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解けない魔法

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 見つめられながらりょーくんが「愛してる」って、そう言ってくれたのに

「うそでしょ?」

 私は彼の期待する言葉とは真逆のことを口走った。

「ちょっ……あーちゃん酷いんだけどっ!」

 りょーくんは頬を包んでいた手をパッと離して、顔を背ける。

「酷いのはりょーくんの方だよ!! だってりょーくん何も教えてくれないから!! りょーくんとなかなか会えないから火曜日の夜中にコンビニまで行ってみたんだけど上原さんもりょーくんも居なくて、アルバイトの人に訊いたら休みだって言われて……それで『りょーくんに嘘つかれた』って、悲しくなって」
「それは……確かに、バイトの勤務時間に関しては嘘をついたよ。
 あーちゃんに余計な心配かけさせてもいけないって思ったし、2時半までに帰れればバレないってずるいという考えもあった……かも」

 一度は私に顔を背けたりょーくんだけど、やはり自分に非があると感じたらしくゆっくりとまたこちらに顔を戻す。

「りょーくん、もう嘘つかないって約束してくれたのに」
「本当にごめん……そういえば火曜だったか水曜だったか、井上から変なライン来たなぁ。あーちゃんもしかしてその時に井上って女にコンビニで会ったんじゃない?」
「井上? 確かにコンビニの前で、背が高くてお胸が大きくてスタイルのいい年上の美人さんなら会ったけど」

 名前は分からないけど、コンビニの自動ドアでは例の女性と会って言葉を交わしている。私が出会った女性の特徴を伝えたらりょーくんのツボに入ったらしく、お腹を抱えて笑い出す。

「お胸大きいって……確か井上、『寄せて上げてるだけ』って自虐してたなぁ」
「えっ?! 寄せて上げてる??」

 りょーくんが明かしたその言葉に私は色んな意味でビックリだ。

「っていうか絶対にあーちゃんの方がおっきいし綺麗って感じてたから、井上の胸には全く気にも留めなかったなぁ」
「やぁん……」

 その上りょーくんからそんな褒められ方をされたものだから、恥ずかしくなって両手で自分の胸を覆い隠す。

「あーちゃんの言うその美人さんが井上だよ。年上に見えたのは飲み屋で働いてるからだろうね。ケバい見た目してるだけで俺らと同い年だよ。中学の同級生なんだ」
「同い年??! えっ、そうだったの?」

 りょーくんの話がちょっと信じられない。そのくらい、井上さんは大人っぽい見た目の女性だった。

「実はそうなんだ。井上が働いてるガールズバーはここから離れてるんだけど、この近辺で彼氏と一緒に住んでるみたい」
「しかも彼氏いたんだ……」
「うん、俺とあーちゃんに負けないくらいラブラブらしいよ」

 偶然井上さんも彼氏と同棲中と聞いて肩の力が抜ける。

「井上は俺がこの辺に住んでるらしい事や、背が伸びて金髪ピアスの男になってるっていう情報を他の同級生から聞き齧っていたらしいんだけど、まさか偶然立ち寄ったコンビニに居るなんて思ってなかったらしくてめちゃくちゃビックリしてた。
 んで、俺も俺で井上の見た目の変化にも今の職業にも近所で彼氏と住んでる事にも衝撃的でビックリしまくってさぁ」

 りょーくんは思い出し笑いをしながら話を続ける。

「井上とコンビニで初めて会ったのが10月初めだったかな。ほら、ハロウィンのイベントって年々凝ったものになってきてるでしょ? 店のハロウィンイベントをやる際、既製品の飾り付けじゃあ他の店に勝てないからって困ってたみたい。
 井上は俺が美術得意なの覚えてて、『再会したのが何かの縁』とか言いながら俺に無理矢理『手伝え』って言ってきたんだ。
 月曜日に俺のバイトが2時に終わってバイクで帰ってきたタイミングで井上が車で迎えに来てくれて、閉店後のガールズバーに行って作り方教えてたんだけどあいつら自分の見た目に気をつける癖に飾りの作り方ちっとも覚えてくれなくて、結局ずっと水曜日から金曜日までガールズバーに立ち寄って作業するハメになっちゃって。
 今週、実はあーちゃんの誕生日の準備をしたくてバイト休みにしてたのに計画が狂いまくっちゃった……」
「井上さんって人、すっごく怪しいこと言ってたんだよ。私に向かって『笠原くんのカラダ借りに来たのか?』とか『一人じゃ弄れないから呼びに来た』とか『バイト休みなら他の女の子のところ行ってるんだろうね』とか。
 私てっきりりょーくんがいろんな女性とエッチな事してるんだと思ってて。特にその女性がりょーくんの好みのタイプどんぴしゃだったから……」

 大好きなりょーくんの言葉は信じたいけど疑念が完全に晴れない。
 私の必死な言葉にりょーくんは眉を下げながら

「包み隠さずちゃんとあーちゃんに説明しておけば良かったね。本当にごめんね」

 と、謝ってキスしてくれた。

「ん……」

 優しい言葉とチュッとした軽いキスで私の気持ちは落ち着いていく。

「井上は昔から他人をおちょくるのが好きなんだ。ワザと怪しい言葉並べて揶揄からかうのが趣味みたいなものでさ。『もしかしたら地味系の女の子をいじめちゃったっぽいけど、女の子に心当たりある?』って井上からメッセージ来てたんだよ。その時全く意味がわからなくて放置してたんだけど、その『女の子』があーちゃんだったという事なんだね」
「地味系の女の子って……確かに私は地味だけどさぁ」

 井上さん、初対面の私に対しての扱いが酷い。
 私の口がタコみたいに尖ってしまうと、りょーくんは苦笑していた。

「なー、酷いだろ? だから中学時代も井上の事苦手だったんだよ俺も。
 しかも井上の店で手伝ってたら、なんか知らないけど別のハロウィンイベントやイベント中に店の子や客の顔にペイントまでやらされてすごく参ったよ」
「井上さんのガールズバーだけじゃなくて別のお店も?! それは大変だったね」

 井上さんって人は元同級生のりょーくんに本当に容赦なかったみたいで、彼の困った様子に同情する。

「井上には『今度はクリスマスね』って言われたんだけど断ったよ。あいつら俺が居たら自分でやらずに頼りっきりになるしさぁ。
 実際こうしてあーちゃんを勘違いさせちゃったし、もう本当にやりたくない」

 りょーくんは私をギュッと抱き締める。そのギュッも温もりも嬉しくて気持ちが安らいだ。

「まぁ……誤解が解けたからもう大丈夫だよ」
「手伝いがまさか浮気と勘違いされるなんて考えもしなかったけど、不安にさせてしまったのは悪かったって思ってるんだ。本当にごめんなさい」
「ううん、私もりょーくんを疑ってごめんなさい」
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