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1st season 第一章
004 合同訓練 - 二日目
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ただただ強いカードを揃えるのでは無く、ビジョンを持って組み上げていくのがパーティー構築。
昨日の講義で皆思うところがあったのか、ユリアの勧誘合戦はやや下火になったようだ。
とはいえ空気の読めない奴というのは必ず居るもので・・・
「おはよう、ユリア殿。昨夜はずいぶんと早くお休みのようだったが、やはり淑女にこのような粗野な旅路は馴染まなかったかな?この、アルフレッド・フォン・グラハム、ユリア殿との語らいを楽しみにしていたのだが、今宵こそはともに語り明かそうではありませんか。ああ、従者殿もおはよう」
「えーと、グラハム様?」
「いや、ユリア殿にはアルフレッドと、いやいやむしろ親しみをもってフレッドと読んで頂いて構わないよ?」
「いえ、アルフレッド様。しがない平民の私が高貴なアルフレッド様の御名を略すなど許されません。そしてカインは従者では無く婚約者です」
「ふむ・・・慎み深いのだな。従者殿が所詮は従者と蔑まれぬよう、婚約者と同等と扱ってくれと言う事だね?この、アルフレッド・フォン・グラハム、しかと肝に銘じよう」
アタッカーといえばユリアのような中遠距離を間合いとする攻撃手が想像されがちだが、実際にはこのアルフレッドのように剣などを用いた近距離を間合いとした者の方が圧倒的に多い。
魔法のギフトを持つものが、全てのパーティーに配置されるほど多く居ないという理由もあるが、それ以前に戦場における陣という概念が根底にある。
重装歩兵による強固な盾が前線を押し留め、遊撃手たる騎馬隊が機動力をもって敵陣を崩す事で前線の押し上げが可能となる。
冒険者のパーティーとはこの陣を最小単位までコンパクト化したものであり、アタッカーに求められるのは騎馬隊としての機能であるがゆえに、むしろ弓兵の流れを組む中遠距離攻撃手よりもその本質に近しい。
「ときにユリア殿、いつ頃から我が隊で辣腕を奮ってくれるのか、そちらの予定は定まりましたかな?」
「申し訳ございません、アルフレッド様。栄えあるアルフレッド様の部隊に身を置くなど恐れ多く・・・」
「いや、遠慮は要らない。この、アルフレッド・フォン・グラハムが見初めたのだ。ユリア殿が武勲をあぐるは間違いない。さすがに平民の身とあれば正妻の座は周囲がうるさかろうが、妾の身分であれば家人も歓迎してくれるであろう」
「いや、だから俺が婚約者だって言ってるだろ?勧誘ならまだしも、なんで妾とかの話になんだよ!」
「ふむ・・・案ずるな。従者殿も一歩兵として迎えようではないか?」
正直、全然話が通じない。
当人には悪意のカケラも無く、むしろ善意の好条件をこちらが恐縮し続けているとしか受け取っていないのだからタチが悪い。
俺の無作法な言い分に貴族としての強権を振りかざさないところなど、一周回って好感を抱きかねないくらいだ。
「はいはいフレッド、今日の訓練が始まるから行くよ?シルバーエイプを仕留めてグラハム卿に褒めて貰うんだろ?」
「ハインツか。良いろところに来た。お前からも遠慮は要らないと言ってやってくれないか?」
アルフレッドの家臣が助け舟を出してくれた。
「それではアルフレッド様、私共も準備がございますので。ご武運お祈り申し上げます」
この隙に逃げ出さねば。
~~~~~
結論から言えば、残念騎士のアルフレッド様、なんと戦闘では有能だった。
いや、むしろ天才と言って差し支えない。
Fランクの冒険者にしてみれば格上の相手、単独討伐Dランク指定のモンスター相手にまったくもって遅れをとらない。
カインをはじめ十人程のタンクで必死に抑え込んでいるオーク3体に対し、壁の外側からてくてくと歩み寄ると「我が名はアルフレッドなにがし・・・」と呑気に口上をのたまくった上に「我が名のりに対し面を向けぬとは何事か!」とか逆ギレして一刀の元に屠ってしまった。
その後もエルベの森の恐ろしいモンスター相手に戦果をあげ続け、その無双ぶりには随行員のザックさん達も愕然としていた。
昨日はミンナから余所余所しく避けられていたのが一転、野営地へ戻っての夕食時には輪の中心となってご満悦のご様子。
あとから聞いたところ、アルフレッド様のギフトは『気配遮断(極)』戦闘が開始されるとオートで発動し、気配察知によほど長けた相手で無ければ、攻撃されるまでその存在自体に気づくことができないそうだ。
反則である。
しかも亡き祖父から引き継いだ両手剣は家宝とされる業物で、モンスターの骨くらいなら簡単に一刀両断してしまえるそうだ。
「あの残念な口上が無ければ伝説になりえる逸材だよな~」
「人柄も悪くないのに・・・残念な残念さが残念よね~」
火魔法がご法度な森の中でこそ、ユリアの氷魔法が注目の的となる事が予想された二日目、終わってみればアルフレッド様の独壇場であった。
どれだけ敵陣に突出しても、ヘイトを集める事の無いアタッカー、まさに理想的な配役である。
格上の敵に緊張を強いられるハズが、アルフレッド様の奇行と想像を絶する結果。
訓練生達は一同に緊張しそこなった。
