I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第三章

144 シリア暗殺計画(7)

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眼の前で小さな神殿が崩れてゆく。
頭の中の転移門リストに目の前の神殿が表示されない。
こんなの・・・訓練してない。

真っ白になりそうな頭を無理やり働かせて考える。

アイスウォール氷壁!!!」

兎に角逃げなきゃ。
どこか神殿のあるところまで・・・どこ?どっちに逃げればいいの?

「ライザさんっ!ここの転移門は使えませんっ!兎に角このまま逃げましょう!」
「なっ!?まじか?・・・任せるっ!」

聖教国は北・・・でも、とても走って行けるような距離じゃない。

「諸君っ!亜人の女だ!そのバケモノを殺せっ!」
「亜人の女を仕留めたものには特別報酬だ!殺れっ!殺せっ!」

氷壁を作りながらだと振り切れない。
でも、壁を作らないと矢が飛んでくる。
カイン!どうしたらいいの?

村の柵を飛び越え、平原に出る。
あの山まで逃げ込めば・・・でも・・・そこまでマナ魔力が保つか・・・。
早くどこかで矢を抜いてポーションを飲ませないと!

わたしたちのレベルなら、このまま半日走り続けることもできる。
でも・・・治療しないまま走り続ければ奥様が保たない・・・それは絶対ダメ。
うん。
そうだ。
わたしの人生は奥様に貰った。
そう・・・わたしの人生はとっくに終わってたんだ。
これまでカインと過ごせたのも、全部奥様のおかげ。
だから・・・。

「ライザさんっ!足止めします!追手を振り切って、奥様にポーションを!」
「ダメだユリアっち!一度止まったら囲まれるぞ!」
「ライザさんっ!コレを」

走りながらアベルさんのネックレスを託す。
これでもう大丈夫。

「これっ・・・隊長の・・・」
「奥様に・・・カインに・・・ありがとうって、幸せだったって伝えてください」
「ダメだっ!ユリアっち!」
「奥様を!奥様をカインの元にっ!お願いしますっ!」
「ユリアーっ!」

タンッ!

アイスウォール氷壁!!!」

真横に進路を変え、回り込めないよう、広く広く、壁を巡らせる。
こういうときは指揮官を倒すんだって、カインに教わった。
あの、真ん中にいる人達。
あの人達さえ倒せば、お金を払う人が居なくなる、奥様も追われなくなるはず。



~~~~~



ちくしょうっ! ちくしょうっ!ちくしょうっ!
隊長が死んじまった。
ずっとずっと一緒だったのに。
そしてユリアっちまで!

『おれっちが残る』

・・・言えなかった。
おれっちが残っても足止めなんかできねぇ。
何十人かぬっころしてそれで終わりだ。
頭じゃわかる。
でも、おれっちが生き残ってもダメなんだ!
主様には奥様とユリアっちが居なきゃダメなんだ!
ちくしょうっ! ちくしょうっ!ちくしょうっ!

巨大な氷の壁。
その向こうでユリアっちが命をかけてる。
奥様を主様の元に還す、そのために命をかけてる。
命を代償に貰った時間。
無駄にはしねぇ!絶対逃げ切ってやる!



~~~~~



10分・・・いいえ、5分でいいっ!
5分あれば、矢を抜いてポーションを飲ませられるはず!
その5分を、わたしが稼ぐ!

アイス氷生成!!!」

この六年間、ずっとカインの戦い方を見てきた。
今日、ここで戦うために、ずっと練習して来たんだ!

リシェルさんが作るほど、大きな必要は無いの。
細く、高く、真夏の草原に氷の階段が出現する。
一息に駆け上がって、その勢いのまま空へと踏み切る!

いつもカインが見ている景色・・・その景色を今、わたしも見ている。
千人程度でも、こんなに怖いんだ・・・。
空を見上げ、驚愕の表情。
その頭上に・・・

アイス氷生成!!!」

リシェルさんほど正確じゃないけど、大きさなら負けてない!魔力だけはたくさん使える!

ブチブチブチブチブチッ ズッ シーーーン!!!

