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番外編
朝に香る4
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「あらあら~ご丁寧にありがとうございます♪ でもねっ! そんなに緊張しなくても良いのよ! あなたを取って食おうなんて思ってないんだから」
亮輔の真面目で誠実な態度に母は驚いたようだが、すぐに穏やかで和やかな表情に戻す。
「えっ……」
「とにかくリラックスして! リラックス!! 取り敢えず朝香と一緒に後ろの席乗っちゃおうね♪」
それから明るい表情と声で朝香達を車の後部座席に座るように促した。
「えっと……いいのかな? あーちゃん」
亮輔はまだ不安そうに朝香を見つめ、小声で訊いてくる。
(実は私も……春から住民票を移して勝手に彼氏と同棲しちゃってる事をお父さんもお母さんも怒っているんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだよね)
朝香も不安な気持ちを抱えていた。けれど母の和やかな雰囲気を観察してみれば「そこまで緊張しなくてもいいのかもしれない」と思い直す。
「荷物、奥に入れて座っちゃおうよ」
朝香は彼にそう小声で返事をし、張り詰めたような緊張を少しずつ解してあげようとした。
「じゃあ、出発するわね~」
後部座席に座りシートベルトまできちんと締めたのを母は確認すると、また和やか声掛けをしてエンジンを作動させる。
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
亮輔はそれに対しすぐさま真面目に返事をしていた。
「……あーちゃん、車だとどのくらいで着くの?」
ロータリーを通り過ぎたところで、亮輔は身をかがめ朝香に車での移動時間を質問する。
「30分くらいかなぁ。バスより断然早く着くんだよ」
亮輔がドン引きしないようにポジティブな返しをしてみたものの
「そしたらあーちゃんのお母さんは俺達の為に往復で1時間も運転してくれてるって事だよね。ありがたいんだけど申し訳ないような気がするんだけど……」
それでも軽く引いているらしい。
(運転時間1時間なんてこっちじゃフツーの事だからギャップを感じるのかもしれないし、何よりりょーくんには「私の親への申し訳なさ」が念頭にあるんだろうなぁ)
亮輔は母に「上原」と名字を伝えた。現在上原姓なのは間違いないのだが、夕紀と実家の関係性を鑑みて笠原亮輔と無意識に言えなかったのではないかと朝香は想像する。
「この辺の人は車移動に慣れてるっていうか、それが当たり前みたいな部分があるの。だからりょーくんはそこまで気にしなくて平気だよ。お母さんだってイヤイヤやってるんじゃないんだから」
「そうなの?」
「うん。うちの親としては寧ろ『迎えに行ってあげた方が安心』って感じるみたい」
「『迎えに行ってあげた方が安心』……かぁ」
「うん、だからりょーくんは深く考えなくていいし重く受け止めなくていいの」
朝香は亮輔の気持ちを更に解してあげようと、彼の手をスリスリと撫でる。
「ん……」
気持ちは段々と落ち着いてくれたみたいで、住宅地から緑の山々へと景色が変わる頃になると黙って窓の景色を眺め始めた。
「突然こんな田舎に連れてこられてビックリしてるでしょ? ごめんなさいね。急に呼び出したみたいな形になって」
いよいよ県道に入り長い坂道を上り始めたところで、突然母は亮輔に話掛けた。
「いえ、空港や駅も綺麗でしたし田舎なんて……そもそももっと早くにご挨拶をしておかなければなりませんでしたので……その」
車に乗り込む直前と比べたらだいぶ緊張は解れてきている様子ではあるものの、まだ少しオドオドした口調になってしまっている亮輔。
(固すぎるよぉ、りょーくん……)
朝香は黙って手のひらスリスリを続けて彼を少しでも安心させようと試みる。
「そんなにかしこまらなくていいのよ笠原くん♪ 私はイケメンの味方だからね♪」
母も察したのか、和やかボイスでの声掛けにウフフ笑いまでプラスしていたんだけど
「い、イケメンって……そんなもんじゃないですよ俺」
「まぁ、うちのパパはどう思ってるかは分かんないけどね♪」
「……」
母がウフフって笑いながら怖い毒を入れたものだから、照れ笑いで緊張が完全に解れた筈の亮輔がピシッと石化する。
(ちょっ! お母さん! なんでそこでお父さんの話題を出そうとするかなぁっ!!)