合同訓練からの帰還後、随行員満場一致の推薦でアルフレッド様のEランク昇格が決定したのは当然の事と言えよう。
昨日の講義で皆思うところがあったのか、ユリアの勧誘合戦はやや下火になったようだ。
とはいえ空気の読めない奴というのは必ず居るもので・・・
「おはよう、ユリア殿。昨夜はずいぶんと早くお休みのようだったが、やはり淑女にこのような粗野な旅路は馴染まなかったかな?この、アルフレッド・フォン・グラハム、ユリア殿との語らいを楽しみにしていたのだが、今宵こそはともに語り明かそうではありませんか。ああ、従者殿もおはよう」
「えーと、グラハム様?」
「いや、ユリア殿にはアルフレッドと、いやいやむしろ親しみをもってフレッドと読んで頂いて構わないよ?」
「いえ、アルフレッド様。しがない平民の私が高貴なアルフレッド様の御名を略すなど許されません。そしてカインは従者では無く婚約者です」
「ふむ・・・慎み深いのだな。従者殿が所詮は従者と蔑まれぬよう、婚約者と同等と扱ってくれと言う事だね?この、アルフレッド・フォン・グラハム、しかと肝に銘じよう」
アタッカーといえばユリアのような中遠距離を間合いとする攻撃手が想像されがちだが、実際にはこのアルフレッドのように剣などを用いた近距離を間合いとした者の方が圧倒的に多い。
魔法のギフトを持つものが、全てのパーティーに配置されるほど多く居ないという理由もあるが、それ以前に戦場における陣という概念が根底にある。
重装歩兵による強固な盾が前線を押し留め、遊撃手たる騎馬隊が機動力をもって敵陣を崩す事で前線の押し上げが可能となる。
冒険者のパーティーとはこの陣を最小単位までコンパクト化したものであり、アタッカーに求められるのは騎馬隊としての機能であるがゆえに、むしろ弓兵の流れを組む中遠距離攻撃手よりもその本質に近しい。
「ときにユリア殿、いつ頃から我が隊で辣腕を奮ってくれるのか、そちらの予定は定まりましたかな?」
「申し訳ございません、アルフレッド様。栄えあるアルフレッド様の部隊に身を置くなど恐れ多く・・・」
「いや、遠慮は要らない。この、アルフレッド・フォン・グラハムが見初めたのだ。ユリア殿が武勲をあぐるは間違いない。さすがに平民の身とあれば正妻の座は周囲がうるさかろうが、妾の身分であれば家人も歓迎してくれるであろう」
「いや、だから俺が婚約者だって言ってるだろ?勧誘ならまだしも、なんで妾とかの話になんだよ!」
「ふむ・・・案ずるな。従者殿も一歩兵として迎えようではないか?」
正直、全然話が通じない。
当人には悪意のカケラも無く、むしろ善意の好条件をこちらが恐縮し続けているとしか受け取っていないのだからタチが悪い。
俺の無作法な言い分に貴族としての強権を振りかざさないところなど、一周回って好感を抱きかねないくらいだ。
「はいはいフレッド、今日の訓練が始まるから行くよ?シルバーエイプを仕留めてグラハム卿に褒めて貰うんだろ?」
「ハインツか。良いろところに来た。お前からも遠慮は要らないと言ってやってくれないか?」
アルフレッドの家臣が助け舟を出してくれた。
「それではアルフレッド様、私共も準備がございますので。ご武運お祈り申し上げます」
この隙に逃げ出さねば。
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結論から言えば、残念騎士のアルフレッド様、なんと戦闘では有能だった。
いや、むしろ天才と言って差し支えない。
Fランクの冒険者にしてみれば格上の相手、単独討伐Dランク指定のモンスター相手にまったくもって遅れをとらない。
カインをはじめ十人程のタンクで必死に抑え込んでいるオーク3体に対し、壁の外側からてくてくと歩み寄ると「我が名はアルフレッドなにがし・・・」と呑気に口上をのたまくった上に「我が名のりに対し面を向けぬとは何事か!」とか逆ギレして一刀の元に屠ってしまった。
その後もエルベの森の恐ろしいモンスター相手に戦果をあげ続け、その無双ぶりには随行員のザックさん達も愕然としていた。
昨日はミンナから余所余所しく避けられていたのが一転、野営地へ戻っての夕食時には輪の中心となってご満悦のご様子。
あとから聞いたところ、アルフレッド様のギフトは『気配遮断(極)』戦闘が開始されるとオートで発動し、気配察知によほど長けた相手で無ければ、攻撃されるまでその存在自体に気づくことができないそうだ。
反則である。
しかも亡き祖父から引き継いだ両手剣は家宝とされる業物で、モンスターの骨くらいなら簡単に一刀両断してしまえるそうだ。
「あの残念な口上が無ければ伝説になりえる逸材だよな~」
「人柄も悪くないのに・・・残念な残念さが残念よね~」
火魔法がご法度な森の中でこそ、ユリアの氷魔法が注目の的となる事が予想された二日目、終わってみればアルフレッド様の独壇場であった。
どれだけ敵陣に突出しても、ヘイトを集める事の無いアタッカー、まさに理想的な配役である。
格上の敵に緊張を強いられるハズが、アルフレッド様の奇行と想像を絶する結果。
訓練生達は一同に緊張しそこなった。
合同訓練からの帰還後、随行員満場一致の推薦でアルフレッド様のEランク昇格が決定したのは当然の事と言えよう。
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