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似ているのはもう、ホクロの位置だけ
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しおりを挟む「メイク、こんな感じでどうでしょう?」
未成年の坊やにしては上手くメイク出来た方かもしれないと思った僕は、手鏡をユリさんに渡してチェックしてもらう事にした。
「うん、流石ね♪」
ユリさんの嬉しそうな表情から、今日のほぐし行為同様メイクにも満足頂けたと僕は読み取り、自然と笑みが溢れる。
「ケースケも訓練された良い犬だけど、坊やもこの8ヶ月で様になってきたんじゃない?」
「ホクロを隠し忘れてしまうウッカリ犬ですけどね」
「まぁ、さっきは『プロ失格』なんてきつい事言っちゃったけどいつも感謝してるのよ。坊やのオイルマッサージは毎回寝落ちしちゃうしプロ顔負けだと思うから。店名のごとくウトウトしちゃう。
ケースケに全身を気持ちよくしてもらって夢見心地で居られるのも、坊やに顔や首をほぐしてもらってメイクまでしてもらうのも、私は大好きなのよ」
「ありがとうございます」
僕はまぁ別にいいんだけど、今の言葉は射精を我慢しながらユリさんを担当したケースケくんにも聞かせてやりたいって思う。
昨夜はご主人様に癒してもらっていたとは言え、常連様からの褒め言葉はセラピストにとって最大の癒しになり得るんじゃないかと考えるからだ。
「それにしても坊やが泣きボクロを消し忘れちゃうなんてねぇ。そのくらい、この後の予定とやらは楽しい事なのかしら?」
「えっ??!」
「だって……そういう事じゃない?」
ホクロを消し忘れた行動から、僕に勤務後何かしらの楽しい事があって浮かれているのではないかと予想したユリさんに冷や汗が出る。
「そ、それは」
「なぁに? 可愛い子とのデート?」
預かっていたコートをユリさんに手渡すと、彼女は含みのある笑いで僕を揶揄った。
「内緒ですっ。ユリさんも昼過ぎに新幹線乗るならニアミスしちゃうかもしれませんし」
「あら、同じ時間帯に坊やがあの辺うろついてるのね。探しちゃおうっかなぁ……」
「意地悪な冗談言わないで下さい」
「ふふっ。その言い方だと本当にデートなのねぇ♡ うふふ♡」
「デートじゃないです」
「でもデートするのと同じくらい坊やはウキウキしてるんでしょう? 良いなぁ楽しそうで♪ 若いっていいわねぇ♡」
ユリさんはそう僕に言い残して部屋を退出していった。
「……似てる」
部屋の片付けをしながら、僕はポツリと独り言を呟いた。
接客業はお客様に教わる事の方が多いと聞いたけれど、まさにその通りだ。
特にユリさんの左口端に位置するホクロを見ていると、同じ位置にホクロを持つご主人様に言われていると錯覚してしまう。
それは僕が若くて無知だから、ユリさんも客という立場を越え優しい気持ちで様々な事を教えてくれるのだろう。
その上僕が粗相をしても立派な対価を貰えるのだからこの店は大学以上に有り難い環境だと僕は思う。
ご主人様が店に居ないこの時間帯はタブレット端末を受付の幹さんに渡すことになっている。
いつものように日誌を打って着替えを済ますとご主人様の部屋へは寄らずにエレベーターで1階まで降りた。
「幹さんには一応この時間帯お客様の出入りは無いと言っていたけど……」
僕はエレベーター乗り場から少しだけ顔を出して辺りを見回した。
今は着替えてしまい「リョウ」の姿になっていない時はお客様と鉢合わせしないよう気をつけなければならないのが面倒くさい。
(1階フロアに茶髪で犬耳も犬尻尾もつけていない男がうろつくって、お客様にしたら不審者でしかないもんなぁ……面倒だけど仕方ないか)
受付にお客様が居ないのを見計らって幹さんにタブレット端末を託し、周囲に誰も歩いていないのをまた確認した後でサッと店を出た。
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