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8. 誤解
しおりを挟むジャージの長ズボンに着替え、リビングに戻って来たゆかりを、ランバートはほっとした様子で迎えた。
まだちらちらと足に視線を感じるが、見たいのか見たくないのかはっきりしてほしいものだ。
「それで? 何か言おうとしてなかった?」
「あっ、ああ!」
洗濯の終わった彼の服を干しながら切り出したゆかりの言葉でやっと意識を切り替えたランバート。急に真剣な表情になったものだから、ゆかりも遅ればせながら表情を引き締めた。
「まだ名前を聞いていなかったと思ってな」
「え? ああ、言ってなかったっけ。ゆかり。立花ゆかり」
「ゆかり嬢、だな」
「ふはっ! 何それ、キャバ嬢的な? 普通にゆかりでいいよ。ついでといったら何だけど、もう一回名前教えて」
「む……ランバートだ」
「ランバートさん? くん? いや英語的名前だからミスター・ランバート……?」
「いや、ただのランバートでいい」
「そか。じゃあランバートね」とお互いの名前を確認し合った二人。
あっさりと覚えてみせたランバートに対し、カタカナの名前に馴染みの薄いゆかりは何度か口の中で復唱すると納得がいったのかひとつ頷いた。
「それじゃあランバート。そろそろ寝ようと思うんだけど、他に質問はある?」
「少し、考えてみたのだが……やはり男女がひとつ屋根の下で寝るというのはゆかりのご両親としてもあまりいい気はしないと思ってだな。ご両親が戻られて、きちんと説明するまでは外にいようと思うのだが」
「ああ、それだったら気にしないで。うちの親、二人とももう死んで一人暮らしだから」
「なっ!?」
随分あっさりと告げられた言葉はランバートにとっては思ってもみなかった内容だったらしく、口を開け呆然としたかと思えばすぐに慌てて詫び入る姿勢に入った。
「すまない! 無神経なことを聞いた。まさかこんなに若くして一人で暮らしているとは思わず」
「若いって……もう二十三だし、一人暮らしくらいするでしょ」
「え?」
「え?」
目を見開いたまま固まってしまったランバートの様子に、何かおかしいことでも言ったかなと考えてみるが特に思い浮かばない。
これはもっと上を想定していて、思ったよりも若かった的な驚きなのだろうか。
「そんなに老けてるかなぁ」と、ゆかりが内心ショックを受けている間、先に立ち直ったランバートがゆかりの様子に眉を下げた。
「すまない。勝手に年下だと思っていた。気分を害されたというなら謝ろう」
「年下? ってことはあたしの方が年上ってこと? いくつ?」
「もうすぐ十八になる」
「はあぁぁあ!?」と突如上げた大声にランバートは肩を震わせるが、ゆかりはそんなこと気にならないくらい狼狽していた。
(え、ちょっ、待って。どう見ても二十後半……完全に年上だと思ってたわ)
十八といえば高校生か、卒業してすぐくらいの年齢だろうか。
よくよく見てみても、ゆかりにはランバートがその年代には思えずに首を捻る。
ガタイがいいということもあるが、大元の要因は数多の修羅場を潜り抜けてきたかのように落ち着き払った彼の雰囲気だろうか。
よく見れば、頬や腕にびっしりと古傷があって、他人事ながらどんな厳しい世界で生きてきたのかと心配になる。
もっとも、年齢が判明したことで頭の片隅に追いやった中二病説が再浮上してきたのだが、ゆかりには今それよりも気になることがあった。
「ち、ちなみにあたし、いくつに見えた?」
ニヤけそうになる頬を押さえながら、ついに禁断の質問を投げかけたゆかり。
その答えに期待しつつ悟られないように、あくまで自然体を装いながらそれを待った。
「十五、六かと……」
「……ふぅん」
小躍りしそうな気持ちを抑え、なんとかそれだけを返したゆかり。
日本人は若く見える。そんな話を聞いたことはあったが、これ程実年齢との差があるとは思わなかった。
ランバートから見て、化粧を落としたゆかりは更に幼く見えていたのだが、現在大人に見られたい年頃真っ只中のランバートは気を利かせて言わなかった。
中学生と間違われる年を言われていたらゆかりとて流石に疑ってかかったのだろうが、この年は彼女の許容範囲内だったのだろう。
今日はいい夢見れそうだ、とホクホク顔だ。
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友人に対するようなノリで部屋の中にあるものの使い方、就寝前のアレコレを説明すると、随分と上機嫌な様子で自分の部屋に戻って行った。
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