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番外編
溶けて絡めて味わって4
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「キヨさんに『チーズフォンデュ用にパンをカットして下さい』って言ったらさ、ニコニコ顔でカットしてくれたんだ。凄く有難かったし嬉しかった」
「パンのカットはお客様へのサービスでいつもニコニコでお好みの大きさにカットしてくれるんだよ。
それならまな板のブロッコリーは初恵さんがカットして渡してくれたんだね!
ブロッコリーは清さんが初恵さんにカット頼んでくれたの?」
再びキッチンに戻り、1番気になっていたまな板の上のブロッコリーを指差しながら亮輔に訊くと
「ブロッコリー以外の野菜も色々あったしそれはなんとなくお願いしづらくて。とりあえずキッチン鋏で先にカットはしたんだけど……」
と亮輔は恥ずかしそうに答え、ブロッコリーをボウルに移して収納扉を開いた。
「りょーくん……!」
その扉の裏側には包丁が収納されていて、このマンションに引っ越して3ヶ月亮輔はその扉に一切触れていなかった。
「バゲットは仕方ないって思ったんだ……けど、なんか『刃物触ったらヤバい事しちゃいそう』とかいう自分自身が情けなく感じちゃって、それで今日は包丁にもチャレンジしてみたくて」
なのにりょーくんは躊躇いもなくそこから三徳包丁を一本取り出してまな板の上に置き、私の顔をジッと見つめてくる。
「情けなくはないよ。刃物使わないようにしてるのはりょーくんの精神的なものが原因だし、日々凄く頑張ってると思う」
「本当は今日、あーちゃんが帰ったらすぐに電車乗ってどこかへ外食しようと思ってたんだ。でも福引きでチーズフォンデュセットが当たって『あーちゃんにチーズフォンデュご馳走出来るかも』『あーちゃんと初めてのクリスマスをこの部屋でのんびり過ごすのも悪くないかも』って嬉しくなった……でも俺、ブロッコリーくらいしか切れないし」
「大丈夫だよそんなの! りょーくんは包丁持てない事以上に素敵でかっこよくて、とってもとっても優しいんだもん!」
朝香も彼を見つめ返しながら励ましたのだが、彼は首を左右に振る。
「もう20歳なんだし、俺ももっと成長しなきゃって思うんだ。
だから……俺、今から他の野菜やウインナーを切っていくから、あーちゃん見守ってくれる?」
「えっ?」
「包丁持つ勇気持ちたくて、エプロンもあーちゃんのを借りて身に付けたところで……決心鈍らないうちに頑張ってみたいんだ」
朝香の言葉に首を振り「自分はやっぱり情けない」と嘆くのではなく、亮輔は前向きな行動を取ろうとした。亮輔が体に合わない小さなエプロンをわざわざ身に付けたのも、きちんと意味があったのだった。
「ウインナーを切るだなんて小学生レベルだと思う……でも、少しずつでも包丁を正しい事に使っていきたいとも思ってるから」
「りょーくん」
「だからあーちゃん……ちょっとそこで、俺の事を見てて」
亮輔はそう言ってまな板の前に向き直り、包丁でウインナーを2等分し始めた。
(りょーくんは元々器用だし、料理初心者がやるようなケアレスミスもなく順調にカット出来ていたんだけど……)
ゆっくりと慎重に包丁を動かし、ウインナーがゆっくりと圧されながら真っ二つになっていく。朝香にとってはなんて事ない動作であっても亮輔の表情は真剣だ。
(りょーくん頑張れ……がんばれ!!)
「……出来た」
20切れのウインナーがまな板の上に鎮座する。
「りょーくんすごい!! ちゃんと上手にウインナー切れてるよ! しかも沢山!!」
「沢山ってあーちゃん大袈裟だよ。たった10本だし、半分に切っただけだしあーちゃんみたいに手際良くないし」
「それでも偉いよりょーくんは! かっこいいし素敵♡」
「褒め上手だなぁあーちゃんは」
オーバーではなく朝香の素直な気持ちから出た言葉だし、実際包丁を頑張って使えた亮輔はかっこよくて素敵だと朝香は思っている。
「じゃあ、他の野菜は私が切るよ! りょーくん疲れたでしょ」
亮輔はウインナー以外にもじゃがいもや人参も切りたかったようだが、額に汗をかいているし呼吸も荒いので無理をさせてはいけない。
「……ごめんね、じゃあ代わりに食材茹でたりチーズフォンデュの準備するよ」
亮輔も自分の限界を感じたのだろう、素直に包丁を朝香に託してくれた。
「任せて! 野菜切ったらチーズの下準備私も手伝う! 一緒に準備しよ♪」
「あーちゃん疲れてヘトヘトじゃない?」
「平気♪ 頑張ってるりょーくんに負けてられないもん!」
頑張る亮輔の姿を見ていたら元気で前向きな気分になれた朝香はそう言い残して鞄やコートを自分の部屋へ置きに行った。
「パンのカットはお客様へのサービスでいつもニコニコでお好みの大きさにカットしてくれるんだよ。
それならまな板のブロッコリーは初恵さんがカットして渡してくれたんだね!
