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7. 説明は大事
しおりを挟む布団を乾燥機にかけ、洗濯や食器洗い等、あれこれと家事を同時進行していくゆかり。
最初こそ何か手伝おうと後ろに付いて回っていたランバートだが、どれもこれも未知の道具だったらしく何の助けにもならずにゆかりに言われて元の椅子へと戻って来ていた。
タイマーが鳴る音に食器を洗っていた手を止めて風呂場へと向かって行ったゆかり。
しばらくして戻って来た彼女の手には数着の服が握られていて、一枚ずつ広げてランバートの上半身に当てては首を傾げている。
「入りそうなの持ってきてみたけど、鎧の上からじゃ分かんないや。全部風呂場に置いとくから適当に着てみて。じゃ、お風呂の説明するから付いて来て」
「ああ。苦労かける」
これまでで分かったランバートの無知ぶりに、ゆかりはひとつひとつ教えていくことにしたらしい。
浴場に移動してそれぞれの使い方を説明していく。ランバートも分からなかったことはその都度質問してくれるため、比較的スムーズに説明は終わった。
「タオルはこれを使って。あと、脱いだ服は洗濯しとくからここに出しといて」
「分かった」
風呂場の熱気に当てられて蒸し暑くなったのだろうか。ランバートがおもむろに鎧を脱ぐと、辺りに汗の蒸した臭いが立ち込める。
「うっ!?」
「す、すまない! 『消臭』。これでどうだろうか」
思わず眉を顰めたゆかりの様子に、ランバートは急いで魔法を繰り出した。
どういう原理なのかは知らないが、辺りに充満していた臭いはあっという間に消え去り、ゆかりは詰めていた息をほっと吐き出した。
「……よく体洗ってね」
臭いはなくなったが、その強烈さはゆかりにトラウマを植え付けたようだ。じっとりとランバートを見つめるとそう言い残して去って行った。
数十分後、脱衣場のドアが開く音に洗濯物を畳んでいた手を止めて振り返ったゆかりは一瞬の間の後噴き出した。
「ぷっは! パッツパツじゃん!」
「む……」
ゆかりの父が着ていた服は筋肉質なランバートにはどれも窮屈だったようで、服がピチッと張り付き見事なまでの肉体美を象っている。
二の腕に至ってはゆかりの太腿よりも太そうなそれを袖が締め付けていて、長時間の着用はきつそうだ。
「ちょっと待ってて。タンクトップならまだマシかも」
ゆかりはまだ笑いが治まらない内に立ち上がると、再度父親の部屋へと向かった。
脱衣場で着替えてきたランバートは腹筋のパツパツ具合は変わらずだが、腕の締め付けがなくなっただけ楽そうだ。タンクトップを着るには気が早い季節ではあるが、家の中にいるには何ら問題はなさそうだ。
ランバートが先程まで着ていた服を洗剤多めで洗濯機の中に放り込む。乾燥機能も付けたから、あとはゆかりが風呂から上がった頃合に干せばいいだけだ。
ゆかりが洗濯物を干す間座っていたソファに座り、テレビを興味深そうに見つめるランバート。
説明して欲しげにたまにちらちらとゆかりへ視線を向けるが、ゆかりは気にせず風呂場へと向かった。
必要なことなら説明する暇も惜しまないが、今日一日いろんなことがありすぎて疲れている彼女は何より早く休みたかった。
「――くっ、ぬおおお!」
だから風呂から上がり完全に気の抜けた状態で体を拭いていたゆかりは、突然聞こえてきた奇声に飛び上がらんばかりに驚いた。
「何事!?」
寝巻きとして着ているTシャツと短パンを急いで身に付け脱衣場のドアを開けると、剣を手にし、テレビに向かって今にも斬り掛からんばかりのランバートが目に入った。
「ちょっ、何やってんの!?」
「この男が制止も聞かず、女性を刺したのだ!」
テレビを壊されては堪らないと、駆け寄ったゆかりに殺気はそのままにランバートがテレビを示す。
画面には血塗れた包丁を手にし微笑む男と、その足元で倒れる女が映し出されていて、ゆかりは全てを悟った。
「これはドラマっていって、あー……劇? みたいなもんだよ」
「劇、だと?」
「だから実際には死んでないから大丈夫。そもそもテレビって別のところで撮った映像を流してるだけだから、えっと……」
「ここで騒いでも無駄だ」と言いそうになって飲み込む。
自分の間違いに気付いたランバートはゆかりの指摘にしょんぼりと肩を落としていて、これ以上の叱責は可哀想に思えた。
そもそもテレビについての説明を怠ったのはゆかりの落ち度で、それがどういうものなのか知らないランバートからすれば、目の前で殺人が起ころうとしていたならば止めようとするのが当然だろう。まさか剣で切ろうとするとは思わなかったが。
(この世界の常識が分からないんじゃ、しょうがないよね。次からは気を付けよう)
「そ、そういえばまだ――ぬおうっ!?」
ゆかりがひとり心の中で反省していると、ランバートは何かを言おうと口を開いたかと思えば、ゆかりの姿を見て叫び声を上げた。
「なっ、なに? どうした?」
「すまない! 俺が騒いだばっかりに服を着る間もなく来させてしまった……!」
「はぁ? 服なら着てる、けど……?」
自分でも不安になって確認してみたが、上下共にしっかり着用していて不備はない。
今度こそ理由が分からず首を傾げるゆかりに、ランバートは赤面し、顔を手で覆い隠したまま「足を見せるのは伴侶となる者にだけなのだ」と前時代的な理屈を矢継ぎ早に紡いだ。
ミニスカートやショートパンツなど、街に出れば至る所で見かけるだろう。別に下着で現れたわけじゃないのに大袈裟な、と未だ納得のいかないゆかりだが、ランバートのいた世界ではそれが普通なのだろう。
意地を張ってこのまま履き続けてもいいが、今日一日くらい長ズボンを履いて寝たところで何も困ることなどない。
ゆかりは溜息を吐くと、一度部屋に入りジャージに履き替えることにした。
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