上 下
136 / 173
2nd season 第二章

132 首脳会議

しおりを挟む
使命なのか仕事なのか、それともただの思い込みなのか・・・いずれにしても、俺のソレは順調・・・むしろ絶好調と言って良い。
妻たちとの関係も円満だ。

の、はずなんだが・・・どうもこう、今ひとつすぐれない。

もう一度言おう。
仕事は順調だ。
終戦宣言から一ヶ月、奇しくも12月25日の今日、恐らくこの世界ではじめての国際首脳会議が開催されている。

ペルシラ帝国のユサエル・アナザス・ペルシラ皇帝、グラム王国のヴォクレール・ウル・グラム国王、共和国家群からはオルカ共和国のドモス・フルーム主席、ダギ王国のロメン・カンザ・ダギ国王、ナジル公国のエルシアーナ・ダギ・ナジル女公、そして聖教国の俺。

発端はペルシラ皇帝との二度目の対談。

ミズーラ割譲について、聖教国は介入する意志がない事を改めて伝えたところ、皇帝が渋い顔をしたのだ。



商業的な流通のかなめとしての地位は俺が奪った。
だが、の流通路としての機能は健在、これをどの国が抑えるかは軍事的な重要度が高い。

が、かと言って帝国も独占はしたくない。
グラム王国と国境を接するのは時期尚早だからだ。
ダギ王国にしても、帝国と国境を接したくないが為に、ナジル公国の成立を認めたくらいだ、グラム王国に譲ってでも、帝国の東方進出を拒むだろう。

皆ミズーラの街道と鉱山は欲しいが、新たな隣接国が生まれるのは避けたいわけだ。

そうなると誰も動けない。
動けないまま諜報と外交で長い年月をかけて調整する。

これまでは外交官同士が交渉して、主の元へ持ち帰る。
月単位の移動を経て、次の提案を使者に持たせる。

誰かがれて戦端を開くか、生き延びたミズーラの貴族が新国家を起こす事になりかねない。

つまり、一番丸く収まるのは、聖教国がミズーラを取るというストーリー。
だが、俺は欲しくない。

転移があるのに道は要らない。
おまけに俺はミズーラの民を、民族浄化レベルで殺してるんだ。
復讐の時をじっと待つ100万の敵を、わざわざ懐に抱えたくない。

つまり「俺は要らねーから勝手に話せよ!」という為の首脳会議だ。

これまで首脳会議が開催されなかったのは、ひとえに移動時間だ。
国家元首が二ヶ月も首都を離れれば、起こるのは多少の問題では済まないだろう、下手をすれば戻った時には、元首のイスには他の奴が座ってる。

だが俺が居れば。
何千キロの彼方だろうと日帰りだ。
移動時間の問題は無くなる。

勿論当初は皆、難色を示した。
当然だ。

それが罠ならノコノコ出てきた鴨でしか無い。
最終的に『暗殺はもってのほか、会議期間中に妨害工作を行った国の首都は、ミズーラと同様に神殿が消滅させる』という誓約を、各国元首と交わす事で納得させた。

信用を得る為にヤザンだけを連れて各元首を訪ね、会議には各国に50名までの護衛を許可、ミズーラ王都観光のオマケまで付けてなんとか開催にこぎ着けた。

だが・・・なんで俺が国連みたいな真似をしなきゃなんないんだ?
正直、世界平和とかどうでもいい。
いっそ帝国が統一しちゃったほうが良いんじゃないかと思う。
そうすればもう戦争の心配はない。
を警戒しなくていいなら、晴れて皆と空の旅に出られる。

行きたいな~、どっか遠く、ずっとずっと遠く・・・。

「それでは我が国だけが馬鹿を見るではないか!」
「だが、それ以外に新たな隣接国を生まぬ割譲方法など無いであろう?それともダギ王はもっと良い案がおありか?」
「くっ・・・分家の分際で小賢しい!」
「そのような大昔の話など持ち出すとは、そろそろ隠居された方が良いのでは?」

議論は活発だ・・・主に遠い血縁筋の二者間のみで。
他は皆、初の顔合わせ、慎重に周囲の腹を探っている・・・

「我々もその案には反対せざるを得ない。共和国代表として、せめて鉱山の一つくらいは頂かないとですな」
「ふんっ!群れねば何もできぬ小国風情が、領地が増えるだけでもありがたいと思えっ!」
「なっ!貴様っ!」

わけじゃなかった。

鉱山は欲しいが隣接国は増やしたくない。
しかも鉱山は一箇所じゃない。
当たりも有ればハズレもある。

そしてミズーラの鉱物資源の中には重要な戦略物資がある、岩塩だ。
まぁと呼ぶのが妥当なのかどうかは知らないが、海を持たないダギとナジルは喉から手が出るほど欲しいだろう。
っていうかなんで大陸のど真ん中に岩塩があるんだ?
岩塩って、昔は海の底だったとかそういうんじゃないの?

