【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

文字の大きさ
140 / 171
番外編

溶けて絡めて味わって2

しおりを挟む
「料理だなんてそんな……だってりょーくん、キッチンばさみしか使えないんですよ?」
「えっ? 包丁はだったっけ? 何でも器用にこなすからてっきり……」

 朝香の言葉に夕紀は目を見開いて驚く。

「お掃除や洗濯は彼の方が上手なんですけど、やっぱり刃物のトラウマ克服は慎重に進めたいねって2人で話をしたんです。なので料理は私が主に担当してて」
「あっ……そっか、そうよね」

 亮輔が刃物を触れない理由は夕紀も知っていた。その理由に夕紀の過去の発言があった事も。

「私があんな酷い事言ったんだもん……亮輔くんの心の傷が完全に癒えたわけじゃないものね、ごめんなさい」

 数年前は自死を何度も望み、刃物を首に当てては絶望していた亮輔。
 朝香と一緒に住んで精神的に落ち着いてきたとはいえは難しいと夕紀も気付き朝香に謝る。

「りょーくんはいつかは自分1人で料理したいって思っているんですよ。そのタイミングじゃないっていうだけで。
 ですからクリスマス料理みたいな凝った調理や準備っていうのはあり得ないんじゃないかと」
「そっかぁ~……チラッと見た限りだと食料品っぽい買い物袋だったからてっきり『朝香ちゃんの為に亮輔くんがクリスマス料理作るんだ』って思い込んじゃった。朝香ちゃん本当にごめんなさいね」
「いえいえ」
「やっぱり朝香ちゃんはもう帰りなさい。亮輔くんが朝香ちゃんの帰りを待っているのは間違いないんだもの。
 亮輔くんと過ごすクリスマスイブ、2人きりでのんびり過ごしてね」
「えっ……ちょっ、夕紀さぁん」

 朝香としてはいち早くお隣の『もりやま青果店』へ夕紀を帰らせてあげたかったのに、19時半になった途端夕紀にバックヤードまで背中をグイグイ押されてしまい、エプロン脱いで着替えたかの確認を外側から声掛けされ、渋々私服で出てきた途端に今度は勝手口まで背中をグイグイ押されて店の外へ出されて「また明日ね」なんてバイバイ手を振られ……結局朝香だけが定時で上がる羽目になってしまった。

 

「追い出されちゃった」

 夕紀はこういう時頑固になるので朝香が抵抗しても仕方がない事は当然理解している。

(けど解せないぃ……)

 しかし、亮輔が食料品を抱えながら店の周囲を行き来していたという先程の話は気になる。

(りょーくん、あの時何の買い物してたんだろう?)

 朝香は最近購入したばかりの自転車に跨り寒い空気をガンガンに浴びながら、彼が30分前にこの辺を行ったり来たりしていたという謎の行動の意味を頭に浮かべていた。

(夕紀さんの言う通りりょーくんが手に持っていたのが食料品だったなら、「材料買ったからお料理よろしく」って私にお願いする為に買いに回ったとか?
 疲れてヘトヘトで正直手料理するのはしんどいんだけど、りょーくんがそれを望むならやるしかないよね……)






「ただいまー」

 帰宅して玄関扉の鍵を開けながら朝香が声を掛けると

「うわあぁっ! やべえぇ!!」

 という、あまり聞いた事の無いぶっきらぼう口調の焦り声がキッチンの方向から聞こえた。

「えっ?  『やべえぇ』って何?」

 朝香は廊下をスタスタ早足で通り過ぎながら、声の主に呼び掛ける。

「っわ!! あーちゃん!! おかえりっ!!」

 キッチンには、朝香のエプロンを身に付けた亮輔が狼狽うろたえていて

「りょーくんどうしたの? もしかして料理してくれてる??!」

 朝香は朝香で、彼がキッチンで明らかに調理をスタートさせてる雰囲気に狼狽えビックリしていた。

「ああ~料理っていうか、その」

 りょーくんは体の大きさに合っていないエプロンの端を指で摘んだり、カット済みのブロッコリーに目線を移したりとオロオロしてて

「りょーくん……私のエプロンを着けちゃって……本当にどうしたの?」

 ブロッコリーはキッチン鋏でカットしたのだろうが使えない彼がどうしてキッチンに居るのか、そしてエプロンは先日トマトスープを作ってくれたのをキッカケに亮輔の背丈に合ったサイズのものを購入した筈なのだが、何故か朝香のものを体に巻いている……朝香の頭の中はもう、クエスチョンマークだらけになっていた。

「ちょっと、話が長くなるんだけど」

 呼吸を整えた亮輔は、私にそう前置きして廊下側を指差す。

「うん、長くなっても構わないけど?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年齢の差は23歳

蒲公英
恋愛
やたら懐く十八歳。不惑を過ぎたおっさんは、何を思う。 この後、連載で「最後の女」に続きます。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...