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番外編
溶けて絡めて味わって1
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今日はクリスマスイブ。
今夜は亮輔と付き合って初めて迎えるクリスマスとなるのだが……。
(どうしよう……ディナーもケーキも何も準備出来てない……)
今はもう午後7時過ぎ。
朝も2人でゆったり過ごす事もなく日の出前から出勤してずっと慌ただしく働いている。
(っていうか、今年忙しすぎ!)
店が人気となって繁盛するのは有り難い。けれども去年よりも心と体が撲殺されてるような状態になっているのは流石に良ろしくないだろう。
「珈琲店って喫茶店と別の意味での忙しさがありますよね……夕紀さん」
朝香も夕紀さんも声が震え顔も青白く、目にクマが浮かんでしまっている。
「そうね、クリスマスとバレンタインはヤバいよね……」
「クリスマスはみんなケーキ食べますし、バレンタインはみんなチョコレート食べますもんね」
「去年よりも売れてるし、次のバレンタインはマジで覚悟しておかないとヤバいだろうね……」
いつもより特別なケーキもしくはチョコレートを食べる人が多いという事は、いつもより良い珈琲を楽しもうと考える人も多くなるからだ。よって珈琲豆専門店の需要もこの時期1番高まってくる。
朝香の実家である『森のカフェ・むらかわ』では、春は桜、夏は川遊び、秋は紅葉冬はスキーといった四季折々の観光客が訪れるエリアな上に父義郎が作るオムライスが有名だったので通年忙しくしており、「局所的に忙しい日」というのが無かった。実家とは違う働き方を学べている現在の状況は朝香にとって非常に良い経験となっているのだし、大切な存在である店主を支えていられてるのは嬉しいと朝香は感じている。
「いつの間にか土曜日も朝からの勤務にしちゃって本当にごめんね。朝香ちゃんにはきちんと完全週休2日制にしてあげようって決めていたのに。夕方上がりにもしていたのに結局クローズ時間まで居させてしまってるし」
朝香が働き始めた頃、夕紀は「社会人1年目から無理はさせられない」と8時間勤務・土日休を約束してくれた。それが、この10月辺りから段々と勤務時間が延びいつのまにか夕紀と同じ勤務形態になってしまった。
「いえいえ、別に私は日曜日だけの休みでも良いんですよ?」
理由は夕紀の焙煎の腕が周囲に認知されてきたのと、英美学院大学の学生が「はなぶさブレンド以外のコーヒーも飲んでみたい」と来店するようになっだからだ。ここ数ヶ月で客層がグッと若くなった。
また亮輔お手製のオーナメント見たさに訪れる客も多く、『雨上がり珈琲店』はこの商店街の中で目を引く店の一つとなってきている。
「でも朝香ちゃんはまだ若いし、亮輔くんっていう彼氏が居るんだもん。今にしか出来ない事やラブラブ時間を過ごしてもらいたいのよ」
「りょーくんは夕紀さんの事も好きですしこの仕事に理解ありますから大丈夫です♪ 今朝も笑顔で送り出してくれましたから」
「亮輔くんが私を姉扱いしてくれる意味で好きって言ってくれてるのは耳タコなくらい知ってるし頭では理解してるんだけどねー、でもやっぱり申し訳ないなー」
今日は特別忙しかったからか、夕紀の「土曜日に働かせてごめんね」セリフがいつもよりもネガティブで重い。
「とにかく夕紀さんは閉店時間きたらすぐに休みましょう! 私よりも絶対に大変だったと思いますしそもそも昼休憩を私だけ取らせて夕紀さんは朝から何も食べてないじゃないですか!」
「まぁ確かに腹ペコだけど……」
「今年も初恵さんが夕紀さんの分までクリスマスのお料理準備してくれるんですよね? しっかり食べて大好きなエールビールも飲んじゃって下さい♪」
自分も疲れでフラフラだが、夕紀の方がずっと大変で立っているのもやっとだという事を理解している朝香は、なるべく明るく振る舞って元気付けようとすると
