【R18本編完結&番外編更新中】この雨が上がったら一緒にコーヒーを飲みませんか?

silverchaff

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本編

五月雨とカサブランカ3

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 皐月の月命日参り以後、大雨の日々が続く。

(梅雨明けまでずっとこんな天気なのかなぁ)

 局地的豪雨が起こっても、翌朝はスッキリとした晴れ間は見られず7月に突入したというのにずっと青空を見ていない。七夕の夜も雨の予報となっている。

「あーちゃん……」

 そんな雨夜であっても向日葵さんから降り注ぐ朝香への熱愛だけは猛烈にあつく、sunflowerの名そのものであるように感じられた。

「ひまわり、さぁん」

 今も彼は生まれたままの姿となり、朝香の耳や首に口付けをしながら衣服を脱がして己と同じにさせたいと望んでいる。


「ハァ……ハァ……あ、あーちゃん……」

 部屋の窓に雨粒が激しく当たっている室内で、彼は呼吸を荒くして……

 意を決したように、唾を呑み込み……

 ゴツッとした喉仏が上下に動くところが朝香の視界に入ったと……そう思った直後に

「あーちゃんだいすき……大好きだよ……気持ちがもう、抑えきれないくらいに、大好き」

 彼は吐息混じりの声でそう言い、朝香の頬に手を添えて

 ゆっくりと顔を近付けさせて、朝香に迫ってくる。

「っ」

 朝香は静かに瞼を閉じた。

(今までのとは……違う)

 キスをされるのだろうと、朝香は察したのだ。

(耳でも、首でもなくて……)

 それほど彼は緊張しており、素肌越しに朝香にも伝わっていく。



(大丈夫だよ……大丈夫)

 彼が苦しみを感じても優しく受け止めようと心に決めながら、唇が重なる期待を込める。


 そっと……

 唇の、ごく薄い皮膚にくすぐったいような感覚がきたと思えば……すぐに

「んっ」

 柔らかくてしなやかなものが朝香の唇を圧し、擦れ合う。

「んふぅ」

 朝香にとって、人生初の……唇同士で繋がるキスは

「んんぅ……」

 幼い頃に夢見た、おとぎばなしのようなイメージとは違っていたのだが

 それまで擬似的なセックスを何度も何度も経験してきた朝香にとってはそれは恐れの対象とはならず

(気持ちいい……)

(唇も、舌も気持ち良くて、体がビクビクしちゃう)



(これも、セックスなんだ……)

 キスは熱烈な性愛行動であり、猛烈に燃え上がる愛を表現する行為なのだと認識出来たのだった。



「……っ、はぁ」

 向日葵さんが顔をあげる頃には、朝香の全身は真夏の太陽を受けたように熱くなっていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 何度も絶頂を果たし頭がクラクラしている。

「………………でき、た」

 そんな中でも、向日葵さんの呟きはきちんと捉える事が出来て

「うん……良かった……向日葵さん、キス出来たね」

 朝香は彼の頬へと手を伸ばしながら、吐息混じりの呟きで返す。

「うん、できた……ずっとしたかったキス、できたよ」

 朝香の指に、向日葵さんの涙が伝う。

「うん、うれしい」

 それは嬉し涙なのだと気付いた朝香の両目からも涙があふれ出てきて……

「うれしい……すごく、うれしいよあーちゃん」

 向日葵さんのキスが朝香の瞼へと何回も落とされた。





 裸のまま抱き合い、うたた寝する中で……朝香は

(向日葵さんが言ってた雨……なんだか、分かる気がする)

 以前彼が漏らしていた「雨が上がらなければいいのに」の言葉を思い返す。

(今みたいな雨が降っていたら、お家の中でこうしていても……誰にも何にも言われないもん)

 誰にも苦言されず

 誰にも邪魔されない

 雨が全部、誰をも寄せつけなくなるから

 雨が守ってくれているおかげで……家の中では自由に呼吸が出来る。

 自由になれる



 雨上がりが良きものであると、ずっと思っていた朝香であったが……

 向日葵さんの存在が「雨も良きものである」と気付かせてくれたのだ。




 それは、朝香が彼に「大好き」と告げた……1ヶ月後のことであった。



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