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1st season 第二章
028 試練の洞窟・・・再び
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翌日。
アベルさん達が試練の洞窟に早速挑むというので、それこそ知らない仲で無し、道案内をする事にした。
街道沿いに45km、山に入って概ね6kmという立地。
普通は馬車で一日、麓にベースキャンプを張って翌日徒歩でアタック、もう一泊して翌日帰ってくるものらしい。
不眠不休で徒歩アタックとかもう二度とやりたくないので、馬車を借りる事にした。
但し、出発は明日の早朝。
昼から出ても夜までに着かないしね。
ベースキャンプを張り、夕食をとる。
明日のことを思うと緊張するのか、みな少しこわばった雰囲気だった。
考えてみればみんなの旅の目的はそもそも試練に挑むこと、緊張するのも当然だ。
甲冑軍団と泊まって襲われなかったのは初めてだった。
~~~~~~
いよいよ試練に挑むその時が来た。
皆、やる気充分。
新兵の平均では8m、熟練兵で12mが良いところと聞く。
我らは15mを目標と掲げてきた。
麓で荷物番をするカイン君にも、良い結果を報告せねばなるまい。
一番手、こういう役はムードメーカーのライザに限る。
街で買った試練用のロープを腰に縛る。
50cm毎に染線の入ったロープが試練用に売られているのには驚いたものだ。
「ライザーっ!気合い入れろー!」
「15m、15mだっ!」
「おぅ!まかせなっ!」
ついにその一歩をライザが踏み出す。
頼むぞ!
ライザの上半身がビクンと跳ねた。
「くっ・・・マジか」
ライザの驚きが漏れる。
二歩、鈍器で殴られたかのように頭が横に振れる。
三歩目、身体をくの字に曲げて片膝をつく。まだ2mも進んでいないのに満身創痍だ。
「ライザっ!負けるなっ!」
「男どもを見返してやるんだっ!」
仲間たちの激が飛ぶ。
女の身体は男よりも痛みに慣れている。
この試練こそが奴らを見返すチャンスなのだ。
膝に手を添えたライザが立ち上がり、新たな一歩を踏み出す。
一歩、一歩、一歩・・・戦場で矢の雨に倒れる兵士が如く、足はもつれ、ビクリビクリと身体をよじり、懸命にライザが歩く。
「12mっ!ライザっ、あと3mだっ!」
「13m!いけるっ!いけるぞっ!」
刹那、糸の切れた人形のようにライザが力なく崩れてゆく。
ガシャーン
「ロープだっ!ロープを引けっ!」
甲冑が地に打ち付けられる音で皆我に返り、意識の無いライザを手繰り寄せる。
想像以上に厳しいものだな。
ライザの記録は13mだった。
エマとリシェルが12mで、スージーは10m。
7mだったミランが落ち込んでいる。
いよいよ私の番だ。
部下たちより劣った成績は残せない。
「ふんっ!」
気合とともに一歩を踏み出す。
強烈な殴打が頭部を襲った。
だが、これは幻影・・・痛みのみで実害は無い。
カイン君が言っていた。
痛みに耐えるのでは無く、憎しみを思い出せと。
思い起こす。
我らを囲む侮蔑の眼差し。
思い起こす。
我らを切り裂く言葉の刃。
思い起こす。
我が身を襲った非情な仕打ち・・・そうだ、私は主に、あの男に奪われた。
求められるならばまだしも、気まぐれに、そのあたりの羽虫を打つように奪われたのだ。
真白な寝台の上ですら無かった。
廊下ですれ違いざまに呼び止められ、自らの手で下着を下ろさせられ、壁に手をついて尻を突き出し、従者の見ている前で散らされたのだ・・・。
そうして手を付けた女を、あの男は騎士隊として並べ始めた。
周りのものに見せびらかすためだ。
あの男がかわいいのは媚びた奴隷女だけで、二度目の寵愛など無かった。
「18m、隊長っ!いけーっ!」
乙女を失った我らはもはや誰かの正妻となる事は無い。
老いてその価値を無くすまで飾りとして蔑まれ、その後は運が良ければ商家の妾、運が悪ければ農家の妾にすら断られる。
貴族の娘など名ばかり、騎士爵の娘に栄光も女の幸せも得られぬ末路だけだ。
「20m、凄いっ!凄いよアベルっ!」
カイン君との出会いは、そんな我らにナザリア神が下さった一服の涼。
我らを女として見ながら、蔑むこともなく、祭り上げる事もなく。
可愛い可愛い弟のようだ。
「23m・・・23mだよっ!」
王都に・・・帰りたくない。
王都には何も無いのだ。
あそこでは甲冑に中身は無い。
そこそこ見られる女の頸が生えていればそれでいいのだ。
嫌だっ!嫌だっ!嫌だっ!
