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似ているのはもう、ホクロの位置だけ
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「お腹空いてるのにごめん、花ちゃん」
当初の予定では、眺めの良さそうな商業ビルの高層階でSNS映えしそうなお洒落なランチを花ちゃんと食べて移動の疲れを少しでも癒してあげる筈で……もしくは話の流れでレンさんから教えてもらった出店の料理をいくつか頼んで青空の下でランチを楽しむのも良いんじゃないかとも思っていた。
それなのに花ちゃんの口から飛び出した「彼女が居るんじゃないか?」の意味を含んでるあの発言に思いきり動揺し、デカめの声で全否定した恥ずかしさでランチの計画がグチャグチャに崩れてしまった。
花ちゃんの手を引いて駐車場まで連れて行き後部座席に花ちゃんの旅行カバンを積むと、ゆっくりと助手席を開けて花ちゃんに乗るよう指示する。
「彼女は本当に居ないよ。この車の助手席もまだ、誰も乗せた事がないから」
「そこまでハッキリ説明しなくてもいいのに。私は離婚したけど、別に太ちゃんに彼女が居たっておかしい事じゃないんだから」
花ちゃんはそう言って大人しく助手席に座り、運転席に乗り込む僕の事を不思議そうな表情で見つめてくる。
(じゃあなんでさっき悔しそうな表情しながら僕に彼女の有無を訊くような態度を取ったんだよ!)
と、僕は少しイラついていた。
「居ないのは、事実だし」
「そっか……」
エンジンをかける僕に対し花ちゃんはポツリと
「モテそうなのに」
なんて、またイラつく言葉を漏らしてくる。
「大学入ってすぐ彼氏出来た花ちゃんとは違うんだよ」
花ちゃんが機嫌を悪くするような台詞を吐いて、僕はランチ後に予定していた観光スポットへと車を出発させた。
「太ちゃんの意地悪」
駐車場を出て大通りに出たところで、花ちゃんが不機嫌な声を出す。
「モテないチビの弟に向かって『モテそう』だとか気のない発言する花ちゃんが悪いんだよ」
形式上、僕はそう言い訳をしたけれど内心は反省していた。
花ちゃんが大学入ってすぐに出来た彼氏というのがまさに、のちに旦那となり昨日その関係も終わってしまった相手だったからだ。
しかも結婚2ヶ月で別の女を作って不倫して、そっちが身籠ったから花ちゃんは捨てられたという可哀想な御身分でいる。
12月というただでさえ人肌寂しくなる時期に花ちゃんは離婚をして物凄く可哀想な状況なのだから、僕もその辺を気にしてあげれば良かっただろうか?
昔花ちゃんとよく聴いていたアーティストの歌声を耳にし運転していると、思考が段々と軌道修正されていく感覚がした。
「……」
一方、花ちゃんは僕に「意地悪」と言ったまま、何も話さず流れる曲にも反応する事なく車内からの景色を眺めている。
「もうすぐ着くから」
ここ一帯のシンボルとも言えるタワーが見えてきたところで僕がそう呼びかけると、花ちゃんはとても小さな声で頷いてくれた。
(確かタワーの中や周辺にも、ランチ出来る店はあった筈……)
駐車のハンドル捌きをしながら飲食店の所在について記憶中枢から引き出す作業を行う僕。
あれこれと花ちゃんの好みそうな食べ物を思い浮かべながら運転席から出て、助手席のドアを開けると花ちゃんは
「ラーメン食べたい」
と僕の想定から外れた食べ物を要求してきた。
「えっ? ラーメン? なんで?」
「車から外の景色を見てたら、とんこつラーメンのお店が何軒もあったから」
だけ
「とんこつラーメン……」
確かにこの近くにも有名店があった筈だ。大学の仲間に誘われてこの辺をうろついた時に入った店もある。けれども白いコートを着た20代前半の女性にとんこつラーメン店は不釣り合いなんじゃないかという考えも浮かんだ。
花ちゃんくらいの歳の女性なら、強い臭いが立ち込めるような店やSNS映えしない店には行きたがらないだろうと思ったからだ。
「ダメ?」
車にロックをかける僕に2文字とクエスチョンマークをつける花ちゃんに、思わず
「だってSNS映えしないでしょ」
と、僕は頭の中で考えていた事をそのまま口にする。
「……」
花ちゃんは一度俯き視線も僕とは別方向へと向けながら
「……してないよ、SNS。しているとしてもこのタイミングで画像とか載っける人は居ないでしょ」
と、物凄く冷静な事を僕に言った。
「……だよ、ね」
確かに、SNSをやっていたとしても離婚直後に明るく「旅行してまーす」だとか映える食事画像を載せる人間なんて聞いた事がない。
「ここからだと歩いてすぐくらいのところにラーメン屋あるから、そこ行こうか」
「うん、案内お願い。太ちゃん」
少し気まずい雰囲気になりながらも、僕は花ちゃんの空腹を満たす為の食事へと案内し、その後もほぼ無言でとんこつラーメンを啜るというなかなかシュールなランチタイムを過ごす事になった。
当初の予定では、眺めの良さそうな商業ビルの高層階でSNS映えしそうなお洒落なランチを花ちゃんと食べて移動の疲れを少しでも癒してあげる筈で……もしくは話の流れでレンさんから教えてもらった出店の料理をいくつか頼んで青空の下でランチを楽しむのも良いんじゃないかとも思っていた。
それなのに花ちゃんの口から飛び出した「彼女が居るんじゃないか?」の意味を含んでるあの発言に思いきり動揺し、デカめの声で全否定した恥ずかしさでランチの計画がグチャグチャに崩れてしまった。
花ちゃんの手を引いて駐車場まで連れて行き後部座席に花ちゃんの旅行カバンを積むと、ゆっくりと助手席を開けて花ちゃんに乗るよう指示する。
「彼女は本当に居ないよ。この車の助手席もまだ、誰も乗せた事がないから」
「そこまでハッキリ説明しなくてもいいのに。私は離婚したけど、別に太ちゃんに彼女が居たっておかしい事じゃないんだから」
花ちゃんはそう言って大人しく助手席に座り、運転席に乗り込む僕の事を不思議そうな表情で見つめてくる。
(じゃあなんでさっき悔しそうな表情しながら僕に彼女の有無を訊くような態度を取ったんだよ!)