できたっ!
真ん中のお金持ちそうな人たちはもう居ない。
これをあと10回も繰り返せば、カインにきっとまた会えるっ!

トスッ

えっ!?

アイスウォール氷壁!!!」

カッ カカッ カッ カッ カッ カカッ

痛い・・・こんなに痛いんだ・・・。
やじりを折って、お腹から矢を引き抜く。
大丈夫・・・ポーション飲めばこんなのへっちゃらだ!

うん、止まっちゃダメだよ。
カインみたいに、ずっと走り続けなきゃ!

一気に走り抜けて、氷の岩から宙へ舞い上がる。

トスッ トストスッ

「んんんんっ」

ダメっ・・・狙い撃ちされてる。
10メートルの空から落ちてゆく・・・やっぱりカインは凄いなあ・・・かっこいいなあ・・・。

でもまだっ!
ポーションが尽きてマナ魔力が枯れるまでは、絶対死んであげないんだからっ!

コキュートス氷結地獄!!!」



~~~~~



「なんかぁ~、雇い主のひとたち?しんじゃったんだけどぉ?」
「これ、後金どうなるっすか?」
「・・・傭兵のほーはぁ~ぜったいむりよぉ~、しんじゃってるしぃ~。組織はエルフさえ殺ればくれるけどぉ~」
「じゃ、もんだいないっす!」

「でもぉ~、なんかぁ~、あの地味教皇にそっくりじゃないぃ?」
「そっすねー。岩が氷になっただけっすよねー」
「しかも顔こわっ!血みどろでギラギラしちゃってるし!顔がいいから余計こわっ!」
「じゃ、俺らはあっち追いますか?」

「んー、それもいいけどぉ~、なんかあっちはあっちで、出てきちゃいそうじゃない?本物の方が?」
「あー、なんか、楽勝ムードからコレだから、ちょっとやな感じっすよねー」

「・・・逃げちゃう?」
「えっ!まじっすか!?」

「だってぇ~、一番あててんのあたしよぉ~?この矢、魔道具だからめっちゃ高いしぃ~、もうじゅーぶん働いた気がするぅ~」
「あー、言われてみれば傭兵の矢、通ってないっすもんねぇー」
「なのにボーナスなしとかって、ひどくないっ!?」
「ひどいっすー、ちょーひどいっすー」

「あっ、やっぱ逃げんのやめ」
「まじっすか?」
「プジャハたちがいったしぃ~、もう見てるだけでおわるっしょ?」
「あのひとたち、追撃班じゃなかったっすか?」
「あの女しとめて兵隊肉壁連れてかないと~、もしものときにやばいっしょ?あの教皇、どっからでてくっかわかんないしぃ~」
「なるほどぉ~、やっぱプロは安全第一っすね~」



~~~~~



たぶん勝った。
もう五分は経ってると思う。
奥様さえ無事ならわたしの勝ち。
制服はボロボロだし、全身傷だらけで痛いけど、思ったより弱い。

こうなると欲が出てくる。
コキュートスはあと二回。
もう一度包囲網を破れれば・・・

ザンッ!

痛っ 「アイスジャベリン氷槍!!!」

当たらない!?
アサシン!?

カインののおかげで、攻撃されれば意識しなくても反撃できる。
なのにそれ以上に疾い!

アイスバレット氷礫!!!」

ザンッ!

「つっ・・・アイスジャベリン氷槍!!!」

ダメ・・・声に出している間に射線を外される。
黒尽くめの三人がわたしの周りをグルグルとまわって狙いが定められない。
傭兵たちは遠巻きに見てる。

ザンッ! ザンッ!

「んぐっ・・・アイスジャベリン氷槍!!!」

反り返った短剣で、制服の破れたところを的確に切りつけてくる。
こんなの勝てない・・・勿体無いけど仕方ない。

コキュートス氷結地獄!!!」

パキパキパキッ

黒い氷像を砕くと、ピンク色の欠片に散っていく。
あと一回。
ポーションも残り少ない、温存しなきゃ。

アイス氷生成!!!」

空いた空間に階段を作る。
リシェルさんみたいな壁付きだ。
駆け上がって宙に舞う瞬間にっ!

