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番外編
ファースト•バレンタインデー1
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「えっ…………手作りチョコ、ダメなんですか……?
バレンタインデーの7日前。
朝香はヘアサロン『V.D.R』にて顔面蒼白になっていた。
「えっとね、『ダメ』とは言ってないのよ。手作りもアリだとは思うんだけど、リョウちゃんがバレンタインデーに手作りチョコを喜ぶ様子が見えてこないなぁってだけで」
「私もユタカさんに同意見。リョウちゃんってチョコレート専門店に詳し過ぎるから」
「たっ、確かに……彼はスイーツ男子だしチョコも好きですけどぉ」
青褪める朝香に対し、スタイリストのユタカとアシスタントのミドリはやや困惑気味で朝香を心配している。
(そんなぁ……手作りチョコなら中学生の頃から作った事があるし、お父さんだけじゃなくて修行時代の夕紀さんからも味を褒められてたからきっと大丈夫だと思っていたのに……)
実はサロンを出た後でスーパーへ寄りチョコレートケーキの材料を買いに行く予定でいたのだ。カット中にユタカの口から出た「そういえばバレンタインデーはどうするの?」という何気ない質問から一転、血の気が引く経験をするだなんて朝香は思ってもみなかったのだ。
「去年リョウちゃんはこの店のショコラスイーツを予約して私達にお裾分けしてくれたのよ『いつもお世話になっているから』って。アタシ達は『彼女が出来るまでは受け取るわね』って言いながらこの4年ずっと受け取っててね……それが今年からはチョコもらえなくなるだろうからって、ミドリちゃんに予約を頼んでいたの」
「!!!!」
ミドリから店名を教わり、ユタカから更に詳しく聞いてみると再び仰天する。
(兵庫にある超有名店!!!!!!)
ミドリからスマホ画面を向けられ表示されていた店名は、田舎出身の朝香でも名前くらいは耳にした事がある有名ショコラティエのホームページ。
(しかも2週間前、ドキュメント番組で密着取材されてりょーくんと一緒に観てたよ! りょーくん、ここのスイーツを食べた事があるだなんて一言も言わなかったのにぃ!!)
朝香は「亮輔に騙された!」という思いに駆られたのだが
「ほら、リョウちゃんってさぁ……普段は庶民的な金銭感覚で生活してる子なんだけど、なんだかんだいってお坊ちゃんだし笠原を出ても資産家一族の戸籍に入っているわけよ。長男のトシヤくんはお父様の影響で褐色の食べ物を好む体質でね、笠原よりも寧ろ上原の方がチョコレートにうるさいの。そもそもリョウちゃんは単なる甘いもの好きでもスイーツ男子でもなくって、首都圏にある有名なスイーツショップを片っ端から試してみたい的なスイーツマニアなわけ。そんな男が付き合って1年も満たない彼女からバレンタインデーに手作りチョコを純粋に喜ぶかっていうと…………ミドリちゃんだってそう思うでしょう?」
「リョウちゃん、朝香ちゃんのご飯やオムライスが大好きって普段言うからワンチャンいけるかもだけど…………うーんバレンタインはなぁ」
「うっ……」
2人の意見はあくまで冷静。だからこそ朝香は言葉を詰まらせてしまった。
(確かにりょーくんはスイーツマニアと言っても過言ではない……)
「スイーツが特に大好きになったきっかけは中学生の頃だ」という話を俊哉から聞いた事もあるし、テレビで有名店が紹介されているVTRが流れると必ず視線が画面の方を向いて目をキラキラと輝かせているのを朝香は知っている。
(大好きになったキッカケの一つは、家庭教師に来ていた皐月さんが痩せていくのを心配したから……だった筈)
当時、遠野皐月は大学3年生。姉の夕紀と離れ離れになった上に交際していた医学生に心身共にボロボロにされているのを知った中学生の亮輔は、ストレスでみるみる痩せていく皐月を心配し「少しでも甘くて美味しいものを、食べやすいものを」と名だたるスイーツショップを訪れては焼き菓子や洋生菓子を買い求めていたのだという。
皐月亡き後も亮輔のスイーツ欲は高まり続け、私達のマンション周辺や大学周辺、墓地周辺のスイーツショップは完全網羅したのだという。いつだったか朝香がふいに「この店のケーキが食べたい」と一言漏らせばオススメケーキや季節のケーキを10個以上リストアップして紹介してくれる程。
(そんなりょーくんだからチョコレートにもやっぱり詳しいわけで……市販の板チョコを溶かして素人が作るようなレベルの代物じゃ歯が立たないのも当たり前で)
それでも亮輔は朝香の手料理やコーヒーが好きで毎日幸せそうな表情を向けてくれる。ミドリが「ワンチャン」と表現したように素人レベルのチョコレート菓子を喜ぶ確率は0ともいえないのだ……ただ、限りなく低い数字である事は間違いないであろうが。
「彼が行った事のあるお店でもいいから、今からでも注文できる商品を予約するしかなさそうですね……」
ユタカ達の意見に朝香は素直に頷くしかなかった。
「えっ…………手作りチョコ、ダメなんですか……?
