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番外編
この姿にサヨナラを(亮輔side)3
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あっという間に金曜日を迎えた。朝香とは朝の挨拶をしたっきりで、次に会うのは日曜日の夜となる。
(あ~あ、授業なんか休んで見送り行けば良かった……)
好んで受講しているのでのっぴきならない理由でない限りは休みたくない。けれど今日は朝から身に入らずノートが上手く取れておらず、一緒に受けている藤井智樹が「俺の方がよく書けてんじゃん!」と驚くほどだ。
「おいおい大丈夫かよ上原ぁ。今日の分、俺のノートコピーしよっか?」
いつもなら亮輔のコピーをいの一番に欲しがる智樹は、亮輔の背中をポンポンしながら図書館へ連れて行こうとする。
「ん……なんか、すまん」
「え~? なぁに? 具合悪いの?」
「いやぁ……別にそんなんじゃないんだけど」
「彼女と数日会えないから」が理由なのだが、それをそのまま智樹に伝えるべきか悩む亮輔。
(コイツは揶揄ったり周りに言いふらしたりはしないんだろうけど)
共に学ぶようになって早や半年。
智樹は「亮輔のノートがもらえるから取り敢えずつるんでる」といった打算的な考えを持つ人間ではなく、至って友好的に接してくれている。
入学当初騒がれていた「野獣」の噂を本気で受け取らず亮輔の中身をちゃんと見てくれていたし、朝香と図書館で待ち合わせて一緒に帰宅する関係になった頃からずっと亮輔の恋の応援をしてくれていた。後期授業が始まった時に「付き合えるようになった」と伝えたら自分のことのように喜んでくれたし、家庭教師のバイトに興味がある話をしたら親身になってくれたし……亮輔にとっては掛け替えのない存在となっていた。
(でもなぁ……そんなちっこい理由で落ち込んでるのを知られるのもなんか恥ずかしい)
まして智樹は「彼女いない歴イコール年齢!」「生粋のチェリーボーイ!!」と大声で堂々と公言してしまえるちょっと変わった人物故に、「彼女いなくてさみしい」を漏らしたらどんなリアクションを取られるのか分からないのだ。RPGプレイ中も“何が起きるか分からない呪文“には触らず避けてきた性格なので、理由については内緒のままにしておいた方が得策だと亮輔は考えている。
「あっ、そうそう! 明日は予約何時からだったっけ?」
図書館コピールームで用事を済ませると、智樹が目をキラキラさせながら亮輔を見上げてきた。
「え? 明日? って、なんかあったっけ??」
相変わらずボヤーッとした頭でぼんやりと返答すると
「んもうっ! 明日はカリスマ美容師の店に一緒に行く約束しただろっ!! なんで覚えてないんだよ~!! まさか予約忘れたとか言わないよね?!」
と、頬を膨らませた智樹が地団駄を踏んでいる。
「カリスマ美容師……?」
(なんだその古めかしい呼び方は……)
全くピンときていなかったのだが……すぐに
「ああ! ユタカさんの店か!」
定期的に髪のメンテナンスをしてもらっている美容室へ土曜日智樹と一緒に行く話になっていた事を思い出した。
「そーそー! その、ユタカさんっ! アシスタントのミドリって女の子が可愛いって噂のっ!!」
「ああ……えっと、13時予約だよ。ちゃんと2人分予約になってるから大丈夫」
スマホを取り出して予約日時を確認し、智樹に伝えると
「良かった~ちゃんと予約されてたっ」
智樹はオーバーリアクションなくらいに胸を撫で下ろす仕草をして
「13時な! おけ!! 場所分かんないから15分くらい前に駅待ち合わせとく?」
と、上機嫌で明日の予定を詰めていく。
