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番外編
この姿にサヨナラを(亮輔side)1
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「実家帰って前撮り写真撮影!?」
いつものように朝香と一緒に夕食を食べていると、週末実家へ帰る話を聞かされ驚く。
「そう、二十歳のなんとかってヤツ。着物苦手だから式典当日はスーツでもいいかなーなんて思っていたんだけど、お母さんと夕紀さんが『成人式の振袖は着ないと絶対後悔するよ』ってうるさくて」
かつて成人式と呼ばれていた式典は、自治体によってそれぞれ名を変え従来通りの形式で行われるケースが多いらしい。
(そういえばそんなものあったな……)
朝香がその話題に触れなければ亮輔は存在を忘れていたまま過ごしていただろう。
(俺は興味ないけど、温かいご家庭で生まれ育ったあーちゃんにとっては大事だよなぁ)
自分はそんなもの不要と感じているが朝香の場合はそうもいかない。まして女の子は振袖を着る良い機会となるわけで「着ないと後悔する」の意見も理解出来る。
「ご両親だけでなくお姉さんにも説得されたのなら帰省しなくちゃね」
彼女の師匠である遠野夕紀は苦労人で、20歳当時は夕紀の妹である遠野皐月との生活の為に朝も夜も掛け持ちしながら働いていたそうだ。なので式典に行く余裕は全くなかったらしい。
そして皐月が20歳の時の夕紀はちょうど朝香の実家で珈琲の修行に邁進しており、実の妹の振袖代を仕送りしただけでその姿を見る事も出来なかったと聞く。
(皐月さんはきっとお金だけ受け取って振袖は着なかったんじゃないかなぁ俺もそういう話題を聞かなかったし)
亮輔は唯一遠野皐月さんが20歳の頃を知っている人物であるけれど、仕送りした姉の願いは恐らく叶えられなかったんじゃないかと予想していた。何故なら当時の皐月はDV彼氏の支配下にあったのだから。
(となると、あーちゃんに振袖着てもらいたいって願うのも分かる……)
夕紀は振袖姿になった事もなければ、実妹の振袖姿を目にしていない。となると「妹のように思っている弟子」である朝香に艶やかな振袖を着てもらいたいと気持ちを寄せてしまうのは納得してしまう。
(着物姿のあーちゃん、絶対に可愛いだろうし)
「お母さんは『成人式に振袖着たからこその意見』で夕紀さんは『そもそも成人式行く暇なかったからこその意見』。ダブルで説得されたら写真撮らないわけにいかないもん。前撮り写真も本当はもうちょっと早くにしてた方が良かったらしいんだけどギリギリ土日に帰って来いって言われちゃったぁ」
朝香としてはこの時期に実家帰省するのは想定外だったらしい。なんだか乗り気ではなさそうだ。
「まぁ急で正直寂しいけど良いんじゃない? あーちゃんのご両親もさ、テレビ出演の時に会えなかった分寂しい思いしてただろうし、振袖姿のあーちゃん可愛いと思うよ!」
「そうかなぁ」
亮輔の「可愛いと思う」の意見に朝香は照れていてる。
(反応がめちゃくちゃ可愛い♡ 実家帰るのが面倒っていうだけで、前撮り写真そのものは満更でもなさそうだな)
「写真出来たら俺にも絶対に見せてね! 式典当日も実家帰るんだよね?」
「そうだねーこっちでするわけにはいかないなぁ……りょーくんのカッコいいスーツ姿も見たいけど」
(うっ……可愛い顔でドキッとするような台詞ポンッて気軽に出しちゃうんだよなぁたまんないよマジで)
大好きだからこそ余計にそう思ってしまうのだが、朝香は罪作りだとつくづく思う。
「男のスーツなんて大したことないって! そもそも俺は式典も同窓会も興味ないし行くつもりないよ」
(笠原は俺が成人してるかどうかなんて全く興味がないだろうし、俺もわざわざスーツを着込んで会いに行くなんて身を削るような真似したくないんだよなぁ上原一家は俺のスーツ姿を褒めてくれそうだけど……金髪パーマの頭でスーツ着て式典行くってのがそもそも)
俊哉だけでなく、俊哉の母も姉も現在の亮輔のビジュアルに慣れているから苦言を呈してこないが、スーツを着て式典に出るとなると黙ってくれないかもしれない。
(タッパデカくて金髪ロン毛パーマがスーツ着たら誰も真面目大学生だなんて見てくれないだろうし)
籍を移したとはいえ、亮輔の地元は「笠原の次男」として見てくる。そんな視線に耐えられる自信もなかった。
「行くつもりないからこそ余計にあーちゃんの振袖写真に興味ある! 写真撮影も当日も頑張って!」
夕紀と皐月が成人式へ行かなかった理由と亮輔の理由は意味合いが全く異なる。
