【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか？

番外編

温もりを求めて（亮輔side）3

《きみには未来があるの》
———行き倒れない程度に生きるつもりで、未来に失望していた。

《私ではない誰かを、絶対に絶対に好きになって》
———絶対に恋をしないと思っていた。

《幸せになってね》
———「幸せ」だなんて、この先感じる経験はないと信じきっていた。


　だが……それでも心のどこかで温もりを求めていたし、温もりを分け与える行為に羨望の念を抱いていた。





（まさかこんなに早く手に入れられるなんて……）


　身綺麗になった身体で、眠る朝香の頬に触れる。

　スゥスゥと寝息を立てる彼女の愛らしさに思わず頬の筋肉が弛む。

（俺にも未来があった……皐月さんよりも好きな人を見つけられて、幸せになれてる）

　そんなのあるわけがないと、数度否定した「皐月の願い」の通りになった。

（あったかいなぁ）

　再び朝香の隣に潜り込み、瞼を閉じる。

（求めてた温もりだ……）　

　自然と、涙が伝う。

（もう手放せない……ずっと捕まえておきたい……ずっとずっと離れないでいてほしいから）

　「朝香は俺のもの」という表現は使いたくない。けれど誰にも渡したくないし他の男に掻っ攫われるような真似はしたくない……そのくらいの独占欲はある。

「あーちゃん」

　目を覚さない程度に、亮輔は今夜も彼女に囁きをかけた。

「だいすきだよ……おやすみ」

　
　眠ると彼女に会えなくなる寂しさが募るが、今の亮輔には未来がある。目が覚めたらまた大好きな彼女に会えるという揺るぎないものがある。

　だから、亮輔は今生きられるのだ。







＊



　長らくコンビニで深夜勤務をしていたからか、亮輔の目覚めは早い。
　今日も朝6時前に目が覚めて、朝香の寝顔が視界いっぱいに広がる。

「あーちゃん♡」

　ここに彼女と2人で暮らすようになって以来、亮輔は欠かさず微睡の彼女に名を呼び掛けている。

「今日は何食べたい？　買ってきてあげる」

　それは常に温もりを与え続けてくれている朝香への、お返しのつもりだ。

「ん……」
「何がいい？」

　「何食べたい？」と問うと、彼女は必ず一つ食べ物の名を発する。

「おむしゅみ」

　幼児のような口調で返してくれるのがたまらなく可愛いと感じるし

「おむすびね、りょーかい♪」

　彼女の為ならなんだってしてあげたい気持ちがより強くなる。

　満面の笑みで衣服で身を包み、マンションの間近に位置する24時間営業のスーパーへと駆け込んだ。

（昨日は「にゅうにゅう」、一昨日は「しゅくりむ」……どれも可愛いんだけど先週の「ぶっといの」は最高に面白可愛かったなぁ♡　店で一番ぶっといソーセージ探すの楽しかった♪）

　嫌われたくないので、朝香には変態行為をなるべく強いるつもりはないのだが「ぶっといの」を要求してきた日はソーセージを懸命に頬張る朝香の表情を想像しながら買い物に出掛けたし、実際その日の夜はこちらの欲望を満たすべく追加のソーセージを長時間提供させるというギリギリなプレイに興じてしまった。

（さてと……中身は何にしようかな。あーちゃん好き嫌いないから選び放題だ）

　ちなみに今朝は爽やかな気持ちで買い物をする予定である。

（俺も何にしようかなぁ）

　一瞬だけ手巻きの納豆に目線を向けてしまったが、すぐにかぶりを振って三角おにぎりの陳列に顔を向き直した。
　朝香からの指令内容は忠実に守る……これが亮輔にとって重要なポイントであり、これからも続けていきたいモーニングルーティンの一つなのだから。