「朝香ちゃん……あなた本当に良い子ねぇ。今日も朝から懸命に働いてくれてありがとう」
夕紀の目から嬉し涙が溢れ出したので
「夕紀さん……こちらこそ珈琲や接客方法などなどたくさんの事を学ばせてくれてありがとうございますっ!」
もらい泣きし、夕紀にハグして感謝の言葉を述べる。
「ふふふ」
「えへ♪」
言葉や笑顔は魔法だ。疲れてヘトヘトでも、互いを思いやる言葉を交わしたり笑顔で笑いあったりするだけで元気が出てきた。
「よーしっ!! 閉店時間まであと30分だから頑張ろうっ! なんとしても今日は定時で朝香ちゃんを帰らせてあげるから!」
夕紀は特に力を込めて言い、直後に入店したお客様の接客を始めた。
「えっ? 定時でいいんですか私。寧ろ夕紀さんを定時で帰らせたいんですけど」
お客様が会計を済ませて背を向けた瞬間を狙って朝香は小声で言い返したのだが、夕紀は次のお客様に笑顔を向けながらサッと店の外を指差して朝香に視線をそっちに向けさせる。
「あっち見てごらん」
「あっ」
すると、外には両手に買い物袋を抱えて歩く亮輔の姿が見えたので朝香はビックリした。
「さっきからね、亮輔くんが商店街の通りを行ったり来たりしてるのが見えてるの。朝香ちゃん気付かなかった?」
またお客様が店を出た瞬間を狙って夕紀がコソッと話してくれ、全く気付いてなかった朝香は首を左右にブンブンと振る。
「全然気付きませんでした! りょーくん何してるんだろう? 買い物?」
彼の行動が意外過ぎてその意味が全く予想出来ない。
(あの、りょーくんが手に持っていたものって何だろう? クリスマス料理の準備が出来なかっただけで食料品自体なら冷蔵庫にある程度ストックある筈なんだけど……)
「もしかして朝香ちゃんの為にクリスマス料理を準備したいんじゃない? 亮輔くんはハロウィンの時も今のクリスマスのも、こんな可愛い飾りを沢山作れちゃうくらい器用なんだから」
閉店時間の19時半となり、夕紀がいそいそと店のシャッターを下ろし始めた。
今日はクリスマスイブ。
今夜は亮輔と付き合って初めて迎えるクリスマスとなるのだが……。
(どうしよう……ディナーもケーキも何も準備出来てない……)
今はもう午後7時過ぎ。
朝も2人でゆったり過ごす事もなく日の出前から出勤してずっと慌ただしく働いている。
(っていうか、今年忙しすぎ!)
店が人気となって繁盛するのは有り難い。けれども去年よりも心と体が撲殺されてるような状態になっているのは流石に良ろしくないだろう。
「珈琲店って喫茶店と別の意味での忙しさがありますよね……夕紀さん」
朝香も夕紀さんも声が震え顔も青白く、目にクマが浮かんでしまっている。
「そうね、クリスマスとバレンタインはヤバいよね……」
「クリスマスはみんなケーキ食べますし、バレンタインはみんなチョコレート食べますもんね」
「去年よりも売れてるし、次のバレンタインはマジで覚悟しておかないとヤバいだろうね……」
いつもより特別なケーキもしくはチョコレートを食べる人が多いという事は、いつもより良い珈琲を楽しもうと考える人も多くなるからだ。よって珈琲豆専門店の需要もこの時期1番高まってくる。
朝香の実家である『森のカフェ・むらかわ』では、春は桜、夏は川遊び、秋は紅葉冬はスキーといった四季折々の観光客が訪れるエリアな上に父義郎が作るオムライスが有名だったので通年忙しくしており、「局所的に忙しい日」というのが無かった。実家とは違う働き方を学べている現在の状況は朝香にとって非常に良い経験となっているのだし、大切な存在である店主を支えていられてるのは嬉しいと朝香は感じている。
「いつの間にか土曜日も朝からの勤務にしちゃって本当にごめんね。朝香ちゃんにはきちんと完全週休2日制にしてあげようって決めていたのに。夕方上がりにもしていたのに結局クローズ時間まで居させてしまってるし」
