀の方へと向き直り
「夕紀さん、シャッター閉めますね」
と呼び掛け、締め作業に本腰を入れた。
「ねぇ、朝香ちゃん」
シャッターを閉め、勝手口からまた店内へと戻ってきたところで夕紀に呼び止められる。
「……どうしたんですか?」
その表情がニコニコとはしていなかったので、朝香は首を傾げ夕紀の立ち位置へと歩み寄った。
「奥さんが阪井蒼くんを採用した気持ちは凄く良く分かるんだ……奥さんって、皐月とか亮輔くんとか……所謂訳アリな学生を放っておかないから。本来ならもっと長い時間勤務出来そうな大人を採用すべきなのにわざわざ高校生ってところがらしいのよね」
夕紀はしんみりとした表情で花屋のある方角へと顔を向けている。
「あっ……」
「阪井蒼くんがどんな子かは田上夫婦から敢えて聞いてないんだけど……多分、そういう事情があるんでしょ?」
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朝香も亮輔から又聞きしているだけなのだが、夕紀の問いに否定せず首振りだけで反応する。
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