腰の剣を抜き、アベルを捉えようとする影を斬る。
寄るなっ!触るなっ!あっちにいけ~っ!
「アベルっ!ダメっ!」
~~~~~
アベル隊長は凄い。
ライザですら13mが限界だったのに、フラフラとしながらも20mを越えている。
「23m・・・23mだよっ!」
23mまで越えた。
えっ、危ないっ!
剣振り回して、ロープが切れた。
「隊長っ!戻ってっ!ロープが切れた~~~~!」
隊長の耳には届いていない。
剣を振り回したままヨロヨロと進んで、カクンっと倒れ込んでしまった。
「隊長っ!今行くっ!」
「ライザっ、ダメっ!」
ロープも付けずにライザが駆け出す。
すぐに速度が落ちて・・・あああ・・・ライザまで倒れてしまった。
どうするっ?どうしよう?
あんな遠くまで誰も行けない。
死んじゃう?二人共・・・死んじゃうの?
馬鹿にされ、蔑まれ、女の幸せも奪われ、こんなとこで死んじゃうの?
「ミランっ!カイン君だ、カイン君を読んできてくれっ!」
~~~~~
ベースキャンプでのんびり的当てをしていると、ミランさんとリシェルさん(?)が転がるように駆け下りてきた。
擦り傷だらけで甲冑も着ていない。
「カイン君っ!アベルを、ライザを助けてっ!」
「えっ?えっ?」
「ロープが切れて二人が取り残されたんだっ!」
二人に後から来るよう告げ、全力で山を駆ける。
6kmとは言え登りの山道、思うように進んで行けない。
両の肺が破れるように痛む。
自分が行った所で何が出来ると言うのか?でも今も二人があの激痛に苦しんでいるかと思うと、とにかく駆けずに居られない。
辿り着くと、木の枝にロープを付けたエマさんが、必死に洞窟に投げ込んでいた。
なんとか引っ掛けて引きずり出そうとしているのだろう。
傍らにはスージーさんが祈るように中を覗いている。
「遅くっ・・・・なり・・・・ましたっ!」
中を覗くと、手前にライザさん、奥にアベルさんが倒れている。
ロープの数は二本。
一本を中程で切り、腰に括り付ける。
エマさんのロープも受け取り、左右の手に一本ずつ、構えもせずに中に踏み入る。
ガズンッ!
一撃目のアイツが来た。
意識を持っていかれそうになるが、思っていたほどでもない。
一歩踏み出す毎にあの手この手で挫こうとするが、前回ほどの衝撃は感じない。
腸を引きずり出されようと、肺に泥水を満たされようと、ユリアを失った痛みに比べれば、どうという事は無い。
ライザさんにロープをかけると、後ろの二人に合図する。
一歩一歩踏み出し、アベルさんに辿り着く。
後ろの方で何か叫んでいるが、何を言っているかわからない。
剣を握り締めたアベルさんの表情は悲しげで、とても静かな絶望の顔だった。
剣を鞘に戻し、アベルさんを抱き上げる。
今のアベルさんは、ロープで引きずっていいような顔じゃない。
アベルさんを抱えた俺にもはや痛みは蚊の刺すほどで、確かな足取りで外へと向かった。
~~~~~
眩しさに目を開くと、カイン君の顔があった。
身体がふわふわする、抱えられているのか?
