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本編
初恋の痛み3
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「あーちゃんは優しいよね。俺に対する考え方とか寄り添い方がすごく優しくて救われてるよ」
向日葵さんは朝香に言い、頭を撫でてきたので
「それは向日葵さんを大切に想いたいっていう純粋な気持ちがあるから……かなぁ」
照れながらも正直な気持ちを伝える。
「それがすごいなぁって思うよ、俺は。だって、今まで出会ってきた人みんな……そんなじゃなかったし」
それでも向日葵さんにとって朝香の存在は特別に感じるようだった。
「…………それはもしかしたら、私の実家が喫茶店をしてるから。かもしれないよ?」
朝香は自分の言動が他者と比べて特別優れているとは感じない。
「……そうなの? 喫茶店してると自然と優しくなれるの?」
向日葵さんの言葉通りの事が本当に起こり得るとも限らない。
けれど…………。
「私の両親はお客様や身近な人に対して優しい気持ちをかけ続けていると思うし、うちの店主がこっちで珈琲豆専門店を開いたのは私の両親と関わってきたのがきっかけだから」
「あーちゃんの、ご両親?」
少なくとも、朝香の両親はその「特別」に値するだろうと娘ながらに思うし
「うん。私は両親からその部分のDNAを継いでるんだろうなって思うよ。私がすごく優しいっていうよりも、優しい両親の子だから向日葵さんの目にそう映ってるのかも」
……と、朝香がそこまで伝えると
「…………」
泣きそうな表情で沈黙した後に
「そっか」
と呟いて、また朝香の頭を撫でた。
(痛みと言えば…………夕紀さんも、そうかも)
雨音をBGM代わりに聴きながら、向日葵さんの手のひらの温もりを頭に感じて……。
ふと朝香は店主の過去を思い起こす。
(夕紀さんが修行で『むらかわ』に来た頃、すごく情緒不安定だったんだよね……お母さんが夕紀さんを毎晩宥めていたよなぁ)
夕紀のプライバシーに関わる内容の為、真相を聞く機会は一度も訪れなかったが……あの時朝香の母は「あなたも恋をしたら気持ちが分かるはず」という事を言っていた。
修行が始まったばかりの頃、遠野夕紀は恋の悩みで心を痛めており……そして、修行がもう時期終わるという頃に遠野皐月を亡くして自暴自棄になっていた。あの頃は「夕紀がずっと夢を持ち続けていた店を開けないかもしれない」と、朝香も両親達も心配しており、夕紀の精神状態が開店に間に合って良かったと皆が胸を撫で下ろした程だ。
(夕紀さんの恋の痛みを癒したのは、お母さんのコーヒー。
皐月さんの件で、私も「喫茶店ごっこ」をやって少しでもお手伝い出来ればいいなって……夕紀さんに寄り添って)
朝香が夕紀の弟子となりこの地域で働きたいと願ったのは、自分自身も珈琲の知見を広げてみたい欲求が高まったからでもあるが、それよりも「遠野夕紀が気掛かりで仕方がなかった」という理由の方が強かった。
(夕紀さんは……妹の皐月さんと一緒に珈琲店を営みたかったから)
元々は皐月が夕紀に願ったのがきっかけなのだそうだ。妹の願いを叶える為に夕紀は開業資金を貯め、修行し、朝香の両親の力を借りながら店の準備をしてここまで来た経緯がある。
(妹さんを失った状態で珈琲店を開く事になっちゃったから、夕紀さんの精神状態もギリギリなわけだけど)
夕紀は朝香よりも年齢的に大人であるが、抱えているものが多すぎ故に気持ちにゆとりが持てていないと朝香は感じている。未だに住まいを構えず『もりやま青果店』の空き部屋で寝泊まりしているのもその影響が強いからだと考えられる。
(夕紀さんも、向日葵さんも……苦労が本当に多いんだな)
朝香は目を閉じ
「向日葵さんにあるトラウマとか、苦手な事とかはね。無理に治す必要はないって私は思うんだ」
夕紀の状況を頭に思い浮かべながら、向日葵さんに語りかけてみた。
「……そう?」
「うん。向日葵さんは私にキスしたいけど出来ないって言うじゃない?
別に私はそれでもいいと思ってるよ。キスって言っても唇同士のキスが気持ち悪くなってしまうだけで、ほっぺたのキスは出来るし……唇以外だったら首にも耳にも……脚にも、出来るわけだし」
……が、体の部位を例に挙げていくうちに恥ずかしくなってくる。
(やだぁ……ドライブデートの後にされた事を思い出しちゃった)
自然と内腿や膝に力が入りモジモジしてしまう。
「ぇ……」
そんな朝香の様子を向日葵さんが見逃すわけはないし
「……い、いいの? 首とか耳とか……脚にキスしても」
動揺の色を隠せないまま、向日葵さんが再確認してきたので
(ええい! 恥ずかしいけど大好きだもんっ! 拒否ってる場合じゃないっ!!)
