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牡丹の花
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正男は18歳。東京の大学へ進学予定だ。
名古屋の実家を離れて、上京する正男には花子という彼女が。花子は、1学年下の高校3年生である。2人の運命は。
訪れた春。いよいよ2人の別れの時が。
名古屋駅での最後の会話。
私も来年の春には、東京に必ず行くから待っていてね。
正男は、黙ってうなずいた。
そんな時、無常にも新幹線のベルが鳴る。2人は抱き合い、抱擁する。
好きだよ。
私もよ。
急いで新幹線に乗り込む、正男の後ろ姿を見送る花子の目には、一雫の涙が。
愛してます。これからも、ずっと。
いつまでも、手を振り合う2人の距離は離れていき、やがて消えていく。
正男は泣いた。
別れの悲しさや、上京の不安。胸の奥には、大都会に出る期待も抱いている。
正男の夢は、医者になる事だった。父は政治家。由緒正しい、エリート家族だ。
正男には歳の離れた兄がいる。
兄はすでに社会に出ている。
政治家の父の、第二秘書である。
母は、まだ正男が幼い頃に他界。
父と兄との、3人家族だ。
そんな兄には許嫁がいる。
遠い親戚の娘だ。
まだ父から結婚の許可はおりていない。
父からみて、兄はまだ一人前ではないと判断されているからだ。
正男は、この春から東京の大学に進学する。東京大学だ。
医学部をでて、名古屋の総合病院に就職したいと思っている。
正男の彼女は、まだ高校生だが、卒業したら正男の後を追って、東京大学に進学するために、日夜、受験勉強に励んでいる。ざっと、正男の人間関係を話せばこんなところだが、実は、正男にはもう1人、腹違いの兄がいる。父の妾の子だ。
まだ父が若く、政治家になる前の一流商社で働いていた時の子だ。
正男の産みの母が健在だった頃、父には妾がいた。しかし病弱だった正男の産みの母が、若くして亡くなったと同時に、父は妾と別れた。今思えば、父のケジメだったのかと想像する。
1番上の、正男とは腹違いの兄。
名は健一という。
父の妾だった人と、2人で慎ましく生活していたらしい。もちろん父は、健一が成人するまでの教育費は、きちんと妾の人に送っていたらしい。
健一は、成人して大学を卒業した後、海外で活躍する、戦場カメラマンだとか、ジャーナリストになったと、父から聞いた。
もちろん、正男と健一は面識はない。
正男が東京の大学に通うようになり、半年ほど経ったであろうか。
東京で1人暮らしをしている、正男のマンションに1通の手紙が届いた。
野崎 健一。
正男の腹違いで生まれた兄からだった。
健一から手紙がきた。
拝啓、正男様
私は今、中東に取材で滞在しております
中東はレバノンという国です
今、レバノンはイスラエルと戦争状態にあります
レバノンにはヒズボラという武装組織がおりまして、政府軍を凌ぐ軍事力を持っております
イスラエルはパレスチナ自治区のガザを実行支配しているハマスとも、戦争状態にあります
ヒズボラとハマスの後ろ盾にイランがおります
それら、3つの勢力が集まるとイスラエルは太刀打ちできないでしょう
実は私はイスラエルの諜報機関モサドに所属しているスパイなのです
現在、レバノンに日本の報道機関として潜入しております
ヒズボラの動きを調査してイスラエルに情報提供することを馴れ合いとしております
しかし、レバノンにて私は拘束令状がでたため、この手紙が日本に無事届くかも定かではありません
この手紙は、ヒズボラに拘束されるまでにはとの想いで発送したした
仮に正男様の手に、この手紙が届いたとしても、その時は私はどうなっているのか分からないでしょう
ヒズボラは残忍な過激派組織です
もし正男様や、正男様の身のまわりに危険が迫ってくるかもという想いでこの手紙を綴っております
私は死んだものと、お父様にお伝えください
さよなら
野崎 健一
正男は手紙を置いた。その手は震え、自分でも理解できない感情になった。
自分は何不自由なく育ってきたが、健一の人生は、壮絶であったに違いない。
正男は健一に対して、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
この手紙を受け取って、今の自分に出来る事。政治家の父を頼るしかない。
正男は決意した。
正男の父は、政権第1党の衆議院議員である。
健一からの手紙を、極秘に父に渡し、秘密裏に日本は中東レバノンと交渉を始めた。
人質解放には、それなりの取り引きがある。
日本側もレバノンのヒズボラに有益な情報を提供しなければならない。
イスラエルの情報をヒズボラに流せ。
正男の父は、健一に嘆願した。
交渉から僅か1ヶ月。
健一は、殺された。