カイン君の眼差しはとても心配そうで、暖かくて、涙がこぼれた。
アベルさん達が試練の洞窟に早速挑むというので、それこそ知らない仲で無し、道案内をする事にした。
街道沿いに45km、山に入って概ね6kmという立地。
普通は馬車で一日、麓にベースキャンプを張って翌日徒歩でアタック、もう一泊して翌日帰ってくるものらしい。
不眠不休で徒歩アタックとかもう二度とやりたくないので、馬車を借りる事にした。
但し、出発は明日の早朝。
昼から出ても夜までに着かないしね。
ベースキャンプを張り、夕食をとる。
明日のことを思うと緊張するのか、みな少しこわばった雰囲気だった。
考えてみればみんなの旅の目的はそもそも試練に挑むこと、緊張するのも当然だ。
甲冑軍団と泊まって襲われなかったのは初めてだった。
~~~~~~
いよいよ試練に挑むその時が来た。
皆、やる気充分。
新兵の平均では8m、熟練兵で12mが良いところと聞く。
我らは15mを目標と掲げてきた。
麓で荷物番をするカイン君にも、良い結果を報告せねばなるまい。
一番手、こういう役はムードメーカーのライザに限る。
街で買った試練用のロープを腰に縛る。
50cm毎に染線の入ったロープが試練用に売られているのには驚いたものだ。
「ライザーっ!気合い入れろー!」
「15m、15mだっ!」
「おぅ!まかせなっ!」
ついにその一歩をライザが踏み出す。
頼むぞ!
ライザの上半身がビクンと跳ねた。
「くっ・・・マジか」
ライザの驚きが漏れる。
二歩、鈍器で殴られたかのように頭が横に振れる。
三歩目、身体をくの字に曲げて片膝をつく。まだ2mも進んでいないのに満身創痍だ。
「ライザっ!負けるなっ!」
「男どもを見返してやるんだっ!」
仲間たちの激が飛ぶ。
女の身体は男よりも痛みに慣れている。
この試練こそが奴らを見返すチャンスなのだ。
膝に手を添えたライザが立ち上がり、新たな一歩を踏み出す。
一歩、一歩、一歩・・・戦場で矢の雨に倒れる兵士が如く、足はもつれ、ビクリビクリと身体をよじり、懸命にライザが歩く。
「12mっ!ライザっ、あと3mだっ!」
「13m!いけるっ!いけるぞっ!」
刹那、糸の切れた人形のようにライザが力なく崩れてゆく。
ガシャーン
「ロープだっ!ロープを引けっ!」
甲冑が地に打ち付けられる音で皆我に返り、意識の無いライザを手繰り寄せる。
想像以上に厳しいものだな。
ライザの記録は13mだった。
エマとリシェルが12mで、スージーは10m。
7mだったミランが落ち込んでいる。
いよいよ私の番だ。
部下たちより劣った成績は残せない。
「ふんっ!」
気合とともに一歩を踏み出す。
強烈な殴打が頭部を襲った。
だが、これは幻影・・・痛みのみで実害は無い。
カイン君が言っていた。
痛みに耐えるのでは無く、憎しみを思い出せと。
思い起こす。
我らを囲む侮蔑の眼差し。
思い起こす。
我らを切り裂く言葉の刃。
思い起こす。
我が身を襲った非情な仕打ち・・・そうだ、私は主に、あの男に奪われた。
求められるならばまだしも、気まぐれに、そのあたりの羽虫を打つように奪われたのだ。
真白な寝台の上ですら無かった。
廊下ですれ違いざまに呼び止められ、自らの手で下着を下ろさせられ、壁に手をついて尻を突き出し、従者の見ている前で散らされたのだ・・・。
そうして手を付けた女を、あの男は騎士隊として並べ始めた。
周りのものに見せびらかすためだ。
あの男がかわいいのは媚びた奴隷女だけで、二度目の寵愛など無かった。
「18m、隊長っ!いけーっ!」
乙女を失った我らはもはや誰かの正妻となる事は無い。
老いてその価値を無くすまで飾りとして蔑まれ、その後は運が良ければ商家の妾、運が悪ければ農家の妾にすら断られる。
貴族の娘など名ばかり、騎士爵の娘に栄光も女の幸せも得られぬ末路だけだ。
「20m、凄いっ!凄いよアベルっ!」
カイン君との出会いは、そんな我らにナザリア神が下さった一服の涼。
我らを女として見ながら、蔑むこともなく、祭り上げる事もなく。
可愛い可愛い弟のようだ。
「23m・・・23mだよっ!」
王都に・・・帰りたくない。
王都には何も無いのだ。
あそこでは甲冑に中身は無い。
そこそこ見られる女の頸が生えていればそれでいいのだ。
嫌だっ!嫌だっ!嫌だっ!
