I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第四章

167 プロパガンダ

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手に余る恐怖、逃れられぬ地獄。
突き詰めるなら、信仰が育つ土壌とはそういうものだ。

ペルシラ大陸では世界の崩壊という恐怖を、実体神の降臨によって裏付けた。
だが、この大陸には、恐怖も不遇も無い。
まぁどちらもこの大陸の人族にはあるのだが、肝心の魔族が安定しすぎているのだ。

では彼等はなぜプレイオス神を崇めるのか?
まぁ、正確にはという程ではなかったのだが。

まず、魔族にギフトは無かった。
というか全ての魔族にマナ魔力を操るギフトが備わっていた。
そのマナこそが、魔族の文明におけるエネルギーだ。

地球風に言うなら、彼等は電気の代わりに魔力を灯りに変換し、ガソリンの代わりに魔力で車を走らせる。
ゆえに彼等の信仰とは『電気を大切にしよう!』程度のゆる~いもので『電気に祈りを捧げましょう!』というアグレッシブな思想には至らない。
まぁ、電気に祈ってる奴が居たら、俺もドン引きするし?

九割の坊さんが『霊の存在は信じていない』ってアンケートに答えてるのに、お盆には墓参りして先祖に感謝しないと非国民扱いされる、何処かの国のメンタリティに酷似していると俺は思う。



「カインさん、見事なブレイクスルーに思えて、その案は使えませんよ」
「あれ?何故でしょうホルジス様?」

俺が見出した銀の弾画期的一手は『マナ供給の断続的停止』という、我ながら自分の黒さに呆れ返るようなものだった。
マナが無くなる恐怖から、神界への必死の祈りを引き出そうという、かつてかの地で実際に行われ、その意図から『恫喝停電』と呼ばれるに至った『計画停電』のマナ魔力バージョンだ。

余談だが、あの計画停電、一握りの巨大企業は本来意図していなかったそのに、目から鱗を落とした。
日に一時間、節電してみせるだけで、莫大な経費が削減されるのだ。
しかも『地球にやさしい企業』として、御婦人層にアピールできるおまけ付き。

俺はあの『地球にやさしい』っていうキャッチコピーが大嫌いだった。
地球が俺たちにやさしいんであって、人間が地球にやさしいだなんて、思い上がりも甚だしい。
まぁ認めよう、俺のそういう所がヲタくさいんだな。

「カインさんの目的はかの大陸への神理教布教でしょう?一時的とはいえマナの供給を止めたら、そもそも魔族が絶滅してしまいます」
「え”?・・・魔族って、マナが切れると死んじゃうんですか?」
「はい。人間が電気信号で肉体を制御しているように、魔族はマナの伝達で肉体を制御していますから、環境からマナが消えたら次第に麻痺して、数分で心臓が止まります」

「エグくていい案だと思ったのに・・・」
「ええ。種族丸ごと淘汰という、カインさんで無ければ浮かばないアイデアですね」
「・・・神界の必要性を痛感しました。管理者が介在してなかったら、俺みたいのが思いつきで世界を壊しちゃうんでしょうね」
「やる前に相談してくれるのが、カインさんの安心できるところではありますね」

