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番外編
スープ1
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「あー……しんどいぃぃ」
バイト中に生理が来てしまった。
「朝香ちゃん、もう帰りなよ。今日は配達いいからゆっくり休んで」
青白い顔で辛そうにしている朝香を夕紀は心配してくれたのだが
「でも……夕紀さんを電車に乗せるわけにはいかないですしぃ」
「英美学院大学への配達は自分にしか出来ないのだから」と、首を左右に振り無理矢理出掛ける準備を始めてしまう。
「そんなの私が車で持って行けばいいんだから! もう帰りましょ!」
店主としてそんな無茶をさせるわけにはいかないのだろう、朝香を説得してなんとか帰らせようとしてきた。
「ううぅ……」
「マンションまで車で送ってあげるから。部屋に着いたら横になっておきなさいね」
夕紀は急いで出入り口の自動ドアをオフにして「店主しばらく不在」の札を掲げると、エプロンを外した朝香を夕紀の軽自動車に乗せエンジンをかける。
(夕紀さんが支度してる間にエアコン入れてあっためてくれてる……ありがたいなぁ)
この前のデート日以降、急な冷え込みがやってきて身体が冷えてしまったのも生理痛の要因になっているのだろう。後部座席に置かれている大判ブランケットを巻き付け暖房で車内が暖まっていくのを感じるだけで痛みが和らいでいっているような気がしてくる。
「さ、マンション向かうよ~!」
夕紀は10分もしないうちに運転席へ座り、すぐに連れ出してくれた。
「ありがとうございます夕紀さん……」
結局夕紀は玄関まで付き添ってくれ、ブランケットもそのまま借りる事となった。
「いいのいいの。亮輔くんに連絡入れておくから、朝香ちゃんはとにかく横になって。安静が一番よ」
夕紀に優しい言葉をかけてもらい、手を振り見送った後はフラフラとした足取りでベッドルームへと向かう。
(痛み止めのお薬、店で夕紀さんからもらったけどまだ痛いよぅ……)
夕紀があれだけ動いてくれているのだからと、言葉通り横になってスマホを伏せ目を閉じる。薬はあと数時間経過しないと飲めないので羽毛布団にくるまりながらジッとするしか対処法がない。
(あっ、源さんのお魚と初恵さんのお野菜受け取らずそのままになってないかな……初恵さんがなんとかしてくれるのかなぁ)
ジッとしていると余計な事ばかり考えてしまう。
(今日はりょーくん大好物の、鯛のお刺身なんだよね……ちゃんと受け取って食べさせてあげたかったなぁ)
こんな体調では生モノを食べる気になれない。けれど健康体の亮輔にとっては我慢を強いる羽目となってしまっただろう……朝香は何も出来ない自分をひたすらに悔やみ、涙を流す。
「情けないなぁ……」
「あーちゃんただいま。生理用品と使い捨てカイロの買い足ししておいたよ」
いつのまにか眠ってしまったらしく、再び目を覚ますとちょうどのタイミングで玄関側から亮輔の声が聞こえた。
「ぇ……」
羽毛布団に包まったまま上体を起こし
「りょーくんごめんね、生理用品買うとか恥ずかしい思いさせちゃって」
ベッドルームへやってきてくれた亮輔にペコッと頭を下げる。
「なーに言ってんの! 約束したでしょ? あーちゃんの体を守るのも彼氏としての仕事の一つなんだって」
亮輔は羽毛布団ごと朝香を優しく抱きとめながらそう言い返してくれた。
「ありがとうりょーくん」
朝香は感謝の言葉を呟きながら羽毛布団からゆっくり這い出ると
「あれっ? こっちの袋はもしかして源さんと初恵さんの??」
亮輔の指に掛かっているポリ袋から野菜らしきものが透けてみえたので朝香は驚きの声を出した。
「うん。お姉さんからメッセージきた時に『あーちゃん食材受け取れてないかも』って気付いてさ、さっきお金払ってきたんだ。今日のお魚は鯛のお刺身で、野菜はトマトとブロッコリーみたい。しかもブロッコリーは小房に分けられてて使いやすそうだよ」
りょーくんは嬉しそうにそう言い……それから
「だから今日は俺に全部任せて! あーちゃん起きれそう? 眠たくないならソファ連れて行ってあげる」
朝香を横抱きで持ち上げてベッドルームの引き戸を全開にさせた。
「えっ? りょーくん?! 任せてって何??」
ソファからダイニングキッチンへと目線を向けると、亮輔はやる気に満ちた表情でエプロンをキュッと身に付けている。
(えっ? まさかりょーくんがお料理してくれるとか??)