朝香は不穏な表情を亮輔に向けてきたけれど敢えてそこには触れず、彼女が哀しみの想いを抱かないようなるべく明るい口調でそう元気付けてあげた。
「実家帰って前撮り写真撮影!?」
いつものように朝香と一緒に夕食を食べていると、週末実家へ帰る話を聞かされ驚く。
「そう、二十歳のなんとかってヤツ。着物苦手だから式典当日はスーツでもいいかなーなんて思っていたんだけど、お母さんと夕紀さんが『成人式の振袖は着ないと絶対後悔するよ』ってうるさくて」
かつて成人式と呼ばれていた式典は、自治体によってそれぞれ名を変え従来通りの形式で行われるケースが多いらしい。
(そういえばそんなものあったな……)
朝香がその話題に触れなければ亮輔は存在を忘れていたまま過ごしていただろう。
(俺は興味ないけど、温かいご家庭で生まれ育ったあーちゃんにとっては大事だよなぁ)
自分はそんなもの不要と感じているが朝香の場合はそうもいかない。まして女の子は振袖を着る良い機会となるわけで「着ないと後悔する」の意見も理解出来る。
「ご両親だけでなくお姉さんにも説得されたのなら帰省しなくちゃね」
彼女の師匠である遠野夕紀は苦労人で、20歳当時は夕紀の妹である遠野皐月との生活の為に朝も夜も掛け持ちしながら働いていたそうだ。なので式典に行く余裕は全くなかったらしい。
そして皐月が20歳の時の夕紀はちょうど朝香の実家で珈琲の修行に邁進しており、実の妹の振袖代を仕送りしただけでその姿を見る事も出来なかったと聞く。
(皐月さんはきっとお金だけ受け取って振袖は着なかったんじゃないかなぁ俺もそういう話題を聞かなかったし)
亮輔は唯一遠野皐月さんが20歳の頃を知っている人物であるけれど、仕送りした姉の願いは恐らく叶えられなかったんじゃないかと予想していた。何故なら当時の皐月はDV彼氏の支配下にあったのだから。
(となると、あーちゃんに振袖着てもらいたいって願うのも分かる……)
夕紀は振袖姿になった事もなければ、実妹の振袖姿を目にしていない。となると「妹のように思っている弟子」である朝香に艶やかな振袖を着てもらいたいと気持ちを寄せてしまうのは納得してしまう。
(着物姿のあーちゃん、絶対に可愛いだろうし)
「お母さんは『成人式に振袖着たからこその意見』で夕紀さんは『そもそも成人式行く暇なかったからこその意見』。ダブルで説得されたら写真撮らないわけにいかないもん。前撮り写真も本当はもうちょっと早くにしてた方が良かったらしいんだけどギリギリ土日に帰って来いって言われちゃったぁ」
朝香としてはこの時期に実家帰省するのは想定外だったらしい。なんだか乗り気ではなさそうだ。
「まぁ急で正直寂しいけど良いんじゃない? あーちゃんのご両親もさ、テレビ出演の時に会えなかった分寂しい思いしてただろうし、振袖姿のあーちゃん可愛いと思うよ!」
「そうかなぁ」
亮輔の「可愛いと思う」の意見に朝香は照れていてる。
(反応がめちゃくちゃ可愛い♡ 実家帰るのが面倒っていうだけで、前撮り写真そのものは満更でもなさそうだな)
「写真出来たら俺にも絶対に見せてね! 式典当日も実家帰るんだよね?」
「そうだねーこっちでするわけにはいかないなぁ……りょーくんのカッコいいスーツ姿も見たいけど」
(うっ……可愛い顔でドキッとするような台詞ポンッて気軽に出しちゃうんだよなぁたまんないよマジで)
大好きだからこそ余計にそう思ってしまうのだが、朝香は罪作りだとつくづく思う。
「男のスーツなんて大したことないって! そもそも俺は式典も同窓会も興味ないし行くつもりないよ」
(笠原は俺が成人してるかどうかなんて全く興味がないだろうし、俺もわざわざスーツを着込んで会いに行くなんて身を削るような真似したくないんだよなぁ上原一家は俺のスーツ姿を褒めてくれそうだけど……金髪パーマの頭でスーツ着て式典行くってのがそもそも)
俊哉だけでなく、俊哉の母も姉も現在の亮輔のビジュアルに慣れているから苦言を呈してこないが、スーツを着て式典に出るとなると黙ってくれないかもしれない。
(タッパデカくて金髪ロン毛パーマがスーツ着たら誰も真面目大学生だなんて見てくれないだろうし)
籍を移したとはいえ、亮輔の地元は「笠原の次男」として見てくる。そんな視線に耐えられる自信もなかった。
「行くつもりないからこそ余計にあーちゃんの振袖写真に興味ある! 写真撮影も当日も頑張って!」
夕紀と皐月が成人式へ行かなかった理由と亮輔の理由は意味合いが全く異なる。
朝香は不穏な表情を亮輔に向けてきたけれど敢えてそこには触れず、彼女が哀しみの想いを抱かないようなるべく明るい口調でそう元気付けてあげた。
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