「そうだなぁ……ユタカさんの店は商店街から外れてるけど駅から徒歩10分かかるかどうかってとこだし。それでいいと思う」
亮輔が頷いたのを目視した智樹は鼻息をフンッと鳴らして
「わぁ~! 期待高まるぅ~~~!! んじゃ、また明日な!!」
数秒間だけ謎の足踏みをバタバタした後、走って図書館を出て行ってしまった。
「…………エネルギー有り余ってんなぁアイツ」
亮輔が大人し過ぎるのか、それとも智樹が幼いのか。一歳しか年齢が違わないとは思えないくらいに感情表現が豊かで時々引いてしまうのだが、悪いヤツではないのだ。おかげで明日美容室の予約を思い出せたし、朝香が居ない時間を予定で少しでも埋められていたのだとホッとする。
(帰るか……)
亮輔はそのまま1人静かに正門をくぐって駅まで向かう。
(いつものメンテナンスを頼もうと予約したとはいえ……どうしようか)
車両に揺られながら考えるのは自分のヘアスタイルの問題。
4年以上、後頭部の切り傷が目立たないような金髪ウェーブを作ってもらっていたのだが、夕紀と和解し朝香と心を通わせた現在「目立たない」の理由付けを失ってしまっている。
(わざわざ金髪やパーマをキープする必要がなくなってきてるもんなぁ)
今のヘアスタイルに疑問を持つきっかけの一つが、朝香から振袖前撮り写真の話題が出た時であった。
(別にスーツ着て式典に出ようとは思ってないんだけど……でもまぁ……これからもずっと可憐なあーちゃんの隣に居たいし)
朝香には「向日葵さん」と呼ばれて好意的に捉えてもらっていたようだが、周囲を寄せ付けたくなくて始めた金髪ウェーブヘアはコンビニでも大学でもあまり好ましく思われておらず、ライオンだの野獣だの猛獣のイメージを植え付けてしまっていた。
(あーちゃんに似合う男になりたい……)
朝香と身長差が35㎝もあってただでさえ不釣り合いに感じているというのに威圧感のある自分のヘアスタイル。
これを変える時がやってきたのかもしれない……と、亮輔は大きく悩むのであった。
あっという間に金曜日を迎えた。朝香とは朝の挨拶をしたっきりで、次に会うのは日曜日の夜となる。
(あ~あ、授業なんか休んで見送り行けば良かった……)
好んで受講しているのでのっぴきならない理由でない限りは休みたくない。けれど今日は朝から身に入らずノートが上手く取れておらず、一緒に受けている藤井智樹が「俺の方がよく書けてんじゃん!」と驚くほどだ。
「おいおい大丈夫かよ上原ぁ。今日の分、俺のノートコピーしよっか?」
いつもなら亮輔のコピーをいの一番に欲しがる智樹は、亮輔の背中をポンポンしながら図書館へ連れて行こうとする。
「ん……なんか、すまん」
「え~? なぁに? 具合悪いの?」
「いやぁ……別にそんなんじゃないんだけど」
「彼女と数日会えないから」が理由なのだが、それをそのまま智樹に伝えるべきか悩む亮輔。
(コイツは揶揄ったり周りに言いふらしたりはしないんだろうけど)
共に学ぶようになって早や半年。
智樹は「亮輔のノートがもらえるから取り敢えずつるんでる」といった打算的な考えを持つ人間ではなく、至って友好的に接してくれている。
入学当初騒がれていた「野獣」の噂を本気で受け取らず亮輔の中身をちゃんと見てくれていたし、朝香と図書館で待ち合わせて一緒に帰宅する関係になった頃からずっと亮輔の恋の応援をしてくれていた。後期授業が始まった時に「付き合えるようになった」と伝えたら自分のことのように喜んでくれたし、家庭教師のバイトに興味がある話をしたら親身になってくれたし……亮輔にとっては掛け替えのない存在となっていた。
(でもなぁ……そんなちっこい理由で落ち込んでるのを知られるのもなんか恥ずかしい)