アイスウォール氷壁!!!」

カッ カカカッ カカッ

よしっ!
来るってわかってれば防げるね!

アイス氷生成!!!」

ブチブチブチブチブチッ ズッ シーン

嫌な音・・・でも、これで抜けれるっ!

「ふんっ!」

ヒュルヒュルヒュルヒュルッ ドガッ!

あっ・・・。
斧が・・・腕が折れた・・・でも、刺さってない・・・大丈夫。

「随分がんばるじゃねーか?」

ヴァルダークさんみたいな人。
きっと強い。
出し惜しみ出来る状況じゃないんだ。
カインみたいに、もっとガムシャラにならなくちゃ。

最後の一回・・・「コキュートス氷結地獄!!!」

パキパキッ・・・キーンッ!

えっ!?

「あー、わりぃな?そういうの、あんま効かねーんだわ」

ギフト?・・・それか・・・レベル差が有りすぎる?

「女性を殴るってなぁあんま好きじゃねーんだが、斧は投げちまったからよぉ?勘弁な?」

ドガッ! 「うぐぅ・・・アイスジャベリン氷槍!!!」
ドガッ! 「かはっ・・・アイスジャベリン氷槍!!!」
ドガッ! 「んぐっ・・・アイスジャ」 ドガッ ドガッ ドガドガドガドガドガッ

全身を丸太で滅多打ちにされてるみたい・・・どこを殴られてるのかもわからない・・・魔法名を言わせてすら貰えない・・・カイン・・・やっぱり帰れなそう・・・

“リーン ジリツイシレベルノテイカヲカクニンシマシタ リセットシマス”

#####

かつてはこの世界の魔法にも詠唱文が存在した。
詠唱とはマナに働きかける手続きであり、発動に足る魔力量と、それを操作する技量があれば、ギフトに頼らなくとも魔法は使える。

そのが失伝して久しく、現存するこの世界の魔法はその全てが、ギフトによる補助を得た
魔法名の発声のみで発動する代わりに、一定の効果しか発揮しない。
充分すぎる魔力量と、卓越した魔力操作の技量を持ちながら、ユリアはの存在すら知らなかった。

奴隷紋の呪縛により、攻撃を受ければ自動的に反撃体制に入り、それが打撃によって強制中断される。
圧倒的な力量の差に為す術も無くサンドバックにされても、ユリアはする事が出来ない。

発動直前にキャンセルされ続け、体内で暴発寸前となった魔力の渦、強制的に覚醒させられた意識が、その濁流にイメージを与えた。

無詠唱。

いにしえの魔法使いの一つのいただきに、死の淵に立たされたユリアが到達する。

#####

ザスッ・・・・ブシュゥゥゥゥゥゥッ!

「なっ!?」
「えっ!?」

なんの予備動作も無く発現した氷の槍ジャベリンが、男の心臓を貫いた。
いかに高レベルであっても、血管が断ち切られれば血も流れる。
噴き上がる鮮血。

驚愕の表情で後ずさる男の頭部にもう一本。

ザスッ!

念ずるだけで発動する魔法。
物理攻撃のような予備動作が無く、魔法のように遅くない。
接近戦で用いれば恐ろしい武器となる。

(解るっ!戦えるっ!)

トスッ

(あっ、止まっちゃダメだった。『同じ場所で二発撃つな』って、カインがいつも言ってる。気をつけよう)

トストスッ

(もぅ・・・今うごくから、ちょっと待ってよー。でもそのまえに、矢を抜かなきゃ・・・痛いんだよね・・・抜くの・・・)

トスッ トストスッ

(あっ・・・なんか慣れてきたかも・・・うん、だいじょうぶ・・・だいじょ・・・)



~~~~~



「ちょっとあせったぁ~、プジャハたちだけじゃなく、戦斧のザルムまでたおしちゃうなんて、おどろきよねぇ~?」

「まじやばかったっす!なんすかあの鬼疾い魔法!?あんなん来たら絶対逃げるっす!」

「まぁ、あたしぃ~がたおしたけどねぇ~」

「ルカさんがさいきょーっすね!ないすっさいっきょー!」

「いぇ~い!さいきょぉ~!」
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