その悲報を聞いた正男は、戦争というものを憎んだ。
何故、人と人。国と国は争い、殺しあうのか。
それから4年が経ち、正男は国際赤十字に就職した。
ところで、話を3年前に戻そう。
正男は、大学2年生になった。
恋人の花子も、無事東京大学に入学し、理工学部を専攻した。
正男と花子が離れていた1年間も、もちろん連絡は取り合っていた。
受験生だった花子を気遣って、正男はなるべく勉強の邪魔にならないようには気をつけていた。
無論、正男も医学部の勉強で時間を費やしていた。正男が大学1年生の秋に、健一からの手紙が届いてから、悲報を聞いて、正男は将来世界に出て、医師として福祉活動を志す事に決めた。
花子が東京に出てきた時に、正男は健一の事を、花子に全部話した。
花子は、戸惑っていたが、正男が国家試験に合格するまでの関係で終わるのかなと、少し不安になった。
しかし、花子自身も今は勉学が楽しく、恋愛よりも将来の目標を決める方が、重要になっていた。
なんで正男と付き合っているのだろう、正男の何処に惹かれたのだろう。
花子の心は、正男から徐々に離れていっているのかもしれない。
中途半端な付き合いが3年ほど続き、正男は花子に思いきって、今後の2人の将来について訪ねてみた。
花子は、科学者になりたい。
正男は、医師として海外で活躍したい。
2人の将来の展望を話しあった結果。
一旦、別れることで合意した。
また、どこかで、お互い夢に向かって頑張ろう。
最後にかたい握手をかわし、2人は東京の片隅で抱擁した。
無事、国家資格を取った正男は、国際赤十字の国境なき医師団として、アフリカのルワンダに派遣された。
そこでは、汚染された水により、赤痢やペストが流行していた。
まだ、1年生の医者だった正男は、酷い環境や、子供達の飢餓状態に、酷くカルチャーショックを受けて自信を失いかけていた。
そこに、オランダ人の女性医師がいた。
その先生は、40歳もとうにこえているだろうか。ベテラン医師で、テキパキと周りのナースや、新人の正男に指示を送った。
我々私達は、傍観者であってはならない。
常に先をみて行動しなければいけない。
彼女の口癖であった。
正男は、確実に経験を積んでいった。
さて、花子の方は無事、東京大学を出て、アメリカのハーバード大学の大学院に入った。好きな物理学を研究する傍ら、ウイルス対策を専攻して、生物化学兵器のワクチン開発に没頭した。
アフリカで医師活動する正男と、戦争化学兵器と戦う花子の目指すところは、同じであった。
全人類が、平和で豊かに暮らすことである。
そんな矢先、正男はひょんなことから、パレスチナ自治区に赤十字活動として、赴任することになった。
正男とは腹違いの兄、健一が没した中東である。
パレスチナ自治区には、ガザ地区と、ヨルダン河地区がある。
どちらの地区も、アラブ人たちの土地である。
ユダヤ人にイスラエルという国を建国されたことにより、パレスチナ難民はその土地を追われた歴史がある。
ユダヤ人が悪い訳では決してない。
無論、アラブ人が悪い訳でもない。
戦争とはそういうものなのかもしれない。
ガザ地区には、ハマスというイスラム過激派組織がある。
イスラエルに奇襲したのは、まだ最近の話だ。
その報復として、イスラエルはパレスチナに無差別に攻撃をしている現状だ。
正男は、ヨルダン地区で紛争の犠牲になった一般市民を中心に、医療活動を始めた。
ようやく、停戦の見通しがみえてきたが、イスラエルからの攻撃はまだ続いていた。
医療器具や薬品類などの物資も足りない中。
正男は、日本にいる父に連絡をとった。
どうやら、正男の兄が許嫁と結婚するらしい。
兄も国政に乗り出し、正男も一度日本に帰国して腰を据えるように父に促された。
終わりの見えない中東の混乱の中、父は正男と腹を据えて話がしたいそうだ。
正男は、帰国についてかなり迷いがあったが、家族との関係も大事に想っているので、苦渋ながら帰国を決断した。
一方、花子の方もハーバード大学の大学院を修了し、日本に帰国していることも父から聞いた。
久しぶりに花子の顔が見てみたい。
ふっと、そう思った正男の顔は、自然と頬が緩んだ。
実家のある名古屋に帰ってきた正男は、真っ先に父に挨拶にいった。
海外での医療現場の様子、戦争の現状など、話す内容は悲惨なことばかりであった。
正男は、話をしながらも自分1人ではどうにも出来ない歯痒さや、悔しさを父に懇々と説明した。
父の方からも、日本の内政や海外の報道など近況を聞かされた。
正男の兄は、国政に参加し、父と二人三脚で政策に取り組んでいるようだ。
父は正男にあらためて言った。
お前も一度腰を据えて、国家の為に働かないか。
正男は、意表をつかれた。
まさか自分が父や兄のように、政治に関わることなど微塵も想像していなかった。
花子はどうしておられますか?
