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番外編
朝に香る6
しおりを挟む(もしあの約束を破っていたらと思うとりょーくんに申し訳が立たないっていうか)
出来るならば約束を守っていてほしい……そう願いながら朝香はリビングに足を踏み入れたのだが
「ただいま……お父さん。久しぶり」
顔をあげ、リビングの窓側に置いてあるロッキングチェアに腰掛けている父に向かって声を掛けた。
「んあぁ?」
窓の景色を見つめていた父、義郎は、身長190㎝体重90キロオーバーの大柄な体をこちら側へと振り返りながら気怠そうな声を出す。
「!!」
(やっぱり! 約束破ってんじゃん!!)
朝香はその瞬間、自分の父親に対して怒りがフツフツと沸いてきた。
「あの! 初めまして朝香さんとお付き合いさせていただいてます」
一方、亮輔はというと義郎の方へ歩み寄り、頭を下げて挨拶する。
すると椅子から立ち上がった義郎がゆらりとこちらに一歩二歩と近寄りながら朝香達の方に赤ら顔を向けて
「遠いところからようきんさったのう」
……と、ドスのきいた低い声で返事をしたのだった。
「っ!!!!」
義郎の只ならない様子に亮輔は息を呑み半歩後退する。
大柄な体型
ドスのきいた低い声
強面の赤ら顔
薄茶色のサングラス
皐月のお葬式に顔を合わせているといってもそんなの出会いのカウントにはほぼ入らない。
その4つの特徴ですら怖くて初対面の人を毎回ビビらせてきているのを朝香は知っているし、義郎の目が座っていて血走っているのがサングラス越しからでもハッキリ確認出来た事でこっちもハッキリと感情を怒りに変換させる事が出来た。
(そりゃ怖いよねりょーくん! だって今日のお父さんったら……)
「えっと……あの、俺っ」
義郎の様子に腰が引けていた亮輔は、瞼をギュッと固く瞑り意を決したように
「村川朝香さんとお付き合いをさせていただいております笠原亮輔と申します! ご報告が遅くなりまして大変申し訳ありません!!」
大きな声でそう言い、もう一度頭を下げたんだ。
「俺は……いえ、私はかつて遠野皐月さんを死に追いやり遠野夕紀さんの幸せを奪った罪深い男です。恋愛感情を抱く資格はないものだと自覚していますが私は村川朝香さんに恋し愛するという自分の感情を抑えられませんでした!
村川さんにとってはこんな人間を赦す筈がないでしょう。ですが認めていただきたいのです。今の私にとって村川朝香さんは掛け替えの無い存在なんです!!
お願いします! 私と朝香さんとの交際を認めて下さい!!!!」
「りょーくん……」
それは亮輔の本質である、真面目で誠実な言葉や行動。
義郎の姿を一目見て怯んだ人とは思えないくらい、彼の言動はとても素敵に見えた。
「嘘を言いなさんなよ、嘘を」
それなのに義郎は決死の覚悟で発したの亮輔を「嘘」という短い言葉で一蹴する。
(んもぅ! お父さんの馬鹿っ! 馬鹿父がっ!!)
こんな人が自分の父かと思うと朝香はもう我慢ならなかった。
「嘘とかそんな軽々しく私の大切な人を罵らないでよ!! この酔っ払いジジイ!!!!」
「なっ……」
「え? 酔っ払い??」
朝香の言葉に義郎は怯み、りょーくんは困惑している。
(今日は私とりょーくんが来るっていうのに! まだ真っ昼間だっていうのに! なんでお父さんってばお母さんの約束を破ってベロンベロンに酔っ払っちゃっているの?!! もー! 信じらんない!!)
「そうなのよ! 『今日は朝香と笠原くんが来る大事な日なんだから絶対にお酒を飲まないで』ってきつく言っておいたのに、私が朝香達を迎えに行ってる最中に日本酒あけたのよ? 信じられないでしょ?! 恥ずかしいったらありゃしないわよっ!!」
するとキッチンの方から母 裕美の声と足音がパタパタ聞こえ、3人との間に話って入ってくるなりテーブルにチーズケーキやコーヒーカップを並べ始めた。
「なんじゃぁ! 今日は元々店休日なんじゃけぇ別に昼から呑んでも良かろうがぁ!!」
「今日がただの店休日なら私だって何も言わないわよ!! 『パパはただでさえ野獣みたいな恐い顔してるんだから絶対にお酒飲まないで』って約束したでしょ? その事を私は怒ってるの!」
「じゃ……じゃけど、ママがおらん間手持ち無沙汰じゃろうが! 儂だって心の準備ってものをせにゃならんし」
「だーかーらー! 『お酒以外の事で心の準備しなさい』って言ったじゃないっ!」
そこからは裕美がビシバシと義郎に口撃をしかける。
「酒以外って急に言われてものう」
大柄な義郎に比べ裕美は朝香とほぼ同じ小柄な体型で身長差は朝香達よりもえげつないのだが、約束を破った負い目もあって今は裕美の方が優勢な状況である。
「お酒もだけど彼が怖がるから方言はなるべく抑えてって言ったじゃない!!」
「おっ……お前もいちいちうるさいのう。こんなん呑まんにゃおれんじゃろう」
「じゃけぇ『その顔のその声でしゃべるけぇ恐い』って言いよるんよ! ウチは!!!!」
そしてとうとう裕美の口から飛び出た語気の強い方言。
朝香は困惑しまくっている亮輔を椅子に座らせ「大丈夫だから」「こうなった時はお母さんの方が強いから」と宥めてあげる。
「仕方無かろうが!! 儂に標準語しゃべれゆうんが無理なんじゃいや!」
それでも義郎が言い訳を繰り出すものだから朝香もムカムカきてしまい
「じゃあせめて素面で私達待ってくれててもいいじゃないっ! お父さん最低!!」
朝香も応戦し義郎を責め始めた。
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