母は基本的に父が大好きなので、ちょっとだけでも父のエッセンスを加えたい気持ちは理解出来る。だけど絶対に今のタイミングではない。
朝香は久しぶりに母親に会うというのに、彼への配慮の無さにちょっとイラついていた。
「ねえ、お父さんって……本当に大丈夫よね?」
朝香は少し身を乗り出して運転席の母にとある事柄を確認する。
「うーん……うちが出る時は普通にしちょったんじゃけどねぇ~空気は読めるけぇ多分大丈夫なんじゃないんかねぇ?」
敢えて主語を避けた言い方でもきちんと伝わったらしく、母はやわらかな訛りで返答してくれた。
「ほいじゃったらええんじゃけど……」
亮輔の真面目で誠実な態度に母は驚いたようだが、すぐに穏やかで和やかな表情に戻す。
「えっ……」
「とにかくリラックスして! リラックス!! 取り敢えず朝香と一緒に後ろの席乗っちゃおうね♪」
それから明るい表情と声で朝香達を車の後部座席に座るように促した。
「えっと……いいのかな? あーちゃん」
亮輔はまだ不安そうに朝香を見つめ、小声で訊いてくる。
(実は私も……春から住民票を移して勝手に彼氏と同棲しちゃってる事をお父さんもお母さんも怒っているんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだよね)
朝香も不安な気持ちを抱えていた。けれど母の和やかな雰囲気を観察してみれば「そこまで緊張しなくてもいいのかもしれない」と思い直す。
「荷物、奥に入れて座っちゃおうよ」
朝香は彼にそう小声で返事をし、張り詰めたような緊張を少しずつ解してあげようとした。
「じゃあ、出発するわね~」
後部座席に座りシートベルトまできちんと締めたのを母は確認すると、また和やか声掛けをしてエンジンを作動させる。
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
亮輔はそれに対しすぐさま真面目に返事をしていた。
「……あーちゃん、車だとどのくらいで着くの?」
ロータリーを通り過ぎたところで、亮輔は身をかがめ朝香に車での移動時間を質問する。
「30分くらいかなぁ。バスより断然早く着くんだよ」
亮輔がドン引きしないようにポジティブな返しをしてみたものの
「そしたらあーちゃんのお母さんは俺達の為に往復で1時間も運転してくれてるって事だよね。ありがたいんだけど申し訳ないような気がするんだけど……」
それでも軽く引いているらしい。
(運転時間1時間なんてこっちじゃフツーの事だからギャップを感じるのかもしれないし、何よりりょーくんには「私の親への申し訳なさ」が念頭にあるんだろうなぁ)
亮輔は母に「上原」と名字を伝えた。現在上原姓なのは間違いないのだが、夕紀と実家の関係性を鑑みて笠原亮輔と無意識に言えなかったのではないかと朝香は想像する。
「この辺の人は車移動に慣れてるっていうか、それが当たり前みたいな部分があるの。だからりょーくんはそこまで気にしなくて平気だよ。お母さんだってイヤイヤやってるんじゃないんだから」
「そうなの?」
「うん。うちの親としては寧ろ『迎えに行ってあげた方が安心』って感じるみたい」
「『迎えに行ってあげた方が安心』……かぁ」
「うん、だからりょーくんは深く考えなくていいし重く受け止めなくていいの」
朝香は亮輔の気持ちを更に解してあげようと、彼の手をスリスリと撫でる。
「ん……」
気持ちは段々と落ち着いてくれたみたいで、住宅地から緑の山々へと景色が変わる頃になると黙って窓の景色を眺め始めた。
「突然こんな田舎に連れてこられてビックリしてるでしょ? ごめんなさいね。急に呼び出したみたいな形になって」
いよいよ県道に入り長い坂道を上り始めたところで、突然母は亮輔に話掛けた。
「いえ、空港や駅も綺麗でしたし田舎なんて……そもそももっと早くにご挨拶をしておかなければなりませんでしたので……その」
車に乗り込む直前と比べたらだいぶ緊張は解れてきている様子ではあるものの、まだ少しオドオドした口調になってしまっている亮輔。
(固すぎるよぉ、りょーくん……)
朝香は黙って手のひらスリスリを続けて彼を少しでも安心させようと試みる。
「そんなにかしこまらなくていいのよ笠原くん♪ 私はイケメンの味方だからね♪」
母も察したのか、和やかボイスでの声掛けにウフフ笑いまでプラスしていたんだけど
「い、イケメンって……そんなもんじゃないですよ俺」
「まぁ、うちのパパはどう思ってるかは分かんないけどね♪」
「……」
母がウフフって笑いながら怖い毒を入れたものだから、照れ笑いで緊張が完全に解れた筈の亮輔がピシッと石化する。
(ちょっ! お母さん! なんでそこでお父さんの話題を出そうとするかなぁっ!!)
母は基本的に父が大好きなので、ちょっとだけでも父のエッセンスを加えたい気持ちは理解出来る。だけど絶対に今のタイミングではない。
朝香は久しぶりに母親に会うというのに、彼への配慮の無さにちょっとイラついていた。
「ねえ、お父さんって……本当に大丈夫よね?」
朝香は少し身を乗り出して運転席の母にとある事柄を確認する。
「うーん……うちが出る時は普通にしちょったんじゃけどねぇ~空気は読めるけぇ多分大丈夫なんじゃないんかねぇ?」
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