正男は、慌てて話題を変えた。
自分で連絡してみろ。
お前は、まだ子供だなぁ。
父は、厳しく正男をさとらせた。
おっしゃる通りです。
正男は父に一礼して、席を外した。
そのころ花子は、名古屋に戻り、名古屋大学院ウイルス学部准教授として、日々研究に没頭していた。
そんな時、正男から連絡があった。
一度会って話をしましょう。
花子は、その連絡を懐かしく思い、正男と別れてからは、恋愛など二の次にしていたので、久しぶりに新鮮な心のときめきを感じた。
それは正男の方も同じであった。
花子に連絡はしたものの、何を話してよいのかは、全く真っ白であり、緊張を隠しきれないのが、自分でもよくわかった。
明日、花子と再会する。
明日、正男さんに会える。
2人の気持ちは、重なる様に自然と近づいていくのが、会う前からお互い感じていた。
次の日。
約束の喫茶店に、正男は着いた。
店の扉を開けて、中を見渡すと、花子はすでに座っていた。
彼女の座るテーブルにはレモネードが。
もう残り半分くらいに減っていた。
ごめん、待ったかな。
ううん、大丈夫よ。
花子は、微笑んだ。
5年になるだろうか、花子と離れていたあいだに、ずいぶんと落ち着いて綺麗になったと、正男は思った。
変わらないのね。
花子は、ニコリとして、正男が席につきやすいように促した。
どうやら、一歳年下の花子のほうが大人になったようだ。
2人は、別れてからのお互いの経験を、時間を忘れるぐらい話しあった。
気がつくと、日も暮れ店のマスターが、そろそろ閉店の時間だと言いにきた。
レモネードとコーヒーだけで、追加に何か注文するのも忘れて、2人は申し訳なさそうに店を出た。
近くの駅まで、2人で歩いた。
また、会えるかな?
今日は、凄く楽しかった。
また、会いましょ。
遠くで、電車のベルが鳴っていた。
fin
名古屋の実家を離れて、上京する正男には花子という彼女が。花子は、1学年下の高校3年生である。2人の運命は。
訪れた春。いよいよ2人の別れの時が。
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私も来年の春には、東京に必ず行くから待っていてね。
正男は、黙ってうなずいた。
そんな時、無常にも新幹線のベルが鳴る。2人は抱き合い、抱擁する。
好きだよ。
私もよ。
急いで新幹線に乗り込む、正男の後ろ姿を見送る花子の目には、一雫の涙が。
愛してます。これからも、ずっと。
いつまでも、手を振り合う2人の距離は離れていき、やがて消えていく。
正男は泣いた。
別れの悲しさや、上京の不安。胸の奥には、大都会に出る期待も抱いている。
正男の夢は、医者になる事だった。父は政治家。由緒正しい、エリート家族だ。
正男には歳の離れた兄がいる。
兄はすでに社会に出ている。
政治家の父の、第二秘書である。
母は、まだ正男が幼い頃に他界。
父と兄との、3人家族だ。
そんな兄には許嫁がいる。
遠い親戚の娘だ。
まだ父から結婚の許可はおりていない。
父からみて、兄はまだ一人前ではないと判断されているからだ。
正男は、この春から東京の大学に進学する。東京大学だ。
医学部をでて、名古屋の総合病院に就職したいと思っている。
正男の彼女は、まだ高校生だが、卒業したら正男の後を追って、東京大学に進学するために、日夜、受験勉強に励んでいる。ざっと、正男の人間関係を話せばこんなところだが、実は、正男にはもう1人、腹違いの兄がいる。父の妾の子だ。
まだ父が若く、政治家になる前の一流商社で働いていた時の子だ。
正男の産みの母が健在だった頃、父には妾がいた。しかし病弱だった正男の産みの母が、若くして亡くなったと同時に、父は妾と別れた。今思えば、父のケジメだったのかと想像する。
1番上の、正男とは腹違いの兄。
名は健一という。
父の妾だった人と、2人で慎ましく生活していたらしい。もちろん父は、健一が成人するまでの教育費は、きちんと妾の人に送っていたらしい。
健一は、成人して大学を卒業した後、海外で活躍する、戦場カメラマンだとか、ジャーナリストになったと、父から聞いた。
もちろん、正男と健一は面識はない。
正男が東京の大学に通うようになり、半年ほど経ったであろうか。
東京で1人暮らしをしている、正男のマンションに1通の手紙が届いた。
野崎 健一。
正男の腹違いで生まれた兄からだった。
健一から手紙がきた。
拝啓、正男様
私は今、中東に取材で滞在しております
