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番外編
溶けて絡めて味わって3
しおりを挟む「俺、夕方に『フラワーショップ田上』でクリスマス用の花束買ってさ」
「え?! 花束?? 玄関に置いてあるの??!」
彼の指差しの意味に気付いた朝香はさっき通った廊下を駆け足で戻り、玄関の照明をONにしてシューズボックスの上を確認する。
「毎月22日に皐月さんのお墓参り用にカサブランカ買うついでにあーちゃんにもお花は今までちょいちょい買ってはいたんだけど、今日はせっかくのイブだし……大学忙し過ぎてクリスマスプレゼントを用意する暇無かったから。花瓶も新しくしようかなって、花束と一緒に買って」
「わあぁ……クリスマスカラーのお花だぁ!」
シューズボックスの上に置かれていたのは、ガラス製のお洒落な花瓶いっぱいに生けられている大きな花束。
赤と緑を基調とした美しい花々はセンスが光っている。
「凄い……これ、健人さんや奥さんじゃなくてりょーくんがお花選んでくれたんでしょ?」
そしてこれはただ『フラワーショップ田上』の商品を買ったのではなく、短期バイトをした経験を活かした亮輔のチョイスであるのを見抜いていた。
「あっ、バレた? 俺が花を選んで蒼くんが花束を作ってくれたんだよ」
「蒼くんがまとめてくれたの? それもすごい!」
2人が朝香の為に花束を作り、それを奥さんが優しく見守ってくれていたのだろうと想像すると、朝香の胸はいっぱいになってくる。
「それにしても立派過ぎる花束だよぅ! かなり奮発したんだねありがとう!!」
朝香が亮輔に向き直り御礼を言うと、彼は照れ臭そうに笑いながら
「実は話はまだまだ続くんだよ」
と、話を続ける。
「奥園さんがね、『君達2人とも頑張ったから』って、商店街の福引き券を沢山くれたんだ。それで蒼くんと一緒に福引き回したらチーズフォンデュセットが当たってさ」
「えっ!?あのチーズフォンデュセット、りょーくんが当てたの?」
豪華なお花にうっとりしながら話を聞いていたところ、急に出てきた「チーズフォンデュセット」のワードに朝香はまたビックリする。
「え? あのって、なんかあるの? あのチーズフォンデュセット」
「りょーくんは知らなくて当然の話なんけど、あのセットってチーズフォンデュ鍋の他にも良い白ワインやチーズの引き換え券が付いてたでしょ? 特賞とかじゃないんだけど、今回の景品の中では目玉商品だったんだよ!」
「そうなの? どうりで色々付いてきたと思った……」
「夕紀さんと『誰が当たるんだろうね』って、福引き始まった日から話してたの。まさかりょーくんが当てるとは……」
今年の商店街の福引きはいつもの景品の他に「複数の店で買い物してくれるような目玉商品を作ろう」という案が上がったらしく、その目玉商品がそのチーズフォンデュセットだった。
チーズフォンデュ鍋は3000円くらいの品なのだが、チーズフォンデュに使う白ワインとチーズは『まきの酒店』、パンは珈琲店2軒隣の『タカパン』で、野菜は初恵さんの『もりやま青果店』、エビは『源』、ウインナーは肉屋の『かつたや』……といった風に商店街で買える手書きの引き換え券が入っており「商店街をなかなか利用しない人にそれぞれの店の自慢の商品を味わってもらいたい」という狙いがあった。
(協力してくれたお店は一部なんだけど、素敵なアイデアだなぁって思ってたんだよねぇ)
「福引きは6回分回せて、最初からの4回は砂糖とかラップとかばっかり当たって、5回目はワイヤレスイヤホンで最後にチーズフォンデュセットだったもんだからその場に居た皆さんからめちゃくちゃ拍手されちゃってさ。一人暮らしで部屋のキッチン滅多に使わない蒼くんにはイヤホンを渡してフォンデュ鍋は俺がいただく事にしたんだ。
それで、パン屋のキヨさんに全部の店を案内して連れてってもらって」
「清さん、凄く良い人だもんね」
『タカパン』先代ご主人、「キヨさん」こと清は、商店街のメンバーの中でも1番のムードメーカーでとっても優しい人だ。パン作りは息子夫婦に代替わりし、清はパンの製造販売よりも商工会会長の補佐の仕事の方を忙しくしている。ほとんどの時間は集会所でおしゃべりしてるらしいのだが、クセのある会長の緩衝役を担っている清の存在は夕紀や初恵にとっては有り難いようだ。
「『雨上がり珈琲店』を素通りする時、お姉さんに気付かれて何回か目が合ったんだ。あーちゃんにも知らせてあげたかったんだけど周りは拍手の嵐だったし蒼くんもキヨさんも荷物持ちしてくれてたから報告出来なくって」
「あ、夕紀さんがりょーくん見かけた時は蒼くんとキヨさんと並んで歩いてたんだね」
亮輔の身長は185㎝。蒼は170㎝で清は更に身長が低い。3人並んで歩いていたといっても、店の中からチラ見したくらいでは亮輔の姿しか捉えられなかった筈だ。
(なるほど! もしりょーくんがチーズフォンデュの箱を持っていたら夕紀さんだって商店街の景品だって気付いたはずだもんね)
恐らくフォンデュ鍋の箱は蒼が持ってくれていたのだろう……謎が解けた朝香はホッと胸を撫で下ろす。
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