目をギュッと強く閉じながら
「いいよっ! 向日葵さんが私にしたい事、出来る事なら全部っ! 私にしてもっ!!」
覚悟を決めてそう答えた。
向日葵さんは朝香に言い、頭を撫でてきたので
「それは向日葵さんを大切に想いたいっていう純粋な気持ちがあるから……かなぁ」
照れながらも正直な気持ちを伝える。
「それがすごいなぁって思うよ、俺は。だって、今まで出会ってきた人みんな……そんなじゃなかったし」
それでも向日葵さんにとって朝香の存在は特別に感じるようだった。
「…………それはもしかしたら、私の実家が喫茶店をしてるから。かもしれないよ?」
朝香は自分の言動が他者と比べて特別優れているとは感じない。
「……そうなの? 喫茶店してると自然と優しくなれるの?」
向日葵さんの言葉通りの事が本当に起こり得るとも限らない。
けれど…………。
「私の両親はお客様や身近な人に対して優しい気持ちをかけ続けていると思うし、うちの店主がこっちで珈琲豆専門店を開いたのは私の両親と関わってきたのがきっかけだから」
「あーちゃんの、ご両親?」
少なくとも、朝香の両親はその「特別」に値するだろうと娘ながらに思うし
「うん。私は両親からその部分のDNAを継いでるんだろうなって思うよ。私がすごく優しいっていうよりも、優しい両親の子だから向日葵さんの目にそう映ってるのかも」
……と、朝香がそこまで伝えると
「…………」
泣きそうな表情で沈黙した後に
「そっか」
と呟いて、また朝香の頭を撫でた。
(痛みと言えば…………夕紀さんも、そうかも)
雨音をBGM代わりに聴きながら、向日葵さんの手のひらの温もりを頭に感じて……。
ふと朝香は店主の過去を思い起こす。
(夕紀さんが修行で『むらかわ』に来た頃、すごく情緒不安定だったんだよね……お母さんが夕紀さんを毎晩宥めていたよなぁ)
夕紀のプライバシーに関わる内容の為、真相を聞く機会は一度も訪れなかったが……あの時朝香の母は「あなたも恋をしたら気持ちが分かるはず」という事を言っていた。
修行が始まったばかりの頃、遠野夕紀は恋の悩みで心を痛めており……そして、修行がもう時期終わるという頃に遠野皐月を亡くして自暴自棄になっていた。あの頃は「夕紀がずっと夢を持ち続けていた店を開けないかもしれない」と、朝香も両親達も心配しており、夕紀の精神状態が開店に間に合って良かったと皆が胸を撫で下ろした程だ。
(夕紀さんの恋の痛みを癒したのは、お母さんのコーヒー。
皐月さんの件で、私も「喫茶店ごっこ」をやって少しでもお手伝い出来ればいいなって……夕紀さんに寄り添って)
朝香が夕紀の弟子となりこの地域で働きたいと願ったのは、自分自身も珈琲の知見を広げてみたい欲求が高まったからでもあるが、それよりも「遠野夕紀が気掛かりで仕方がなかった」という理由の方が強かった。
(夕紀さんは……妹の皐月さんと一緒に珈琲店を営みたかったから)
元々は皐月が夕紀に願ったのがきっかけなのだそうだ。妹の願いを叶える為に夕紀は開業資金を貯め、修行し、朝香の両親の力を借りながら店の準備をしてここまで来た経緯がある。
(妹さんを失った状態で珈琲店を開く事になっちゃったから、夕紀さんの精神状態もギリギリなわけだけど)
夕紀は朝香よりも年齢的に大人であるが、抱えているものが多すぎ故に気持ちにゆとりが持てていないと朝香は感じている。未だに住まいを構えず『もりやま青果店』の空き部屋で寝泊まりしているのもその影響が強いからだと考えられる。
(夕紀さんも、向日葵さんも……苦労が本当に多いんだな)
朝香は目を閉じ
「向日葵さんにあるトラウマとか、苦手な事とかはね。無理に治す必要はないって私は思うんだ」
夕紀の状況を頭に思い浮かべながら、向日葵さんに語りかけてみた。
「……そう?」
「うん。向日葵さんは私にキスしたいけど出来ないって言うじゃない?
別に私はそれでもいいと思ってるよ。キスって言っても唇同士のキスが気持ち悪くなってしまうだけで、ほっぺたのキスは出来るし……唇以外だったら首にも耳にも……脚にも、出来るわけだし」
……が、体の部位を例に挙げていくうちに恥ずかしくなってくる。
(やだぁ……ドライブデートの後にされた事を思い出しちゃった)
自然と内腿や膝に力が入りモジモジしてしまう。
「ぇ……」
そんな朝香の様子を向日葵さんが見逃すわけはないし
「……い、いいの? 首とか耳とか……脚にキスしても」
動揺の色を隠せないまま、向日葵さんが再確認してきたので
(ええい! 恥ずかしいけど大好きだもんっ! 拒否ってる場合じゃないっ!!)
目をギュッと強く閉じながら
「いいよっ! 向日葵さんが私にしたい事、出来る事なら全部っ! 私にしてもっ!!」
覚悟を決めてそう答えた。
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