中東はレバノンという国です
今、レバノンはイスラエルと戦争状態にあります
レバノンにはヒズボラという武装組織がおりまして、政府軍を凌ぐ軍事力を持っております
イスラエルはパレスチナ自治区のガザを実行支配しているハマスとも、戦争状態にあります
ヒズボラとハマスの後ろ盾にイランがおります
それら、3つの勢力が集まるとイスラエルは太刀打ちできないでしょう
実は私はイスラエルの諜報機関モサドに所属しているスパイなのです
現在、レバノンに日本の報道機関として潜入しております
ヒズボラの動きを調査してイスラエルに情報提供することを馴れ合いとしております
しかし、レバノンにて私は拘束令状がでたため、この手紙が日本に無事届くかも定かではありません
この手紙は、ヒズボラに拘束されるまでにはとの想いで発送したした
仮に正男様の手に、この手紙が届いたとしても、その時は私はどうなっているのか分からないでしょう
ヒズボラは残忍な過激派組織です
もし正男様や、正男様の身のまわりに危険が迫ってくるかもという想いでこの手紙を綴っております
私は死んだものと、お父様にお伝えください
さよなら
野崎 健一
正男は手紙を置いた。その手は震え、自分でも理解できない感情になった。
自分は何不自由なく育ってきたが、健一の人生は、壮絶であったに違いない。
正男は健一に対して、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
この手紙を受け取って、今の自分に出来る事。政治家の父を頼るしかない。
正男は決意した。
正男の父は、政権第1党の衆議院議員である。
健一からの手紙を、極秘に父に渡し、秘密裏に日本は中東レバノンと交渉を始めた。
人質解放には、それなりの取り引きがある。
日本側もレバノンのヒズボラに有益な情報を提供しなければならない。
イスラエルの情報をヒズボラに流せ。
正男の父は、健一に嘆願した。
交渉から僅か1ヶ月。
健一は、殺された。
その悲報を聞いた正男は、戦争というものを憎んだ。
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それから4年が経ち、正男は国際赤十字に就職した。
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正男は、大学2年生になった。
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正男と花子が離れていた1年間も、もちろん連絡は取り合っていた。
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無論、正男も医学部の勉強で時間を費やしていた。正男が大学1年生の秋に、健一からの手紙が届いてから、悲報を聞いて、正男は将来世界に出て、医師として福祉活動を志す事に決めた。
花子が東京に出てきた時に、正男は健一の事を、花子に全部話した。
花子は、戸惑っていたが、正男が国家試験に合格するまでの関係で終わるのかなと、少し不安になった。
しかし、花子自身も今は勉学が楽しく、恋愛よりも将来の目標を決める方が、重要になっていた。
なんで正男と付き合っているのだろう、正男の何処に惹かれたのだろう。
花子の心は、正男から徐々に離れていっているのかもしれない。
中途半端な付き合いが3年ほど続き、正男は花子に思いきって、今後の2人の将来について訪ねてみた。
花子は、科学者になりたい。
正男は、医師として海外で活躍したい。
2人の将来の展望を話しあった結果。
一旦、別れることで合意した。
また、どこかで、お互い夢に向かって頑張ろう。
最後にかたい握手をかわし、2人は東京の片隅で抱擁した。
無事、国家資格を取った正男は、国際赤十字の国境なき医師団として、アフリカのルワンダに派遣された。
そこでは、汚染された水により、赤痢やペストが流行していた。
まだ、1年生の医者だった正男は、酷い環境や、子供達の飢餓状態に、酷くカルチャーショックを受けて自信を失いかけていた。
そこに、オランダ人の女性医師がいた。
その先生は、40歳もとうにこえているだろうか。ベテラン医師で、テキパキと周りのナースや、新人の正男に指示を送った。
我々私達は、傍観者であってはならない。
常に先をみて行動しなければいけない。
彼女の口癖であった。