半信半疑であったがそのまさかだったらしく、亮輔が食材を鍋に投入する様子をシゲシゲと観察する。
「あっ、いい匂いがする♪」
しばらくしてまた腹部が痛んできたのでソファに横たわっていると、グツグツと鍋で煮込んでいる音やコンソメの良い香りがしてきて朝香の耳と鼻を喜ばせた。
ついさっきまでは亮輔が刃物を持って料理するなどという意外性にただただ驚くしかなかったというのに、今ではもう「りょーくんは何を作って私に提供してくれるんだろう?」と朝香を欲張りにさせていく。
「あー……しんどいぃぃ」
バイト中に生理が来てしまった。
「朝香ちゃん、もう帰りなよ。今日は配達いいからゆっくり休んで」
青白い顔で辛そうにしている朝香を夕紀は心配してくれたのだが
「でも……夕紀さんを電車に乗せるわけにはいかないですしぃ」
「英美学院大学への配達は自分にしか出来ないのだから」と、首を左右に振り無理矢理出掛ける準備を始めてしまう。
「そんなの私が車で持って行けばいいんだから! もう帰りましょ!」
店主としてそんな無茶をさせるわけにはいかないのだろう、朝香を説得してなんとか帰らせようとしてきた。
「ううぅ……」
「マンションまで車で送ってあげるから。部屋に着いたら横になっておきなさいね」
夕紀は急いで出入り口の自動ドアをオフにして「店主しばらく不在」の札を掲げると、エプロンを外した朝香を夕紀の軽自動車に乗せエンジンをかける。
(夕紀さんが支度してる間にエアコン入れてあっためてくれてる……ありがたいなぁ)
この前のデート日以降、急な冷え込みがやってきて身体が冷えてしまったのも生理痛の要因になっているのだろう。後部座席に置かれている大判ブランケットを巻き付け暖房で車内が暖まっていくのを感じるだけで痛みが和らいでいっているような気がしてくる。
「さ、マンション向かうよ~!」
夕紀は10分もしないうちに運転席へ座り、すぐに連れ出してくれた。
「ありがとうございます夕紀さん……」
結局夕紀は玄関まで付き添ってくれ、ブランケットもそのまま借りる事となった。
「いいのいいの。亮輔くんに連絡入れておくから、朝香ちゃんはとにかく横になって。安静が一番よ」
夕紀に優しい言葉をかけてもらい、手を振り見送った後はフラフラとした足取りでベッドルームへと向かう。
(痛み止めのお薬、店で夕紀さんからもらったけどまだ痛いよぅ……)
夕紀があれだけ動いてくれているのだからと、言葉通り横になってスマホを伏せ目を閉じる。薬はあと数時間経過しないと飲めないので羽毛布団にくるまりながらジッとするしか対処法がない。
(あっ、源さんのお魚と初恵さんのお野菜受け取らずそのままになってないかな……初恵さんがなんとかしてくれるのかなぁ)
ジッとしていると余計な事ばかり考えてしまう。
(今日はりょーくん大好物の、鯛のお刺身なんだよね……ちゃんと受け取って食べさせてあげたかったなぁ)
こんな体調では生モノを食べる気になれない。けれど健康体の亮輔にとっては我慢を強いる羽目となってしまっただろう……朝香は何も出来ない自分をひたすらに悔やみ、涙を流す。
「情けないなぁ……」
「あーちゃんただいま。生理用品と使い捨てカイロの買い足ししておいたよ」
いつのまにか眠ってしまったらしく、再び目を覚ますとちょうどのタイミングで玄関側から亮輔の声が聞こえた。
「ぇ……」
羽毛布団に包まったまま上体を起こし
「りょーくんごめんね、生理用品買うとか恥ずかしい思いさせちゃって」
ベッドルームへやってきてくれた亮輔にペコッと頭を下げる。
「なーに言ってんの! 約束したでしょ? あーちゃんの体を守るのも彼氏としての仕事の一つなんだって」
亮輔は羽毛布団ごと朝香を優しく抱きとめながらそう言い返してくれた。
「ありがとうりょーくん」
朝香は感謝の言葉を呟きながら羽毛布団からゆっくり這い出ると
「あれっ? こっちの袋はもしかして源さんと初恵さんの??」
亮輔の指に掛かっているポリ袋から野菜らしきものが透けてみえたので朝香は驚きの声を出した。
「うん。お姉さんからメッセージきた時に『あーちゃん食材受け取れてないかも』って気付いてさ、さっきお金払ってきたんだ。今日のお魚は鯛のお刺身で、野菜はトマトとブロッコリーみたい。しかもブロッコリーは小房に分けられてて使いやすそうだよ」
りょーくんは嬉しそうにそう言い……それから
「だから今日は俺に全部任せて! あーちゃん起きれそう? 眠たくないならソファ連れて行ってあげる」
朝香を横抱きで持ち上げてベッドルームの引き戸を全開にさせた。
「えっ? りょーくん?! 任せてって何??」
ソファからダイニングキッチンへと目線を向けると、亮輔はやる気に満ちた表情でエプロンをキュッと身に付けている。
(えっ? まさかりょーくんがお料理してくれるとか??)
半信半疑であったがそのまさかだったらしく、亮輔が食材を鍋に投入する様子をシゲシゲと観察する。
「あっ、いい匂いがする♪」
しばらくしてまた腹部が痛んできたのでソファに横たわっていると、グツグツと鍋で煮込んでいる音やコンソメの良い香りがしてきて朝香の耳と鼻を喜ばせた。
ついさっきまでは亮輔が刃物を持って料理するなどという意外性にただただ驚くしかなかったというのに、今ではもう「りょーくんは何を作って私に提供してくれるんだろう?」と朝香を欲張りにさせていく。
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