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1st season 第一章
017 都合のいい依頼
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「お願いします!どなたか、どなたか依頼を受けて下さい!娘を助けてください!」
泥にまみれたギルドの床に頭をこすりつけて女が叫ぶ。
「ラティアさん!やめて下さい。そんな風にされても今は無理なんです!」
ギルドのスタッフが止めに入るが女は止めようとしない。
「白月草が手に入らなければ娘は死んでしまいます。まだ・・・6歳なのに・・・ううううう」
「あれ、白兎亭のラティアじゃねーか?」
「白月草・・・アリスちゃん、斑熱なのね・・・かわいそうに」
「亭主は女つくって逃げ出すわ、娘は病で助からねぇわ、ほんと救われねぇ話だ」
なんの話かわからず、かと言って土下座する女性を踏み越えるわけにも行かず、カインがぼーっと突っ立っていると、いつも絡んでくる名も知らぬ男が話しかけてきた。
「白月草は試練の洞窟にしか生えてねぇんだ。」
「試練の?洞窟?」
「なんだおめぇ知らねぇのかよ?なんでも一歩でも中に入ると全身に激痛が走るんだと。それがとても人間に耐えられるような痛みじゃねーらしくてな、痛覚無効のギフト持ちでも無きゃ取りにいけねーのさ」
冒険者の一人がギルド員に声をかける。
「カトラスは居ねぇのか?」
「はい、今は指名依頼で公国に行ってるようで、緊急依頼を出してもとても間に合いません」
「他の街のギルドにあてはねーのか?」
「問い合わせはしているのですが・・・難しいでしょう。金貨一枚でエルダーサまで来てくれるような物好きは・・・失礼」
悲痛な声で女が懇願する。
「お願いします。報酬が足りなければ私の身体を好きにして頂いて構いませんっ!どなたかっ、どなたかアリスを助けて下さいっ!」
正直、今のカインにはその6歳の少女に同情できるだけの余裕すら無かった。
目の前の些細な騒ぎが邪魔くさいのが半分、なんで誰も助けないのか不思議なのが半分、だから、口が滑ってしまったのにコレと言った理由は無かった。
「なぁ、ちょっといいか?痛いのを我慢すればいいだけなんだろ?そこ?なんで自分で取りに行かないんだ?」
「カインさん、ご存知無い様ですが『試練の洞窟』は新兵の度胸試しで使われてるほど厳しい所なんです。身体には一切傷がつかないのに、爪を剥がれ、目をくり抜かれ、心臓を握りつぶされるような激痛が、中にいる間ずっと続くんです。」
「しかもたいして強かねぇとはいえ、モンスターも住み着いてんだよ。痛みで歩く事すらできねぇとこにモンスターだ。ギフト持ち以外で白月草を取ってきた奴は一人もいねぇ」
ふーん、聞くだけ聞いてみるか?
「なぁ、あんた。それ、F級の俺でも受けられるのか?」
「助けて下さるんですか!?」
「いや、行った事ないから約束はできないけど。行くだけなら構わない」
「お願いします。なんでもしますから、娘を・・・アリスを助けてください」
「カイン、やめとけ。CやDでも無理なんだ。死ぬぞ!?」
「んー、まぁ、そこは気にしないって事で・・・あんた、いい人だな」
「カインさん、本当にお受けになるんですか?」
「はい。手続きお願いします。あ、でも、もしも他にやれそうな人が居たら、俺の方は破棄してもらってそっちに回して下さい。誰も居なければ行ってみるってだけなんで。あと、詳しい話、聞かせて下さい」
会議室に入るのは初めてだった。
そこで一通りの説明を受けた。
曰く、試練の洞窟は北の街道からそれた山の中にある。
曰く、馬車なら一日、徒歩なら二日の距離になる、が、馬車は山の中まで入れないので、馬に乗れないカインには徒歩以外の選択は無い。
曰く、遅くとも一週間以内に白月草を届けられねば、娘さんは助からないらしい。
曰く、白月草は洞窟最奥の小さな池の周りに生える白い草らしい。
曰く、度胸試しはロープをくくり付けた新兵を送り込み、ロープが進まなくなったところで引きずり出す行事。気絶するまでのロープの長さを競うもので、のこのこ歩いて戻れるような痛さでは無いらしい。
曰く、中に住み着いている魔物は、知能の低いトードや昆虫系だが、痛覚無効持ちのカトラスが年に1~2度入るだけなので、詳しい情報は無い。
今回は特例措置なので、クエスト失敗の罰金は無い代わりに、より確率の高い冒険者が名乗りを上げたら、出発後でもカインの依頼を破棄する場合がある旨にサインし、事務処理は終わった。
縋るように「お願いします」と繰り返すラティアを見ていると「この依頼なら死んでもそれなりに格好がつくな」などどと考えている自分が多少なり申し訳なくなるのだが、頭の中のユリアが、男達の肉棒を貪るのを止めないので、そそくさとギルドを後にした。
~~~~~
数日ぶりに戻る銀の剣亭。
