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1st season 第一章
021 共鳴
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焼けるような喉の渇きと、鈍く押しつぶすような頭痛でカインは目を覚ました。
(目覚めたら知らない天井って・・・ホントにあるんだな)
実際は治療院でも知らない天井を経験しているのだが、あのときのカインにはまだそこに何かを思うだけの知識が無かった。
まずは己の置かれた状況を確認べきなのだが、全身が鈍い方の筋肉痛で鉛のように重く、とても起き上がる決断が出来ない。
朦朧とする頭でも、自身が何も纏っておらず、また、血と泥とゲロにまみれている感触も無くなっている事に気付く。
(誰かが介抱してくれてるって事はそうそう危険な状況では無いはず。起き上がれそうにも無いしもう少し眠ろう・・・)
人間の身体というのは思いのほか動くものである。
追い詰められていれば丸三日くらいなら稼働させ続けられる。
僅かな仮眠でも挟めば一週間もいけないことは無い。
だが、睡眠をとらない事で回復できず、筋と臓器に累積したダメージを取り戻すには、稼働し続けた時間の何倍もかかる。
事実、カインの前世職であるプログラマーという職業では、丸三日一睡もせずにキーを叩き続ける程度など、決して珍しい事では無かった。
勿論、72時間勤務し続けたからといって、次の72時間どころか翌一日すら休ませて貰える事も無く、精々が納品が終わったその日は定時で帰れるという特典がある程度のものだった。
当然ながら累積したダメージは目に見えぬところで誤作動を頻発し、32年という、平均よりもかなり短い耐用年数で人としての機能を停止させたわけだが。
コンコン
次にカインの目を覚ましたのは、扉の開く音だった。
「カイン様、目が覚めました?」
目の前の人物に心当たりが無い。
かといって誰しもに名を知られるほど自身が有名とも思えない。
はて・・・?
「今回は、本当にありがとうございました」
助けられ、お礼を言うべきは自分の方なのに深く頭を下げられた。
「自分がどんな無茶なお願いをしてしまったのか・・・ギルドで教えられました。例え白金貨を積まれても他に引き受けるものは居なかっただろうと・・・カイン様が命をかけて娘の命を救って下さったご恩、生涯かけても返させて頂きます」
どうやら今回の依頼主らしい。
何か返答しようと思うがうまく頭が働かず、そもそも唇の上下が乾いて貼り付き口が開けない。
「何か口に入れられる物をお持ちしますね」
~~~~~
ラティアの献身的な看護により、四日目にはカインも一階の食堂に降りられるようになっていた。
「ラティアさんのおかげで随分と力を取り戻せました。本当にありがとうございました。後ほどギルドで宿代を引き出してきますね。恥ずかしながら無一文なもので」
そう言うカインはラティアに借りた衣類を身に着けている。
カインが着ていた衣類はそもそも服と呼べる状態では無く、ボロ布と呼ぶにも無理がある『汚れた付着物』以外に言い表しようの無い物体であった。
「いいえ、カイン様からお金を頂くなど、鉄貨一枚たりとも受け取れませんっ!」
「おにいちゃん、おかねないの?」
「これ、アリスっ!」
白月草で一命を取り留めたラティアの娘はすっかりカインに懐いていた。
白兎亭は商宿。
厩が併設され、キャラバン隊が利用するその宿は冒険者向けとはやや趣が異なり、長期滞在する客は珍しい類だ。
手伝いのとき以外はなかなか構って貰えないアリスにとって、日がな部屋に居て、逃げ出すことの出来ないカインは恰好の遊び相手になった。
宿泊費を払おうとするも「恩人から金をとる守銭奴と思われては商いが立ち行かなくなる」と言われれば、無理を通すことも出来ない。
実際そんな事は無いのだが、三十路に手が届こうというラティアに十六歳のカインがかなうわけも無く・・・
(うーん、どの世界でも女の人には逆らえないな)
~~~~~
チャポンッ スッ スッ スッ スッ
ぬるま湯の入った桶の隣、カインは居心地悪そうに棒立ちになっていた。