と、僕は少しイラついていた。
「居ないのは、事実だし」
「そっか……」
エンジンをかける僕に対し花ちゃんはポツリと
「モテそうなのに」
なんて、またイラつく言葉を漏らしてくる。
「大学入ってすぐ彼氏出来た花ちゃんとは違うんだよ」
花ちゃんが機嫌を悪くするような台詞を吐いて、僕はランチ後に予定していた観光スポットへと車を出発させた。
「太ちゃんの意地悪」
駐車場を出て大通りに出たところで、花ちゃんが不機嫌な声を出す。
「モテないチビの弟に向かって『モテそう』だとか気のない発言する花ちゃんが悪いんだよ」
形式上、僕はそう言い訳をしたけれど内心は反省していた。
花ちゃんが大学入ってすぐに出来た彼氏というのがまさに、のちに旦那となり昨日その関係も終わってしまった相手だったからだ。
しかも結婚2ヶ月で別の女を作って不倫して、そっちが身籠ったから花ちゃんは捨てられたという可哀想な御身分でいる。
12月というただでさえ人肌寂しくなる時期に花ちゃんは離婚をして物凄く可哀想な状況なのだから、僕もその辺を気にしてあげれば良かっただろうか?
昔花ちゃんとよく聴いていたアーティストの歌声を耳にし運転していると、思考が段々と軌道修正されていく感覚がした。
「……」
一方、花ちゃんは僕に「意地悪」と言ったまま、何も話さず流れる曲にも反応する事なく車内からの景色を眺めている。
「もうすぐ着くから」
ここ一帯のシンボルとも言えるタワーが見えてきたところで僕がそう呼びかけると、花ちゃんはとても小さな声で頷いてくれた。
(確かタワーの中や周辺にも、ランチ出来る店はあった筈……)
駐車のハンドル捌きをしながら飲食店の所在について記憶中枢から引き出す作業を行う僕。
あれこれと花ちゃんの好みそうな食べ物を思い浮かべながら運転席から出て、助手席のドアを開けると花ちゃんは
「ラーメン食べたい」
と僕の想定から外れた食べ物を要求してきた。
「えっ? ラーメン? なんで?」
「車から外の景色を見てたら、とんこつラーメンのお店が何軒もあったから」
だけ
「とんこつラーメン……」
確かにこの近くにも有名店があった筈だ。大学の仲間に誘われてこの辺をうろついた時に入った店もある。けれども白いコートを着た20代前半の女性にとんこつラーメン店は不釣り合いなんじゃないかという考えも浮かんだ。
花ちゃんくらいの歳の女性なら、強い臭いが立ち込めるような店やSNS映えしない店には行きたがらないだろうと思ったからだ。
「ダメ?」
車にロックをかける僕に2文字とクエスチョンマークをつける花ちゃんに、思わず
「だってSNS映えしないでしょ」
と、僕は頭の中で考えていた事をそのまま口にする。
「……」
花ちゃんは一度俯き視線も僕とは別方向へと向けながら
「……してないよ、SNS。しているとしてもこのタイミングで画像とか載っける人は居ないでしょ」
と、物凄く冷静な事を僕に言った。
「……だよ、ね」
確かに、SNSをやっていたとしても離婚直後に明るく「旅行してまーす」だとか映える食事画像を載せる人間なんて聞いた事がない。
「ここからだと歩いてすぐくらいのところにラーメン屋あるから、そこ行こうか」
「うん、案内お願い。太ちゃん」
少し気まずい雰囲気になりながらも、僕は花ちゃんの空腹を満たす為の食事へと案内し、その後もほぼ無言でとんこつラーメンを啜るというなかなかシュールなランチタイムを過ごす事になった。
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