二人が過ごした部屋へ入ると、懐かしい日々に胸がいっぱいになった。
その美しい思い出を、頭の中のユリアが穢し続けるので、盾と斧だけを持ち出し、残りは捨ててくれるよう、宿のオヤジに頼んでおいた。
泥にまみれたギルドの床に頭をこすりつけて女が叫ぶ。
「ラティアさん!やめて下さい。そんな風にされても今は無理なんです!」
ギルドのスタッフが止めに入るが女は止めようとしない。
「白月草が手に入らなければ娘は死んでしまいます。まだ・・・6歳なのに・・・ううううう」
「あれ、白兎亭のラティアじゃねーか?」
「白月草・・・アリスちゃん、斑熱なのね・・・かわいそうに」
「亭主は女つくって逃げ出すわ、娘は病で助からねぇわ、ほんと救われねぇ話だ」
なんの話かわからず、かと言って土下座する女性を踏み越えるわけにも行かず、カインがぼーっと突っ立っていると、いつも絡んでくる名も知らぬ男が話しかけてきた。
「白月草は試練の洞窟にしか生えてねぇんだ。」
「試練の?洞窟?」
「なんだおめぇ知らねぇのかよ?なんでも一歩でも中に入ると全身に激痛が走るんだと。それがとても人間に耐えられるような痛みじゃねーらしくてな、痛覚無効のギフト持ちでも無きゃ取りにいけねーのさ」
冒険者の一人がギルド員に声をかける。
「カトラスは居ねぇのか?」
「はい、今は指名依頼で公国に行ってるようで、緊急依頼を出してもとても間に合いません」
「他の街のギルドにあてはねーのか?」
「問い合わせはしているのですが・・・難しいでしょう。金貨一枚でエルダーサまで来てくれるような物好きは・・・失礼」
悲痛な声で女が懇願する。
「お願いします。報酬が足りなければ私の身体を好きにして頂いて構いませんっ!どなたかっ、どなたかアリスを助けて下さいっ!」
正直、今のカインにはその6歳の少女に同情できるだけの余裕すら無かった。
目の前の些細な騒ぎが邪魔くさいのが半分、なんで誰も助けないのか不思議なのが半分、だから、口が滑ってしまったのにコレと言った理由は無かった。
「なぁ、ちょっといいか?痛いのを我慢すればいいだけなんだろ?そこ?なんで自分で取りに行かないんだ?」
「カインさん、ご存知無い様ですが『試練の洞窟』は新兵の度胸試しで使われてるほど厳しい所なんです。身体には一切傷がつかないのに、爪を剥がれ、目をくり抜かれ、心臓を握りつぶされるような激痛が、中にいる間ずっと続くんです。」
「しかもたいして強かねぇとはいえ、モンスターも住み着いてんだよ。痛みで歩く事すらできねぇとこにモンスターだ。ギフト持ち以外で白月草を取ってきた奴は一人もいねぇ」
ふーん、聞くだけ聞いてみるか?
「なぁ、あんた。それ、F級の俺でも受けられるのか?」
「助けて下さるんですか!?」
「いや、行った事ないから約束はできないけど。行くだけなら構わない」
「お願いします。なんでもしますから、娘を・・・アリスを助けてください」
「カイン、やめとけ。CやDでも無理なんだ。死ぬぞ!?」
「んー、まぁ、そこは気にしないって事で・・・あんた、いい人だな」
「カインさん、本当にお受けになるんですか?」
「はい。手続きお願いします。あ、でも、もしも他にやれそうな人が居たら、俺の方は破棄してもらってそっちに回して下さい。誰も居なければ行ってみるってだけなんで。あと、詳しい話、聞かせて下さい」
会議室に入るのは初めてだった。
そこで一通りの説明を受けた。
曰く、試練の洞窟は北の街道からそれた山の中にある。
曰く、馬車なら一日、徒歩なら二日の距離になる、が、馬車は山の中まで入れないので、馬に乗れないカインには徒歩以外の選択は無い。
曰く、遅くとも一週間以内に白月草を届けられねば、娘さんは助からないらしい。
曰く、白月草は洞窟最奥の小さな池の周りに生える白い草らしい。
曰く、度胸試しはロープをくくり付けた新兵を送り込み、ロープが進まなくなったところで引きずり出す行事。気絶するまでのロープの長さを競うもので、のこのこ歩いて戻れるような痛さでは無いらしい。
曰く、中に住み着いている魔物は、知能の低いトードや昆虫系だが、痛覚無効持ちのカトラスが年に1~2度入るだけなので、詳しい情報は無い。
今回は特例措置なので、クエスト失敗の罰金は無い代わりに、より確率の高い冒険者が名乗りを上げたら、出発後でもカインの依頼を破棄する場合がある旨にサインし、事務処理は終わった。
縋るように「お願いします」と繰り返すラティアを見ていると「この依頼なら死んでもそれなりに格好がつくな」などどと考えている自分が多少なり申し訳なくなるのだが、頭の中のユリアが、男達の肉棒を貪るのを止めないので、そそくさとギルドを後にした。
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数日ぶりに戻る銀の剣亭。
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