ブロッコリーは清さんが初恵さんにカット頼んでくれたの?」
再びキッチンに戻り、1番気になっていたまな板の上のブロッコリーを指差しながら亮輔に訊くと
「ブロッコリー以外の野菜も色々あったしそれはなんとなくお願いしづらくて。とりあえずキッチン鋏で先にカットはしたんだけど……」
と亮輔は恥ずかしそうに答え、ブロッコリーをボウルに移して収納扉を開いた。
「りょーくん……!」
その扉の裏側には包丁が収納されていて、このマンションに引っ越して3ヶ月亮輔はその扉に一切触れていなかった。
「バゲットは仕方ないって思ったんだ……けど、なんか『刃物触ったらヤバい事しちゃいそう』とかいう自分自身が情けなく感じちゃって、それで今日は包丁にもチャレンジしてみたくて」
なのにりょーくんは躊躇いもなくそこから三徳包丁を一本取り出してまな板の上に置き、私の顔をジッと見つめてくる。
「情けなくはないよ。刃物使わないようにしてるのはりょーくんの精神的なものが原因だし、日々凄く頑張ってると思う」
「本当は今日、あーちゃんが帰ったらすぐに電車乗ってどこかへ外食しようと思ってたんだ。でも福引きでチーズフォンデュセットが当たって『あーちゃんにチーズフォンデュご馳走出来るかも』『あーちゃんと初めてのクリスマスをこの部屋でのんびり過ごすのも悪くないかも』って嬉しくなった……でも俺、ブロッコリーくらいしか切れないし」
「大丈夫だよそんなの! りょーくんは包丁持てない事以上に素敵でかっこよくて、とってもとっても優しいんだもん!」
朝香も彼を見つめ返しながら励ましたのだが、彼は首を左右に振る。
「もう20歳なんだし、俺ももっと成長しなきゃって思うんだ。
だから……俺、今から他の野菜やウインナーを切っていくから、あーちゃん見守ってくれる?」
「えっ?」
「包丁持つ勇気持ちたくて、エプロンもあーちゃんのを借りて身に付けたところで……決心鈍らないうちに頑張ってみたいんだ」
朝香の言葉に首を振り「自分はやっぱり情けない」と嘆くのではなく、亮輔は前向きな行動を取ろうとした。亮輔が体に合わない小さなエプロンをわざわざ身に付けたのも、きちんと意味があったのだった。
「ウインナーを切るだなんて小学生レベルだと思う……でも、少しずつでも包丁を正しい事に使っていきたいとも思ってるから」
「りょーくん」
「だからあーちゃん……ちょっとそこで、俺の事を見てて」
亮輔はそう言ってまな板の前に向き直り、包丁でウインナーを2等分し始めた。
(りょーくんは元々器用だし、料理初心者がやるようなケアレスミスもなく順調にカット出来ていたんだけど……)
ゆっくりと慎重に包丁を動かし、ウインナーがゆっくりと圧されながら真っ二つになっていく。朝香にとってはなんて事ない動作であっても亮輔の表情は真剣だ。
(りょーくん頑張れ……がんばれ!!)
「……出来た」
20切れのウインナーがまな板の上に鎮座する。
「りょーくんすごい!! ちゃんと上手にウインナー切れてるよ! しかも沢山!!」
「沢山ってあーちゃん大袈裟だよ。たった10本だし、半分に切っただけだしあーちゃんみたいに手際良くないし」
「それでも偉いよりょーくんは! かっこいいし素敵♡」
「褒め上手だなぁあーちゃんは」
オーバーではなく朝香の素直な気持ちから出た言葉だし、実際包丁を頑張って使えた亮輔はかっこよくて素敵だと朝香は思っている。
「じゃあ、他の野菜は私が切るよ! りょーくん疲れたでしょ」
亮輔はウインナー以外にもじゃがいもや人参も切りたかったようだが、額に汗をかいているし呼吸も荒いので無理をさせてはいけない。
「……ごめんね、じゃあ代わりに食材茹でたりチーズフォンデュの準備するよ」
亮輔も自分の限界を感じたのだろう、素直に包丁を朝香に託してくれた。
「任せて! 野菜切ったらチーズの下準備私も手伝う! 一緒に準備しよ♪」
「あーちゃん疲れてヘトヘトじゃない?」
「平気♪ 頑張ってるりょーくんに負けてられないもん!」
頑張る亮輔の姿を見ていたら元気で前向きな気分になれた朝香はそう言い残して鞄やコートを自分の部屋へ置きに行った。
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