腰の剣を抜き、アベルを捉えようとする影を斬る。
寄るなっ!触るなっ!あっちにいけ~っ!
「アベルっ!ダメっ!」
~~~~~
アベル隊長は凄い。
ライザですら13mが限界だったのに、フラフラとしながらも20mを越えている。
「23m・・・23mだよっ!」
23mまで越えた。
えっ、危ないっ!
剣振り回して、ロープが切れた。
「隊長っ!戻ってっ!ロープが切れた~~~~!」
隊長の耳には届いていない。
剣を振り回したままヨロヨロと進んで、カクンっと倒れ込んでしまった。
「隊長っ!今行くっ!」
「ライザっ、ダメっ!」
ロープも付けずにライザが駆け出す。
すぐに速度が落ちて・・・あああ・・・ライザまで倒れてしまった。
どうするっ?どうしよう?
あんな遠くまで誰も行けない。
死んじゃう?二人共・・・死んじゃうの?
馬鹿にされ、蔑まれ、女の幸せも奪われ、こんなとこで死んじゃうの?
「ミランっ!カイン君だ、カイン君を読んできてくれっ!」
~~~~~
ベースキャンプでのんびり的当てをしていると、ミランさんとリシェルさん(?)が転がるように駆け下りてきた。
擦り傷だらけで甲冑も着ていない。
「カイン君っ!アベルを、ライザを助けてっ!」
「えっ?えっ?」
「ロープが切れて二人が取り残されたんだっ!」
二人に後から来るよう告げ、全力で山を駆ける。
6kmとは言え登りの山道、思うように進んで行けない。
両の肺が破れるように痛む。
自分が行った所で何が出来ると言うのか?でも今も二人があの激痛に苦しんでいるかと思うと、とにかく駆けずに居られない。
辿り着くと、木の枝にロープを付けたエマさんが、必死に洞窟に投げ込んでいた。
なんとか引っ掛けて引きずり出そうとしているのだろう。
傍らにはスージーさんが祈るように中を覗いている。
「遅くっ・・・・なり・・・・ましたっ!」
中を覗くと、手前にライザさん、奥にアベルさんが倒れている。
ロープの数は二本。
一本を中程で切り、腰に括り付ける。
エマさんのロープも受け取り、左右の手に一本ずつ、構えもせずに中に踏み入る。
ガズンッ!
一撃目のアイツが来た。
意識を持っていかれそうになるが、思っていたほどでもない。
一歩踏み出す毎にあの手この手で挫こうとするが、前回ほどの衝撃は感じない。
腸を引きずり出されようと、肺に泥水を満たされようと、ユリアを失った痛みに比べれば、どうという事は無い。
ライザさんにロープをかけると、後ろの二人に合図する。
一歩一歩踏み出し、アベルさんに辿り着く。
後ろの方で何か叫んでいるが、何を言っているかわからない。
剣を握り締めたアベルさんの表情は悲しげで、とても静かな絶望の顔だった。
剣を鞘に戻し、アベルさんを抱き上げる。
今のアベルさんは、ロープで引きずっていいような顔じゃない。
アベルさんを抱えた俺にもはや痛みは蚊の刺すほどで、確かな足取りで外へと向かった。
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眩しさに目を開くと、カイン君の顔があった。
身体がふわふわする、抱えられているのか?
カイン君の眼差しはとても心配そうで、暖かくて、涙がこぼれた。
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