まして智樹は「彼女いない歴イコール年齢!」「生粋のチェリーボーイ!!」と大声で堂々と公言してしまえるちょっと変わった人物故に、「彼女いなくてさみしい」を漏らしたらどんなリアクションを取られるのか分からないのだ。RPGプレイ中も“何が起きるか分からない呪文“には触らず避けてきた性格なので、理由については内緒のままにしておいた方が得策だと亮輔は考えている。
「あっ、そうそう! 明日は予約何時からだったっけ?」
図書館コピールームで用事を済ませると、智樹が目をキラキラさせながら亮輔を見上げてきた。
「え? 明日? って、なんかあったっけ??」
相変わらずボヤーッとした頭でぼんやりと返答すると
「んもうっ! 明日はカリスマ美容師の店に一緒に行く約束しただろっ!! なんで覚えてないんだよ~!! まさか予約忘れたとか言わないよね?!」
と、頬を膨らませた智樹が地団駄を踏んでいる。
「カリスマ美容師……?」
(なんだその古めかしい呼び方は……)
全くピンときていなかったのだが……すぐに
「ああ! ユタカさんの店か!」
定期的に髪のメンテナンスをしてもらっている美容室へ土曜日智樹と一緒に行く話になっていた事を思い出した。
「そーそー! その、ユタカさんっ! アシスタントのミドリって女の子が可愛いって噂のっ!!」
「ああ……えっと、13時予約だよ。ちゃんと2人分予約になってるから大丈夫」
スマホを取り出して予約日時を確認し、智樹に伝えると
「良かった~ちゃんと予約されてたっ」
智樹はオーバーリアクションなくらいに胸を撫で下ろす仕草をして
「13時な! おけ!! 場所分かんないから15分くらい前に駅待ち合わせとく?」
と、上機嫌で明日の予定を詰めていく。
「そうだなぁ……ユタカさんの店は商店街から外れてるけど駅から徒歩10分かかるかどうかってとこだし。それでいいと思う」
亮輔が頷いたのを目視した智樹は鼻息をフンッと鳴らして
「わぁ~! 期待高まるぅ~~~!! んじゃ、また明日な!!」
数秒間だけ謎の足踏みをバタバタした後、走って図書館を出て行ってしまった。
「…………エネルギー有り余ってんなぁアイツ」
亮輔が大人し過ぎるのか、それとも智樹が幼いのか。一歳しか年齢が違わないとは思えないくらいに感情表現が豊かで時々引いてしまうのだが、悪いヤツではないのだ。おかげで明日美容室の予約を思い出せたし、朝香が居ない時間を予定で少しでも埋められていたのだとホッとする。
(帰るか……)
亮輔はそのまま1人静かに正門をくぐって駅まで向かう。
(いつものメンテナンスを頼もうと予約したとはいえ……どうしようか)
車両に揺られながら考えるのは自分のヘアスタイルの問題。
4年以上、後頭部の切り傷が目立たないような金髪ウェーブを作ってもらっていたのだが、夕紀と和解し朝香と心を通わせた現在「目立たない」の理由付けを失ってしまっている。
(わざわざ金髪やパーマをキープする必要がなくなってきてるもんなぁ)
今のヘアスタイルに疑問を持つきっかけの一つが、朝香から振袖前撮り写真の話題が出た時であった。
(別にスーツ着て式典に出ようとは思ってないんだけど……でもまぁ……これからもずっと可憐なあーちゃんの隣に居たいし)
朝香には「向日葵さん」と呼ばれて好意的に捉えてもらっていたようだが、周囲を寄せ付けたくなくて始めた金髪ウェーブヘアはコンビニでも大学でもあまり好ましく思われておらず、ライオンだの野獣だの猛獣のイメージを植え付けてしまっていた。
(あーちゃんに似合う男になりたい……)
朝香と身長差が35㎝もあってただでさえ不釣り合いに感じているというのに威圧感のある自分のヘアスタイル。
これを変える時がやってきたのかもしれない……と、亮輔は大きく悩むのであった。
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