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解けない魔法

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 誕生日パーティーは2時間くらいでお開きになり、真澄は藤井くんと電車に乗って帰ってしまった。

「真澄達、それぞれお家に帰るのかな?」

 キッチンで洗い物をするりょーくんを椅子に座って眺めながら私が訊くと

「矢野は実家に『今日ここに泊まる』って言ってきてたはずだから、これから外へ繰り出して二人で楽しい夜を過ごすんじゃないかな?」

 黒髪のりょーくんはそう言いながらニヤリと笑う。

「世間はハロウィン真っ盛りだよ? 夜の街に繰り出すって言っても仮装してる人達でごった返してるんじゃないの?」
「まぁ、矢野や藤井はそれ込みで楽しんじゃいそうだよなぁ。人がいっぱいで混雑してでも何かしらのイベントを味わいたいだろうから」
「それにしてもビックリしたよりょーくん! 髪型も髪色も変わってて別人レベルのイメチェンだよね!!」

 食器の片付けが終わってこちらに戻ってきたりょーくんの顔を見上げながら私が言うと、彼はニッコリ微笑んで私に優しくキスをした。

「ベッドでお酒飲んじゃおうっか♪ 約束してたワイン買ってきてるんだ♡」
「ひゃうぅ♡」

 見た目が変わっても耳元で囁く低音イケボはりょーくんそのものだ。

 ベッドルームに入るとりょーくんは天井の照明ではなく、ベッド下でスイッチをカチッとつける音を立てて……

「わぁ……!」

 下からスポットライトが間接的に灯り、ベッド横のチェストを大人っぽく照らした。

 チェストには薔薇とかすみ草のドライフラワーを巻き付けたアロマキャンドルがあり、そちらにも火を灯す。

「どうかな?あーちゃん」
「すごく綺麗だよ……」

 それらに目を奪われていると、りょーくんは私に

「ベッドに座ってていいからね♡」

 と、囁くように言うとキッチンからグラスとボトルを持ってきた。

「あーちゃんと飲むワイン、赤にしようか白にしようかと迷ってたら結局決めらんなくてさ、結局ピンクのスパークリングワインにしたんだ」

 彼の素敵な声を聞きながら、私はグラスに可愛らしいロゼ色のスパークリングワインが注がれるのをジッと見つめる。

「かわいい……」

 間接照明やアロマキャンドルの灯りでスパークリングワインの泡がより綺麗にワインの中で立ち昇っている。

「可愛いのはあーちゃんの方だよ」

 りょーくんが私の隣に腰掛け、とろけるような言葉を口にしたかと思えばチュッとまたキスをしてくる。

「っふぁ……♡」

 胸のドキドキが止まらなくて、唇が離れた瞬間私の息が漏れる。

「いつものあーちゃんも可愛くて凄く好きなんだけど、今日みたいに巻き髪にして大人っぽくメイクされたあーちゃんもいいね」

 りょーくんは私の巻き髪に指を巻き付けたり、長くなった睫毛を軽く撫でたりしながら私の髪とメイクを褒めた。

「私……綺麗になってる?」
「凄く綺麗だよ」

 私の問いにりょーくんは微笑み頷いてくれた。

「私、りょーくんの好みのタイプになってる? 背がちっちゃいしスタイルも良くないし、今日のワンピもヘアメイクも似合ってるか不安なんだけど、ちゃんとりょーくん好みの女の子になれてるのかな」

 不安になりながらそう訊くとりょーくんはクスクス笑い出した。
 
「俺好みの女の子って……こんなに俺があーちゃんに『大好き』って言ってんの全然伝わってないのかな? あーちゃんは既に俺好みの女の子になっちゃってるっていうのに」
「だって! この前私がりょーくんに『私はりょーくんの好みのタイプ?』って訊いたら『真逆だ』って言ってたから」

 彼のクスクス笑いに反論しようと、私が内心ショックを受けた「好みのタイプ問題」を話題に出すと

「あー……あれね、実は、ちょっとした仕返し」

 と、眉を下げながらりょーくんが答える。

「へ? 仕返し?」
「あーちゃん、今月から始まったドラマに出てる俳優の事好きでしょ? 『この俳優さん好みのタイプかも』って俺の隣で呟いてさぁ」
「あっ……」

 彼に言われて自分のした事を思い出す。
 確かに、今ハマってるドラマに登場する俳優さんの見た目と雰囲気が素敵で思わず口に出ちゃったんだった。勿論、りょーくんに向かって言ったわけじゃなかったんだけど。

「じゃあの時りょーくんが言ってたのは、私の見た目がりょーくんの好みに合ってないだとか本当は綺麗な年上女性の事が好きだとかいう意味じゃなくて……」
「誰だって見た目の好みってもんがあるのは理解してるよ。だからあーちゃんの呟きに仕返しした俺が悪い。
 だけど俺達もう半年も付き合ってるんだよ? 今更見た目が好みと違うからって自分の好みにあーちゃんを無理矢理当てはめさせたりなんかしないよ」
「そっかぁ……良かったぁ♡安心したぁ~……
 だとすると私も悪い事しちゃったよね!ごめんね、りょーくんを傷付けるような態度取っちゃって」

 私が睫毛を伏せて謝ると、りょーくんの温かい両手が私の頬を包む。

「ううん、俺もあーちゃんを不安にさせちゃってごめんね。
 俺はあーちゃんの中身そのものが大好きなんだ。勿論外見も可愛いと思うし、愛おしいっていうか……」

 それからまたりょーくんの顔が近付いて、3度目のキスが優しく落ちて……

「俺はあーちゃんが好き。めちゃくちゃ好き♡ 大好き♡」

 4度目のキスは彼の舌が私の唇をゆっくりとなぞって……それからぷちゅぷちゅと唇の感触を味わうように口全体で優しくむ。

「愛してる」

 私の唇を気の済むまで味わい尽くした彼の口は、そう言葉を紡いだ。

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