朝香が働き始めた頃、夕紀は「社会人1年目から無理はさせられない」と8時間勤務・土日休を約束してくれた。それが、この10月辺りから段々と勤務時間が延びいつのまにか夕紀と同じ勤務形態になってしまった。
「いえいえ、別に私は日曜日だけの休みでも良いんですよ?」
理由は夕紀の焙煎の腕が周囲に認知されてきたのと、英美学院大学の学生が「はなぶさブレンド以外のコーヒーも飲んでみたい」と来店するようになっだからだ。ここ数ヶ月で客層がグッと若くなった。
また亮輔お手製のオーナメント見たさに訪れる客も多く、『雨上がり珈琲店』はこの商店街の中で目を引く店の一つとなってきている。
「でも朝香ちゃんはまだ若いし、亮輔くんっていう彼氏が居るんだもん。今にしか出来ない事やラブラブ時間を過ごしてもらいたいのよ」
「りょーくんは夕紀さんの事も好きですしこの仕事に理解ありますから大丈夫です♪ 今朝も笑顔で送り出してくれましたから」
「亮輔くんが私を姉扱いしてくれる意味で好きって言ってくれてるのは耳タコなくらい知ってるし頭では理解してるんだけどねー、でもやっぱり申し訳ないなー」
今日は特別忙しかったからか、夕紀の「土曜日に働かせてごめんね」セリフがいつもよりもネガティブで重い。
「とにかく夕紀さんは閉店時間きたらすぐに休みましょう! 私よりも絶対に大変だったと思いますしそもそも昼休憩を私だけ取らせて夕紀さんは朝から何も食べてないじゃないですか!」
「まぁ確かに腹ペコだけど……」
「今年も初恵さんが夕紀さんの分までクリスマスのお料理準備してくれるんですよね? しっかり食べて大好きなエールビールも飲んじゃって下さい♪」
自分も疲れでフラフラだが、夕紀の方がずっと大変で立っているのもやっとだという事を理解している朝香は、なるべく明るく振る舞って元気付けようとすると
「朝香ちゃん……あなた本当に良い子ねぇ。今日も朝から懸命に働いてくれてありがとう」
夕紀の目から嬉し涙が溢れ出したので
「夕紀さん……こちらこそ珈琲や接客方法などなどたくさんの事を学ばせてくれてありがとうございますっ!」
もらい泣きし、夕紀にハグして感謝の言葉を述べる。
「ふふふ」
「えへ♪」
言葉や笑顔は魔法だ。疲れてヘトヘトでも、互いを思いやる言葉を交わしたり笑顔で笑いあったりするだけで元気が出てきた。
「よーしっ!! 閉店時間まであと30分だから頑張ろうっ! なんとしても今日は定時で朝香ちゃんを帰らせてあげるから!」
夕紀は特に力を込めて言い、直後に入店したお客様の接客を始めた。
「えっ? 定時でいいんですか私。寧ろ夕紀さんを定時で帰らせたいんですけど」
お客様が会計を済ませて背を向けた瞬間を狙って朝香は小声で言い返したのだが、夕紀は次のお客様に笑顔を向けながらサッと店の外を指差して朝香に視線をそっちに向けさせる。
「あっち見てごらん」
「あっ」
すると、外には両手に買い物袋を抱えて歩く亮輔の姿が見えたので朝香はビックリした。
「さっきからね、亮輔くんが商店街の通りを行ったり来たりしてるのが見えてるの。朝香ちゃん気付かなかった?」
またお客様が店を出た瞬間を狙って夕紀がコソッと話してくれ、全く気付いてなかった朝香は首を左右にブンブンと振る。
「全然気付きませんでした! りょーくん何してるんだろう? 買い物?」
彼の行動が意外過ぎてその意味が全く予想出来ない。
(あの、りょーくんが手に持っていたものって何だろう? クリスマス料理の準備が出来なかっただけで食料品自体なら冷蔵庫にある程度ストックある筈なんだけど……)
「もしかして朝香ちゃんの為にクリスマス料理を準備したいんじゃない? 亮輔くんはハロウィンの時も今のクリスマスのも、こんな可愛い飾りを沢山作れちゃうくらい器用なんだから」
閉店時間の19時半となり、夕紀がいそいそと店のシャッターを下ろし始めた。
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