まぁいい。
いゃぁ~皆さん大変ですなぁ~。

「げ、猊下っ!ロックハウス猊下はいかが思われますかっ?」

ミズーラ王都を見せてから、王達の言葉遣いが変わった。
しかも、口八丁手八丁でココに連れてきたのは、みな俺をだと思い込んでいる。
五人の視線が俺に集中する。

イヤダイヤダと言いながら、仕事と思えばやってしまうのが日本人の悲しい性。
一応、公平な案は持ってきてる。

「いえ、わたくしのような若輩者が君主の先達たる皆様を差し置いての考えなど・・・そもそも聖教国は割譲に参加しないと公言しておりますし」
「勿体ぶるな。貴様のことだ、最初から案があるのだろう?」

うん、ペルシラのおっさん、完全に公の場でも貴様呼びが定着した。

「・・・では、あくまでも一案として・・・隣接国が増えない配分となると、かなり細長い歪な領土となってしまいます。故に、そこは我慢しましょう。その代わり、五カ国すべてが街道を分断し、かつ、面積的に同規模の割譲ならば可能でしょう。但し、ペルシラ帝国とグラム王国が接するのだけは避けましょう。国境面で優遇する代わりに、大国であっても配分は同規模。皆、巻き添えは嫌でしょう?」

「ふむ・・・まぁ、街道が分断されるなら幾分かマシ・・・だが、鉱山は?鉱山は譲れませんぞ?」

「そうですね、こういうのは如何でしょう?今後ミズーラの地から取れる鉱物資源・・・勿論岩塩を含めてですが、それはで均等に分配するというのは?」

「そんな事は無理でございましょう?皆、自国の算出分は隠すに決まっております」

「はい、これまでならば無理だったでしょう・・・ですが、今は、神殿郵便があります。どの国も、産出品を鉱山で消費はしないでしょう?どこかに運ぶ必要がある。その全てを、神殿郵便で運ぶ。他の輸送手段は禁止。荷馬車一台とて、鉱山から出てはならない」

「・・・ほぅ・・・」

「更にこういうのは如何でしょう?ミズーラに鉱山は七つ。その全てに小さな神殿を建てることになります。その神殿には五カ国の部屋を用意します・・・そこに、自国から一人ずつ配置して監視すればいい。皆様お忙しい。大事だいじであればこうして首脳会談が必要でしょうが、些細なことは、神殿駐在の部下同士に協議させてみては?」

「協議?一体何を協議するのでしょうかね?共和制の我々と違い、皆様口より先に手が出るお方。実りある案とは思えませんな・・・まっ、鉱山資源の分配という点には賛成ですが」

「そうですね、例えばナジル公国で・・・失礼、他意は無い。ナジル女公、たとえに使わせていただいても?」
「えぇ、結構ですわ」
「それでは・・・例えばナジルを凶作が襲ったとしましょう。恐ろしいほどの大凶作だ。だが、古き親戚筋とはいえダギ王に頭は下げたくない、かといって攻めるとなると流石に親戚筋はバツが悪い・・・では帝国を攻めるか?それはしないでしょう・・・となると南か北。麦が多いのは当然北という事になる」

「猊下・・・お人が悪い」

「だが、もしも七ヶ所で部下同士が毎日顔を合わせていれば?中にはそれなりに親しくなる者たちもおりましょう・・・さすればナジル女公ものでは無くという選択肢が生まれるのでは?そしてそれを売るのは、一番安く値を付けられる共和国家群のどこかだ・・・」

「ふむ・・・遠回しに我が覇道を抑え込むつもりか?」

「ペルシラ陛下・・・陛下は部下が何を言おうと攻めるときは攻めるお方。むしろ何処が攻めどきか、部下にそれを探らせるのでは?」

「ふんっ・・・貴様の言うことは一々理にかなって癪に触る!」

「とはいえ大量の荷を全て殿で送るとなると、高く付くのか安く付くのか予想し難い・・・そうですね、鉱山産出品は輸送料として、積み荷の一割を現物で頂戴するというのは如何でしょう?それならば絶対に赤字にならない」

「ほぅ・・・」

神殿で運ぶ恩恵を一番得るのは帝国だ。
領土が広い分、そのメリットは計り知れない。

「いかがでしょう?今日はこのあたりで一度持ち帰り、そうですね、10日後にでも各国の意志を持ち寄るというのは?勿論、他国と歩調を合わせず、割譲された領土内で、鉱山も含めで統治するという結論に至っても問題ないと思います」




神理教を調停役として、五カ国によるが結ばれ、正式にミズーラという国が消えたのは、それから僅か17日後の事だった。

かつてない偉業と言っていいだろう。
この世界の半分が参加する条約、各国の使が日々顔を合わせる施設が七つ。
つまり、この世界に、UN国連の基盤が誕生したのだ。

そう、仕事は順調だ。
何もかもが計画通りに進んでゆく。
だが俺はもう・・・ミシンを踏みたいとすら思えなくなっていた。


(第二章 完)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【超不定期更新】アラフォー女は異世界転生したのでのんびりスローライフしたい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:673

愛をお届けに参ります

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:10

ご主人様と性処理ペット

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:197

トレンド

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:498pt お気に入り:2

処理中です...