白兎亭で過ごす日々で、カインがもっとも苦手とする時間だ。
スッ スッ スーッ ススッ
緩く絞った布でラティアがカインの背を拭う。
自分で拭くと言ってみても頑として譲らず、毎夜言い負かされてしまう。
逞しいとは言えないまでも、若く引き締まったカインの身体。
その筋張っだ脹脛に濡れ布が添えられ、内股を通って尻までを拭われる。
決して性的な行為では無いのだが、年上美人にされていると思うとどうしても愚息が反応してしまう。
そしてソレが隠しようも無く天を仰げば、このあとはさも「洗っているだけですよ?」という表情をしたラティアの左手が尻の間がら陰嚢を包み、腰の外側から回り込んだ右手が竿を揉み洗いするのだ。
たまらず鈴口からヌメる粘液が滲み出すと、それを拭った指でカリ首をキュッキュッと洗われる。
裏筋の窪みを指の腹でカリカリと掻き出され、陰嚢がキュッと収縮する。
頃合いと見た柔らかな掌が全体を包み、リズミカルに扱き上げれば、時を置くこと無く精を吐き出してしまう事になるのだ。
しかしこの日は少し手順が違った。
アリスと先に湯浴みをしたのか、ラティアの髪が濡れている。
背を拭われ、尻を拭われ、いつものように鈴口からヌメる液を滲ませると、ラティアがスッと立ち上がった。
衣擦れの音が聞こえ、正面に回ったラティアがカインの首にそっと抱きつく。
甘く痺れるような囁きが、カインの耳に届けられた。
「お約束の報酬です。わたしを好きにして下さいませ」
連日の手淫が無かったなら、カインはこの誘いに乗ることが出来なかっただろう。
悲しい事に・・・男の失恋に風俗は効く。
特効薬と呼ぶほどでは無いにしろ、塗り薬のようにじわりじわりと傷を癒やすのだ。
ユリアに選ばれなかったことを受け入れ始めていたカインは、ラティアの優しさに甘えた。
「ラティアさん。俺、婚約者に裏切られたんだ。それでヤケになって依頼を受けた。どっちかっていうと、達成できずに死ぬつもりだったんだ。騙したようでごめん・・・弱みにつけ込んで、こんな事までしてしまって・・・」
事が終わり、傍らに寄り添うラティアにカインは詫びた。
「・・・カイン様。私も夫に捨てられました。私を捨て、アリスまで捨てて他の女と逃げたのです。だから・・・私もカイン様につけ込みました。私も・・・さみしいのです。カイン様を縛るような事はしません。こんなオバサン、お嫌かも知れませんが、ときどきこのお部屋に来てもいいですか?」
縋るように上目遣いで尋ねる年上の女性。
その夜カインは何度もラティアに精を注いだ。
(目覚めたら知らない天井って・・・ホントにあるんだな)
実際は治療院でも知らない天井を経験しているのだが、あのときのカインにはまだそこに何かを思うだけの知識が無かった。
まずは己の置かれた状況を確認べきなのだが、全身が鈍い方の筋肉痛で鉛のように重く、とても起き上がる決断が出来ない。
朦朧とする頭でも、自身が何も纏っておらず、また、血と泥とゲロにまみれている感触も無くなっている事に気付く。
(誰かが介抱してくれてるって事はそうそう危険な状況では無いはず。起き上がれそうにも無いしもう少し眠ろう・・・)
人間の身体というのは思いのほか動くものである。
追い詰められていれば丸三日くらいなら稼働させ続けられる。
僅かな仮眠でも挟めば一週間もいけないことは無い。
だが、睡眠をとらない事で回復できず、筋と臓器に累積したダメージを取り戻すには、稼働し続けた時間の何倍もかかる。
事実、カインの前世職であるプログラマーという職業では、丸三日一睡もせずにキーを叩き続ける程度など、決して珍しい事では無かった。
勿論、72時間勤務し続けたからといって、次の72時間どころか翌一日すら休ませて貰える事も無く、精々が納品が終わったその日は定時で帰れるという特典がある程度のものだった。
当然ながら累積したダメージは目に見えぬところで誤作動を頻発し、32年という、平均よりもかなり短い耐用年数で人としての機能を停止させたわけだが。
コンコン
次にカインの目を覚ましたのは、扉の開く音だった。
「カイン様、目が覚めました?」
目の前の人物に心当たりが無い。
かといって誰しもに名を知られるほど自身が有名とも思えない。
はて・・・?