バレンタインデーの7日前。
朝香はヘアサロン『V.D.R』にて顔面蒼白になっていた。
「えっとね、『ダメ』とは言ってないのよ。手作りもアリだとは思うんだけど、リョウちゃんがバレンタインデーに手作りチョコを喜ぶ様子が見えてこないなぁってだけで」
「私もユタカさんに同意見。リョウちゃんってチョコレート専門店に詳し過ぎるから」
「たっ、確かに……彼はスイーツ男子だしチョコも好きですけどぉ」
青褪める朝香に対し、スタイリストのユタカとアシスタントのミドリはやや困惑気味で朝香を心配している。
(そんなぁ……手作りチョコなら中学生の頃から作った事があるし、お父さんだけじゃなくて修行時代の夕紀さんからも味を褒められてたからきっと大丈夫だと思っていたのに……)
実はサロンを出た後でスーパーへ寄りチョコレートケーキの材料を買いに行く予定でいたのだ。カット中にユタカの口から出た「そういえばバレンタインデーはどうするの?」という何気ない質問から一転、血の気が引く経験をするだなんて朝香は思ってもみなかったのだ。
「去年リョウちゃんはこの店のショコラスイーツを予約して私達にお裾分けしてくれたのよ『いつもお世話になっているから』って。アタシ達は『彼女が出来るまでは受け取るわね』って言いながらこの4年ずっと受け取っててね……それが今年からはチョコもらえなくなるだろうからって、ミドリちゃんに予約を頼んでいたの」
「!!!!」
ミドリから店名を教わり、ユタカから更に詳しく聞いてみると再び仰天する。
(兵庫にある超有名店!!!!!!)
ミドリからスマホ画面を向けられ表示されていた店名は、田舎出身の朝香でも名前くらいは耳にした事がある有名ショコラティエのホームページ。
(しかも2週間前、ドキュメント番組で密着取材されてりょーくんと一緒に観てたよ! りょーくん、ここのスイーツを食べた事があるだなんて一言も言わなかったのにぃ!!)
朝香は「亮輔に騙された!」という思いに駆られたのだが
「ほら、リョウちゃんってさぁ……普段は庶民的な金銭感覚で生活してる子なんだけど、なんだかんだいってお坊ちゃんだし笠原を出ても資産家一族の戸籍に入っているわけよ。長男のトシヤくんはお父様の影響で褐色の食べ物を好む体質でね、笠原よりも寧ろ上原の方がチョコレートにうるさいの。そもそもリョウちゃんは単なる甘いもの好きでもスイーツ男子でもなくって、首都圏にある有名なスイーツショップを片っ端から試してみたい的なスイーツマニアなわけ。そんな男が付き合って1年も満たない彼女からバレンタインデーに手作りチョコを純粋に喜ぶかっていうと…………ミドリちゃんだってそう思うでしょう?」
「リョウちゃん、朝香ちゃんのご飯やオムライスが大好きって普段言うからワンチャンいけるかもだけど…………うーんバレンタインはなぁ」
「うっ……」
2人の意見はあくまで冷静。だからこそ朝香は言葉を詰まらせてしまった。
(確かにりょーくんはスイーツマニアと言っても過言ではない……)
「スイーツが特に大好きになったきっかけは中学生の頃だ」という話を俊哉から聞いた事もあるし、テレビで有名店が紹介されているVTRが流れると必ず視線が画面の方を向いて目をキラキラと輝かせているのを朝香は知っている。
(大好きになったキッカケの一つは、家庭教師に来ていた皐月さんが痩せていくのを心配したから……だった筈)
当時、遠野皐月は大学3年生。姉の夕紀と離れ離れになった上に交際していた医学生に心身共にボロボロにされているのを知った中学生の亮輔は、ストレスでみるみる痩せていく皐月を心配し「少しでも甘くて美味しいものを、食べやすいものを」と名だたるスイーツショップを訪れては焼き菓子や洋生菓子を買い求めていたのだという。
皐月亡き後も亮輔のスイーツ欲は高まり続け、私達のマンション周辺や大学周辺、墓地周辺のスイーツショップは完全網羅したのだという。いつだったか朝香がふいに「この店のケーキが食べたい」と一言漏らせばオススメケーキや季節のケーキを10個以上リストアップして紹介してくれる程。
(そんなりょーくんだからチョコレートにもやっぱり詳しいわけで……市販の板チョコを溶かして素人が作るようなレベルの代物じゃ歯が立たないのも当たり前で)
それでも亮輔は朝香の手料理やコーヒーが好きで毎日幸せそうな表情を向けてくれる。ミドリが「ワンチャン」と表現したように素人レベルのチョコレート菓子を喜ぶ確率は0ともいえないのだ……ただ、限りなく低い数字である事は間違いないであろうが。
「彼が行った事のあるお店でもいいから、今からでも注文できる商品を予約するしかなさそうですね……」
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