正男は、確実に経験を積んでいった。
さて、花子の方は無事、東京大学を出て、アメリカのハーバード大学の大学院に入った。好きな物理学を研究する傍ら、ウイルス対策を専攻して、生物化学兵器のワクチン開発に没頭した。
アフリカで医師活動する正男と、戦争化学兵器と戦う花子の目指すところは、同じであった。
全人類が、平和で豊かに暮らすことである。
そんな矢先、正男はひょんなことから、パレスチナ自治区に赤十字活動として、赴任することになった。
正男とは腹違いの兄、健一が没した中東である。
パレスチナ自治区には、ガザ地区と、ヨルダン河地区がある。
どちらの地区も、アラブ人たちの土地である。
ユダヤ人にイスラエルという国を建国されたことにより、パレスチナ難民はその土地を追われた歴史がある。
ユダヤ人が悪い訳では決してない。
無論、アラブ人が悪い訳でもない。
戦争とはそういうものなのかもしれない。
ガザ地区には、ハマスというイスラム過激派組織がある。
イスラエルに奇襲したのは、まだ最近の話だ。
その報復として、イスラエルはパレスチナに無差別に攻撃をしている現状だ。
正男は、ヨルダン地区で紛争の犠牲になった一般市民を中心に、医療活動を始めた。
ようやく、停戦の見通しがみえてきたが、イスラエルからの攻撃はまだ続いていた。
医療器具や薬品類などの物資も足りない中。
正男は、日本にいる父に連絡をとった。
どうやら、正男の兄が許嫁と結婚するらしい。
兄も国政に乗り出し、正男も一度日本に帰国して腰を据えるように父に促された。
終わりの見えない中東の混乱の中、父は正男と腹を据えて話がしたいそうだ。
正男は、帰国についてかなり迷いがあったが、家族との関係も大事に想っているので、苦渋ながら帰国を決断した。
一方、花子の方もハーバード大学の大学院を修了し、日本に帰国していることも父から聞いた。
久しぶりに花子の顔が見てみたい。
ふっと、そう思った正男の顔は、自然と頬が緩んだ。
実家のある名古屋に帰ってきた正男は、真っ先に父に挨拶にいった。
海外での医療現場の様子、戦争の現状など、話す内容は悲惨なことばかりであった。
正男は、話をしながらも自分1人ではどうにも出来ない歯痒さや、悔しさを父に懇々と説明した。
父の方からも、日本の内政や海外の報道など近況を聞かされた。
正男の兄は、国政に参加し、父と二人三脚で政策に取り組んでいるようだ。
父は正男にあらためて言った。
お前も一度腰を据えて、国家の為に働かないか。
正男は、意表をつかれた。
まさか自分が父や兄のように、政治に関わることなど微塵も想像していなかった。
花子はどうしておられますか?
正男は、慌てて話題を変えた。
自分で連絡してみろ。
お前は、まだ子供だなぁ。
父は、厳しく正男をさとらせた。
おっしゃる通りです。
正男は父に一礼して、席を外した。
そのころ花子は、名古屋に戻り、名古屋大学院ウイルス学部准教授として、日々研究に没頭していた。
そんな時、正男から連絡があった。
一度会って話をしましょう。
花子は、その連絡を懐かしく思い、正男と別れてからは、恋愛など二の次にしていたので、久しぶりに新鮮な心のときめきを感じた。
それは正男の方も同じであった。
花子に連絡はしたものの、何を話してよいのかは、全く真っ白であり、緊張を隠しきれないのが、自分でもよくわかった。
明日、花子と再会する。
明日、正男さんに会える。
2人の気持ちは、重なる様に自然と近づいていくのが、会う前からお互い感じていた。
次の日。
約束の喫茶店に、正男は着いた。
店の扉を開けて、中を見渡すと、花子はすでに座っていた。
彼女の座るテーブルにはレモネードが。
もう残り半分くらいに減っていた。
ごめん、待ったかな。
ううん、大丈夫よ。
花子は、微笑んだ。
5年になるだろうか、花子と離れていたあいだに、ずいぶんと落ち着いて綺麗になったと、正男は思った。
変わらないのね。
花子は、ニコリとして、正男が席につきやすいように促した。
どうやら、一歳年下の花子のほうが大人になったようだ。
2人は、別れてからのお互いの経験を、時間を忘れるぐらい話しあった。
気がつくと、日も暮れ店のマスターが、そろそろ閉店の時間だと言いにきた。
レモネードとコーヒーだけで、追加に何か注文するのも忘れて、2人は申し訳なさそうに店を出た。
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