「今回は、本当にありがとうございました」
助けられ、お礼を言うべきは自分の方なのに深く頭を下げられた。
「自分がどんな無茶なお願いをしてしまったのか・・・ギルドで教えられました。例え白金貨を積まれても他に引き受けるものは居なかっただろうと・・・カイン様が命をかけて娘の命を救って下さったご恩、生涯かけても返させて頂きます」
どうやら今回の依頼主らしい。
何か返答しようと思うがうまく頭が働かず、そもそも唇の上下が乾いて貼り付き口が開けない。
「何か口に入れられる物をお持ちしますね」
~~~~~
ラティアの献身的な看護により、四日目にはカインも一階の食堂に降りられるようになっていた。
「ラティアさんのおかげで随分と力を取り戻せました。本当にありがとうございました。後ほどギルドで宿代を引き出してきますね。恥ずかしながら無一文なもので」
そう言うカインはラティアに借りた衣類を身に着けている。
カインが着ていた衣類はそもそも服と呼べる状態では無く、ボロ布と呼ぶにも無理がある『汚れた付着物』以外に言い表しようの無い物体であった。
「いいえ、カイン様からお金を頂くなど、鉄貨一枚たりとも受け取れませんっ!」
「おにいちゃん、おかねないの?」
「これ、アリスっ!」
白月草で一命を取り留めたラティアの娘はすっかりカインに懐いていた。
白兎亭は商宿。
厩が併設され、キャラバン隊が利用するその宿は冒険者向けとはやや趣が異なり、長期滞在する客は珍しい類だ。
手伝いのとき以外はなかなか構って貰えないアリスにとって、日がな部屋に居て、逃げ出すことの出来ないカインは恰好の遊び相手になった。
宿泊費を払おうとするも「恩人から金をとる守銭奴と思われては商いが立ち行かなくなる」と言われれば、無理を通すことも出来ない。
実際そんな事は無いのだが、三十路に手が届こうというラティアに十六歳のカインがかなうわけも無く・・・
(うーん、どの世界でも女の人には逆らえないな)
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チャポンッ スッ スッ スッ スッ
ぬるま湯の入った桶の隣、カインは居心地悪そうに棒立ちになっていた。
白兎亭で過ごす日々で、カインがもっとも苦手とする時間だ。
スッ スッ スーッ ススッ
緩く絞った布でラティアがカインの背を拭う。
自分で拭くと言ってみても頑として譲らず、毎夜言い負かされてしまう。
逞しいとは言えないまでも、若く引き締まったカインの身体。
その筋張っだ脹脛に濡れ布が添えられ、内股を通って尻までを拭われる。
決して性的な行為では無いのだが、年上美人にされていると思うとどうしても愚息が反応してしまう。
そしてソレが隠しようも無く天を仰げば、このあとはさも「洗っているだけですよ?」という表情をしたラティアの左手が尻の間がら陰嚢を包み、腰の外側から回り込んだ右手が竿を揉み洗いするのだ。
たまらず鈴口からヌメる粘液が滲み出すと、それを拭った指でカリ首をキュッキュッと洗われる。
裏筋の窪みを指の腹でカリカリと掻き出され、陰嚢がキュッと収縮する。
頃合いと見た柔らかな掌が全体を包み、リズミカルに扱き上げれば、時を置くこと無く精を吐き出してしまう事になるのだ。
しかしこの日は少し手順が違った。
アリスと先に湯浴みをしたのか、ラティアの髪が濡れている。
背を拭われ、尻を拭われ、いつものように鈴口からヌメる液を滲ませると、ラティアがスッと立ち上がった。
衣擦れの音が聞こえ、正面に回ったラティアがカインの首にそっと抱きつく。
甘く痺れるような囁きが、カインの耳に届けられた。
「お約束の報酬です。わたしを好きにして下さいませ」
連日の手淫が無かったなら、カインはこの誘いに乗ることが出来なかっただろう。
悲しい事に・・・男の失恋に風俗は効く。
特効薬と呼ぶほどでは無いにしろ、塗り薬のようにじわりじわりと傷を癒やすのだ。
ユリアに選ばれなかったことを受け入れ始めていたカインは、ラティアの優しさに甘えた。
「ラティアさん。俺、婚約者に裏切られたんだ。それでヤケになって依頼を受けた。どっちかっていうと、達成できずに死ぬつもりだったんだ。騙したようでごめん・・・弱みにつけ込んで、こんな事までしてしまって・・・」
事が終わり、傍らに寄り添うラティアにカインは詫びた。
「・・・カイン様。私も夫に捨てられました。私を捨て、アリスまで捨てて他の女と逃げたのです。だから・・・私もカイン様につけ込みました。私も・・・さみしいのです。カイン様を縛るような事はしません。こんなオバサン、お嫌かも知れませんが、ときどきこのお部屋に来てもいいですか?」
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その夜カインは何度もラティアに精を注いだ。
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