まぁ今回のプランはプレイオス様にお願いするしか実行手段が無かっただけだが、ちょっと気を付けよう。

「あっ・・・そうか・・・何も実際にやる必要は無いんだ」
「ほぅ・・・今度こそ良いアイデアのようですね」
「えぇ、ホルジス様・・・あの、アルケーア芸術の神様にご挨拶したら、文才アップするとかあります?」



~~~~~



神様に挨拶するだけで文豪になれるようなうまい話は無かった。
だがアルケーア様が気に入った作品は、下界でも多くの人間に評価される事になるらしい。
意図してそうするわけでは無く、芸術神とはそういうものだそうだ。

「と、いうわけで、新大陸制覇の一手目は、異界神話の新作を作り、怪文書として市井にばらまく事にします」
「うまく行くかしら?」

この大陸の、少なくともニボラーの街の住民は日本人に近いメンタリティーを持っている。
大勢が口にすれば、論拠など無くともが常識となる可能性は大きい。

「結構イケると踏んでるが・・・まぁ文章次第だよなー」

今回は短編とはいえプロットを起こす。
演劇への発展を狙って、なんと恋愛モノだ!



##### 創世記(仮題)プロット r1 #####

シーン1. 魔族の成り立ち(魔素溜まりで生まれる突然変異的な種族で、魔素溜まりの谷以外では生きていけない。ヒロインの娘はいつの日か谷の外を旅することを夢見る美しい娘だった)
シーン2. 若きプレイオスの旅(下界を旅するプレイオス様が魔族の娘と出会い恋に落ちる)
シーン3. 魔素の枯渇(突然の魔素枯れにより娘が死んでしまう)
シーン4. 魔族の娘との約束を果たすべく、神界に戻ったプレイオス様は自らの神力を魔素に換え下界を満たす。
そのおかげで魔族も谷の外で生きていけるようになるが、プレイオス様は多くの力を失う事に。

##########################



うん、大筋はこんな流れでいいだろう。
もう少し抑揚を付けつつ掘り下げてみるか。



##### 創世記(仮題)プロット r2 #####

シーン1. 魔素溜まりの谷で生きる魔族。シャルロットはそんな魔族の娘だった。薄暗く、昼の僅かな時間しか日の差し込まない谷の村で、シャルロットはいつの日か、外の世界を旅する事を夢見ていた。だが、その夢は叶わない、魔族であるシャルロットは、魔素溜まりの外では生きていけないのだ。

シーン2. 若きプレイオス様は下界を旅していた。五千年前に空から星が落ちた事が原因で生まれた魔素溜まり、その影響で様々なモンスターが生まれ、人族の生活圏を脅かすようになったため、魔素溜まりをはらう事で、世界をあるべき姿に戻すことが目的だった。

シーン3. ひときわ魔素の濃いその谷で、プレイオス様は驚きの種族と出会う。シャルロットたちだ。シャルロット達はひと目でプレイオス様が神であると見抜くが、素直に感謝することが出来ない。何故自分たちを、谷の外では生きられぬ惨めな生物として創造したのか、その慟哭をプレイオス様にぶつける。

シーン4. 高濃度な魔素の中でも生きられるよう進化した人族。それが魔族だった。人族は濃い魔素の中では生きられないが、魔素がある場所でも生きていける。モンスターや魔族と言った、体内に魔石を持つ生物は濃い魔素の中でも生きていけるが、魔素の無い空間では生きられない。だが、高い知能と豊かな感情、魔族はとてもモンスターとは思えない。その知性あふれる者たちが、この薄暗い谷底に縛り付けられている。魔素を祓う自分の役目は一体何だったのか?虚無感に打ちひしがれた若きプレイオス様は、立ち去ることも、かといって村の中に留まることも出来ず、ただ呆然と数日を過ごした。

シーン5. そんなプレイオスの元を訪れるものがあった。シャルロットだ。粗末なスープをプレイオスに捧げたシャルロットは外の世界の話を聞きたがった。ポツリポツリと語り始めるプレイオス、目を輝かせて話を聞き入るシャルロット、次の日もその次の日も。ポッカリと穴の空いたプレイオスの心を、シャルロットの笑顔が満たすのに時間はかからなかった。

シーン6. 気づけば季節が巡り、谷への逗留も一年。シャルロットの外界への憧れと同じくらい、プレイオスの恋心も大きく膨らんでいた。だがプレイオスは神。シャルロットを想うのであれば、側にいるよりもすべきことがある。
村人を集めたプレイオスは世界を魔素で満たすべく、神界に戻ることを告げる。だがそれには膨大な神力が必要だ。シャルロット達に神界への感謝を日々祈り、世にそれを伝えるよう言い残し、プレイオスは下界を去る。

シーン7. 神界へ戻ったプレイオスは己の身を削り下界を魔素で満たし始める、それは想像を絶する苦痛を伴ったが、プレイオスの瞳は決して苦悩をたたえなかった。やがて谷から魔素が溢れ、シャルロット達は外の世界を知る。
その喜びが、プレイオスへの感謝が神力となり、更に下界を魔素が満たす。こうして世界は魔素で満たされ、魔力の制御に長けた魔族は魔法を産み出し、大陸の隅々まで、その生活圏を広げるに至った。シャルロットは世にを伝えることに生涯を費やし、独身のまま180歳でこの世を去った。その功績に感銘を受けた輪廻の神が、彼女の魂をプレイオスの元へ遣わせたかどうかは、誰も知らない・・・。

##########################



「ぐすっ・・・ぐすっ・・・」
「シャルロットさん・・・プレイオス様の元へ行けたのでしょうか?」
「行けたわよ!でなきゃ二人ともかわいそすぎ!」
「魔族って、プレイオス様が居なきゃ絶滅してたのか?」
「なんか魔族じゃないのに、プレイオス様に感謝の気持ちでいっぱいですぅー」

うむ。
プロットだけでこの反応、悪くないんじゃないか?

「よしっ、広場での演題に使えるよう、2~30分の脚本ほんに落とし込むか」

こうしてロックハウス劇団の活動が始まった。
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